第十二話 天使VSライフ・リセッター
私の書いた短編小説の中に『ライフ・リセッター』というものがあります。この話は、あれが基になっています。もしあちらを読んだ方がおられましたら、あの話とは別物だ、と思ってください。
「生まれ変わろう。もう一度、人生をやり直すんだ」
とあるビルの屋上に、一人の青年と白衣の男がいる。
青年は、自分の今までの人生に生き甲斐や喜びを感じていなかった。どうでもいい人生で自分が死んでも誰にも悲しまれない、そのような事ばかり考え、惰性だけで生きていた。
そんな時、青年は街中で白衣の男に声を掛けられた。
「人生にリセットボタンがあったら、あんたどうする?」
その言葉を聞き、青年は考えた。いつ、どこで、自分は夢や目標を忘れて来たんだろう。何で自分はこんなにも堕落してしまったんだろう。俯き、考えるが、答えは出せなかった。ただただ今の堕落した自分への後悔の念しか湧いて来なかった。
自分の人生って、何だったんだろう?このままで、これからどうなるんだろう?
リセットボタンなんて物があったら、もう一回最初から人生をやり直したい。青年は、白衣の男にその旨を伝えた。
「あんたの気持ち、俺にも分かるよ」と白衣の男は、満足そうに頷いた。
白衣の男に導かれるまま、ビルの屋上に来た。
「このボタンを押せば、あんたの行きたい過去へ行ける。が、これは片道切符で、こっちに戻る手段は無い。でも、いいよな?あんたは、こっちの世界に用は無いんだもんな」
白衣の男は、青年に人生のリセットボタンだと言って、手の平大のボタンを渡した。
人生のリセットボタンなんてあるワケ無い。青年は、そう思いながらその渡されたボタンを訝しそうに見ていた。
「おっと、まだ押すなよ。ここから落ちて、その間に命が惜しいと思ったら、その時に押せ。じゃないと、あんたはまた自分の命の価値も分からないまま、また同じように人生を無駄にする。いや、今度は繰り返しの人生だ。今以上に死にたくなるんじゃないか?」
白衣の男の言う事を、青年はかみしめていた。
白衣の男の言っている事は的を射ている、青年はそう感じた。
今の自分の人生に、価値は無い。やり直せるなら、いっそ最初から、生きることに一生懸命になりたい、もっと輝いた人生を送りたい。
青年は、屋上の縁にまで歩を進めた。そこから、真っ暗な足下を見る。足が竦んだ。
「あの、このボタンって本当に…?」
「ああ。ま、押せば分かる」
青年は、今の人生に未練を感じない。
あの男の言う事が嘘で、このまま死んでも良い、そう思った。
でも、もしやり直せるなら…自分は今度こそは…。
「生まれ変わろう。もう一度、人生をやり直すんだ」
白衣の男は、言った。
青年は、その言葉で覚悟を決めた。
あの男を信じてみよう。そして、そこに救いがあるなら…今度は、もっと…。
青年は、倒れるように落ちていった。
白衣の男は、屋上の縁に一気に駆け寄り、真っ暗な空間に目を凝らす。
青年は、死んだ。
「あ~あ。命を粗末にしやがって。結局、やり直す気も無いってのか?」
白衣の男は、青年の傍らに転がっているリセットボタンを拾った。そして、そのボタンを操作し、自分の耳に当てる。
白衣の男は、笑った。
「ききっ。なんだよ、ちゃんと生きようとしていたのか。でも、も少しちゃんとした言葉残してくれねぇと、これじゃあ分からねぇよ」
白衣の男は、青年に一瞥をし、その場を後にする。
白衣の男はつまらなそうに溜め息を一つつくと、呟くように言う。
「命は大事に、な」
それは、死んだ者への償いの言葉ではない。誰にも届くことなくその言葉は消える。
白衣の男は、その言葉と一緒に闇に消えた。
椿
思い起こせば、いつ以来だろう?
俺は、現状に甘え、そこから進歩する事を放棄していた。天使の仕事の忙しさにかまけ、堕落していた。
いや、別に今に不満があるワケでは無い。無いが、満足でもない。
今までも何度か危機的状況はあった。しかし、その度になあなあで事を済ませていた。
俺は、変わらなければならない。
今こそ!
「椿君、これなんてどうかな?」
「だから、マントはねぇって前にも言ったろ。つーか、赤いマントなんてよくあったな…」
俺は、ダークヒーローとしてのトレードマークを探していた。
ある日、前述したようなことを反省した俺は、休日を利用して久方ぶりにトレードマークを探していた。相変わらず方針は変わっていないので、女性目線の意見も取り入れる為に顧問として榎にも同行を頼んだ。だが、これも相変わらず、榎の意見はどれもパッとしない。
「てゆうか、すご~く今更だよね。もうそのニット帽で落ち着いているのかと思ってたよ、俺は」
これまた相変わらず、いつものように四六時中アメを食べている天使が言った。
「っせぇな。つーか、俺は榎には頼んだけど、お前には来てくれって言ってねぇよな?」
「いいじゃない、別に。楸さんは、親切で来てやったんだよ」
「は?」
「たしかに榎ちゃんは優秀な顧問かもしれない。でも、二人で物事を決めるのは良くないでしょ。二人より三人。多数決になった時、偶数じゃねえ。それにほら、俺が加わる事で文殊の知恵の完成だ」
「文殊の知恵って、完成するようなモンじゃねぇだろ…。つーか、多数決になったらぜってぇお前、榎の方につくだろ?」
俺はそう言ったが、天使は何も言い返さない。
俺のことを無視した天使は、そのまま店内を物色し、「おっ!」と何かを手に取った。
「椿、これなんてどうよ?」
「……いや、なしだろ」
天使の持ってきたそれは、金色のトゲがびっしりと付いた首輪だった。アメリカのアニメとかで凶暴なブルドックが付けている絵が真っ先に頭に浮かんだ。
「いやいや、そう決めつけるのは早計ってもんですよ。一回、榎ちゃんにも訊いてみようよ」そう言うと、天使は別な所を見ている榎を呼んだ。「榎ちゃん、これなんてどうかな?」
「あはっ。うん、椿君っぽくてイイかも」
榎の反応は、意外にも好感触だった。
「お前、俺のことどう見えてんだよ…?」
「でも、椿君ってこういう感じだよ」榎は言ったが、俺には理解できない。それどころか、榎は「じゃあさ、これはどうかな?」と言って、ピンク色のド派手なコートを手にした。
「だからお前、俺のこと何だと思ってんの?」
「いいじゃん、椿。それ着て、これ付けてさ」と天使は、先ほどの首輪を差し出す。
「それじゃあ、ただの変態だろ!」
俺は声を荒げ、二人の意見を強く否定した。
このまま多数決と言う理不尽で話を進めると、俺が崩壊する。そしてなにより、二人から真面目に協力しようという熱意が感じられない。俺で遊んでいるようにすら思える。
気分も変える為、俺はこの店を出ることにした。他の店で、もっと真剣にトレードマークを探したい。
「つーか、この店なんなんだよ?」
赤いマントやド派手なピンクのコートを置いているような店で探すこと自体、間違っていたのかもしれない。
その後も店を変えて新しいトレードマークを探したが、全く見つからなかった。つーか、参考にと付いて来た二人が好き勝手にボケるので、一向に進展しなかった。
三件目の店を出る頃には、やっぱり今のままのニット帽でいいかも、そんな諦めにも似た事を思うようになっていた。
成果が上がらない時でも、当然のように腹は減る。光明の見えない新トレードマーク探しにも疲れ、俺達は昼飯を食べることにした。
場所は、何の変哲もない普通のファミレス。
そこで、各々好きなモノを食べ、榎には付き合ってくれたことに少なからず感謝していたので、食後にパフェを奢った。天使もチョコレートパフェを頼み、食べている。
俺は、榎のパフェに突き刺さっているポッキーを無断で貰い食べた。
「なんでいっつもポッキーだけ取ってくの!」
榎が怒るので、俺は天使のパフェのポッキーを代わりに刺した。今度は天使がむくれたが、残念ながら変わりのポッキーはもう無かった。
「ねぇ。ライフ・リセッターって、知ってる?」
脈略無く、神妙な顔をした榎が言った。
「なんだそれ?」
「ライフセーバーなら知ってるけど?」
「あんま似てないな…」
榎の言うモノは、ライフセーバーとは別物らしく、それならば俺も天使も知らない。俺達が首をかしげていると、「バイト先で小耳に挟んだんだけど…」と榎が語りだした。
「なんか少し前から語られるようになった都市伝説らしいんだけど…」
「ふ~ん。都市伝説、ねぇ…」と俺は、話半分で聞く。
「うん。暗い顔をしている人を見つけては、人生をやり直せるリセットボタンがあったらどうする、って質問するんだって」
「そんなタイムマシーン的な物あったら、先週のドラマをちゃんと録画するようにって、あの時の俺に注意してくるよ」と嘆く天使。
俺は、そんな天使に一瞥し、榎に訊く。
