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天使に願いを (仮)  作者: タロ
(仮)
38/105

番外編 割高だと分かっていても屋台の焼きそばは好き

夏のお話です。

「はい、完成」

「あ、ありがとうございます、ヒナさん」

 天使の館内の一室で、柊は、雛罌粟の手を借りて着替えをしていた。普通の着替えならば、柊も子供ではないのだから、一人でも充分にこなせる。が、これは普通とは言い難く、柊一人の手には余る作業だったので、雛罌粟の手を借りた。

 柊は、雛罌粟に着付けを手伝ってもらい、浴衣に着替えたのだ。

 濃紺の生地に紫色や薄ピンク色の朝顔を咲かせた浴衣を着て、下駄を履いている。肩よりも長い真っ白の髪は、いつもは下ろして、仕事やちょっとした作業の時にはポニーテールなどのように一つに縛るだけなのだが、今はお団子状のアップにしている。薄く化粧もして、完璧な仕上がりとなった。

 浴衣に着替えた柊と 仕事着である薄ピンクの白衣を着たままの雛罌粟は、一緒に館内にある高橋の部屋へと足を運んだ。部屋には、いつも通り浴衣を着ている楸と、いつものスーツ姿ではなく、バッチリと浴衣を着こなしている高橋、あと いつもの白衣の五十嵐が居た。三人は、来客用のソファーに腰をおろし、トランプに興じている。

「よお、柊」部屋に入ってきた柊に気付くと、高橋は軽く手を上げた。「くくっ。なかなか似合うな」

 高橋に誉められ、柊はうっすらと頬を赤らめ、「あ、ありがとうございます」と照れを隠しながら礼を言った。「高橋さんも、あの…いつもと違って、いいです」

「そうか?ありがとな」

 柊に言われ、高橋は自分の格好を確認するように見た。その姿を、柊は見た。いつものスーツ姿とは違う浴衣では、襟元から鎖骨や厚い胸板が見え隠れする。それらが目に入ると、思わず良からぬ妄想に花が咲きそうになるので、柊は思わず目を逸らす。恥ずかしくて直視できない、でも見たい、そんな葛藤を抱いていたら、楸が「俺は、俺は?」と柊に自分の浴衣姿について意見を求めてきた。

「ハッ。アンタはいつもそれでしょ。別に普通じゃない」

「そんなことないよぉ」

 楸は、不満そうに頬を膨らませたが、浴衣が普段着の楸の服装はいつも通りだ。したがって、楸に反論する余地は無い。

 こいつなら問題なく見られるという事で、柊は楸と睨み合っていた。

 そこに五十嵐は「ひひっ。馬子にも衣装ってヤツだな」と割って入ると、手に持っていたトランプをテーブル上に放り投げた。楸が「ぎゃー!五十嵐さん、それダウト!ダウト!」とワケの分からない抗議をしていたが、五十嵐はそれに耳を貸すことなく立ち上がる。

「うるさい!」柊は、ケンカ腰になって、五十嵐の悪口に言い返した。が、すぐ雛罌粟に「ダメよ、柊ちゃん。せっかく浴衣着てるんだし、もっとおしとやかに。あんなクズの相手しちゃダメ」と耳打ちされると、「はい」と素直に注意を聞き入れ、落ち着きを見せた。

「おーい。出来ればそういう悪口は、相手に聞こえないよう、もっと小さく頼むわ」

 クズと言われた五十嵐は、無駄だと知りつつも念のために言った。

「くくっ」高橋の笑い声がすると、室内の注目が高橋に集まった。高橋は、「よっこいしょういち」と立ち上がると、「それじゃ、行くか」と言った。

 今日は、夏祭りだ。



 五十嵐がクズと言われた頃、榎の夏祭りに行く支度が整った。

 榎は、椿の家に浴衣を持参し、そこで椿の母の手を借りて着付けをしてもらっていた。

 それは、白地でピンクの花が咲いた浴衣だった。

 一通りの支度が整うと、榎はパァッと明るい笑顔になり、椿の母に礼を言う。

「ありがとうございます」

「いいえ~。榎ちゃん、かわいいよ」

 椿の母も、榎の浴衣姿に満足げだ。

 祭りに行く準備が出来たので、二人は、椿の待っている食堂へと向かった。慣れない下駄に苦戦しながら、榎は、客席に座って退屈そうにマンガを読んでいる椿に近づく。

「椿君、お待たせ」

「おう」マンガ本から目を上げ、榎のことを一瞥すると、椿は立ち上がった。「それじゃ、行くか」そう言うと、椿はマンガ本を棚に戻す。

「ちょっと待った!」

「あ?」唐突な母の制止を聞き、椿は手を止めた。本を置く位置が間違っていない事を確認し、本を戻してから、「んだよ?」と母に尋ねる。

 椿の声は不満そうだったが、母もだ。というか、母は怒っていた。

「あんた、女の子の浴衣姿見て、リアクションはそれだけ?薄すぎでしょ!」

「は?」椿にとって、母の怒りの原因は理解の範疇になかった。

「もっと『かわいい』だとか、『素敵だね』とか色々あるでしょうに、『おう』って、バカじゃないの!」

「うっせぇよ!」

「文句があんなら言ってみなさいな。榎ちゃん、チョー可愛いって」

 母の命令に、真っ先に反応したのは榎だった。「え、いやいいす!」と戸惑いの声を上げ、手をぶんぶん振る。

 そんな榎の奇行を呆れながら見て、もう一度母の方を見やると、母は無言で「言え!」と目で言い、アゴを振った。椿は、しぶしぶ「そっすね~」とだけ素っ気なく言い、母の言葉に同意した。その次の言葉はなかった。

「ごめんね、榎ちゃん。ウチのクズ、意気地無しの照れ屋だから」と母は申し訳なさそうに言った。

「そう言う事、本人の目の前で言っちゃうんだ」と椿は呆れているが、その声をかき消すように、榎は「そ、そんなことないです!」と言い、「浴衣、着せてくれてありがとうございました」と母に頭を下げると、「椿君、行こっ」と、逃げるように出て行った。

 やれやれと言った感じで、椿は榎の後を追う。しかし、「ちょいと、椿」と母に呼び止められた。

「ん?なに?」

「はい、これ」と母は、椿の手を取ると、「お小遣い」と無理やり握らせた。

 まさかの臨時収入に一瞬喜んだ椿だが、手の中の物を見て、落胆する。

「何でコレ?」

「いいから、持って行きなさい」

 有無を言わさぬ笑顔の押し付けで、母は応えた。

 理由を尋ねても母は答えない。榎の呼ぶ声も聞こえるので、椿はしぶしぶそれをポケットに入れ、家を出た。



 夏祭りの会場は、メインとなる大通りと、そこから枝分かれするように何本かの通りがある。櫓の様な物を囲んで、太鼓の音頭に合わせて盆踊りすることは無いが、様々な団体が出場する神輿があり、大通りを含めた辺り一帯は広く歩行者天国となっていて、様々な出店も多く出ている。日も暮れ始めた今頃からは、人の出は更に増え、歩けないほどではないが、なかなかに人でごった返している。それを活気があるとしてプラスに受け入れる者もいれば、人がゴミのようだなどと不満を洩らし、マイナスに捉える者もいる。椿は、後者のタイプだった。

