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天使に願いを (仮)  作者: タロ
(仮)
54/105

番外編 季節の変わり目で日中は温かいけど朝晩は冷えるので体調管理には気を付けて

前回がハロウィンだから、十一月上旬とかかな…


 朝と言うよりもお昼近く、二度寝していた楸は 目を覚ました。

 目を覚ましたのは、一人暮らしの部屋でガサゴソ動く自分以外の者の気配を感じたからだ。もしかして泥棒? と考えられるほど頭は目覚めていないので、警戒心も薄く、楸はゆっくりと瞼を開けた。

「……何してんの?柊」

 寝起きの楸は、力なく言った。

「何って、片付け」柊は、さも当然だというふうに答えた。「相変わらずアンタの部屋が汚いから、少し片付けしてたの」

「や、余計なことしなくていいし」と楸は、迷惑そうに顔をしかめた。

「ハッ」柊は、短く笑った。「こんな汚い部屋住んでるから、バカのくせに風邪なんて引くんだよ」

 楸は、風邪をひいていた。



 遡ること数時間前。

 柊は、高橋の部屋を訪れていた。

 高橋と会えるこの時間は、柊にとっては至福の時である。だが、だからと言って幸せばかりではないというのも事実だ。二言三言会話を交わすと、部屋に沈黙が流れた。柊としては自席に着いたまま、今は事務処理をしている高橋の姿を見られるだけでもいいのだが、高橋がひとたび休むと、沈黙が痛い。

「そう言えば、今日 楸のヤツはどうしたんですか?」話のネタに困った柊は、居なくていいと思っているヤツが居ない事を、話のネタにした。「椿か五十嵐のとこに行ってるんですか?」

「楸か?アイツは、今日は休みだ」

「休み?」

「おう。くくっ。あいつな、風邪引いたらしい」高橋は、面白い話でもするかのように言った。「最近朝晩は冷えるだろ。だから俺はあいつに、『浴衣一枚じゃ寒いから、中になんか着るか上 羽織れ』って言ったんだよ。が、あいつは『大丈夫ですよ。朝晩冷えるって言っても、外に出ている間はまだ日も出て暖かいですから』って言って聞かなかった。したらどうだ、昨日の夕方咳き込んでやがった。くくっ。で、結局 期待を裏切らない楸は、風邪をひきましたとさ」

 昔話のように、高橋は話を締めた。

「へ~」柊は、大した興味もなさそうに言った。

「柊は大丈夫か?」

「あ、はい。アタシは着なくてもちゃんとコート持ち歩いてますから、大丈夫です」

 と柊は、自席の椅子の背もたれに掛けている 高橋からもらったコートを指差した。

「くくっ。そいつはよかった」柊の健康状態を確認すると、高橋は「柊。もし時間あるなら、あいつの様子を見に行ってくれないか?」と頼んだ。

「え?アタシがですか?」

「ああ。あいつのことだ、どうせ病院にも行かずにただ家で寝てるだけだろ。看病してやってくれとまでは言わないが、あいつが無事かどうか見て来てくれ」

 そして高橋は、どうかな、と訊ねるような目で柊を見た。

 高橋からの頼みだ、それだけで柊には断る理由はなくなる。それに、楸が心配だという気持ちも微かにある。もしかしたら、バカな自己流処置をして風邪をこじらせないとも限らない。

「わかりました。じゃあ、ちょっと行ってみます」

「おう。悪いな」

 そう言って、高橋は柊を送り出した。

 こういう経緯があって、柊は楸の部屋を訪れていた。

 柊がインターフォンを押した時、楸は寝ていたから気付かなかった。反応がないからどうしようか考えた柊だったが、試しにドアを引いてみたら、何の抵抗も無く開いた。

「不用心だな…」

 呆れながらも、これはこれで好都合であり、柊は、楸の部屋に上がった。

 久しぶりに楸の部屋に上がった柊の感想は、「きったな」だった。

 楸は、リビングにあるベッドの上で寝ている。そのベッドの下、部屋の床一面は汚れていた。読んだ形跡のある雑誌が何冊も床に散らばっているし、空や飲みかけのペットボトルも転がっている。ドラムスティックは二本別々の位置に転がっている。楸の部屋はリビングとキッチンの仕切りが無いのだが、シンクには洗われていない食器が積み重なっている。けど、料理をしているワケでもなさそうだ。ゴミ箱にはコンビニ弁当が捨ててあるし、シンクの食器もラーメンやカレーなどのインスタント食品を食べた時のものらしい。