「で、それに答えるとどうなるんだ?」
「答える事じゃなく、その答えの内容が重要らしいんだけど、それで生まれ変わりたいようなニュアンスのことを言ったら、そのまま別の場所に連れていかれて人生のリセットボタンを渡されるんだって」
「じゃあ、俺はダメか。てゆうか、人生のリセットボタンって何?タイムマシーンとは違うの?」と天使。
「さぁな。俺は文系だから全くの専門外だ。つーか、そんな怪しいモノ、普通信じるか?」
俺は、榎のパフェに刺さっていたポッキーを抜き取り、それを榎に向けた。
「…うん、ライフ・リセッターに声を掛けられるような人で、生まれ変わりたいと思う位の人は、自殺も考えるような人なんだって」
「なるほど。自殺も考えるようなヤツは、自暴自棄にもなり易い。あんまり深く考えないのかもな」
天使は、榎の言葉を継いで、自身の考えを示した。天使の言う事は、何となくだが俺にも分かった。
俺は、ポッキーを榎に向けて振り、「で、そいつに目を付けられたヤツは、そのリセットボタンとやらで人生をやり直す事は出来たのか?」と訊いた。
「さあ?でも、ライフ・リセッターに気に入られたら、過去に飛ばされるんだって」と言い、それ以上の詳しい話は知らないらしく、話の最後を「バイト先の人が、俺の兄貴のツレが言ってた、って」と言って締めた。
「……ぜってぇウソだな」
俺の兄貴のツレなんていう不確か過ぎる情報源のせいで、今の話の信憑性が一気に薄らいだ。それに都市伝説にしては、妙に所々具体的だ。天使も俺と同じ事を感じたらしく、「ははっ。ああ、アイツの兄貴のツレね。アイツでも嘘つきだからなぁ」と適当な事を言っている。
が、榎だけは違った。目を伏せ、心配そうな顔をしている。
「でも、もしホントだったら…もし…」
榎は言った。たぶん、『もし、ホントだったら。もし、人を殺すような人の話だったら…』といった感じで続くのだろう。
俺と天使は、顔を見合わせる。どうするか、目で相談した。
俺は、溜め息を漏らす。
「仕方ねぇな。中途半端に首突っ込んじまったせいで、気になって今夜寝れねぇよ」
「そうだね。どうせ椿のトレードマークも見つからないんだし、この後はその都市伝説を解明してみよっか」
俺と天使が言うと、榎は「いいの?」と顔を上げた。
「うん。もしホントだったらほっとけないしね」
「つーかアレだろ、どうせお前も心配でほっとけないんだろ?ったく巻き込みやがってよ」
「ごめん……ありがと」
榎は言うと、笑顔に戻った。
俺達は、都市伝説らしい『ライフ・リセッター』なるモノを探すことにした。と言っても、怪し過ぎる情報源の、あるかどうか不確かなモノを、この後ずっとアテも無く探したくはない。そこまでのヤル気はない。
だから、「こういう時、頼れる上司がいると助かるよ」と言いながら電話を掛けている天使の提案に乗り、事実確認を高橋さんに依頼することにした。高橋さんなら知っていなくとも、俺達よりは真実に迫る事が出来るだろう、そう信じている。
何回目かのコール音の後、高橋さんが出た。
『よお、楸。何か用か?』
「あっもしもし、高橋さん。はい、用です。実はですね、ある都市伝説の事実確認っていうか、存否の確認をして欲しいんですけど…」
『くくっ。都市伝説ねぇ。そういうモンは、あえて確認しないで伝説のまま語り継がれるから面白いんだがなぁ。そうすれば、話に尾ひれが付いて、もっと面白くなる』
「そうかもしれませんが、お願いしますよ」
『くくっ。ま、いいか。俺もいい加減、UFOにネッシー、イプピアーラなんてものからも卒業する歳かもしれねぇな』
「高橋さん、そんなの信じてるんですか?」天使は、マジかよ、と引いた表情になる。
『くくっ。どんな腐っている夢物語でもな、信じてみれば面白いモンよ。そんじゃ、さっさと概要を教えろ。調べてやるよ』
高橋さんがそう言うと、天使は、先ほど榎の話していた内容をざっくり伝えた。そして、「じゃあ、よろしくお願いします」と言って、電話を切った。
天使がケータイをしまうと、俺はさっそく気になっていた事を聞く。
「なぁ、イプピアーラって何だ?」
「なんだっけ?半魚人の伝説だったかな?」
まさか、ライフ・リセッターの次はイプピアーラか?
そう言うと、本当に探しに行きかねないので、口にはしなかった。
高橋さんからの連絡を待つ間、パフェのポッキーのことで榎と揉めていた。
「つーか、お前はパフェが食べたいんじゃなく、ポッキーが食べたいのか?」
「そうじゃないけど、いっつも勝手に取ってくでしょ」
「じゃあ訊くが、なんでいっつもポッキーは刺さっているんだ?そして、何でお前はいつも俺にポッキーを取られるんだ?」
が、いくら議論しようと、ポッキーは既に俺の腹の中だ。代えも無い。なにより、高橋さんから電話が掛かってきた。店の中での電話の為、あまり大きな声では喋れない。そのことに配慮し、俺と榎の議論は終了。俺の勝ちで終わった為、榎が恨めしそうな顔で見ていた。
「はい、もしもし」
天使は、電話に出た。
『よぉ、楸。分かったぞ。どうやら、そのライフ・リセッターとやらは実在するらしい』
「ホントですか?」と驚く天使。俺達も、ポッキーから気持ちを切り替え、気を張る。
『あぁ。年齢は二十代後半で、白衣を着ている長身痩躯の男。目的は不明だが、自殺をしそうなヤツや人生に絶望しているヤツを見つけては、そのまま言葉巧みにビルなんかから飛び降り自殺に追い込んでいるらしい。おそらく手口は、相手に考える余地を与えないようにしながら、聞こえの良い事を言って背中を押すってところだろう』
高橋さんは、資料でも見ているのか淡々と話す。
「それだけで、その…リセットボタン? 偽物なんですよね?本物だって信じさせることができるんですか?」
『さぁな。もしかしたら、人生に絶望を感じているヤツにとって、そんな胡散臭い話でも救いに感じるのかもな』
「へぇ~」
『ま、なんにせよ、これで報告は終わりだ。短時間だったから、この程度だ』
この程度、と高橋さんは謙遜するが、都市伝説相手に随分と真相に近付けたものだ、と俺はただただ感心した。
「あ、ありがとうございました」
『くくっ。どういたしまして』天使の要件が終わると、高橋さんは『それにしてもアレだな、この程度の腐れ伝説じゃ、真相もたいしたことない。やっぱ、もっとでかいロマンがあるような伝説じゃねぇとつまらねぇな』と雑談を始めた。
「イプピアーラとか?」
『くくっ。そうだな。 じゃあな、楸。その腐れ伝説を相手にするつもりなら、くれぐれも用心しろよ』
「はい。ありがとうございます」
そう言い、天使は電話を切った。そのまま電話をしまう。
ライフ・リセッターなる男は、実在する。
そのことが判明し、俺達の間に戸惑いの空気が流れる。
誰も口を開かないようなので、俺は考えていた事を訊く。
「そのリセットボタンが偽物だってことは、そいつのしていることって、自殺教唆の殺人ってことになるのか?」俺が言うと、二人は驚いた顔をした。我が目を疑うような、不思議そうに俺を見ている。「…なんだよ?」
「いや、椿君が真面目な事って言うか…」
「うん。自殺教唆とか、それっぽい法律用語喋るから、ねぇ?」
「うん。ビックリしちゃった」
「お前ら、俺のことナメ過ぎだろ…」
非常に不本意だが、それで場が和んだ。漂っていた戸惑いの空気が、どこか別の場所へ流れていく。
みんな、決意を固めたようだ。
「その人、捕まえよう」
榎が言った。
しかし、榎の言葉に頷かず、天使は何か考えている。
「俺の仕事としては捕まえるって言うよりは罰を与えるんだけど、まぁそれは置いといて、どうやって探す?」
「確かにな。居ることが分かっても、探すとなると事だ。なんたって、お前は千里眼持ってねぇしな」
俺は皮肉のつもりで言ったつもりなのだが、当の天使は「まぁね」と全く気にしていない。しかし、天使に皮肉が通じるかどうかは、今はどうでも良く、現実に立ちはだかる壁をどう乗り越えるかを考えなければならない。一番手っ取り早い方法としては、千里眼を持っている他の天使、例えば柊に頼る事なのだが、いつも何かある度に柊の世話になってばかりの気がして、どうにも気が引ける。
別の方法を考えていたら、榎がおもむろに口を開いた。
「あの、ちょっといい?考えたんだけどさ、私が囮になっておびき出すってのはどうかな?」
「は?」と俺は、眉をひそめる。
「だから、私が街中を絶望しているような暗い顔で歩くの。ライフ・リセッターに声を掛けられるように。どうかな?」
榎は言った。俺達の同意を求めようと、目線を向けている。
「俺は反対だよ」と天使は、真顔で反論した。「榎ちゃんに囮なんて危険な役、絶対にさせない」
