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天使に願いを (仮)  作者: タロ
(仮)
53/105

番外編 それもハロウィン

前回の続きのような話になっています。合わせてお楽しみください。


「はい、ということで集まってもらいましたけど…」

「おい……おい!」楸の挨拶を遮り、不満そうな顔をした椿は言った。「ということでって、どういうことだよ。つーか、ここ何処だ?」

 ダンススタジオのような 一つの面の壁が全て鏡で出来ている部屋に、椿、榎、柊、カイ、十六夜、篝火の六人が集められていた。招集を掛けた楸を入れれば七人だ。

「この世界のどこかにある、不思議な部屋だよ」

 椿の質問に、楸は答えた。その怪しく微笑んだ顔は、本当のことを語っていないことを白状するかのようだ。その為、楸の発言がテキトーであることに気付いた椿は、楸にギャーギャーと言い寄った。楸もそれにギャーギャーと言い返しているので、軽い口論へと発展している。

「うっさい バカコンビ!」柊の怒声が、室内に響いた。バカコンビは、その声にビクッと身体を強張らせ、ケンカを収束させた。「場所は置いといて、まず何でアタシ達を集めたのか、そっち先に言いなさいよ」

 イライラしながら、柊は言った。

 これはマズイということで、椿は大人しく身を引き、楸に発言の場を譲る。楸も空気を読み、ちゃんと説明をしようと咳払いした。

「実はね、ハロウィンはイタズラをする日ではないようなのですよ、みなさん」

「みなさんって、そんなバカみたいなハロウィンしてんのお前くらいだけどな、クソ天使」

 そう言って嘲笑う椿に少しイラッとしたが、楸はそのまま説明を続ける。

「だから、せめてもう少しまともなハロウィンっぽいことした方がいいのではないですかい、ってことでみなさんに仮装をしてもらおうと思い、声を掛けたのです」

「声を掛けたのですって、俺は拉致られてきたけどな」

 また口を挟むのは椿だ。

 これでは話の進みが遅いという事で、楸はまた連れて来た時と同じように『ねんねこ玉ミニ』を使って椿を眠らせた。

 静かになった室内で、榎が手を上げた。

「はい、榎ちゃん」

「仮装するのは、みんな同じ格好ですか?」

「ううん。同じだとつまらないから、みんな別々にします」

 次にカイが、榎の前例に倣ってだろう、発言権を求めて手を上げた。

「はい、カイ」

「みんな別って、楸が決めた服 着んのか?」

「イイ質問ですね」と楸は、カイの質問が説明のテンポを良くしてくれることに満足そうに頷いた。そして、浴衣の袖口に手を入れ、『コスプレ大全集』と書かれた二冊の雑誌を出した。二冊の雑誌は、メンズとレディースの表記があり、男女で別れている。「この雑誌の中から、ハロウィンに適したモノを各自に選んでいただきます。そして、それをすぐに発注し、後日再び集まって写真撮影をするそうです」

 次に手を上げたのは、篝火だった。

「はい、篝火」

「その雑誌、年齢制限は?」

「ありません」楸は食い気味で答える。「カタログのようなものになっています」

「でも?実は…」

「でももくそもありません」

 次に手を上げたのは、十六夜だった。

「はい、十六夜」

「ドラキュラとバンパイアの違いは、どちらも種族は吸血鬼らしいのですが、ドラキュラは小説の中に出てくる吸血鬼の名前らしいです」

「……だから?」

「以上」胸を張って満足そうに、十六夜は言った。

 次に手を上げたのは、柊だった。

「ボケるつもりなら指しませんよ」

「誰がボケるか!」と語気を荒げ、柊は言い返した。

「じゃあ、はい 柊」

「さっき『写真撮影するそうです』って言ったけど、アンタの考えじゃないの?」

「はい。このハロウィン仮装化計画を考案したのは俺ではありません」

「じゃあ誰?高橋さん?」

「違います。〝大いなる意思″です」

「ハ?」

 柊は 楸の言っている意味が分からなかったが、楸はそれ以上の説明をするつもりはないようだ。また何かふざけた発言をしようと挙手している十六夜と篝火の手に『コスプレ大全集』を持たせ、「他の人と被ることが無いようにね」と注意してから、各自着たい服を選ぶように言った。



 椿はまだぐっすり寝ているので、椿抜きで、男女三人ずつに別れて雑誌を眺め、ハロウィンの服装選びを始めた。室内にはテーブルも椅子も何も無いので、木目調の床に直接座り、雑誌を床に置いて見ている。