「ったく、うじゃうじゃうじゃうじゃ、どっから湧いて出やがった」

「そんな文句ばっか言ってないで」と椿をなだめると、榎は、遠くに楸達の姿を見つけた。「ほら、椿君。もうみんな来てるよ」



 椿と榎が、みんなとの待ち合わせ場所である駐車場に来る十数分前のこと。

 待ち合わせ場所に一番乗りしたのは、甚平姿のカイだった。

 待ち合わせ場所として駐車場を選んだのは、誰かが車で来るからではない。というか、誰も車では来ない。それなのに、わざわざ駐車場を選んだのは、駐車場ならば車くらいが障害物となる程度で、視界を遮るような物が少ないからだった。下手に銅像の前などを選んでしまうと、道行く人に紛れて相手を見つけられなくなるかもしれない。それならば、車は多いが人は少ない駐車場を、としたのだ。

 案の定、車は多いが人はそれほど多くない駐車場に一番乗りしたカイは、他の面子を車と若干の人の中から捜す。が、誰も見つからなかった。

「あんだ…俺が一番かよ…」

 カイは、不満を洩らした。しかし、彼はイライラしているワケではない。むしろ、ウキウキだ。というのも、柊さんの浴衣姿が見られる、カイにとってそれが楽しみ過ぎて、居ても立っても居られず、待ち合わせの時間よりもだいぶ前に来ていた。

 猫背で曲がった背中を首と一緒に伸ばし、早く柊が来ないか、早く来てくれ、でももう少し心の準備もしたい、などの葛藤を抱きながら、カイはみんなを待っている。

 待ち遠しく思いながら、蚊に刺された左腕を血が出そうなくらい掻きむしっていると、遠くからカイの名前を呼ぶ声がした。「やっほい。カイ君」

 カイが声のした方に目を向けると、紺の半被を着た十六夜が笑顔で手を振りながら近寄って来た。

「あんだ、十六夜かよ…」

 カイは、柊かもと期待していただけに、十六夜の登場にあからさまな不満を洩らした。

「あんだとは何よ、あんだとは?」

「うるせえよ」自分に非難の視線を向ける十六夜を、あっち行けとばかりに手を振ってあしらった。「てか、お前よく来たな?」

 カイが疑問に感じた理由は、十六夜が本来、一か月も部屋から出なくても平然としていられる位、極端に外出を嫌っているからだ。本人と椿が言うには、引きこもりではないらしいのだが、それでもめったなことが無い限り、十六夜は外に出ない。外出を嫌うようになった原因は、ある日 外に出た時に見ず知らずの年下の人間に理不尽な因縁を付けられたからだ。また、それ以外にも色々嫌な思いをした経験があり、『外には良い事が無い』と言って、外出を拒むようになった。とまあ、理由はどうあれ、十六夜は外出を嫌う。だから、椿が誘ったとは聞いていたが、本人が来るまで十六夜が参加するかどうか、カイは半信半疑だった。

 十六夜が外出を嫌い、しかもその理由を知っている為に、来たのが予想外だったから、カイは十六夜に訊ねた。しかし、十六夜はシレッと「なめんなよ。僕だってイイ大人なのですからね、一人で来れるもん」と応えた。

 腕を組んで頬を膨らませ、口をタコのようにした不満顔の十六夜に対し、カイは怒りを覚えた。無駄な心配をした自分に対する怒りもあったが、それ以上に、目の前の半被姿の十六夜に腹が立った。

 が、カイは怒りを沈める。せっかくの祭りなのだし、柊の浴衣姿を拝めるかもしれない。そう考えると、いちいち十六夜のする事に腹を立てる事の方がアホらしく感じたのだ。

 そうやってカイは自分をなだめ、小さく深呼吸をしていた。それを見ていた十六夜も、鼻からいっぱい息を吸い込み、口から一気に吐き出して、大きく深呼吸をしていた。

 二人が深呼吸をしていると、遠くから声がした。

「あれ?お二人さん早いね」

 声を掛けたのは、楸だった。楸を先頭にして、柊と高橋、五十嵐もやってきた。

 だが、その一団の方に目を向けたカイの目には、柊しか映らなかった。期待通り浴衣を着ていて、期待を遥かに上回る柊の浴衣姿に、カイの目は釘付けとなっていた。

――うおぃ!やっぱ柊さん、サイコーにサイコーだぜ、おい!浴衣マジ似合うし、髪アップとかやべぇ。うなじがイイとか言うヤツの気持ちが良く分かんなかったけど、今なら分かる。日本の夏ありがとぉ!

 カイは、心の中で叫び、ガッツポーズした。あまりに大き過ぎて抑えきれなかった喜びは、無言で十六夜の肩をバシーンと叩く事によって発散した。

 笑顔で暴力をふるうカイの奇行に、肩を叩かれた十六夜だけでなく、その場に居た全員が戸惑った。あいつ、頭は大丈夫か、と。

 ともあれ、これで待ち合わせ場所に、六人揃った。

 カイの奇行の後、楸と十六夜は談笑し、柊は何処となく辺りを見ていて、そんな柊の事をカイは見ていた。高橋と五十嵐のオッサン二人組は、「あいつ来れるのか?」「さあ?」「てか、やじろべえ食いてぇな」「俺ぁ、アユ食いてぇ」など、どうでもいい話に花を咲かせていた。

 そうやって各々の時間を過ごしていると、残りの二人、椿と榎が来た。

「すいません、お待たせしました」

 榎は、みんなのトコへ着くなり、頭を下げた。「ううん、待ってないよ。アタシ達も今来たとこだから」と柊が応えると、榎は、そのまま暇を持て余していた柊と話し出した。

「いや~榎ちゃん、浴衣姿も可愛いねぇ」楸は、柊と話している榎のことを見て言った。「それに比べて」と、榎の後からゆっくりノタノタやって来た椿を見て「何それ?代わり映えのしないヤツだな」と椿を非難した。

「っせぇよ」と言う椿の、代わり映えのしない感じとは、Tシャツにジーンズ、トレードマークだという事で被っているニット帽、このいつもと変化の無い服装だった。自分のことを肯定する為に椿は「つーか、代わり映えで言ったらお前だって同じだろ。それに、五十嵐さんもいつもの白衣じゃねぇかよ」と、仲間を見つけた。が、「んなこたぁねぇよ。俺ぁこの下、ちゃんと浴衣着てっぞ」と言う五十嵐は、証明する為に白衣の前を開けると、確かに浴衣を着ていた。

「あ、ホントだ。俺も、五十嵐さんは浴衣じゃないと思ってましたよ」と驚く楸。

「つーか、その白衣、何か意味あんスか?」

 椿が尋ねると、五十嵐は不敵な笑みを浮かべた。「ひひっ。そりゃあな」

 五十嵐の笑みの理由が分からず、椿と楸は首をかしげた。



 約束していた全員が揃うと、さっそく祭りを楽しむ。

「んじゃ、俺達はここで呑んでるから、ガキ共は色々楽しんで来な」

 高橋はそう言い、五十嵐と一緒に、広大な祭り会場の中に何箇所か設けられている、テーブル席が何席か置かれている広場の一つに残った。その周辺には、ビールと焼き鳥や枝豆などのおつまみを売っている出店が多く出ている。五十嵐は早速 席を一つ確保し、飲み物と食べ物もゲットしていた。