「でも楸さん。私が言い出した事だし、私も何か役に立ちたいの」
榎は、食い下がった。天使は、困った顔で俺を見る。榎も、俺に目を向け意見を求めた。
俺は暫し考え、一つの結論とアイディアを出す。
「…俺も、榎の囮は反対だな。天使が言うように、いくら俺達が見守っている状況下でやるとしても、お前にそんな危険な役はやらせられない」
「……ひょっとして、心配してくれるの」と、からかうように榎は訊く。
「当たり前だろ」俺が言うと、何が意外なのか、榎は顔を赤くし目を丸くした。「つーか、よく考えてみろよ。そいつは、自分の眼鏡に適う人を探しているワケだろ?で、そんなことをしているのに、そいつのやっている事っつーか話題は、都市伝説なんていう冗談半分なモノに留まっている」
俺が言うと、天使も理解したようで「なるほど」と言葉を繋ぐ。
「つまり、手当たり次第に声掛けまくって不審者として周りの注目を浴びないよう、そして途中で逃げ出されて余計な情報が漏れないよう、そいつはターゲットとなる人間を的確に捜し当てているワケだ。それだけの確かな観察眼を持っているってことね。……どうしたの?椿。 今日はやけに冴えてるね?」
「っせぇな、いつもだ」俺を小バカにする天使に言ってやった。「で、話を戻すが、鈍臭い榎や能天気バカがいくら演技しようと、それは見破られる可能性が高い」
俺が言うと、「じゃあ、俺がやろうか?」と話を聞いていなかったようで能天気バカが言った。話に支障が出るので無視する。
「じゃあどうするの?」榎に訊かれた。「やっぱり、柊さんに相談する?」
「んなことしなくても他にいるだろ、ピッタリなヤツが」俺が言うと、二人はほぼ同時にハッとした。俺は、それを見てニヤッと笑う。「演技じゃなくリアルにネガティブな暗い顔が出来る、真っ青なヤツ。篝火だ」
久しぶりにバシッと決まった。そう思ったのだが…。
「でもちょっと待って、椿。俺達、篝火の連絡先知らないよ?」
「……高橋さん、知らないかな?」
俺達は、ファミレスを出て、以前篝火と出会ったいつもの公園に向かった。
高橋さんは、いつか飲みに行く時に誘えるよう、篝火と連絡先を交換していた。
高橋さんに頼んで連絡を取ってもらったら、篝火は、その公園の近くにいるからそこを待ち合わせ場所にしたい、とのことだ。結局、柊に頼らないようにした結果、ここまでは高橋さんにおんぶにだっこの状態だ。
ここからは俺達の力で頑張ろう、そう決意し、篝火に会いに行く。
約束の公園に行くと、篝火はすぐに見つかった。真っ青な髪の女がブランコに乗っていて、あれを見過ごす方が難しい。
「よぉ、篝火。元気そう…でもないな」
俺が声を掛けると、篝火は覇気の欠片も無い顔を上げた。
露骨に嫌そうな顔をした篝火は、消え入りそうな声で言う。
「なによ、突然?私にも私の生活があって、計画やリズムを大事に生きているの」
「悪かったな。何か取り込み中だったのか?」
「いえ。今日は、ちょっと二日酔いで、あの…うん」
最後の方は、有耶無耶過ぎて聞き取れなかった。が、俺はそれを聞いて安心する。何も用事は無く、いつもの篝火だったらしい。天使も俺と同じようなことを思ったらしく、呆れた「ははっ」という乾いた笑いをし、すぐに「それでね、今日呼んだのは他でもない、篝火にちょっとお願いがあるんだけど…」と本題に入った。
天使は、ライフ・リセッターという実在した都市伝説のこと、そいつのターゲットとなる人間の囮役を篝火に頼みたいこと、大きく分けるとこの二つのことについて説明した。
「どお、やってくれる?」
天使が訊いた。
「……私はどうなってもいいってこと?そんな危険人物、私にどうしろってのよ?」
不貞腐れている篝火の言う事も一理あるが、だからといって「うん、そうだね。ごめん」とは言えない。俺は、「この役は篝火が適任なんだよ。つーか、俺達が責任持って見守るし、篝火はただそいつを誘い出すエサとして街中を歩いてもらえばいいから」と説得を試みる。
しかし、篝火の返答はない。尚も不満そうである。何故かの答えは、榎が教えてくれた。榎は、「椿君、言い方ってものがあるでしょ」と俺に耳打ちした。まさかとは思ったが、篝火は「エサって、おい…」と呟いていた。どうやら、俺の言った「エサ」という言葉が引っかかるらしい。
「いや、アレよ。エサって言っても、イイ意味のエサね。あっそうだ!もし上手くいったら、なんか報酬出すよ」
天使は、俺をフォローしているのか、若干意味の分からない事を言った。
それを聞いた篝火は、「報酬って、それで納得するとでも…?」と言っていたが、最後には「でも、何でもいいって言うなら、いいかも」と納得した。
天使は、咎めるような目で俺を見ていたが、気にしない。
ここからは篝火の報酬の話だから、気持ち切り替えていこう。
いち早く気持ちを切り替えた俺から、話を切り出した。
「それじゃあ、報酬は何がいいんだ?」
「そうね…」篝火は考え、不意に榎に目を止め「ぴちぴちの肌、かな?」と不気味な笑みを浮かべて言った。
「ひぃっ」と怯える榎。俺の後ろに隠れる。
「嘘よ、冗談じゃない。そんなに怖がらないで」
却下。次。
「そうね…。私のことを愛してくれる、誰かイイ人」
「重いっ!」と天使。
却下。次。
「何でも一つ願いを叶えてくれるのよね。それじゃあ……ギャルのパンティーおくれーっ」
「黙れ、メス豚!」と俺。
「めっ…!」
「んな願いで世界征服防ぐつもりか?つーか、世界征服の危機も迫ってねぇよ」
俺と篝火で言い合うが、他の二人が置いてけぼりになった。それに、明らかなボケのみの発言と言うことで却下。
篝火の報酬は、散々話し合った甲斐無く決まらなかった。有力候補としては、アルコール類が何度か上がったのだが、二日酔いがちという篝火に、むやみやたらに与えてはいけないような気がした。
ということで、報酬については囮作戦が上手くいった時にまた改めてすることにして、俺達は街中に出る。
篝火は、囮作戦開始直前に「それで、私はどういう風にしていればいいの?」と尋ねて来たが、それはもちろん「そのままで」の一言で片づけた。
そのままの飾らない篝火を歩かせ、俺達は篝火から距離を取って後をつけている。
篝火を見失わないよう、また 見張っている事がライフ・リセッターに悟られないよう、細心の注意を払いたい。
ということで、ファンキーすぎる青い髪に一抹の不安を感じるが、囮作戦を開始する。
「なぁ。よく考えたら、囮作戦なんてする必要なかったんじゃねぇの?」
作戦開始早々、俺は言った。
「なんで?」と天使。
「だってよぉ、白衣着て歩いているヤツなんてそういないだろ。適当に街中ふらついて、白衣着ているヤツを探すだけでよかったんじゃねぇの?」
俺の言うことに榎もハッとしたようだが、天使はピンと来ていないようだ。
「そお?白衣を着ている人なんて、俺の周りには結構いるよ。ヒナさんとか、五十嵐さんも白衣のままコッチ来てたし」
「だとしても、それも少数派だろ?」
「……あ~そうかも。あんまりにも普通すぎてちょっと感覚狂ってたかも」
「狂ってるのは感覚だけだと良いな」
俺が言うと、「うっさいなぁ」と天使は表情を歪ませたのだが、すぐに「あっ、そういえばさ」と明るい顔に戻る。「今出た五十嵐さんの話なんだけど、あの人、自分のことを『医学知識の無いブラックジャックだ』って言ってたんだよ」
「いやそれただの危険人物だろ」呆れた。
「ホントだよ。俺、良く分かんなかったからさ、具合悪かった時に五十嵐さんに相談して変な薬を処方されて悪化した事あるもん」
「バカだろ、お前…」心底、呆れた。
「アレはね、さすがの楸さんも反省したよ。で、その後にヒナさんにちゃんと相談してさ、その時に俺も怒られたんだけど、五十嵐さんも『テキトーなことしないでください!』ってぶっ飛ばされたらしいよ」
「……ヒナさんって、あの人だよな…あの優しいナースの…」
可愛らしいチワワが、ライオンに噛みついて追い返した。そんな話を聞かされた気分だった。つまり、信じられない。
「うん。でも、普段優しいだけに油断して怒らせると、ハンッパ無く怖いって。高橋さんが言ってた」
「…高橋さんも怒らせたことあんだな」
と、俺は呆れた。
いつの間にか話に夢中になっていて、榎が「ねぇってば!」と大きな声を出して俺の腕を引っ張るまで、篝火の危険に気付けなかった。
○
椿達が囮作戦を開始して数分が経過した頃、白衣の男が遠くから篝火を見ていた。
――アレって、どっちだ?
白衣の男は、篝火の青い髪を見て 我が目を疑い、戸惑っていた。
――アレって、オシャレのつもりなのか?やでも、それにしても青過ぎるだろ。ていうか、青い髪ってオシャレなのか?