 とにかく生活感はあるのだが、片付けをしていない、そんな部屋だ。

 柊は、楸がぐっすり眠っているようなので、部屋の片付けに勤しんでいた。

 その時に、楸は目覚めた。



「勝手に部屋の物 動かさないでよ。汚いように見えて、あれはあれで効率いい配置になっていたんだから」寝起きに文句を言ってみた楸だが、それでも片付いた部屋を見て、満足した。「ま、柊の努力も認めてあげるよ」

「何様よ、アンタ?」

 と、柊は顔をしかめた。

 病人相手だ、柊も少し寛容になっている。

 軽口をたたくだけの元気はあるようだが、それも空元気かもしれないからと、柊は「それで、高橋さんからは風邪だってだけ聞いたけど、どんな感じ?」と楸に容体を訊ねた。

「熱は、ちょぴっとだけある」

「何度くらい?」

「百はない感じ」

「気分は?」

「寝起きで柊を見て、悪くなった」

「死にたいの?」

「生きたいです」

「風邪薬は、何か飲んだ?」

「いや。風邪薬の常備がなかったから、とりあえず前に口内炎 出来た時に買ったビタミン剤は飲んだ。ビタミン取っとけば大丈夫かなって」

「鼻は?」

「ある」

「詰まってたりするの?アンタ、うつ伏せになって寝てたけど…?」

「ぐじゅぐじゅ。柊が来てから悪化したかも」

「死にたいの?」

「生きたいです」

 柊は、淡々と問診をした。結果として、ムカつくところは多々あるが、来て良かったと思う。

「アンタ、何か食べた?」

「ううん。昨日帰ってきてすぐ寝て、そのまま。でも、別に食欲ない」

「はぁ~」柊は、呆れて溜め息をついた。「そんなんじゃ治るモンも治らないでしょ。栄養取らないと。ったく……お粥だったら食べれる?」

「毒入り?」

「入れて欲しいなら入れるけど?」

「いや、無毒がいいです」

「じゃあ、無毒のお粥作ってあげるから、ちゃんと食べてしっかり栄養付けな」

 そう言うと、柊はキッチンに立った。

 まずは、楸がそのままにしている使用済みのラーメン丼や箸などの食器類や鍋などの調理器具の洗い物から片付ける。

 手際良く洗い物を済ますと、お粥作りの準備として、食材や調理器具などの確認に入る。

「楸。土鍋みたいなのって無い?」柊は訊いた。

「俺が鍋作ると思う?あるワケ無いでしょ」楸は答えた。

「別に鍋以外にも使い道あるでしょうに…」

 そうぼやき、柊は、洗ったばかりの鍋でお粥を作ることにした。



 柊が米を洗っていると、その背後を楸が通った。

「ちょっとアンタ、何処行く気?」と声に驚きを滲ませ、柊は訊ねた。

「風呂」楸は、平然と答えた。「昨日はだるかったから入んなかったんだけど、起きてみると汗かいてるし、気持ち悪いから風呂入る」

「風邪っぴきが風呂入るっての?」

 柊は、バカじゃないのか、と信じられなかったが、楸は「風呂っていうかシャワーね」と言って聞かない。

 柊は、唖然とした。が、バカが自分で言ったことだ、病状が悪化しても知ったことではないと自分に言い聞かせ、お粥作りを続けた。

 楸は、心配する柊を気にすることなく、シャワーを浴びて汗を流した。

 しかし、汗を流してスッキリした楸は、あることに気付く。

「大変だ、柊!」

 浴室から、楸の慌てた声が響いた。

「なに?」柊は、落ち着いた様子で対応する。

「パンツ忘れた」楸は、言った。「いつもの癖で…俺、風呂上がりはリビングで体拭きながそこで着替えるから、脱衣所には着替え持ってかないんだよ。だから、ついうっかり着替え持って行くの忘れた」