 おっさん二人とは一旦別れ、残りのメンバーは、多種多様な出店を見ながら大通りを歩いていた。

「榎ちゃん。お好み焼き食べてみて、美味しいよ」「ありがと、柊さん」

「はい、カイ君。お好み焼き食べて。あ~ん」「………おう。ありがと、十六夜」

「あ~俺、焼きそば食べたい。椿、買って来て」「テメェで行け、クソ天使」

 お好み焼きを食べたり食べさせたり食べさせてもらったりしている者達もいれば、リンゴ飴を舐めながら焼きそばを所望する者、せっかくの祭りに不機嫌そうな顔をしている者もいた。

 まとまって行動してはいるが、その中でみんな 微妙に別行動をしている。が、移動は一緒なので、行きつく場所は同じになる。楸が一本目のリンゴ飴を食べ終え、次にイチゴ飴を舐めていた時、一行は、ある出店の前で止まった。

「あ、射的だ」

 榎が最初に興味を示し、みんなも足を止めた。

「射的かぁ、良いね。俺、やろうかな?」と楸は前に出る。

「お、俺もやってみっかな?」と、カイもヤル気を見せてきた。「柊さん、何か欲しいのありませんか?」

「いや、特には」

「カイ君。僕、あの王将が欲しい」心惹かれる景品がなかった柊の代わりに、十六夜は、的となる景品が置かれている棚の一番上、中央に堂々と鎮座している将棋の駒を指差した。

「いや、アレは無理だろ…。つーか、でか過ぎ」と呆れる椿。

「てか、何でお前のリクエストだよ!」

 そう文句を言ったが、一度やると言い出した手前 引くに引けず、カイは楸とは別にお金を出した。

 二人は、屋台のおばちゃんから五発分のコルク弾と、射的用の銃を受け取る。

 先に銃に弾を込めた楸は、右手のみで銃身を支え、引き金に指を掛ける。そして、ありもしないサングラスを左手の中指でクイッと上げた。

「くくっ。腐れ王将が。俺の一撃で沈めてやるよ」

「何それ?もしかして、高橋さんのマネ?」と柊は、苦い顔をして訊いた。

「うん」

「ぜんっぜん似てない。最悪。やめろ。帰れ」

「そこまで言う事無くない?」

 予想以上の柊からの罵倒に動揺した楸だが、「ちぇ」と舌打ちすると、射的に集中する。肩の力を抜き、銃を持った右腕をまっすぐに伸ばし、片眼を瞑って狙いを定める。

「おい。お前、何狙ってるんだ?」

 椿は、訊いた。

「何って、景品だよ」当然だろとばかりに、楸はシレッと答えた。

「景品だよって、俺は景品じゃねぇえ!」

 楸の構えた銃口は、椿の額を向いていた。

「当てて落ちたら好きにしていいらしいからさ、俺に対する態度諸々、ちゃんと直してやろうかなと」

「かなと、じゃねえ!つーか、落とすの意味違ぇだろ、それ!命落とそうとしてるだろ!」と椿がシャウトした時、「隙あり!」と楸は引き金を引いた。詰め込まれたコルクの弾は、銃から解き放たれ、まっすぐに椿の額めがけて飛んだ。しかし、コルク弾は、椿に当たる事は無かった。なぜなら、額に当たる すんでの所で、椿にキャッチされたからだ。

「ちっ!」と楸は、不満そうに舌打ちする。

「ちっ、じゃねえ!」と危機を回避できた椿は、怒りをぶちまける。「何撃ってんだお前!」

「コルク弾」

「普通に答えてんじゃねぇよ!」

「てゆうか、良く捕れたね。楸さん、もうびっくり」

 楸の平然とした態度に、とうとう椿の堪忍袋の緒が切れた。銃を奪い取って、反撃に撃ち返してやろうと、椿は楸に掴みかかる。当然、楸も抵抗する。その様子を見かねた榎が止めるまで、二人はしばらく取っ組み合いのケンカをしていた。

 楸と椿がじゃれ合っていた時、その横で、そんな二人には全く関心を示さず、カイはちゃんと射的に興じていた。

 柊は何も要らないと言ったが、小さいキーホルダーなら、もしかしたら貰ってくれるかもしれない。そう思い、カイは、熊の人形が付いたキーホルダーに狙いを定めた。身を乗り出して、少しでも的に近づこうとする。不安定な体勢の為、標準がぶれる。そして、ここだという瞬間に、カイは引き金を引いた。

 しかし、コルク弾は何にも当たらず、屋台の壁の布に当たって落ちた。

「んもう!何処狙ってるの、カイ君。明後日どころか再来年の方向に飛んで行ったよ」

 王将が欲しい十六夜の苦情は、「うっせぇよ!」の一言で片付け、次に気持ちを向ける。だが、カイの気合とは裏腹に、コルク弾は的にかすりもしなかった。四発目もそれまでと大差ない不発で、カイは悔しさから顔をゆがめた。

「んもう!何処狙ってるの、カイ君。再来年どころか来世の方向に飛んで行ったよ」

「だからうるせえよ!てか、んな外してねぇし!」

「外れてるよぅ」カイの怒りを気にも留めず、十六夜は口を尖らせて不満を洩らした。しかし、ある事に気付き、顔を明るくした。カイに詰め寄ると、「ねぇ、僕に一発撃たして」と頼み込む。

「あ?」

「ですからね、その最後に残った一発を、是非ともこのわたくしめに頂けないかなと?」

 十六夜の芝居がかった頼み方に、カイは苦い顔をした。が、自分の不出来さを考えると、意地を張る事に意味を感じず、それならば十六夜にやらせてもいいかと思った。

「ほらよ」

「ありがとんび」十六夜は、銃を受け取ると、早速構えに入る。「実はですね、こう見えて僕、各国の要人暗殺を請け負っちゃうような、すご腕のスナイパーでして、はぁい。頼まれれば大統領や国の王様、果てはにっくき浮気相手までバキュ~ンですよ。それに比べたら、動かない王将なんて、浮気相手以下です」

「御託はイイから、さっさとやれよ」

「ほいさ」返事をすると、十六夜は、カイのように大きく身を乗り出した。これでもかと言う位、銃口を的に近付ける。「カイ君。僕の腰 抑えといてちょ」

「……ったく。ほらよ」

「ありがす」礼を言うと、いよいよ的に集中する。慎重に狙いを定め、相手を確実に仕留められる一瞬が来るのを辛抱強く待つ。呼吸を読み、相手が油断したその時、十六夜は引き金を引く。「ファイア!」

 十六夜の放った弾は、王将の上部に当たった。本来ならピクリともしない屈強な王将も、油断した一瞬を狙われてグラグラ揺れ、近くでどたばたケンカしているヤツ等も居て、そいつらから伝わる振動も手伝い、不覚にも倒れてしまった。

 自信満々に引き金を引いた十六夜以外、誰もまさかあの王将が倒れるとは微塵も思っておらず、その場に居た人々は驚き、歓声を上げた。カイも、呟くように「……マジか?」としか言えないくらいに面喰っていた。