白衣の男は、篝火に興味を抱いた。
ひょっとしたら自分の実験のターゲットになるのでは、とおもむろに近寄る。
――やっぱオシャレじゃないよな?あれ、本人的にはアリなのか?てか、顔も青っ白いな
白衣の男は、なかなか踏ん切りが付かなかった。篝火の青い髪が、男の足を鈍らせる。
しかし、悩んだ末、白衣の男は声を掛けることに決めた。
――ま、髪はともかくとして、見るからに暗い雰囲気プンプンだもんな。今まで見た中で断トツ暗いし。最悪、ダメだったらそれはそれで諦めればいいか
そう考え、白衣の男は、篝火の背後から掛け脚で近寄った。
相手に警戒されないよう、適度な敬語と声の温度に気を払い、白衣の男は言う。
「すいません。ちょっとアンケートに答えてもらっていいですか?何個か簡単な質問に答えていただくだけで、時間もかかりません」
「え、あの…あ、はい」
「じゃあ早速。もし、人生にリセットボタンがあって、好きな所から人生をやり直せるとしたら、あなたどうします?」
楸
榎ちゃんの声に反応し、俺達は篝火の方を見る。
篝火は、白衣の男に声を掛けられていて、そのまま何処かへ移動するところだった。榎ちゃんや高橋さんの言っていた情報から推測するに、あの白衣がライフ・リセッターなる都市伝説の正体で、俺達の作戦通り囮の篝火に引っ掛かり、篝火はあの男に気に入られ、自殺させる為にどこか別のビル的な建物へ移動するってところか。
何時の間に事が進展していたのだろう?思うに、椿が雑談に夢中になっていた頃だろう。
「早く捕まえないと!」
榎ちゃんは言った。言うが早いか、榎ちゃんは駆け寄ろうとする。
「まあ待てよ、榎」冷静な椿が、榎ちゃんの手を掴み止めた。「あれがそうだとして、まだ例のブツが出てねぇだろ?」
「例のブツ?」と榎ちゃん。
「あぁ。人生のリセットボタンとか言う、ふざけた代物だよ。あいつを捕まえるのは、このまま尾行して、それを出してからでもいいだろ」
俺も椿の意見に賛成だ。黙って頷く。
「でも、それだと篝火さんが…」
「篝火なら大丈夫だろ。あいつも諸々の事情を承知の上だ。自殺にまで追い込まれることもあるまい。それに、もしヤバかったら、そん時は全力で止めるから」
榎ちゃんは、危険なことだと承服することを躊躇ったが、それでも最後は納得した。
「わかった。それじゃあ、今度は無駄話ばっかしてないで集中してね」
「だとよ、クソ天使」「だってさ、椿」
「「お前だろ!」」
「どっちもです!」
怒られました。
榎ちゃんに叱責され、気持ちを切り替えて集中した。
俺達は、篝火と白衣の男を見失わないよう、その後をつけている。
二人に近付き過ぎると尾行がバレてしまう恐れがあるので、あまり接近することは出来ず、会話を拾えるくらいの距離にも入れない。だがどうやら、会話自体少ないようだ。篝火がたまに話しかけ、それに対して白衣の男が一言二言の返答を返しているだけだ。そのおかげと言えばいいのか、距離を取った尾行のままで満足している自分がいる。
二人は、おそらく白衣の男の方が先導しているのだろう、人気の少ない方へと進んでいく。そして、特に目立った動きの無いまま、現在使われているのかそれともただの廃屋と化しているのか、おそらく後者であろう建物の中に入って行った。
「屋上に行くつもりなのかな?」
榎ちゃんが言った。アゴを上げて上を見上げている。
「そうなんじゃないか?たしか、飛び降り自殺をさせるって言ってたよな、高橋さん」
「ああ」
俺は頷く。
この建物は、十階位はありそうだ。こんな高い所から飛び降りたらひとたまりも無い。
「んじゃ、俺達も行くぞ」
「あ、ちょっと待って 椿」既に一歩踏み出していた椿を呼び止める。椿は、「なんだよ」と目で抗議してきた。俺は、フゥと息を吐いて言う。「こんなボロい建物だとさ、たぶん屋上への道も限られてるよね。万が一待ち伏せとかされたら厄介だし、なによりあいつらの後から屋上にバレないように入るのって、ちょっと難しくない?」
「だったらどうするんだよ?」
「こうしましょ」
俺は、椿と榎ちゃんに手を差し出す。
榎ちゃんは理解していないようだけど、二回目の椿は「カッ。またかよ」と不満そうではあるがすぐに俺の手を掴んだ。それを見て、榎ちゃんも笑顔で俺の手を握る。
榎ちゃんの手、柔らか~い。
「榎ちゃんは、飛ぶの初めて?」俺は訊いた。
「ううん。柊さんに連れられて飛んだことはあるよ」
「そっ。じゃ、怖くないね。椿は、大丈夫?」
「いいから早く行けよ」
「はいはい。それじゃあ、上に参りま~す」
俺は、二人の手を握り締め、飛び上がった。が、すぐ降りる。
「何してんだよ?」椿が、疑問を投げかけてきた。
「いや~、結構しんどかった」椿一人だけだったら余裕だったけど、二人となるとキツイ。いや、別に榎ちゃんが重いってことではなく、ただ普通に人二人はキツイって意味です。なんだったら、榎ちゃん三人なら余裕です。とまぁ、ここで言い訳していてもしょうがないので。「ちょっと本気出すけど、絶対邪魔しないでね。邪魔したら、途中で落とすよ」
「はぁ?」と理解していない椿も、これを見たら解るだろう。俺は、浴衣の帯紐より上をはだけさせて上半身裸になり、羽を出した。
「キャッ!」と、とっさに目を覆う榎ちゃん。
「いちいち反応すんな」と榎ちゃんに言うと、椿は「つーか、それならイケるのか?」と俺を試すような目つきで言った。
「モチ」
今度こそということで、二人の手を握る。軽く羽をバサバサと動かし、調子を確認した。行けそうなので、一気に飛び上がる。
「ちょ…速っ!」
やっぱり羽を出せば余裕だ。さっきとは出力も違うね。椿がビビる中、俺は一気に屋上を目指した。
屋上に着いた。
隠れられそうなのが、屋上に出る階段のある、屋上の大体中央に位置する小屋のような建物の裏だけなので、そこに着地する。
俺はすぐに浴衣を着直し、整える。二人は、膝をついて息をしていた。椿を苛めようと思っていたら、うっかりしていた。榎ちゃんも居たんだった。でも、俺を睨んでいる椿と違って、榎ちゃんはうっすら笑みを浮かべているから、大丈夫だよね?
「大丈夫?榎ちゃん。 あの…ごめん」念のために確認。
「うん…。ちょっと怖かったけど、面白かったよ」
ジェットコースターのようなものと思ってくれたのだろう。良かった、と俺は胸をなでおろす。
隠れて、篝火たちが来るのを待つことにした。
しかし、なかなか来ない。
「エレベーター無いのかな?」と俺。
「さぁな。つーか、階段使って上がるにしても、そろそろ来てもいい頃だろ?」
なかなか篝火たちが来ない事に、椿も不審に思っているようだ。
そして、そのまま待つこと十分弱。ガチャッという音と共に、篝火の声が聞こえた。
「どうかしたの?」
「いや。ちょっと気になって…」
何が起こっているかは分からないが、あちらさんに何か不測の事態でも生じたらしい。このまま作戦を続行して大丈夫か不安はあるが、ここでいきなり飛び出すのも早計かもしれない。とりあえず、バレないようにこっそり盗み見ながら、二人の動向を探る。
「それで、ここまで来たら…?」
篝火が言った。
「ああ。約束通り」そう言うと、白衣の男は、その白衣のポッケに手を入れた。何か、手の平大の物を取り出し、「これが、人生のリセットボタンだ。信じる信じないは、あなたに任せる」と、クイズ番組のボタンを思わせるモノを、篝火に手渡した。
それを見て、俺達は顔を見合わせる。
俺が頷くと、椿が物陰から出て行った。俺と榎ちゃんは、離れた位置で見守る。
「はい、ちょっと待った」
椿が気だるそうな声で止めに入った。
突然出て来た椿を、二人は驚いて見ている。篝火は、驚かなくてもいいんじゃ?そう思ったが、篝火も驚いている。白衣の男がすぐに平静を取り戻した後も、まだ驚いている。
「つーか、お前は驚き過ぎだろ」
椿が篝火を指差し、俺の疑問を代わりに言ってくれた。
椿は篝火に近寄り、その手に握られているボタンに手を伸ばす。しかし、篝火は「やめて!」とボタンを抱え込むようにして椿を避けた。
「は?」
「私は、これでもう一度やり直すの。今度こそ、今度こそ華やかな未来を」
篝火の真剣な訴えに、俺達は思わず ずっこける。
「しっかり洗脳されてんじゃねぇよ!」
椿は怒り、ボタンを強奪した。そして、「返してよ!」という篝火の制止を振り切り、そのボタンを押してみせる。
「ちょっ!……あら?」と拍子抜けする篝火。
「ほら、偽物だ。これ押しても、俺は確かにここに居る」と椿は、乱暴に説明した。
「ホントだわぁ。私ったら、上手い事乗せられちゃっていたのね。……オラおでれぇたぞ」
「黙れ、クソ豚」
「ちょっと、つっこみテキトーすぎない?今のは豚 関係ないでしょうに」
椿と篝火が、意味不明のやり取りをしていた。
今 置かれている状況を無視し、その様は明らかにふざけている。特に篝火が。
「あんたら、何?その人の知り合い?」
業を煮やした、というには不気味なくらいに冷静な男の声が割って入ってきた。その声を聞き、篝火は「ひぃっ」と思い出したかのように怯えて俺達の方に逃げて来た。
「…ああ、そうだ」
白衣の男は、逃げる篝火のことを無表情に見送り、椿に視線を戻すと口を開いた。
「俺のこと、尾行してたでしょ?」
その言葉に、俺達は驚く。
念のためにと危惧していた事が、現実に起こっていた。
「いつから気付いてた?」
そう言った椿も、さすがに警戒している。