 選考を始めた時は、差異はあれどもみんな楽しそうだった。が、すぐに一人の表情が曇り始めた。

 柊だ。

 柊は、立ち上がって女子の輪から離れていくと、無言で楸の頭を殴った。

『コスプレ大全集 (レディース)』に載っている服装は、その全てがではないが、セクシー系の物が多かった。例えば、黒ネコは、ネコ耳のカチューシャを付けていたり肉球の付いた手袋をはめたりしているが、基本はモコモコの黒いビキニ姿で、黒ネコなのに肌色面が多い。他にも胸の谷間を強調した様な胸元が開いた服装が多く、写真に載っているような女の子と違って胸のない柊は、雑誌が楸の嫌がらせだと思ったのだ。

「ったいな!何すんのさ?」

 ぶたれた頭をさすり、目に涙を浮かべた楸は、柊に言った。

「何よあの雑誌!あれから何を選べっての!」

「ああ」顔を赤くして怒る柊の様子から、楸は事情を察した。「あれに載っているのは、そういう種類があるってことだけを参考にしてくれればいいよ。黒ネコやコウモリといった種類があるな、程度に。黒ネコを選んだとして、こういうふうな黒ネコが良いっていう要望があれば、その意見は最大限尊重されるから」

「……あ、そう」

 柊は、冷静さを取り戻した。自分の早とちりだったと気付き、楸に殴ったことを謝ろうとも思ったが、「安心してよ。色気が皆無の柊に、そんな無茶させないって」と楸が笑うので、収まった怒りが再沸し、楸の頭をまた殴った。

 そして気を取り直し、ハロウィン衣装の選考に戻る。

「榎ちゃん。それに載っているままじゃないっていうから、選択の幅広がるよ」

 笑顔でそう言いながら、柊は榎と篝火の居る所に戻った。

「幅が狭かったの、柊だけだよ」

 楸がボソッと言った悪口は、柊に届いていた。

 柊の投げた『コスプレ大全集 (レディース)』が、楸の顔に勢いよくぶつかった。おまけに、柊の代わりにカイが、楸の頭を小突いた。



「俺、魔女にする」と楸。

「またかよ?」とカイは呆れた。「お前、前も魔女やらなかったか?」

「いいじゃん。俺、魔女に憧れるんだよね」

「わかるぅ~。それ、チョーわかるぅ」とギャルのような口ぶりの十六夜。

「嘘だろお前。てか、喋り方キモいな」とカイ。

「じゃあさ、カイは何やりたいの?」楸は訊いた。

「俺か?俺はそうだな…?」

「包帯男なんてどう?」と十六夜は、雑誌の包帯グルグル巻きの男を指差した。

「包帯男じゃなくてミイラ男だろ。包帯男だと、ただの大怪我した男だぞ」とカイ。

「フランケンシュタインって感じでもないしね」と楸。

「おい、それは俺が小さいってことか?俺には大男は無理だって、そう言ってんのか?」と身長170未満のカイが、眉間に皺を寄せた。

「そこまでは言ってない」

「じゃあどこまでだよ!」

「あ、じゃあ僕がバンパイアやっていい?」と十六夜が嬉しそうに言った。

「マイペースだな、お前はよぉ!」

 普段ツッコミ役の椿が寝ているため、カイの負担は大きかった。

 いっぽうその頃、女子はどうなっているのか。

「私、バッドマンがいい」篝火が手を上げた。

「元悪魔の女がバッドマン?」柊は、理解できないと言いたげに首をかしげた。

「いいじゃない、バッドウーマン。コウモリって、ミステリアスな雰囲気ない?」

「知らないけど、もしミステリアスな雰囲気がコウモリに付きまとっていても、アンタはミステリアスじゃないからね」

「キュウキュウ」篝火は、柊の言う事を無視し、自分なりのコウモリの鳴き声と演技で、榎に近付いた。「カプッ」と口元に構えた牙のつもりの手で、榎に噛み付く。「チューチュー。うめぇ、若いおなごの血じゃ」