「ミッション・コンプリート」

 十六夜は、銃口の煙を吹き消すマネ事をした。



 楸達が射的を楽しんでいる頃、酒を呑んでいるおっさん達の中に、一人加わった。

「ごめん、高橋君、五十嵐君」

 それは、楸や高橋たちの上司であり、全世界に点在している〝天使の館″の中で楸達の所属している館の支部長をしている男だった。浴衣に身を包んだ彼は、高橋達の友人でもあり、仕事の外では互いに立場を気にしない。仕事の時も立場をあまり気にするような間柄ではないのだが、それでもオフの時はオフの時で、いつも以上に普通に友人として接している。

「おう。おせぇよ、バカ」と高橋は出迎えた。

「仕方ないんだよ。仕事がなかなか片付かなかったんだから」

「ききっ。仕事なんか適当にやるもんだぜ。身体壊しちゃ、元も子もねぇ」

「そんな事言って五十嵐君、キミはもう少し真面目に仕事に向き合うべきだよ。それに、キミ達は仕事以外で身体壊しそうじゃん」

「はて?何の事だ?」「さあ?」とおっさん二人はとぼける。

「お酒だよ、お酒!あと、五十嵐君はタバコも」支部長の注意は、二人に「ああ」「そんなこともあるかもな」と流された。「ヒナちゃんも気にしてたよ、二人の身体の事」

「いんだよ」高橋は言う。「あんな小姑みたいに口煩い腐れブーの言う事は、いつも大袈裟だからな。ま、気にせず呑もうや」

 その直後、高橋は、後頭部に強い打撃を受けた。



 手に入れた王将を優しく撫で、十六夜は満足そうな笑みを浮かべていた。王将という獲物の大きさを知った柊は、「アンタ、意外にやるね」と感心していて、それをカイは面白くなく見ていた。ケンカをして射的場では疲労以外何も得ることが出来なかった二人は、仲裁する榎を間に挟んで、出店の通りを更に進んでいる。

 苦笑いを浮かべながら一行の先頭を歩いていた榎は、視界の端に見知った顔を見つけた。

「ねぇ。アレ、石楠花さんじゃない?」

 見間違いではないかと思ったが、確かにそこに居たのは、石楠花だった。榎の指差す方を見て、他のメンバーも石楠花の存在を確認する。「ああ、ホントだ」

「あいつ、あんなところで何やってんだ?」

 石楠花は、屋根に『ばくだん焼き』と書かれた屋台の中にいた。しかもただ居るだけではなく、ねじり鉢巻きを締め、どうやら接客をしているようだ。石楠花という男のプライベートや職業、その他多くの事を椿達は知らない。が、それにしても屋台の中で接客する石楠花というのは、彼らの持つ石楠花に対するイメージからかけ離れていた。

 それ故感じた椿の疑問は、誰からも答えられることなく宙に消えた。しかし、それは別に無視されたワケではなく、誰も答えを知らないだけだ。ならば、答えは直接訊きに行こうということで、一行は『ばくだん焼き』の屋台を訪れた。

「はい、いらっしゃい」

 石楠花は、威勢の良くない声で客を迎えた。

「石楠花、何やってんの?」楸が訊ねた。

「……ちょっとな、知り合いに頼まれて、ここで臨時のバイトしてんだよ」

 知り合いの突然の来客にも、そいつからの突然の質問にも、全く動じることなく、平然として石楠花は応えた。

 石楠花はよく、人をバカにしたような言動をする。嘘をつくのは当たり前で、場合によっては他人が傷つく事にも何とも思わず、むしろそれを利用したりもする。だが、それはあくまで自身の好奇心に正直になった結果であり、石楠花の心惹かれるような事が何も無いのであれば、至って無害な男である。そして、それは椿達も知るところだ。その為 椿達は、顔がイキイキしていない今の石楠花が嘘をついていないと判断した。というより、この状況で人を騙す意味も感じられず、「へーそう」と石楠花の言う事を鵜呑みにした。

 石楠花が屋台に居る理由は、『知り合いに頼まれたから』だった。一応、それは真実だ。だが、疑問が解決したらからもう用は無い、と言うわけにはいかなかった。

「どうした?白いの」石楠花は、出来上がって展示するように置かれているばくだん焼きをしげしげと眺めている柊に声を掛けた。「もしかして、ばくだん焼き 知らねぇのか?」

「うん。何なのコレ?」石楠花の勘は、当たっていた。

「ききっ。口で言うのも面倒だから、ま、一個食ってけよ」

 石楠花が説明を面倒がった『ばくだん焼き』とは、作る人や店によって多少の差異はあるだろうが、大体大判焼きのような見た目をした、たこ焼きとお好み焼きの良いトコ取りをしたような物だと解釈すれば、さして説明は面倒ではない。だが、実際にたこ焼きとお好み焼きの良いトコ取りとはどういう物なのかと訊かれれば、それを説明するのは面倒なので、実際に食べてみることを勧める。

 実際に食べてみることを勧められた柊は、「じゃ、一個ちょうだい」と誘いに乗った。

「はいよ」注文を受けた石楠花は、早速 品の準備に取り掛かるのかと思えば、A4サイズの一枚の木の板を取り出した。そこには、『じゃんけんで勝てば、一個半額 又はもう一個サービス』と書かれていた。「一個二百円だから、半額の場合は百円な。念のため」