白衣の男は、俺達の反応を嬉しそうに見て「ききっ」と薄気味悪く笑った。「さぁ、いつからだったかな?結構早かったと思うよ。だからわざわざ、こんな人気の無い場所を選んだんだから」
「それだったら確かに早いな。俺はてっきり、最初っからここに向かっているのかと思ってたくらいだ」椿が言い返した。
「ききっ。安心していい。最初っから気付いていたってことはないから。それに、屋上に来る途中で少し待ち伏せしていたんだが、あんまりにも来ないから俺の勘違いだったかな、って思ったくらいだ」
白衣の男の言動には、確かな余裕が感じられた。今の状況を楽しんでいるようでもある。そして、椿もそれを感じ取っているらしい。こちらが追い詰めているはずなのに、男の不気味な雰囲気に押され気味だ。
「椿ぃ!」
「大丈夫だ!わかってる」
椿は、白衣の男に視線を向けたまま言った。
「ん?何が大丈夫なんだ?…教えてくれよ」口元に笑みを浮かべ、白衣の男は訊いた。
「っせぇな」
「ききっ。そう邪険しないでくれ。俺は知りたいんだよ。今、あっちの浴衣の彼に言った『大丈夫』の意味。あんた達が俺の注意をかいくぐってここに来られた理由。あと、そうだな…彼女の髪が青い理由も、知っていたらぜひ」
白衣の男は、俺達のことを指差すなどの軽い身振り手振りを交えながら言った。
「悪いが、それらに答える事はできないな」
「なんでだ?あんたがバカだからか?」そう言われ、椿は片眉をピクッと上げた。「冗談だよ。そう怒らないでくれ。アレだろ、怪しい人には多くを語らないっていう防衛意識。うん、正しい対応だ」
全く、あれほど注意したのに。椿を見ているとハラハラする。そんな俺の気も知らず、椿は「そうだ」と相手の言った言葉を肯定した。それを聞いて、俺は肩を落とす。
「でもさ、一つくらいはいいんじゃないのか?彼女の髪の理由なんて、俺に教えたからってどうなるもんでもないだろ?それに、俺は全てを教えてくれって言っているワケじゃないだろ?現に、あんた達が俺を尾行していた理由は訊かなかった」
「…そうだな」
「それはな、興味が無いってのもあるが、単純に知っているからだよ。どうせ都市伝説『ライフ・リセッター』の話を聞いて興味を持ったってところだろ?」
「…そうだ」
また…と俺は呆れる。「椿、いい加減に…」
「っせぇな!わかってるって」と、椿は強く言い返した。
「ききっ。だから、何が分かっているんだ?」
「教えねぇよ」
「ちなみに言っとくが、暴力とかは勘弁してくれよ。謂われの無い暴力でケガとか、さすがにそんな理不尽は避けたい」
「カッ。何言ってやがんだ」
「ききっ。何言ってやがんだ、か。よく分からないが、あんたは俺のことを疑っているようだ。こういう場合、何て言えばいいんだろうな?証拠を見せろ、か?」そう言われ、椿は何かを言い返そうとした。が、口ごもった。「…どうした?」
「いや…いい加減面倒になってな。あいつの言う通りだった、俺はこれじゃダメだ」
椿はようやく普段の椿に戻ったようだ。
開き直って自分のしたいようにしようとする椿を、白衣の男は不審そうに見つめる。
「結局、暴力に頼るってことか?」
白衣の男は、半歩下がり、身構えた。
その右手は、白衣のポッケに入っている。何かを隠し持っているようだ。
「いや、暴力じゃない。が、あんたの領分でこれ以上闘う気も無い」
「ききっ。これって闘いだったのか?」
白衣の男は笑っているが、椿の出方が読めないためか、動揺の色が出て来た。
それを感じ取ったのか、反対に椿には余裕が出て来た。
「闘いだよ。男が一対一で向き合ってるんだ。それだけで闘いだろ?」
「そうか…。なら、あんたはここからどう闘う?」
男に言われ、椿は眼を閉じる。たぶん、自分の力を使う為のイメージをしているのだろう。椿の持つ力、〝願いを叶えやすくする力″を発動する為、イメージを固めている。椿と白衣の男の間の距離は、およそ五メートル。勝負を決める為には、その距離を一瞬で埋める必要がある。その為に、素早く一歩を出すイメージをしている。
白衣の男は、何も言わずに警戒している。
そして、椿は眼を開いた。
「こうやってだよ」俺の思っていた通り、椿は一瞬で間合いを詰めた。そして、俺が渡した『ねんねこ玉・ミニ』を白衣の男に向けて放る。「それじゃあ、またお会いしましょう」
白衣の男は、「なん…だ、これ」と抵抗しようとしたが、あっさりと眠った。
○
約十分前。椿達が屋上に来て隠れ、篝火たちが来るのを待っている時。
楸は、ある事を不安に思っていた。
「なぁ、椿」
「ん?」
「ライフ・リセッターって男は、たぶん、言葉を使って惑わしてくる。高橋さんも言っていたけど、言葉巧みに相手を自殺に追い込むくらいだからな」
「だから何だよ?」
楸の心配を理解していない椿は、訊き返した。
「だから、そいつと話し合うのは避けた方がイイって言ってるの」
楸の言いたいことを察し、榎が「そっか」と口を挟んだ。
「すぐに感情的になる椿君にとって、言葉で惑わしてくるような相手だと相性が悪いってこと?」
「そ。さすが榎ちゃん」
二人の言う事を面白く思わずに聞いていた椿が、口を開いた。
「それじゃあ、俺にどうしろってんだよ?」
「まぁ、そういう相手だったら俺の方が上手くやれる気もするけど…」
「カッ。自惚れんな。俺一人で充分過ぎるよ」椿は、食い気味に言った。
「それなら、相手のペースには決して乗らないこと。これだけは注意して」と人差し指をピンと立て、楸は言った。「相手の言葉に同意したり、話を合わせたりしない。そうやって相手のペースに乗せられたら、かなり不利になると思って。いつもの椿らしく、相手の言う事を聞かない傍若無人ぶりを発揮すれば大丈夫」
楸にそう言われ、椿は戸惑う。
「俺、そんな感じじゃねぇだろ…?」
「そんなことないよ」と笑顔の榎。「椿君は優しいから相手のことを想ってくれるけど、結局は自分のしたいようにするでしょ。それでいいんだよ。それが、椿君なんだから」
「……それ、誉められて無いよな?」
二人のやり取りを見て、楸は「ははっ」と乾いた笑いをした。そして、浴衣の袖口に手を入れ、小さいボールを取り出す。それは、『ねんねこ玉・ミニ』と言う、五十嵐の作った、ぶつけた人間を強制的に眠らせる事の出来るボールだ。
「椿のやりたいようにやっていいけどさ、もし状況が厳しいと思ったら、これで強制終了して状況を立て直そう」
楸はそう言って、椿に『ねんねこ玉・ミニ』を手渡した。
椿はそれを受け取り、ポケットにしまう。
「カッ。こんなもん使わねぇでも、相手の土俵で叩き潰してやるよ」
椿は言った。
そして、屋上への扉が開く。
楸 Ⅱ
白衣の男は、椿の投げたねんねこ玉・ミニを食らい、倒れた。ぐっすりと眠っている。
「ねんねこ玉は使わないんじゃなかったっけ?たしか、相手の土俵で叩き潰すって言ってたよね?」
俺は、椿に近寄りながら、嫌味を言った。
椿は、近付いて来る俺達のことを不満そうな目で見ている。
「っせぇな。全然余裕だったけど、あえてお前の顔を立ててやったんだよ」
「あらそぉ?その割には、楸さんの目にはギリギリに見えたけど…?」
「……せぇよ」
実際ギリギリだったのだろう、椿は居心地悪そうに言った。たぶん、あのまま突っ込んでいたら、白衣の男が隠し持っていた刃渡りの短いナイフ、それで返り討ちにあっていたはずだ。無策に走りそうだった自覚が、椿にもあるのだろう。そんな椿に男の手から奪ったナイフを見せ、俺は笑う。
が、すぐに表情を引き締め、今は眠っている白衣の男に目を落とす。
「どうするの?警察に連れてく?」
榎ちゃんが言った。
「いや、俺の仕事としては、こいつに罰を与えればそれでいいし、それに警察に突き出しても、これと言った証拠も無いから相手にしてもらえないよ」
俺が言うと、榎ちゃんは「それじゃあ、どうするの?」と俺のことを見た。しかし、どんなに真剣な眼差しを向けられても、俺はどんな罰を与えるか考えていないし、そういうのはご無沙汰だから加減が掴めない。
俺が悩んでいたら、「あのよぉ」と椿が口を開いた。
「俺に、考えがある。―――――――」
椿は、引きつった笑いをしている。あの顔は、強がっているだけで内心ビビりまくっているって顔だ。臆病のくせに、必死にそれを悟られまいとしている。
榎ちゃんも、それは理解している。心配そうに椿を見つめていた。
俺も、正直に言うと不安に押し潰されそうだけど、それでも椿にそれを感じさせる事は出来ない。いつものように余裕の笑みを浮かべて、平然と言う。
「……じゃ、それで」
椿の作戦通り、すっかり日の暮れた屋上には、椿と白衣の男の二人だけがいる。榎ちゃんは、篝火と一緒に建物の外から屋上の様子を見守っている。俺はというと、榎ちゃんたちと一緒でもなく椿からも離れた場所で、視覚防壁によって姿を隠して、状況を見守っている。
「ん…なんだ…?俺は…眠ってたのか?」
白衣の男が目を覚ました。
この場に一気に緊張が走る。
椿は、白衣の男に不安を感じ取られないよう、一度小さく深呼吸すると、「ああ、そうだ」と語り出した。
「ちょっとした睡眠薬ってヤツだな。それで、少し眠ってもらっていた」
「ききっ。今日日のガキは怖いね。普通にそういうことしちゃうワケね?」白衣の男は笑っている。先程までと違って、その顔には焦りも見られるが、それでもまだ余裕を感じられる。「それで、これはどういう状況?」
白衣の男は、言った。
