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真白き風にそよぐ黄金の槍 (旧)  作者: 白い黒猫
二章~石国の王~
8/21

2-2 <石の駒>

 左棟を王国軍が、右棟を囚人軍が使うことで合意し、互いに緊張した距離を取りつつの、共同戦線が始まることになる。

 威圧的に出るのでもなく、取り入るのでもなく、あくまでも対等の立場として行動すること。レゴリスはそれを心がけ部下にも徹底させた。

 そうでなければ、人数では圧倒的にこちらが優位でも、痛い目をあうのは目にみえている。

 それに加え、レゴリスはこの集団を、何故か気に入っていた。


 部下に本営設置の準備を任せ、レゴリスは上位指揮者五人を連れ、囚人軍を率いていると想われる男三人と向き合っていた。案内されたのは、警護隊の上級幹部の食堂だったと想われる部屋。その八人の周りを数人の男たちが、コチラを探るように遠巻きで見ている。

 入り口近くの椅子には、少年が二人腰掛け、時々コチラを伺うように見ながら、小声で何やら話しているようだ。粉塵よけのフードを被っているので、顔はよく分からないが、顔の下部分がよく似ているように見える事から、兄弟なのだろう。


 中央の大きなテーブルには、元々は、壁にかけられていたと思われる額に入った地図がおかれ、その上に色の異なる石が置かれている。どうやら作戦司令室として、此所は使われているようだ。


「私はミラー・フォルト、コチラがバート、ドン」


 先ほどの男はそう名乗り、神経質そうな男と巨漢の男を親指で指し示し、簡単に紹介する。


「貴方がたが、義勇軍の指揮官なのか?」


 ミラーと名乗った男は肩をすくめた。


「私? 単なる医者だ! コイツは調整係、コイツは……賑やかしだ」


 賑やかしと言われた巨漢のドンは、ジロリとミラーを睨む。


「ここが、今我々のいるゼルフィア城! マギラ軍はおそらくこの辺りに陣営を構えている様子。数は五千以上七千も行かないくらいだ」


 ミラーは地図を指し、説明を始める。黒い石がマギラ軍を示しているようで、赤・無色・青い石が自軍を示しているようだ。それらの石は特産物である高価な宝石だが、彼らはそれを無造作に、駒として利用している所が、彼らの世間からズレきってしまった価値観を感じさせた。


「マギラの侵攻を察知した我々は、国境からコチラに向かう二本の道の内、この西側の道のこの部分を、火薬で封鎖した」


 男が地図で指し示した、道の部分には、大きいクズ石が置かれている。


「そして、現在、コチラのこの括れた部分で敵を迎え撃ち、少しずつ、相手戦力を削るという形で応戦している」


 鳥道の砂時計のように一部狭まった部分を指し、男が説明する。


「コチラの編成は?」


「両方の崖の上に弓隊と投石隊それぞれ五十。そして地上部隊が五百程度……いや今は四百程度か……」


「それで貴方の仲間は全てか?」


 ミラーはチラリと視線をあげ、レゴリスを見てから、チラリと子供の方に視線をやってもどす。二人の子供は飽きたのか、椅子から立ち上がり窓の方に行き、外を一心に眺めている。


「仲間というなら……もう少しいるが、戦闘に不向きな者もいる」


 ここに案内される途中にも、年寄りや女性のそして子供の姿をチラホラ見掛けた。

 彼らにも『戦え!』と言うのは酷というものだろう。


「夜の間の、崖の方の警護はどうなっている?」


「交代で、見張りを立てている、まあ今は新月、闇の中で、あの崖をこっそり登るのは自殺行為だ。

 二日前、明け方に登ってきたヤツがいた。そいつは、崖の途中で燻製になって引っかかっている」


 バートが淡々とした、つぶやくような口調で説明する。


「よく、この崖占拠したな」


 この地方の渓谷は、すべて切り立った壁面で構成されていて、獣ですら、その上に登るのは難しい状況だ。そこに、彼らの言葉を信じるなら、左右で、百の兵を配しているという。

 上からの援護があるからこそ、この少人数で戦えてきたのだろうが、この短時間にどうして、それだけの人数を崖にあげる事ができたのか?


「ココとココに橋を作りましたので」


 裏門の囲郭から崖と、先ほどの括れの部分を、ミラーは指さす。

 短時間で、そこまでの準備を行い、マギラを迎え撃ったとは、囚人軍には相当の策士がいることになる。その男が寄せ集めの集団を、マギラに対抗できるほどの戦闘部隊へと変貌させた。

 ミラーという男なのか? それとも残りの二人のどちらか?

 医者という言葉を信じるなら、戦闘的な訓練も勉強もしていないミラーが、そこまでの戦術を立てられるというものなのだろうか? ドンという男はそれなりの戦闘経験を持っていそうだが、こういう体型の男が考えるにしては戦術が細やか過ぎるように感じる。バートという男なのか?


「敵部隊は、たいてい二千から三千くらいで攻めてくる……」


 バートは、ボソボソっとした声で説明する。


「戦場は狭さから、それくらいが動かしやすい人数だしな」


 ミラーの言葉にレゴリスは頷く。


「我々は現在六千の兵を連れてきた。これで兵力はまあ五分五分といった所か? どうする?」


 レゴリスはあえて振ってみる。

 ミラーは、細い目をさらに細める。片方の口の端がクッとあがる。


「……その辺りは貴方様のほうが専門でしょうに……是非、素晴らしい作戦をお持ちなら、お聞かせ頂きたい」


「なるほどね……」


 さて、どうする? レゴリスは部屋にいる義勇軍の男達に視線を巡らせる。

 この人数でマギラの侵攻を止めたという事実は大きいが、彼らには未知数すぎる部分が多い。もし、期待するほどの動きをしなかった時、安全対策を講じておく必要もあるだろう。


 そんな事を考えていたら、いきなりドアが激しく開けられる。

 部下が剣の柄に手をやり、一斉にそちらを向く。囚人と想われる目つきが悪く見窄らしい格好をした男が、走り込んできた。


「ボス!」


 男は慌てて入ってきたようで、改めて部屋の中を見回して、レゴリスたちの姿を見て、動揺する。

 レゴリスは視線で、部下の手を柄から離させた。


「え……あ、あの……ボス?」


 動揺しキョロキョロする男に、入り口近くにいた少年の一人が声をかける。


「今、色々立て込んでいる、私が聞く」


「あ! あ、はいっ!」


 男は少年に何やら必死な表情で語り出す。少年はもう一人の少年をみて頷き、男と供に出て行った。


「キット! どうした?」


 一人の残った少年に、ミラーが話しかける。


「マギラ、早めに動き出すつもりらしい」


 緊迫したやや固い口調で、少年が答える。


 その内容にレゴリスは眉をひそめた。

 イワンはレゴリスの視線をうけ、部下を招集するために走り出す。


「テリーが、今様子を観に行っている」


 開いたドアの向こうをジッと見つめながら、少年は答える。


「やつらも煮詰まってきていたからな……」


 ドンがつぶやく。巨漢のわりに、素早い動きで走り出す。

 レゴリスも部屋を飛び出し、監視塔へと走る。



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