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真白き風にそよぐ黄金の槍 (旧)  作者: 白い黒猫
一章~マギラ侵攻~
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1-3 <鉱山に眠るもの>

この物語、実は『愚者の描いた世界』にあった物語なのですが、コチラにあったほうが流れが良いように感じ移動しました。


 バラムラスが書簡を伝令係へと手渡していると、雑務を終えたレジナルドが執務室に入ってきた。


「レジナルド殿、面倒な仕事を押しつけて、申し訳ありませんでした。

 あっ……これは出来る限り急いでくれ、出来ることなら、現地に到着前に届けてくれ!」


 敬礼をし駆け足で出て行く伝令係を、レジナルドは怪訝な顔で見送った。


「いえ、レゴリスのヤツが上手く国境で部隊を再編していったので、最小限の手間で穴を埋める事ができましたから。先ほどの手紙はレゴリスに?」


 上司であると同時に、長年後継人として自分を支えてくれたバラムラスと二人きりになると、レジナルドは上級大将という地位ではなく、一人の若者に戻る。とはいえ王族として育ってきたレジナルドが、バラムラスに子供のように甘えるなんて事はないが、二人でいる時はその表情も柔らかくなる。いつも気を張って生きているレジナルドにとって、ココが心を休める場所になれている事がバラムラスには嬉しかった。


「まあ……久しく会ってない息子に激励の言葉でもと思いまして。休む間もなく、そのまま別の戦地へと向かうことになって、親ながら不憫ですので」


 不憫なんて微塵も思ってないのが丸わかりの、ニヤニヤと人の悪い笑みをバラムラスは浮かべた。レジナルドもつられて笑ってしまう。

 紫龍師団の隊長を務めるレゴリス・ブルームは、バラムラスの末の息子である。とはいえ上にいた兄二人は、戦地にて命を落とし、今となってはただ一人の息子。

 母の病死、兄の戦死と、家族の死を見て育ってきたせいか、性格はやや捻くれ、可愛げのないものになってしまったのが、親として悔やまれる。

 とはいえ、親の七光りをはね除け、自分自身の力を示すことで大将の地位まで上り詰め、レジナルドを部下として親友として支える息子を、バラムラスは誇らしく思っていた。


「ところでキリアン殿と、どのような話を?」


「大した事ではない、具体的な任務の確認といった所ですね」


 バラムラスが顎髭をなでながら、先ほどのキリアンとのやり取りを思い返していた。


「かなりの不満を感じていたようですが、ヤツの元老院の一員という立場にいる人間です。自分の将来の為にも頼んだように動いてくれるでしょう」


 人の悪いニヤリとした笑いを浮かべるバラムラスに、『どうでしょうかね』レジナルドは苦笑を返す。


「しかし……彼奴が、まさか前線に躍り出ようとするのは、意外でしたが」


 バラムラスはキリアンという男の事を、レジナルドがあまり良くは感じでない事を察していた。

 冷静であるものの、若者らしく野心と情熱をもって職務をこなすキリアンを、バラムラスは面白く見ている。

 確かに能力はあるものの、虎視眈々と、更なる地位と権力を求めて行動している様子は、レジナルドには不快に見えるだろう。しかしキリアンには若さからくるのか、妙に正義感が強い面がある。民衆の為に行動しているくせに、出世や手柄の為といったように演じている所が不器用なのか、器用なのか面白い所だ。

 欲というものに対して正直で、権力をもつことで慢心している元老院の中で生きていくには、そう周りに思わせる事も処世術の一つなのかもしれない。 


「レジナルド殿は今回の件、どう見られました?」


「手柄を立てる為という所でしょう。カッセル侯爵に恩を売り、ヴォーデモン公爵らに力を示したいという所かと……。ずいぶん彼奴にしては手間とリスクのある方法をとったのが腑に落ちませんね。何か別の意図も感じるのですが、それまでは読み切れません」


 元帥はあごひげを撫でながら「うーむ」と小さくつぶやく。


「バラムラス様はどう、思われました?」


 逆に返されたレジナルドの質問に、バルムラスはどう答えるべきか悩む。

 金彩眼をもつレジナルドは、自分には見えぬ物も見る事ができる。そのレジナルドがキリアンを警戒するのは何だかの意味があるのかもしれない。自分が今日知り得た事の報告はもう少し確かな情報を集めてからでも遅くないと考える。

 バラムラスは首をゆっくり横に振った。


「正直な所、分かりません。あの男が本当は何を求めているのかは読み切れません……」


 そして、ふとニヤリと笑う。


「ですがね、今回の件で息子レゴリスに手柄を譲った見返りとして、カッセル侯爵に対する厳しい処分。その後釜として、彼奴の一族がその地位につけるように、後押しを要求してきました」


 レジナルドは不快そうに顔をゆがめた。


「まさか! そんな馬鹿な約束を飲んだのですか!

 ヤツには危険のない仕事で名誉を与え顔は立てた。それで十分だと思うのですが」


 キリアンの一族が治めるバーソロミュー候領は、首都からも離れているものの、国でも一、二を争う鉱山を有しており、その事を有利に使った結果、歴代元老員の一員を担うことに成功している。

 彼が今回手にいれようとしているロンサリア地方は、宝石の産地として有名な領土。

 その土地にゼルフィア牢獄があるのも、囚人に宝石の採掘をさせ、無償でこき使う意図で造られての事だった。


「まあワシがするのは協力というより、邪魔はしないといった所ですね。とはいえ、いくら財宝がザクザク出てくるという土地でも、今回このように侵攻というケチがついた土地。元老院の奴らがどう見るかというのも面白そうです」


 楽しそうに笑うバラムラスだが、レジナルドは納得出来ず、不満そうである。


「ワシは、その件に関しては彼奴がロンサリア地方を管理するのは悪くないかなとも思っている。彼奴ならカッセル侯爵のように防衛を疎かにするなんて事はまずしないでしょう」


「その代わり、別の驚異をそこに作っているようにも私は思えますがね……」


 レジナルドはフンと鼻で息を吐き、窓の外へと目をやった。

 そこにはただ春の日に輝く風景が静かに広がっているだけだった。

 人より少し物事がよく見えるレジナルドの金彩眼をもってしても、このマギラ軍の侵攻がレジナルドの人生に大きい転機をもたらす出来事になるとは気付くことはなかった。


(鉱山に眠るモノは、宝石だけではない、さて息子は何を鉱山で掘り出してくるのか?)


 バラムラスだけが、何か起こる事を予感していた。しかしそれが吉兆なのか凶兆なのかまでは読めずにいた。



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