白衣の男は、屋上の柵の外側、約五十センチしか幅の無い脚場で、両手両足を紐で縛られた状態で立たされている。柵の内側に居る椿が、白衣の襟を掴んで男が落ちないようにはしているが、それでも男にとっては危機的状況のはずだ。
「どういう状況って、見たままだよ。あんた、俺より頭 良さそうだから分かっているんじゃねぇのか?」
「そう買い被ってくれるなよ」男は、やれやれといった感じで首を振る。「俺には分からないことだらけだ」
「あっそ。それなら、特別に教えてやるよ」
「特別だなんて、光栄だねぇ」
「だろ?まぁ、そうは言っても、至極単純な話だがな。あんたは、今からここから飛び降りる」
椿にそう言われ、白衣の男は、椿を睨むように見た。
「俺が、ここから飛び降りる?」
「ああ」
「突き落とされる、の間違いじゃないのか?」
白衣の男は、薄ら笑いを浮かべながら言った。
「どっちでもいいよ。とにかく、あんたはこっから落ちて、死ぬ」
そこで、白衣の男は呆れたように「はぁ~」と大きく息を漏らした。
「ここで俺を殺すのは簡単だが、よく考えてみろよ?それでいいのか?」
「……………」
白衣の男は言うが、椿の態度は素っ気ない。俺の言う事を少しは信じてくれているようで、足下の暗闇に目をやり、無視を決め込んでいる。
「無視ってことはないだろ?俺の言っている事、分かってないはずないよな」
「……………」
「ふぅ~。いいか、悔しいが、あんたは俺のことを追い詰めた。この状況がそうだ。自分で言うのも何だが、あんたは見事、都市伝説『ライフ・リセッター』を追い詰めたんだよ。だったら、このままでいいはず無いよな?」
「……………」
「俺の事や俺のやっている事の理由を、あんたは知りたいはずだ。わざわざ囮まで用意して、俺を釣ったんだ。違うか? もしもこのまま俺のことを殺したら、それらは永遠に分からずじまいだ。知りたくないのか?ライフ・リセッターが生まれた理由を」
「……………」
白衣の男は、余裕を感じさせる笑みを浮かべていた。決して怖くないワケではないだろうが、それでも助かる自信があるのだろう。自分はここで殺されるはずが無いという確信を、言葉の節々から感じ取れる。
しかし、今の椿には何を言っても無駄だ。男の得意な『言葉』という土俵に上がる事を、椿は拒み続けている。
そして、それに白衣の男も気付く。ここに来て、ようやく自分の不利を自覚し始めた。男は、焦りの色を濃くする。
「悪いな」自分の優位を感じ取り、椿が静かに言う。勝負を決めるつもりだ。「さっきな、俺の相棒に注意されたんだよ。お前のペースに乗せられるなって。俺には良くわかんねぇけど、あんたと話していると、いつの間にかあんたの術中っつーのか? 俺が不利になるらしいんだわ。だからさ、俺も知りたいことは山ほどあるけど、それを知ろうとしてお前のペースにまたハマり、それで負けるくらいなら、俺は知らないままでいいよ。俺、何を置いても負けたくはないんだ」
それを聞き、白衣の男は固まる。
「本気か…?」
「それよりさ、見てみろよ」白衣の男の言葉を無視し、椿は勝手に喋る。首を伸ばし、足元を見る。「あんたの足元、真っ暗だ。おっかねぇよな?」
「…そうだな」
と、白衣の男も、地面さえ見えない、真っ暗な闇に視線を落とす。
「都市伝説が本当なら、あんたが自殺に追い込んだ人たちも、こういう景色を見て死んでいったんだろうな?どんな気持だったんだろ?」
椿の言葉は、男に向けられていない。椿も足下の暗闇を見つめ、自分自身に問いかけるように言った。その顔は苦く、死んでいった人たちを思い、目に力を集めていなければ泣きそうだった。
その椿の表情を見て、白衣の男は勝機を見出した。
「ききっ。どんな気持ちだろうな? 少なくとも、絶望や恐怖はあるだろ。人の死ってのは、そういうもんだ。俺を殺して、あんた、これからどうなるんだろうな?」
白衣の男は、そう言って椿を脅す。その様子が不安になる。
足元を見ていた椿は、顔を上げ、自分を見ている白衣の男に目を向ける。その顔は、俺の心配が要らないくらいの、強い意志が感じられるモノだった。
「俺の心配どうも。だけど、あんたは自分の心配しろよ。俺の事なら大丈夫、俺には頼れる仲間が居るからな」
「…羨ましいねぇ~」
「だろ?……じゃ、あばよ」
椿はそう言うと、白衣の男を突き落とした。
白衣の男は、眼を見開き、椿を睨んだ。必死にもがいたが、縛られているその手では、何も掴めない。そのまま、暗闇へと飛び込む。不思議な事に、そこに音はなかった。
男が地面へと向かっている途中、俺はそれを傍らで見ていた。
浴衣をはだけ、羽を出す。
黙って地面に向かう白衣の男を、俺はキャッチした。
「ふぅっ。良かった」
俺は、ホッと胸をなでおろす。
屋上から見下ろしていた椿も、安心した顔を浮かべた。
「……ききっ。いい加減、これくらいは教えてくれるよな?」
死のダイブの途中に天使に助けられて浮いている状況、それを理解出来ず、男は呟いた。
○
白衣の男の死のダイブから少し前。
「俺に、考えがある」
椿は、言った。
自分で考えた事とはいえ、もしものことを思うと足が震える。しかし、それを悟られないようにと椿は強がり、不敵に笑って見せる。
椿が怖がっている事くらいお見通しだが、楸は敢えてそれには触れず、「何?何か名案?」と訊いた。
「あぁ。目には目を、ってワケじゃねぇが、こいつにも今までこいつがしてきた事をする」
「……それって…」
不安そうに、榎が言った。
「こいつを、自殺させる」椿は言った。その声は震えている。「つっても、こいつと違って自殺するように仕向ける事は出来ないから、正確に言えばこいつをここから飛び降りさせる。つーか、俺が突き落とす」自分で言って、その言葉の重みが一気に圧し掛かってきた。しかし、それに耐えるよう息を吐き出し、続ける。「そんで、こいつに命の重みを、今まで自分のしてきた事の罪を、しっかり自覚して反省してもらう」
椿の提案に、誰も首を縦に振らない。
誰も、椿の作戦には納得できない。
「それじゃあ、今度は椿が…」
人を殺した重み、それを知っている楸は、椿の心が傷つく事を危惧した。椿を心配して言葉を掛けたが、椿はその先を言わせないような強い眼差しを楸に向ける。
「だからさ、そこでお前だよ」
「俺?」
「ああ。早すぎもせず、こいつが反省するくらいの間を空けて、こいつのことを救ってくれ。こいつがほんとに死ぬ前に、な」
椿は、楸にそう言った。が、楸は尚も不安をぬぐえない。もし自分が失敗してしまったら、それを思うと簡単に「うん」とは言えない。
「でも、それだと…」
「カッ。なビビんなよ。お前を信用してっから、俺はこの作戦を思い付けたんだ。だから、頼むぜ…相棒」
自分だってビビっているくせに、楸はそう思ったが、それは口にしない。
自分も覚悟を決め、椿の目を見て「しゃーねーか」と微笑する。
「しかし、こんな時だけ都合がイイね…相棒」
「ふんっ」
二人は、拳を合わせた。
榎は、二人のその姿を見て安心した、とは言えないが、自分も目を逸らさずに二人のことを見届けよう、そう決めた。
楸 Ⅲ
俺は、白衣の男の腹に手を回して持ちながら、ゆっくりと地面に降り立った。
腰でも抜けたのか男はそのままへたり込み、自分が落ちて来たところを見上げながら肩で大きく息をしていた。今はそっとしておいていいかな、そう思い、俺は浴衣を直しながらみんなの方へと行く。
榎ちゃん達は、無事を確認してホッとしているのだが…。
「ていうか、何で柊もいるの?」
榎ちゃんと篝火が待っていた建物の入り口前には、何時来たのか柊も居た。
柊は、さも当り前の様にその場に溶け込んでいて、榎ちゃんの後ろから榎ちゃんの肩に手を置いていた。そして、その手を離して俺の方に一歩だけ進む。
「ハッ。高橋さんから連絡があってね。アンタ等が無茶しようとしているから、もし何かあったら手ぇ貸してやってくれって」
高橋さんの名前が出て、俺はおおよその察しがついた。たぶん、最悪の場合を想定した時、俺達が命の重さに耐えきれなくなると思っての事だろう。
柊は続ける。
「詳しくは榎ちゃんに聞いてね、それでアンタ等のしようとしている事は理解した。だから、アンタがもしミスったら、アタシが〝空間凍結″使ってそいつを助けるって算段よ」
確かに、柊の持つ悪魔の能力〝空間凍結″なら、白衣の男の周りの空間を固定して確実に助ける事が出来るだろう。それにしても…。
「信用ないなぁ…」
結果としてちゃんと上手くいったから言えるのだが、俺は肩を落とす。
そんな俺を呆れた顔で見ていた柊は、「あと、高橋さんからの伝言」と続けた。
「バスルームにあった?」
「ハッ。違う。ルージュじゃなく、アタシに直接言った言伝。『信用してないワケじゃない。ただ、少し心配なだけだ』以上」
「また…なんであの人は俺の思考を先読みするの?」
無駄なことに〝先読み″の資格使っているのでは、と俺は鬱陶しく感じるが、たぶん違うよなぁ。
「それは、高橋さんがアタシ等の上司だからでしょ」
「やっぱし?」
椿 Ⅱ
ライフ・リセッターという男の無事を確認し、抜けそうになった腰をしっかりと入れた。屋上を出て、建物からも出て、みんなの待っている出入り口前に俺も行く。
みんな居るとは思っていたが、さっきまではいなかった柊も何故か居た。そのことを尋ねようとしたら、駆け寄ってきた榎に声を掛けられる。
「椿君!」
「ん?」
「お疲れ様」