「わかった」

 柊も了承し、お互いに拳を前に出した。「最初はグー、じゃんけん…」と言う石楠花の音頭に合わせ、「「ポン!」」と手を出す。

 結果は、石楠花のパーが勝った。「んじゃ、二百円な」

 柊は、悔しがり、己の握りしめた拳を見つめた。「チッ」と舌打ちして、ばくだん焼き一個の正規の値段である二百円を支払い、パックに入れられたばくだん焼きを受け取る。

「次、俺」

 手を上げたカイが、一歩前に出た。気合の入ったカイの目的は、ばくだん焼きを安く買う事に無く、たかがじゃんけんとはいえ、柊の仇を討つことにあった。

 二回戦目も石楠花の「最初はグー、じゃんけん…」と言う音頭に合わせて、「「ポン!」」と手を出した。その結果は、柊の時の再現のように、まったく同じとなった。

 カイも柊同様、自分のグーの手を悔しそうに見つめ、二百円を支払った。

だが、「これ、結構美味しいね」「そ、そうですね」と柊と味の感想を分かち合う事が出来、カイは満足だ。

 ばくだん焼きを頬張る敗者二人を横目に見て、今度は椿が前に出た。

「椿、二百円だよ」

「っせぇ、クソ天使!まだ負けてねぇよ」

「まだ、ってことは、負ける気なんだな」

 椿をからかう楸と、それに対して怒りを向ける椿のやり取りを、石楠花は不敵な笑みで見つめていた。

「ききっ。おい、ニット帽」

「ん?なんだ?」

「そんなに勝ちたいんだったら、俺が次 出す手を教えてやるよ」そう言うと、椿の反応を待たず、石楠花は「パーだ」と開いた手を見せた。

「なっ?」

 石楠花の心理攻撃に戸惑う椿だが、ロクに考える間も与えられず、石楠花は「はい。最初はグー、じゃんけん…」と音頭を取った。

 突然過ぎて焦る椿だが、考える時間がゼロだったわけではない。瞬間的に思考を巡らせ、「「ポン!」」と手を出した。

 結果は、また同じことの繰り返し。石楠花のパーが三連勝を飾った。

「椿弱っ!」

 嘲笑う楸を無視し、強く握った拳を解き、椿も二百円を払った。

「石楠花さん、じゃんけん強いね」

 三連勝した石楠花に、榎は称賛の言葉を送った。

「まぁな」と勝ち誇った笑みを浮かべる石楠花は、次の挑戦者が出ないと感じ、簡単なネタばらしを始めた。

「じゃんけんって言うのはな、負ける確率だけで考えると三割ちょっとなんだよ。理屈では、一回で負ける確率の方が低いんだ。あと、統計的に人間の一番最初に出し易い手ってのは、グーらしい。これはたぶん、グーという形が出し易いからだと思う。出し易い手って考えると、チョキは他の二手に比べると複雑な形だから、出す確率は自ずと低くなる。つまり、最初にパーを出しとけば、負ける確率は一番低くなる」

 その理屈を聞いて、グーで負けた柊は納得し、頷いた。

「で、次のネコ猿だが、一回目の俺の手がパーだと見て、同じ手でくる可能性が低いとでも思ったのかもな。それで、負けることは無いだろう手を選んだ」

 図星だった為、カイは悔しそうに舌打ちした。

「最後のニット帽は、一番簡単だったな。俺は、パーだと予告した。これに勝つにはチョキを選べばいい。だが、ニット帽は、俺が本当にパーを出すのかどうか疑心暗鬼になり、また考える時間もほとんどなかったから、あわよくばあいこで次に賭けようと、グーを出した」

「ちょっと待って」石楠花の説明の途中、楸が口を挟んだ。「それだったら、椿はパーを出したんじゃないの?」

「普通ならな」と石楠花は微笑する。「だが、ニット帽は俺の事を知っている。そのせいで、俺が本当の事を言っている確率の方を低く見積もってしまったんだ。素直にパーを出すワケが無いから、パーに負ける手を出しとけば安全だとでも思ったんだろ」

 完璧に心理を読まれていた椿は、「かっ」と顔を背けた。

「それにな」三人に勝てた理由を明かすと、石楠花は続けて言った。「俺は別に負けても良いんだよ。バイト代にも影響ないしな。三連勝したのも、理屈どうこうは置いといて、ただ運が良かっただけでイイ。だから、ニット帽の時も、疑った末に負けるバカになるより、正直にやって負けた方が気持ちいいだろうな、そう考えて勝負してるんだ。だから、深く考えないでテキトーな気持ちでじゃんけんすれば…」そこで一度言葉を切ると、石楠花は、榎に向けて握った拳を出した。いきなりだったが、榎は対応した。石楠花は何も音頭を取らなかったが、それまでと同じ手の動きに合わせ、榎も心の中でリズムを取って、手を出す。結果は、榎のパーが石楠花のグーに勝った。「ほれ、意外と勝てる」

「それって、私が何も考えてないってことですか…?」

 榎は勝ったが、どこか釈然としなかった。

「ききっ。勝たせてやったんだから、細かい事気にすんな」榎の反応を見て嬉しそうに笑うと、石楠花は、パックにばくだん焼きを三つ入れた。「ほれ、三つで四百円にまけてやるから、とっとと帰れ」

 石楠花の手は楸に向いていたので、楸は、しぶしぶ料金を支払った。

 結局、人数分のばくだん焼きを購入し、石楠花の居る屋台から離れた。

 ばくだん焼きを食べながら、黙って戦況を見ていた十六夜が口を開いた。

「さっきのってさ、半額にしてもらう方が損するのかね?」

「なんで?」

「だってさ、もう一個貰う方を選べば二百円払う事になるけど、単価は百円になるわけですよ。二個も食べられないからって半額の方をとる選択肢もあるにせよ、つまり、じゃんけんで二回勝って二個貰える事を、一回勝つだけで出来るわけです」その十六夜の説明を聞いて、全員がハッとなった。確かに、十六夜に言われるまで、じゃんけんで勝った時の事として『もう一個サービス』の方が頭から欠落していた。「だから思うに、最初の説明の段階で、値段の説明をして半額になる時の事を強調しといて、少しでも一個サービスで貰える事から意識を逸らしたのではないかと」

「なろぉ!人の事バカにしやがって。一個オマケの方、ヤル気ねぇじゃねぇか」

 十六夜の話を聞いた椿が怒っている頃、そろそろ十六夜が気付いた事に気付いたかなと察した石楠花は、悔しがる面々の顔を思い浮かべ、「ききっ」と薄ら笑っていた。気付かなければ気付かないでもいいと思っていた罠が、本当に現実となっている事まで石楠花は知らないが、それでもそうなる確信があったので、石楠花は楽しそうだった。



「お前な、普通無防備なヤツを背後から襲うか?」

 まだ痛みの残る後頭部を抑えて、高橋は言った。

「はい?」高橋から非難する視線を向けられた雛罌粟は、何事もなかったかのように言った。「人の陰口を言ってる人が悪いのですよ」

「あははっ。そうだね、高橋君が悪い」支部長は、雛罌粟の意見に同意して笑った。それにつられるように、五十嵐も「ひひっ」と笑う。

「笑うな、腐れ野郎共が」

 高橋は、吐き捨てるように文句を言った。

「それにしても」雛罌粟は、高橋の後頭部を殴打する時に使った右拳をさすり、「どんな石頭しているのですか。こっちの手が壊れるんじゃないかってくらい痛かったですよ」と高橋に、主に高橋の頭部に苦情を言った。

 意図せずして雛罌粟に反撃することが出来ていた事を知り、高橋は「くくっ。ざまぁ」と嬉しそうに笑った。

 その高橋の笑みにピクッと反応した雛罌粟の不穏な空気を感じ取り、支部長は慌てて取り繕うように、「それにしても、このばくだん焼きって美味しいね」と、仕事が終わってから浴衣に着替え、遅れて来た雛罌粟が何処かの屋台で買ってきたばくだん焼きを誉め、話題を逸らした。

「ですよね」と雛罌粟も、高橋のことなんか無視し、支部長の言葉に気持ちを切り替え「なんか変わった店で買ってきたんですよ」と嬉々として話す。

「変わった店?」

「はい。じゃんけんで勝ったらオマケしてくれるシステムがあるのですけど…」

「その程度、俺の馴染みだった駄菓子屋の婆さんも、たまにやってたぞ」と五十嵐が横やりを入れたが、雛罌粟は首を横に振る。そんな単純な話ではないのだ、と。

「なんでも、その店の人、じゃんけんの勝率が八割を超えるらしいのですよ。普通、じゃんけんの勝率なんて五割前後じゃないですか。それが八割って、すごくないですか?」

「イカサマでもしてんじゃねぇの?」と高橋は疑問を投げかけた。が、すぐに「違うと思います」と雛罌粟に否定された。

「他の人との勝負の様子を見たのですけど、特に怪しい素振りは見えませんでした。少しお客と話をして、すぐにじゃんけんの流れでしたし、イカサマを挟む余地は無いかと」

「へー」と、話を聞いていた三人は感心する声を上げた。支部長は、心底感心しているだろうが、高橋と五十嵐はどうでもよさそうな「へー」で、高橋の関心も、すぐに「で、お前は二割の方だったのか?」と、雛罌粟の勝敗の方に向いた。