 楸は、慌てていた。

 が、柊は冷静そのものだ。

「で、アタシにどうしろと?」

「パンツ持って来て」

「断る」

「……じゃあ、一回部屋出るか、ずっと目つぶってて」

「はいはい……じゃあ、目つぶってるから、その間に着替えな」

「……俺は別に見られても恥ずかしくはないけど…」冗談めかして楸は言った。

「でも、死体で見つかった時が全裸だったら恥ずかしいでしょ?」

「はい!すぐ着替えます」すぐに反省した。

 楸は有言実行、すぐに着替えた。相変わらず浴衣には変わりないが、それでも旅館などに置かれている柔軟な素材の物に着替えた。

 着替え終わると、楸は「もういいよ」と柊に声を掛けた。

 目を開けた柊は、着替え終わった楸の髪から水滴が滴り落ちているのを見て、呆れた。

「ちょっと、ちゃんと髪拭きなさいよ」柊は注意した。

「ちゃんと拭きました」

「ウソ。アンタ、そんなんだから風邪引くのよ。羽もちゃんと乾かしたの?」

「羽は盲点だった」楸は、心底意外そうに言う。「そういう事言ってくれないと、たまに羽の存在忘れるよね」

「ハッ。忘れるのはアンタぐらいよ」

「……じゃあ拭いて」

 そう言って、楸は、首から下げていたタオルを柊に手渡すと、柊に背を向けて浴衣をはだけさせた。

 タオルを手渡された柊は、「はぁ~、しょうがないね」と楸の羽に着いた水滴を丁寧に拭き取った。そして、楸を半回転させ、タオルを持つ柊の手は、そのまま楸の頭へと移る。

 楸と向かいあって柊は、楸の頭をタオルでこすった。

「ちゃんと乾かさないから、風邪なんか引くんだよ」

 そう言って、柊は楸の髪をタオルでこする。

 楸の髪の毛から、だんだんと水滴が拭きとられていった、が…。

「ちょっ、痛い!柊、力強過ぎ!」

 楸は、毛根から火が出るのではと思う位に、不気味に微笑む柊に頭をこすられていた。



 風呂上がりに思いがけず痛い思いをしたが、それでも楸は汗を流すことは出来たし、寝巻用の浴衣に着替える事も出来た。

 改めて楸はベッドに横になる。

 そしてベッドに入ってから数分後、お粥を乗せたお盆を持った柊が、楸に近寄った。

「はい。熱いから気を付けてね」

 そう言って柊は、寝ている楸の膝の上にお盆を載せた。

「え~」楸は、不満そうに言った。「こちとら病人ですよ。食べさせてよ」

「……はぁ~」と呆れながらも、柊は、お粥の傍らに置いておいたレンゲを手に取った。そして、「はい、あーん」と勢いよく、楸の口にお粥を運んだ。

「ちょっ、熱い!柊、お粥 直は熱い!」楸は、柊に食べさせてもらったお粥が唇に当たると、そのあまりの熱さに、慌てふためいた。「もっと冷まして…ほら唇デロンとなるから…フーフーして冷ましたやつを食べさせてよ!」

「そんな細かいリクエストはなかった」

 確信犯の柊は、楸の熱さに悶える姿を楽しんでいた。



 柊にお粥を食べさせてもらうのは危険だと判断し、楸は、お粥を自分の手で食べることにした。鼻が詰まっているし、もともと味付けの薄いお粥だ。正直言って美味しいかどうかは微妙だったが、身体は温まった。心なしか、元気も出て来た気がする。

「ごちろうさまでした」楸は、手を合わせて言った。

「はい、お粗末さまでした」

 そう言い、柊はお盆を下げた。

 食後の余韻に浸る楸とは違い、柊はそのままキッチンへ行く。

 洗い物は少なかったから、ものの数分で片付けは済んだ。

 片付けを終えた柊は、水の入ったコップを片手に戻って来た。楸の部屋を訪れる前、念のためにと買っておいた風邪薬を飲ませる為の水だ。

「食後に飲むヤツ」

 そうとだけ説明し、柊は、水と未開封のままの風邪薬を箱ごと楸に手渡した。

「苦い?」楸は訊いた。

「さあ?甘いんじゃない?」

 心にもなく、柊は答えた。

「出来れば粉末じゃなく錠剤タイプが良かったなぁ」

 グチグチ文句を言いながらも、楸は粉末の薬を口に入れた。歪んだ顔から察するに相当苦かったのだろう、水を一気に口に流し込んだ。

「薬飲んだら、あとは寝な」

 そう言うと、柊は大きなあくびをした。

 休日でゆっくり休んでいたいのに、思いがけず楸の看病をしていて、疲れと一緒に眠気も出たのだろう。

「柊、眠いの?」楸は訊いた。

「うん、少しだけね」

「一緒に寝る?」

 楸は、おいで、とでも言いたそうに、布団をめくり上げて柊を誘った。

「いいけど…」柊は、悪戯っぽく笑う楸を冷たい目で見て言った。「アタシ、寝る時は抱き枕が必要だから、この場合は代わりにアンタに抱きつくことになるよ?背骨は丈夫?中身が上下に寄っても構わない?」

