2-3 <新月の下で>
新月の夜の暗さは、生半可ではない。
視界と言えるものは一切なく、目に墨をかけられたかと思うくらい、一面に闇が広がっている。おそらくは崖があると思われる場所にそって、たいまつの明かりが見えるものの、それは景色全体を照らすほどの威力はない。
闇に眼をこらしても、敵が何だかの動きをしているのは感じられなかった。
レゴリスから少し離れた手すりで、少年がジッと闇を見つめているようだが、その表情は夜の闇と顔にかかったフードのおかげで、レゴリスからは見えなかった。
「テリーどうだ?」
後ろからミラーの声がする。
「すぐ動くつもりはなさなそうだ。明け方とともに攻撃かけてくる、という所だな」
ミラーはレゴリスと少年の間の手すりに割り込んでくる。同じように闇を見つめた後、レゴリスに視線をやる。
「ヤツラは、アデレード本軍の到着を一番怖れている。だから焦っている」
「我々が到着するまえに、ココを攻め落とし、ココを砦にアデレード侵攻の足場にするつもりが、計画が大きく狂ったわけか」
レジナルドの言葉に、ミラーが苦笑する。
「貴方が、もう到着しているという事実も含めてね……」
ミラーがレゴリスの方を向き直る。
「我々は、ヤツラをあの広場に誘い込みます。そこをレゴリス殿、一気に叩いていただけると助かります」
「しかし、あの空間は、マギラ全軍と、我々が、戦場とするには狭すぎるぞ。
またヤツラからしてみたら、戦える戦場が広がったことで、下手したらコチラが押し込まれる可能性はどう考える」
「敵を分断します。あの括れで」
レゴリスはミラーの顔をみる。陰になって表情はよく見えないが、先ほどのコチラの出方を窺うとかいうのではなく、共闘の意志をしっかり固めた様子だ。
探り合いという無駄なことしている時間もないという事だろう。
「分断?」
「火で壁を作ります。今ある燃料で三時間は火を燃やし続けられる」
ミラーの淡々とした声が続く。
逆に言えば、三時間で先行し分断されたマギラの部隊と決着をつけろ、ということか。
「戦場が自分達に不都合なら、都合の良い形に変えるまでってね」
ドンがニヤリと笑う。