「はい。私は勝ちましたよ」

 と、雛罌粟は、笑みを浮かべて応えた。

「ひひっ。それが話のオチじゃ、その店のヤツがスゴイのか分からなくなるな」と五十嵐。

「くくっ。だな。それじゃあ、ただのお前の自慢話だ」と高橋も。

「いいじゃないですか、別に」話に余計な茶々を入れられ、不機嫌になった雛罌粟は、「文句があるならばくだん焼き、返してください」と手を出した。

 が、言い終わるが早いか、二人は、残りのばくだん焼きを一口に全部、口の中に入れてしまった。

 悔しがる雛罌粟を横目に、五十嵐は、祭り会場を下見して得た情報を基に、時間の経過を考慮し、「そろそろかもな」と立ち上がった。

「ん?どうしたんだ?五十嵐」

「ひひっ。ちょっとな。そろそろ俺の出番の様な気がして」

 白衣の襟を直しながら、五十嵐はそう言って、人ごみの中へと紛れて行った。「ちっとばかし席外すわ」

「どうしたんだろ?」と支部長は首をかしげる。

「さあ?」雛罌粟も支部長と同じポーズを取る。

「くくっ。どうせ下らない悪企みだろ。それか、ただの小便か」

 この高橋の予想は、当たっていた。



 ただのじゃんけんで白熱し、ばくだん焼きも既に食べ終えた椿達一行は、その後も様々な出店や大道芸などのパフォーマンスを見たりして、祭りを満喫していた。

 そして、すっかり暗くなり、「メインの大通りは一通り見たな」となった頃、メインの通りから横に逸れた場所にある、広場へ行った。

 その広場は、場所を取るような、例えば輪投げや軟式野球のボールを投げてピラミッド型に積み上げられたコップを倒すゲーム等があり、メインの通りと違って身体を動かすような出し物が多くある為か、元気を持て余した若者が多く、人の数以上の活気があふれている。

 そんな広場の一角には、夏の恒例とも言える怪談物、お化け屋敷があった。普段は無いが、この祭りの期間だけ存在するお化け屋敷は、別にそういう怪談で存在しているのではなく、スタッフの涙ぐましい努力で設置されている。そのスタッフの努力はすさまじく、夏の一時、それも夜だけしか営業しないお化け屋敷にしては、やたら完成度が高く、屋敷内からは次々と悲鳴が漏れ聞こえていて、屋敷の外に居る者でさえ、自然と震え上がってしまう。しかし、そこはやはりお化け屋敷だとでも言えばいいのか、怖いもの見たさの客は次々と来ていて長蛇の行列こそないが、客足が途絶えることはなさそうだ。

 榎も、そんな怖いもの見たさの客の一人となろうとしていた。

 一行がお化け屋敷の前をただ通り過ぎようとしていた時、榎は足を止め、興味を示していた。

「どうしたの、榎ちゃん?」立ち止まった榎に気付き、楸は訊いた。「もしかして、これに入りたいの?」

「うん。入ってみない?」

 榎の申し出に対し、楸はあまり乗り気ではなかった。が、お化け屋敷の入口の所に、『一度に入るのは二人まで』という注意書きを見つけ、さらに一行の中の数人の顔から血の気がサァーっと引いたのを見ると、気が変わった。ニヤリと不敵に笑い、「いいね!」とあえて大きな声で賛成の意を伝えた。

 楸の賛同を得て、榎は笑顔になった。楸と榎のやり取りを見ていた他のメンバーも、流れを読んで、お化け屋敷の参加へと気持ちを向ける。しかし、そこに一人だけ、輪から離れようとしている者が居た。

「ド~コ行くの?」

 そう言って、楸は、逃げようとした椿の首根っこを掴んだ。

「あ?」椿は、恐怖心を隠し、憮然とした態度を意識して取った。「……小便だよ」

「それなら行った方がイイね。途中でちびると恥かくよ」

「誰がちびるか! あーつーか、小便じゃねぇわ。お前、焼きそば食いたいとか言ってたろ?俺も今モウレツに食いたい気分だし、買って来てやるよ」

「いいよ。楸さん、まだ綿アメ食べてるし」

 言い訳を並べ立て、椿は何とか逃げようとしたが、楸と十六夜に腕を掴まれ、逃げる事叶わなかった。

 椿の参加も、強制ながら決まり、これで参加人数は六人となり、丁度二人組が三組できることになった。しかし、参加するといっても、まだ抗おうとする者が、椿以外に居た。

「ね、ねぇ」それは、柊の震えた声だった。「もしもの事があったら大変だし、アタシ、一回ウチ帰って剣持ってくるよ」

「お化け屋敷でどんな〝もしも″があれば剣が要るんだよ」楸は、つっこんだ。「てゆうか柊、いつもの服と違って浴衣のままじゃ飛べないでしょ?飛ばずに帰れるの?それとも高橋さんに頼むの?それとも、浴衣はだけさせる?」

 楸の言葉を想像し、カイは顔を赤くしたが、それは誰も知らない。

 当の柊は、楸の言っている事はもっともであり、楸の例示した手段のどれも取る事は出来ないと諦めた。が、まだ希望はあった。浴衣のままでも、天使や悪魔の〝力″は使える。つまり、まだ闘う手段の全て失くした訳ではない。もしもの時は、悪魔の能力である〝空間凍結″を使い、お化け屋敷全体の時間を止めればイイ。そうすれば、お化けは出て来ず、出口まで悠々と大手を振って歩ける。

 柊は、不敵に笑うと、「いい。このままでいい」と参加を伝えた。

 攻略法を見つけ、強気な自信を取り戻した柊だが、しかし、それが油断を招いた。

「ズルはダメだぜ」

 それこそお化けの様に何処からともなく現れた五十嵐は、柊の考えを全て見通し、白衣のポケットの中に入れていた首輪をカチャリと柊の首に巻いた。

「五十嵐さん!」

 五十嵐のいきなりの登場に驚く面々だったが、その中で一人、柊だけは敵意をむき出しにし、五十嵐と向き合った。

「これ、何?」と、自身の首に巻かれた物を指差し、柊は五十嵐に訊ねる。

 柊の刺すような敵意をもろともせず、勝算のある五十嵐は余裕の笑みを浮かべたまま、柊の質問に答えた。

「ききっ。それはな、天使の力を封じる手錠があったろ?あれを改良して、首輪タイプにしたものだ。しかもそれは特別製のチャ子用で、悪魔の力も限定的にだが封じる効力も付加してある」

「なっ…ちょっ!」

 柊は、力を封じられた経験が無く、初めての事に戸惑った。五十嵐の言う事が本当か確認しようとしたが、するまでもなく力を感じない事に気付いた。普段は意識しないでも呼吸できているのを、鼻が詰まって呼吸しづらくなるように、自然と力が出ない事に気が付いた。