俺の考えた無茶な作戦のせいで、榎にも心配掛けてしまった。きっとこいつも不安に思いながら黙って見守ってくれていたのだろう。榎の頭に手を乗せて、「おぉ。ありがと」と素直に感謝を示した。
その様子を、天使は不満そうに見ていた。が、そんな天使の文句よりも先に、別のヤツの笑い声がその場に不気味に響いた。
「ききっ。ちょっと待てよ。お疲れって、そのニット帽のした事が何だか分かっているのか?これは、立派な殺人未遂だぞ」
未だに両手両足を縛られたままのライフ・リセッターが、笑ってはいるが確かな怒りを滲ませて榎に言った。
「っせぇよ」と俺は言い返そうとしたのだが、それ以上何か言う前に榎が、自分の頭に乗っている俺の手をどかし、男に近付いた。
「そんなことない。私は、二人なら大丈夫だって信じてた。二人なら、あなたに罰を与えて反省させる。そして、絶対に命を落とさせるようなことはないって」
強い眼差しで真剣に語る榎を、ライフ・リセッターは冷ややかな目で見ていた。
が、不貞腐れたように眼を逸らす。
「…あらそ」
「…いいのか?」
俺は、ライフ・リセッターの足を縛っているロープを外した。それを見て、男は訊く。
「あぁ。つっても、まだ足だけな。今から色々訊きてぇから、手はその後だ」
「なるほど、悪くない話だ。……いいぜ、何でもお答えしましょう」
ライフ・リセッターの、ここに来ての飄々とした態度に、俺は不審を抱いた。
もしや、そう思い、ちょうど良く居る柊に「なぁ」と声を掛けた。
「柊の〝読心術″使えば、この男が嘘ついたかどうか分かるか?」
俺の言った事を考え、柊は答える。
「どうだろ?アタシの〝読心術″も完璧なモノじゃないし、いくら読もうとしても、相手が心から信じている事は嘘ではない。それに、警戒している相手には成功率も下がる」
「そうか…」
柊にしては自信の無い回答だった。どうしたものかと考えを巡らせていたら、ライフ・リセッターが「ききっ」と笑った。
「何言っているのか分からんが、心配しなくていい。事ここまで及んで、嘘つく気にはなれねぇよ」
その言葉から既に嘘かも知れない。しかし、憶測ばかりしていても話は進まない。俺達は顔を見合わせ、とりあえず話を聞くことにした。もし何か違和感があれば、その時はその時で対応する。
そして、俺は男の前に立ち、質問をする。
「それじゃあ、まず…お前の目的は何だ?」
「俺の目的、ねぇ。俺はさ、昔っから結構好奇心旺盛なガキだったんだよ。色んな事にそそられた」 急に昔話?早速の違和感だが、口ははさまない。「あんた等は考えたこと無いか?例えば、さも当り前にあるかのように言う〝魂″ってのは何なんだ?それは心臓でも脳でもない。しかし、俺達の中に確かにあるモノらしい。それは、肉体と精神を繋ぐクサビ、人の根源、色々考えられるがそれらは正解なのか?…そそられるよな」
そう言われ、俺は考える。考えるが、良く分からない。
男は続ける。
「その他にもさ、ハートの存在。心臓じゃなくハートな。人は脳でモノを考えているはずなのに、ハートというと胸を指すヤツがいる。心臓ってのは、身体に血液を送り出す為のポンプじゃないのか?ポンプがモノを考えるのか?そう考えると、ハートが魂?てゆうか、そもそもハートって何だよ?ききっ。ま~たワケわかんなくなってきた。俺はさ、好奇心はあるけど、学はねぇんだ。人ってのは脳からの電気信号で行動し、突き詰めれば記憶ってのも電気信号でしかない。てことは、それら電気をコントロールする装置さえありゃ、人間なんて思うがままだ。そんなことを考えはするが、それを確かめる事も研究する事も出来ない。科学なんて高校のスタートダッシュでつまずいて諦めたから、無理もないよな」
「俺もバリバリの文系だから、お前の言っている事の内容は二割もわかんねぇ。つーか、結局目的は何だ?その好奇心が関係しているのか?」
俺は言った。
「ききっ。当然だろ。関係なかったら、誰が長々話すかよ」
男の俺を小バカにした態度が癇に障り、「だったらさっさと目的の方を話せ!」とつい声が大きくなった。
「はいはい…。今言った通り、俺の好奇心は旺盛だ。それで、最近の俺の興味の対象が、『死の恐怖』だ。ただ人生に絶望したヤツがぼやいているようなモノじゃないぞ。その程度なら、ネットに転がっているだろうからな。俺が知りたいのは、ギリギリのところで人生に希望を捨てていない状態、まだ生きていたいと思えるヤツが感じるリアルな死の恐怖だ」
男の言葉に、俺達は引いた。目の前の狂気に、頭が付いて行かない。しかし、唯一話を理解してついて行っている天使が「なるほど」と口を挟んだ。
「それで、死ぬことを望むようなヤツを見つけては、わざと人生に希望を持たせるような事を言うワケだ。死ぬことに恐怖して人生に僅かでも希望を見いだせたヤツは、自殺しない。ともすれば、お前に感謝すらするだろう。希望を見出せず、飛び降りたヤツは死ぬ。その中から、飛び降りている最中に恐怖を感じ生きようともがくヤツ、これこそがお前の求める人間」
「そうだ。人間ってのはおもしろい生き物でな、死ぬことを決意したヤツでも、命が助かるかもしれないボタンを渡されて、それを押すと、失くしたはずの生への執着が蘇るんだよ。ボタンを押しても何も起きないからって、『ああ、やっぱ嘘か』とそれを黙って受け入れるようなヤツは稀だ。大概は、芽生えた生への執着心から死にたくないってもがくことになる。ききっ。やっぱ、あんたが一番厄介だったようだな」
天使のまさかの洞察力は続く。
予想外なことに驚きつつも、俺はそれを聞き洩らさないように集中する。
「そう考えれば、この場所や方法にも納得がいく。あえて高い建物を選び、死にゆく恐怖が長い飛び降り自殺、これで人生を振り返る時間や絶望の時間を与えていた」
「正解。飛び降りるヤツに渡すボタンには、押した回数が分かるカウンターや録音機が仕込んである。それで、俺は『死の恐怖』を知る。ま、まだ上手く言った事は無かったし、もう興味もない。百聞は一見に如かずって言うのかね、自分で経験して良く分かったよ。だから、これにはもう興味無い。これを知りたくて、俺はライフ・リセッターを作ったっていうのになぁ」
「ライフ・リセッターを…作った?」
その言葉に違和感を覚え、俺はオウム返しのように言った。
「ききっ。俺は親切だから、次の疑問を用意してやったよ。つっても、そっちの浴衣は気付いているんじゃないか?」天使はそう言われ、何も言わずに首を横に振った。「謙遜するねぇ。ま、いいか。ライフ・リセッターっていうのは、俺が俺の目的を実現する為に、俺が作った存在だ」
「そりゃ…お前がその正体なんだから…」
「ききっ。そうじゃない。いや、俺が正体だってのは本当だから、これ以上の黒幕がいるとかっていうドキドキな展開にはならないぞ。ただ、都市伝説にしたのは俺だ」
そう言われても、俺には理解できない。男の言っている意味を考えると、混乱する。なんだったら、これ以上の黒幕がいるっていう展開の方がドキドキして、そっちが良かった気さえする。
「どう言う意味だよ?」
「ライフ・リセッターは、俺が『死の恐怖』について考えている時、準備段階でふと思いついた遊びの存在だ。誕生の経緯はこうだ。まず、お喋りが好きそうなタクシー運転手数人に、ライフ・リセッターという都市伝説の話をする。この時は、名前と人生のリセットボタンについてだけ話し、情報を限りなく制限する。自分も詳しくは知らないんだが、とか言ってな。そうするとどうなるか。タクシーの運転手から別の乗客へ、話は伝わる。だが、そのまま伝わる事はなく、あまりにも制限された話では味気なさすぎるからと、すこしの脚色を加えて。また、俺も別の場所で正しい情報をさらに少しだけ流す。そうしているうちに、ライフ・リセッターは、根っこは同じだが様々に変化し、徐々に人々に浸透していく。情報がごちゃ混ぜになり、何が正しいのかは分からない都市伝説。そうやって不気味なモノへ神聖化していく。そうすれば、いざその都市伝説が目の前に現れた時、相手の頭の中にある拒絶の壁が少し減るかもしれない。いざという時は名前だけ切り捨てれば隠れ蓑として利用も出来る。つっても、動機は遊びだから、ライフ・リセッターが広まらなければそれはそれで良いし、もう利用価値もない名前になった」
男は言った。
しかし、そう一気に言われても困る。だが、俺以外のヤツは一応の理解を示し、感心している。俺だけ置いてけぼりは不味いから、俺も「なるほどな」と頷く。そして、訊く。
「じゃあ、名前を捨てたお前は、何になるんだ?」
「ききっ。あんた、最後しか理解してないだろ?」
「ばっ…!ちげぇよ!」図星を指され、俺はうろたえた。
「まぁいい……いや、よくないな。『何になるんだ?』って何だ?俺はずっと俺で、何にも変わらないんだが?」
俺の事を小バカにするように、男はわざとらしく戸惑ったふりをする。その態度がムカつくし、あまり難しい話ばかりは疲れるので、「じゃ、名前は?」とシンプルな質問をした。
「ききっ。それでいいのか。それなら、俺の名前は石楠花。これで満足か?」
「……ああ」
俺が頷くと、石楠花はニヤリと笑い、「おい」とみんなの方に声を掛けた。
「あんた等、こいつに任せていていいのか?俺の見立てだと、そっちの浴衣の方が賢そうなんだが…?」
石楠花に言われ、柊以外は愛想笑いし、柊は「ハッ。浴衣も十分バカだよ」と言った。柊の言葉に、俺は強く頷く。いや、頷いていいのか?