「きゃ~」

 と榎はくすぐったそうに叫ぶが、「付き合っちゃだめ。バカがうつるよ」と柊に抱き寄せられ、篝火と引き離された。

「なによ……」と篝火は、何かを言い掛け、やめた。

「何?」篝火の発する違和感に、柊は気づいた。「アンタ、何か言おうとしなかった?」

「イエスだけどノー」

 篝火は、柊への侮辱となる発言をしようと思ったが、怖くなってやめた。

 だが、柊は「何それ?」と篝火の言葉を不思議がるだけで、面倒だからとそれ以上相手をすることはなかった。

「榎ちゃんは何やる?」

「私は無難だけど、魔女がいいかな…」榎は、躊躇いがちにそう言った。

「いいね、それ」柊は、榎の考えを後押しする。「榎ちゃんが魔女やるなら、アタシはそれに付き添う黒ネコやろうかな」

「でもさ、楸さんも魔女やりたがらないかな?」そんな楸への遠慮から、榎はハッキリと魔女をやりたいと言えないでいた。

「そんな、アイツのことなんか気にしなくていいよ。アイツより榎ちゃんの方が魔女似合っているし、それにアイツ 男だからそもそも魔女になる資格ないんだし」

「誉めているのかもしれないけど、魔女が似合うって、どうよ?」

 呆れて篝火は言ったが、柊にキッと睨まれ、黙った。

「楸なんか枯れ木でもやってればいいんだから、榎ちゃん 魔女やろ?」

「……うん!そうする」

「楸君は枯れ木でもいいって、二人してひどくない?」

「例えよ、例え!アンタ、調子いいとうっさいわね!」

 普段は二日酔いや筋肉痛、関節痛などで体調悪い篝火だが、今日は調子が良かった。暗い雰囲気は変わらないけど、いつもよりよく喋った。

 こんな感じの和やかで和気あいあいと、ハロウィンの衣装決めは進んでいった。



 そして後日。

 再び前回のメンバーが集められた。

 段ボールに詰められた各自の衣装を、製作者の雛罌粟が手渡していく。隣には、荷物持ちで連れて来られたフランケンシュタインの拳王・ゴリラがいた。

「はい、榎ちゃん」

 榎は、魔女だった。黒を基調としたデザインで、ローブと歪んだとんがり帽をかぶっている。おまけに、先がカタツムリの殻のように渦を巻いた木製の杖まであった。

「はい、十六夜君」

 十六夜は、バンパイアだった。西洋風な黒のスーツに裏地が赤い黒マント、シルクハットもある。八重歯の尖った付け歯もあり、なかなかに本格的だ。

「はい、篝火さん」

 篝火は、ミイラ女にした。吸血鬼のコウモリは十六夜のバンパイアと被ると思っての配慮であったが、包帯を巻くだけで所々肌が見え隠れする、不埒な格好になった。

「はい、柊ちゃん」

 柊は、黒ネコだった。が、タオル生地のその服は、まるで着ぐるみのようだ。手には肉球があり、パーカーのようになっている帽子を被ればネコ耳が付いているしネコの顔も書いてある。その服に着替えた柊は、「なんか違う」と少し不満そうだった。

「はい、カイ君」

 カイは、オオカミ男だった。やはりそれもタオル生地で出来た着ぐるみのようだったが、柊と同じだから、カイの不満は少ない。むしろ、少し嬉しそうだ。

「はい、椿君」

「つーか、俺選んでないんスけど」

「大丈夫。俺が選んどいたから」楸は、笑顔で手を上げた。

 楸が選んだと聞いて、椿は不安に思った。まともなものではない、そう思った。が、受け取った衣装は、他の者と違い自分のだけが白い布で包まれていて、特別感がある。もしかしたら手の込んだ衣装だから汚れが付かないようにしているのでは、そう期待して白い布を取ったが、中には何もなかった。

 椿の衣装は、白い布だけだった。

「椿は、おばけだよ」

「おばけってお前、これただの布団カバーかぶっただけじゃねぇかよ。俺だけ手抜き感ハンパないんだけど」

 だが、どんなに文句を言おうと椿の衣装は『白い布』だけだ。

「はい、楸君」

「ちょっ、何でですか?」

 楸は、枯れ木だった。柊が、楸のリクエスト用紙を「魔女」から「枯れ木」へと無断で書き換えていた。

 それを見て、椿は「いい気味だ」と笑っていた。

 枯れ木では不満な楸は、椿の白い布との交換を申し出て、椿と白い布を取りあった。



 各自の衣装に着替え、写真を撮る。

 楸は、結局ハロウィンセットの背景の中に、枯れ木役として入ることになった。

「血を……誰か血を…」と苦しむバンパイア十六夜。

「篝火、お前アウト」とおばけ椿。

「そう?大事なところは2~3重に巻いているから大丈夫よ」とへそ出しミイラ女篝火。

「柊さん。可愛いよ」と魔女榎。

「そう?なんかパジャマみたいじゃない?」と黒ネコ柊。

「そんなことないよ。可愛い」

「そうだよ~可愛いよ~。てゆうか『黒ネコ』って役 与えられてるのに、何文句言ってんの」と不満爆発の枯れ木 楸。「ニャーって言ってみ。ニャーって」

「喉笛引き裂いてやろうかニャー」

「怖っ!この化け猫、超怖い」

「……… (柊さん、可愛い)」無口になった、黒ネコに萌えるオオカミ男カイだった。

 この七人でハロウィンの記念写真を撮った。

 椿は白い布の中に居るから分からないが、不満そうにブスッとしている枯れ木の楸以外、それぞれ役に成りきったポーズをとったり笑顔になったり、それぞれのハロウィンで写真に写っていた。


どちらかといえば私もハロウィンはイタズラメインで楽しむ派なのですが、せっかくということで、仮装させてみました。文字だけの小説で仮装を楽しむというところに趣を感じる…わけないですよね。



この話の様に自己満足感が強い話もあります。温かい目で見てやってください。

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