 首輪は外そうとしても外れない。

 このままではマズイ、それにムカつく。五十嵐を問い詰め、首輪をはずさせ、出来れば五十嵐をぶっ飛ばそう。そう決めた柊だが、すでにその場に五十嵐の姿は無かった。

「アイツは?」

 辺りを見渡しながら、柊は誰にでもなく尋ねた。

「五十嵐さんならね、お化け屋敷の中に逃げてったよ」楸が言った。二回も天使の力を封じられた経験のある楸は、柊に僅かながら同情し、去り際に五十嵐から渡された紙を読み上げる。「『首輪は、俺の持つ鍵か時間の経過でしか取れない。試作品の為、もしかしたら時間経っても外れないかも(てへっ)。悔しかったら追いかけてきな』だって」

 柊の怒りは、爆発しそうだった。特に、「てへっ」の部分に一際腹が立った。

 しかし、柊の怒りが爆発する前に、お化け屋敷の中から「うおぉーっ!」と情けなく叫ぶ五十嵐の声が聞こえ、柊は溜飲を下げた。「ハッ!ざまぁみろ」

 椿の逃走(未遂)や五十嵐の介入により、余計な時間が掛かったが、何はともあれ、お化け屋敷に入ろう。その前に、ペア決めだ。

 ペアの決め方は、グー・チョキ・パーを出して、同じ手だった者同士をペアとする事に決めた。榎は、早くお化け屋敷に入りたくウズウズしている。楸は、そんな榎とペアを組んで、あわよくば中でラブな展開にならないかと期待している。柊は、どうすれば今の状態でもお化けを倒せるか、思案している。カイは、意外にもお化け屋敷を怖がった柊とペアになれないか、切に願っている。十六夜は、今からでもお化け役になれないかな、そういえばまだたこ焼き食べてないな、イカぽっぽもまだだ、などあっちこっちに気持ちが向いていた。椿は、何回目かの逃亡を試みたが、楸に捕まった。

 それぞれの想いが交錯する中、ペア決めじゃんけんが行われた。

 第一陣 カイ・十六夜 グー組

「何でお前だよ…」とうな垂れるカイ。

「護ってね♡」

 第二陣 楸・柊 チョキ組

「まぁ、手と足が動くだけいいか」

「それ、なんの確認?」と若干引く楸。

 第三陣 椿・榎 パー組

「榎。綿菓子食べに行かね?」

「うん。お化け屋敷の後でね」



 ここからは、お化け屋敷内が暗くなっている為、一部音声のみでお送りします。

 第一陣

十六夜「ちょっとぉ。人魂じゃない、これ~」

カイ「何でオネェになってんだよ。てか、ひっつくな!」

十六夜「いいじゃないの~。てゆうか、こんにゃくウケル~。何で糸こん?」

カイ「ちょ、待て!十六夜、お前…手何個あんだよ?」

十六夜「今日は二個。調子良ければ、もう二個くらい出せるよ。嘘だけどね」

カイ「じゃ、じゃあ…今は調子いいんだな?」

十六夜「ううん。むしろ逆。僕、たこ焼きまだ食べてないから、今は二個」

カイ「っ…じゃあ何で、俺の腕を掴む手が四個もあるんだ?……ああぁぁ!」

 第二陣

楸「ねぇ、柊。それ、何持ってるの?」

柊「王将。さっき十六夜から借りた」

楸「だから何で武器持つの?お化け屋敷にどんだけ危機感持って臨んでるんだよ!」

柊「べっ…別に怖くはないのよ!だけど、ま…万が一ってあるじゃない」

楸「ああ。怪談話すると寄ってくるって言うしね。そう言えば柊、こんな話知ってる?」

柊「いあぁーー!」

楸「痛っ!王将痛っ!やめて、何も言わないからもう止めて!」

 第三陣

椿「なんだかんだ言ってもよぉ、結局ここに居るのってみんな人間なんだよ。そりゃあいきなりマ〇コみたいなデラックスな人間が出てくればビックリするかもしれないけど、それはビックリなんだよ。結局な。別にビックリするだけで、怖いことなんか何も無いんだよな」

榎「いいから、止まってないで早く行こうよ。まだスタート地点だよ、ここ」

椿「焦るなって、榎。せっかく人間様が思考錯誤を繰り返して作った見せ物のお化け屋敷なんだ。ゆっくり堪能していくのが礼儀ってもんだろ」

榎「……椿君、怖いの?」

椿「バッ…!別に怖くねぇし」

榎「普通こういう所って、女の子の方が怖がるんだよ。椿君は男なんだから、頼り甲斐あるとこ見せてよ」

椿「だったら、女のお前は、も少し怖がれよ。つーか何?え、榎 怖いの?手でも繋いでやろうか?」

榎「……うん」

椿「仕方ねぇな…ほら!」

榎「ありがと(……椿君の手、ビッチャビチャだ)」



 ゴール直前に固く繋いだ手を離した椿は、外に出ると新鮮な空気を必死に取り込んだ。冷静を装って息を整え、先に出たみんなを探す。先に出ていたメンバーは、一か所に固まっていた。柊に殴られた楸は顔を腫らし、柊はさんざん騒ぎ、暴れ、憔悴していた。そんな面々がいるのを確認した椿は、ある疑問を抱いた。あれ、一人多い、と。

「何で篝火がいんだよ?」

 みんなの輪の中には、黒い色の浴衣を着た青い髪の女、篝火が居た。そして、篝火に詰め寄ってカイは、ギャーギャー騒いでいる。何事かと疑問に感じた椿が、みんなの方に近寄ると、それに気付いたカイが駆け寄ってきた。

「聞いてくれよ、椿!」

「んだよ、うるせえ」と椿は、嫌そうに表情を歪めて応える。

「あのアマ、お化け屋敷で迷子で、俺 脅かしやがった!」

 怒りで取り乱したカイの言い分は、いまいち伝わって来ず、椿は、ちゃんとした話を聞こうと、篝火の方へと歩を進めた。

 伏し目がちの暗い顔をした篝火は、消えそうな弱い声で何があったかを語りだした。

「あのね、せっかくのお祭りと言う事で、私も来てみたのよ。そしたら、お化け屋敷なんて心惹かれる物があるじゃない。だから私、迷う事なく飛びこんだのよ。そしたらどう?思ったよりも数段怖かったのよ。逃げ回っていたら進む方向も分からなくなり、リタイアしたくてもお化けに声を掛ける勇気もない。そんな時、カイ君とアイザックの話し声が聞こえて、これぞ神の救いだと思い、カイ君の腕を後ろから掴ませてもらったの。そしたらカイ君、いきなり騒ぎだして、それで、私が悪いって責め立てて来たの」

 それは、篝火が悪い。もし自分なら、殴り飛ばしているかもしれない。椿は、心の中でカイに同情し、「それは大変だったな。つーか篝火、元悪魔だよな?」と苦笑いを浮かべた。

 しかし、アイザックと呼ばれた十六夜が、椿達を待っている間に買ってきたたこ焼きを、篝火→榎→柊→カイ→楸→椿の順に一本の爪楊枝を使い回して食べさせて行くと、カイも満足そうな顔をして、怒りを何処かへと追いやった。それを見ていたら、椿もどうでも良くなり、とりあえず悲鳴の聞こえるお化け屋敷から離れたく、「行こうぜ」とみんなの足を動かせた。