それを、石楠花は笑って見ていた。
「ききっ。そうなのか?それじゃあ、俺主導で話を進めるぞ」そう言うと、俺達の返答を待たずに、石楠花は言う。「あんた、さっき屋上で俺の術中がどうとか言ってたよな?」
俺は「ああ」と頷く。
「あんたの言う事が何を指すのかは定かではないが、たぶん俺の話し方のことだろ?なあ、浴衣の?」と、石楠花は天使にふった。天使は、いきなり話を振られたが、冷静に頷いた。「アレは、これといって特別な事じゃないんだ。よくいう催眠の類やマインド・コントロールではない。ただ、相手を信用させる為に相手の言う事に同意の意を示すだとか、適当な質問をし続けて、それを相手に肯定させ続ける事によって相手から否定する感覚を徐々に奪うとか、選択肢を限定した質問で相手に自分で考えた気にさせたり、相手の意思をそれとなく俺が偽って言って誘導したりとか、結構単純な事なんだよ。あんたに使おうとしたのは、否定の感覚を奪う事と嘘の誘導だったんだが、失敗したな。やっぱちゃんと勉強して練習しとけば良かった…」
石楠花の種明かしは言うほど簡単ではない気がして、感心した。感心していたら「そういえば…」と石楠花は続ける。
「あんたに使ったのはアレもあったな」
「アレ?」と俺は首をかしげる。石楠花は、ニヤリと笑い、みんなの方を見る。そして、実演してくれるつもりなのか、ターゲットに決めたヤツの方に近寄った。
「そこの白い貧にゅ…」
そこまで言うと、石楠花はターゲットに決めた柊に殴られ、ぶっ飛ばされた。ぶっ飛ばされた先で、ピクピク痙攣している。
怒り狂う柊のことは榎に任せ、俺と天使は石楠花に歩み寄る。
「何がしたいんだ?まだ死の恐怖に興味があるのか?」
呆れながら、俺は訊いた。
「いや…これはただ、ちょっと怒らせて、冷静な判断力を奪うつもりだったんだが…。まさか…あんなに沸点が低いとは…」
倒れている石楠花からは、完全にミステリアスな雰囲気が無くなっていた。
不気味さの欠片も無い男は、もう全く怖くない。
倒れている石楠花の両手を縛っているロープは外した。もう聞く事は聞いたし、両手を縛られたまま倒れている姿は不憫にも感じたから、いいだろう。
石楠花は、立ち上がり、白衣の汚れを軽く払い落す。
「いいのか、俺を逃がして?」
石楠花は言った。先程までのように薄ら笑っているが、俺達はもう それに畏怖の念を抱く事はない。
「別に」
「ききっ。バカだな」
「あぁ?」俺は声を荒げる。
「おかしいとは思わなかったのか?急にペラペラ喋り出し、自分の手の内を明かすようなマネまでして」
そう言われ、俺達はハッとし、すぐに気を張り、警戒態勢を取る。
思えば、石楠花は最初の質問以降、殆んど自分から話していた。俺が興味を持つように仕向けたり、自分で主導権を握ったり。
もしかして、まだ奥の手を隠し持っているのでは?
俺達が身構えていると、石楠花は笑った。
「ききっ。冗談だよ、安心しろ。奥の手なんて無いし、今からパワーアップもない。ただ、今の状況、最後にあんた等を驚かせたかっただけだ。あと、しいて言うなら、俺も全てを投げ捨ててリセットしたかったってところか」
人を喰ったようなその態度に、俺達は怒りを覚えつつも警戒を解いた。
何か文句の一つでも言ってやろうと思ったら、薄ら笑った顔した石楠花が先に口を開く。
「この実験はもう終わりだ。あんた等のおかげで、知りたい事を知れて興味が無くなったからな。が、また次、俺の好奇心が疼いた時、何かするかもしれねぇぞ?」
「そん時はそん時だ。また屋上ダイブ、いや、柊にぶっ飛ばしてもらうか?」
俺は言い、柊の方に視線を送った。
「ききっ。おっかねぇ。そいつは勘弁だ」
石楠花は言うと、「じゃあな」と俺の肩を叩き、立ち去ろうとした。
「待て」と俺は呼び止める。
石楠花は「ん?」と足を止めて振り返った。
「死の恐怖ってのは、どんな感じだった?」
俺が訊くと、石楠花は一度目を伏せ、「ききっ」と薄く笑った。
「教えねぇよ、教えてたまるか。これは、俺のモンだ。……が、一つだけ言っておく。……命は大事に、な」
そう言うと、石楠花は、薄汚れた白衣が黒に染まる様に、闇へと消えて行った。
石楠花が居なくなった後、俺達もこの場で解散することにした。
「ハッ。あの男、最後まで人を喰ったような態度だったね。気に食わない」と不機嫌な柊。
「そう怒るなよ、柊。たぶん、実際に何人かあいつに救われた人間もいただろうし、俺のこと賢いって言っていたし、全くの悪人じゃないはずだよ」とバカ天使。
「ばーか。それもあいつの詭弁だよ」
「でも、私も楸さんの方が椿君よりは…」
最後まで言わせない。俺は、榎の頬を潰して強制的に黙らせた。そうやって榎をヒヨコ顔にしていたら、篝火が「あのぉ」と声を掛けて来た。
「そう言えば、今回は篝火に世話になったな。サンキュな。んじゃ、報酬だけど…」
榎から手を話した俺は、そう言った。しかし、篝火は首を横に振る。
「ううん。報酬なんていらない。それより、あなた達と居ると結構面白いから、また何かあったら声掛けて。それと、今回の報酬はお酒でいいわ」
「発言が一貫してねぇよ!」
その後、コンビニで篝火にカップ酒を買い与えた。
そして、榎を家まで送り届け、俺も帰った。
後日。都市伝説のその後を確認する為に、いつもの喫茶店に天使と榎の三人で集まった。
「これね、石楠花の言う通りの物だった」天使は、石楠花が『人生のリセットボタン』だと言っていたボタンをテーブルの上に置き、言った。「五十嵐さんに調べてもらった結果、カウンターや録音機が仕込んであるだけで、あとは特に何の細工も無い、ただのボタンだってさ」
「だと思ったよ。つーか、人生にリセットボタンなんてあるかよ」
俺は呆れ、テーブルの上のボタンを連打する。
「でも、本当にそういう物があったらって、縋るように求める人も居るんだろうね」
そう言うと、榎は、落ち込んだように顔を伏せてしまったので、話を変えることにした。といっても、本来すべき話に。
「で、都市伝説のその後に変化はあるのか?」
俺は、榎に訊いた。
「あ、うん」榎は顔を上げた。「変化って程でもないけど、あの人が言うように聞く人によって違うみたい。ライフ・リセッターは過去の罪を裁く為に時を遡っているとか、報われない死を遂げた人を救う為に過去に向かうとか、そもそもライフ・リセッターは未来人で未来に帰ったとか、善悪も内容もバラバラ」
「てことは、俺達は計らずしも偶然、一番真実に近い内容の話を聞いていたワケだ」
それにしても、石楠花の言っていた通り、不気味に変化しながらも根っこの部分では同じ『時間を移動する存在』として、ライフ・リセッターは語り継がれていた。これがあいつの思惑なのだろう、見事に成されているワケだ。
言葉一つで人を動かす事には感心するが、同時に怖くもある。
ま、当の石楠花はライフ・リセッターを辞めたはずだから、これからは話だけが生き残り、高橋さん好みの伝説へと昇華していくのだろう。俺はもう興味無い。つーか、都市伝説とは言うが、そもそもここは東京じゃないから都市伝説じゃないだろうに。
「それじゃあ、行くか」
俺は立ち上がり言った。
「何処に?」と天使。
「ああは言ったが、やっぱり不安はあるだろ?だから、もしもの時の念のためってことで、あいつの財布をスったんだよ」
俺は、ポケットから石楠花の財布を取り出し、二人に見せる。
「いつ?」
目を少しだけ見開き、驚いた天使が訊いた。
「別れ際、あいつが俺の肩を叩いた時だな。もう大丈夫そうだし、これ返さねぇと。中に免許証もあったから、とりあえずそこに書いてある住所に行ってみる」
俺は言った。
天使は呆れ顔で、「ははっ。椿も充分危ないな」と言い、立ち上がった。
○
「人生にリセットボタンがあったら、キミならどうする?」
何処かで、誰かが訊いた。そして…
初めて、ちゃんとした「敵」を登場させました。
カイもそれっぽくはあるのですが、私の中では石楠花が初めての敵となります。
前書きにも書きましたが、この石楠花と短編のライフ・リセッターは別物です。
石楠花の話術について、特に私が勉強したものでもないので、「ああ、そういうもの」程度に思ってください。石楠花は「専門知識はないけど頭のいい男」という設定なのに、作者の頭がついていかない、かわいそうなキャラなのです。
この話の影響で、篝火がギャグキャラに決まりました。やったね。
といっても、八割ボケたキャラなのだけど…。