「柊。寝るなら床で寝てね」

 前言を撤回した楸は、平然と柊に床での就寝を勧めた。



「じゃあアタシ、そろそろ帰るね」やることのなくなった柊は、言った。「ゼリーやスポーツドリンク買ってきたヤツ、冷蔵庫に入れといたから」

「あっ、ちょっと柊」

 楸は、帰ろうとした柊を呼び止めた。

「ん?」柊は、足を止めて振り返った。

「チューして。チューしてくれたら、風邪治る気がする」

「他人にうつせば、風邪は治るって言うもんね」そう言うと、柊は楸に近づいた。「舌を噛み千切っても良いなら、キスしてあげる」

 照れもせずに柊は、楸を脅した。

「悪い。俺の唇には先約があったことを思い出した」

「ハッ」と、柊は呆れて笑った。「そんだけ軽口叩ける元気あるなら、風邪もすぐ治るよ」

 今度こそ、柊は帰る。

「そうだ」思い出し、柊は言う。「アンタ、戸締りしっかりしなよ。アタシ来た時、鍵開いてたからね」

「あれま」楸は、軽く驚く。「だから柊 入って来れたんだ。俺はてっきり、ピッキングでもしたのかと」

「アタシ、そんなん出来ないし。出来たとしても、アンタの部屋にそうしてまで入る価値感じないし」

「またまたぁ~」そう言って笑うと、楸は考えた。そして、短い思考の後、思い立ったら即行動に移すべく、ベッドから起き上がる。「じゃ、今 柊帰ったらすぐ鍵閉めよ」

 楸は、玄関まで柊を見送りに出た。

「じゃ、またね」靴を履き、玄関のドアノブに手を掛けながら、柊は言った。

「うん。…柊」

「ん?」

「ありがと…いろいろと。今度なんかお礼するよ」

「ハッ。お礼も何も、風邪治してから言いな」

「うん。そだね」と楸が笑って言うと、柊は出て行った。柊が居なくなった玄関に向かって、笑顔を引っ込めた楸は「……ホント、いつもありがとう」と小さな声で言った。

 鍵を締め、楸はベッドに戻る。が、ゼリーがあったことを思い出して すぐまた起き上がり、冷蔵庫に行った。

 ミカンとブドウと桃、三種類パックのゼリーがあった。

「柊も一個食べてけばいいのに」楸は、ブドウ味を選んだ。

「うまっ」ゼリーを食べながら、楸は独り言を呟いた。

「柊にはホント色々世話になってるもんなぁ、俺。いつか何かちゃんとお礼したいなぁ」

 ゼリーを食べ終えると、楸は、ベッドに入った。

「柊なぁ……あれでもう少し可愛げや色気があればなぁ………無理だろうなぁ」



 この後 楸は、寝るに眠れず暇を持て余し、そういえば雑誌にクロスワードパズルあったからあれやって暇潰そう、と考えた。が、床に置いていたはずのその雑誌は、柊に片付けられていて、ない。仕方ないからベッドから出て雑誌を探し、部屋の隅に積み重ねられた雑誌の束からそれを見付けると、ベッドに入らず、床に座って座卓に向いながら、パズルを解き始めた。すると、思ったよりパズルは難しく、頭が「疲れた」と言って休憩を求めるので座卓の上に伏せて仮眠すると、仮眠のつもりがぐっすり眠ってしまい、夜中に寒さに震えて起きる。

 結果、風邪が悪化し、柊にこっぴどく叱られることになった。 


軽口を叩きまくる楸と、冷静にあしらう柊でした。

一応言っておくと、天使の人体構造はほぼ人間と同じという設定ですので、熱が何度あるかと訊かれた時の楸の返答はテキトーです。47.8度くらいだったはずです。


楸と同じことを椿がやったら、柊にぶっ飛ばされるでしょう。

楸と同じことを高橋がやったら、柊が気絶するでしょう。

楸と同じことをカイがやったら、未遂段階でカイが気絶します。


途中楸が口にした「羽の存在忘れるよね」というのは作者の想いです。

そういえば高橋も羽あるんだよな、とか思い出すと信じられない思いでいっぱいになります。

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