「何処行ってたんだ?五十嵐」と高橋は、帰って来たばかりの五十嵐に訊ねた。

「ちょっと白い髪のガキをいじりに行ったら、青い髪のお化けに出会った」

「また柊ちゃんにちょっかい出したんですか?」

 と、雛罌粟は、五十嵐を非難した。

「あははっ。五十嵐君、お化けらって。大分酔ってるんららいの?」

「うるせえよ。顔真っ赤にして、しかも呂律の回らねぇオメェに言われたくねえ」

 自分をバカにした支部長にそう返し、五十嵐は不貞腐れて下唇をニュイっと突き出した。



 篝火を加えた一行は、お化け屋敷を離れ、綿菓子を買い、その後も祭りを堪能していた。食べる物を食べ、遊べる出店も一通り全部見終わり、次はどうする、とアテもなくぶらぶら歩いている。

 メインの通りに戻った時には、そこには先程よりも人が増えていた。ただぶらぶらするだけで、この人込みを歩き続けるのはしんどい、椿はそう感じていた。すると、自然と足取りも重くなり、一行の中では後ろの方へと下がっていた。

 その椿は、もう一人 一行の後ろに居る、いや、だんだんと離れて行く存在がいる事に気付いた。

「どうした?榎」

 椿は、みんなから離れ、後ろを歩く榎の方へと戻った。榎の歩き方が、どこかぎこちない。気になった椿は、榎の足元を見てみた。

「お前、これ?」

 榎の足は、慣れない下駄で歩いたせいで、鼻緒が擦れ、血がにじんでいた。

「ううん。ちょっと擦りむいちゃっただけだから、気にしないで」

 全然大丈夫だから、と榎は笑顔を作った。が、その顔は明らかに無理をしていて、当然椿もそれに気付いた。無理して強がる榎に呆れ「ハァ~」と溜め息をつくと、「ちょっとこっち来いよ」と、椿は榎を連れ、人波の激しいメイン通りから離れた、人の少ない横路地へと歩いていった。

 椿達が何処かへ行くのを、柊だけは気付いて見ていたが、何も言わなかった。



 ベンチがあればいいと思ったのだが、近くには無さそうだ。仕方ないと妥協し、汚れの少ない花壇を見つけては、そこのブロックに榎を座らせた。

 椿はしゃがみ、榎の足の様子を見た。先程見た時に思った通り、結構擦れて赤くなっていて、見ているだけで痛そうだ。

「バカだな、お前。痛かったら無理すんなよ」

「……ごめん」

 榎は、責めるような椿の言い方にしょんぼりとし、謝った。

 そこに追い打ちを掛けるように、椿は言う。

「つーか、ベタだな。下駄履いて怪我って。意外性無さ過ぎて、驚きもしねえよ」

 榎は、悔しくて泣きそうだった。が、椿は、榎の足だけ見て喋っているので、榎の想いには気付かない。まさか榎が迷惑を掛けてしまったという自責の念で泣きそうになっているとも気付かず、椿はポケットに手を入れて、出掛けに母に渡された物を取り出した。

 それは、絆創膏だった。

「ま、ベタだからこそ対処も出来るってな」

 そう言うと、椿は、榎の下駄を脱がせ、鼻緒周辺に出来た傷口に絆創膏を張った。

 椿の張った歪んだ絆創膏を見て、榎は「えへへ」と嬉しそうに笑った。「ありがと、椿君」

「ん。どういたしまして」

 椿は立ち上がり、手を差し出して、榎を立たせた。

 さて、榎も大丈夫そうだし、みんなは何処へ行ったか?一言声掛けとけばよかったな。椿がそう思った時、榎のケータイが着信した。「あ、柊さんからメールだ」

『足は大丈夫?高橋さん達の所へ戻ってます。もしそのまま二人でいるなら、なんとか誤魔化しとくよ(笑)』

『そっち行きます』

 榎は、慌ててメールの返事を打った。そして、何事もなかったかのように平然と「柊さん達、高橋さん達の居るとこに戻ってるって」とメールの内容の一部を椿に伝えた。

「ふーん。じゃ、行くか」

「うん」

『そっち行きます。少しゆっくりかもしれません』

 一言付け足し、榎は返信した。



 高橋達の呑んでいた所は、メインの大通りに面していて、そこに行くにはどうしても人ごみの中を通らねばならない。

――いいかな?怒るかな?でも、足怪我してるし、大目に見てくれるよね?

 榎は、葛藤の末、離れてしまわないようにと、前を歩く椿のシャツの袖を掴んだ。

 大丈夫かな、と不安に思っていたら、大丈夫じゃなかった。

「やめろ、服伸びる」

 椿に言われ、しぶしぶ榎は手を離した。

 が、その手は、すぐにまた別のものに触れた。

「突然止まられても気付けないし、離れても探すのが面倒だから、一応な」

「……うん、ありがと」

 榎の握った手は、しっとり湿っていた。



 後日談。


 一人では歩けないくらいに酔っ払ってしまった支部長は、高橋に担がれて、天使の館へと帰った。帰った後、酔いが回って気持ち良くなった雛罌粟は、高橋と五十嵐、ついでに偶然見つけた神崎を捕まえ、高橋の部屋で夜通し呑んだ。

 そして、祭りの日の翌日。二日酔いで苦しむ支部長、五十嵐、神崎の三人の介抱を反省の意を込めて、雛罌粟はせっせと行った。



 射的にて大きな王将の駒を得た十六夜は、それを部屋に飾った。しばらくは王将一つを眺めているだけで満足していたが、ふとした拍子に、他の駒も欲しくなった。『歩』を揃えることは難しいだろうし、何より王将と同じサイズとなるとなかなか手に入れることは困難だと悟った十六夜は、ホームセンターでイイ感じの木材を買って来て、まず手始めとして『飛車』を手作りすることにした。

 それから数週間。十六夜は部屋にこもりっきりになり、『角行』『金将』と、次々に将棋の駒を製作していった。



 カイは、柊の浴衣姿が頭から離れず、しばらくの間 何も手に付かなかった。



 五十嵐の発明した首輪によって力を封じられた柊は、祭りから帰る頃には既に首輪が外れていて、五十嵐に反撃しようとしたのだが、酔っ払いたちの宴に入って行く勇気が出ず、その日は諦めた。

 そして幸運にも、翌日の五十嵐は二日酔いで苦しんでいた。日頃の鬱憤を晴らすように、その日一日柊は、苦しむ五十嵐の身体を揺するなど、数々の嫌がらせに勤しんだ。



 椿は、怪談の類も苦手だ。それを知った楸は、『椿の苦手を克服する会』とでも称し、椿に嫌がらせをしてやろうと企んだ。

 その企みの一手として、ホラービデオの観賞を考えた。

 しかし、その準備としてレンタルしたDVDを見てみたら、それが初めて見るホラービデオだった事とは無関係に怖く、しばらく楸は風呂に入っても満足に頭も洗えなかった。


五十嵐の白衣のポケットも、楸の浴衣の袖口や高橋のジャケットのポケットのように、改造されています。第五話の時に椅子を出し入れしていたのも、そのためです。浴衣が隠れるくらいに丈の長い白衣なのでしょう。


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