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真白き風にそよぐ黄金の槍 (旧)  作者: 白い黒猫
一章~マギラ侵攻~
4/21

1-2 <会議は踊る>

 緊急招集で集められた元老院の議員達は、会議室で情けないほど動揺していた。

 その中で今回、元老院にこの情報をもたらしたというキリアン・バーソロミューだけは、レジナルドと同じように冷静にその会議室の様子を見つめている。

 二十歳で元老院の一員となったキリアンは、若さのわりに落ち着きはらっている。冷静なようで何か深く激しい感情をたぎらせているその様子が、レジナルドには気持ちが悪かった。金彩眼だからこそ見えてしまう心の奥。

 単に私欲に駆られて自己顕示欲や自己満足の為に無策で動く他の議員とは別の意味で、危うさを感じる。


 会議室のドアが開きウィリアム王と、執政官勤めるヴォーデモン公爵と、宮内官勤めるクロムウェル侯爵が続く。洋なし体型の三人が、揃って一緒に歩く姿は別の意味で壮観である。

 一同は起立し礼の姿勢をとり、着席し会議は始まった。


 隣に座っている上司であるバラムラス・ブルーム元帥は、ゆったりと車椅子に座り完全に傍観の姿勢をとり、むしろ楽しんでいるようだ。

 年の功もあるのだろうが、バラムラスはいかなる時も動じない。『人を喰った言動や策で、人を翻弄し操るのが得意な知将』という策略家としての印象が強いが、彼が最も優れている所は洞察力。

 自分の金彩眼以上の洞察力を発揮する所があり、レジナルドには誰より信頼し、頼りにしている人物である。


 会議は、マギラ侵攻をいち早く察知したキリアンの報告から始まり、そのまま彼の独壇場となる。


 愚かな事に、国境を守っていた領軍は、マギラの突然の侵攻におののき、戦いを放棄して逃げ出してきたらしい。そして、現在ゼフィラ牢獄にて何者かが兵を挙げ応戦しているようだ。領軍もゼフィラの看守も逃げ出した状態で、誰がマギラと戦っているというのだ。レジナルドはバラムラスと顔を見合わせる。


「その情報を聞いて、即、我が領軍と周囲の領軍を現地に連絡をし、現地に向かわせています。

 明日の朝にもゼルフィア牢獄に到着するでしょう!

 私もすぐに追いかけ合流し、マギラ軍を迎え撃とうと思っております」


 元老院の議員は度肝ぬきながらも、キリアンの言葉に、悩む。

 キリアンの行動が、自分達にどのような影響を与えるものかを。

 

(驚いた、まさかこのタイミングで、レゴリス以外にも防衛に動いていた人物がいたとは)


 口だけの元老院の面々とは異なり、キリアンは自ら剣をもつ覚悟は、あるようだ。


「国境警備隊が逃亡する事で国内に侵入を許してしまった今、またこれ以上の侵攻を許さないためにも、何者であれ迅速に現地に向かい応戦するしかありません。

 我が領は王都からよりも速く軍を現地に派遣することが出来ると読み、皆様の承認の前に勝手ながら指令を出させて頂きました。

 マギラ軍は五千騎ほどと情報が入っております。

 現在ゼルフィア牢獄において、七百名が入り組んだ地形を利用し戦場を狭め応戦している模様。

 各領から合わせて三千騎程を向かわせています。それによって、それ以上の侵攻は食い止められるでしょう」


 自分が一人でマギラ軍を撤退させてみせるというのではなく、あくまでも『足止めとする』といってきている所は、冷静さと、計算を感じさせる。単に手柄に目が眩み、無謀な事を言ってきているわけではなさそうだ。

 彼の事なら、それなりの策を講じてのことではあるのだろう。戦の経験のないキリアンが、どこまで戦えるというのかは、あまりにも謎。


 キリアン自身の剣の腕前はなかなかなもので、昨年の武闘大会において優勝したと聞いている。レジナルドはその時出征して見てはないが……。

 とはいえ、その武闘大会は戦いのプロである、王国軍、近衛兵を除いた貴族の間で行われるので、どの程度とみるのかは難しい所。

 任せてみるというのも面白そうではあるが、戦の素人に、大変なこの事態を任すわけにもいかない。

 レジナルドは華やかな笑みを浮かべ口を開く。


「バーソロミュー候のおっしゃる通り、あそこは大軍での侵攻には難しい場所。 

 戦場を狭めて戦うのが最善ともいえましょう」


 意外にもレジナルドが肯定した言葉を言ってくることに、キリアンは驚いた顔を向ける。

 王国軍としての立場から、一番に異を唱えてくる思っていたのだろう。内面と戸惑いとレジナルドに対する嫌悪感を隠すように口角を上げ向きなる。


「そこで我が軍も、現在ゼルフィア牢獄に向けて六千の兵を向かわせている所です。

 遅くとも今日中にも到着することでしょう」


「今日中ですって?!」


 キリアンは、信じられないという顔でレジナルドを見る。


「遠征からの帰路にあったブルーム大将も、昨日の段階でマギラ軍の侵攻を察知したようです。国境入った所で、部隊を再編成し、即現地に向かったようです。早馬で書簡が先程届いた所です」


 キリアンの表情が強ばり固まる。その眼の奥には、レジナルドに対する激しい憎しみに近い怒りを感じる。単に、手柄を奪われたにしては強すぎる感情に内心レジナルドは戸惑う。しかし穏やかな笑みだけをキリアンに返し、レジナルドはそのままゆっくりで会議室を見渡す。自分の厳然とした態度が、周りにどういう印象を与えるか知った上での行動である。

 レジナルドの言葉に王や元老院の議員は、とたんにホッとした表情になり、一気に緊張感が説かれた。皮肉屋のレゴリスの為人は苦手でも、能力はそれなりには認めてはいるようだ。


「ブルーム大将が、向かっているとはこれほどの最善はない」


 ヴォーデモン公爵は晴れやかに言い放つ。明るくなった会議室の中で、一人ジッと何かを考えている様子のキリアンをみて、レジナルドは声をかける。


「しかし貴公の鋭い洞察力と実行力には感じ入りました。

 そこで今回貴公に甘えて、協力をしていただいてもよろしいでしょうか?

 ゼルフィア牢獄に向かっている領軍にはそのまま、ゼルフィア牢獄の手前の都市ザルムの守護に当たっていただきたいのですが」


 キリアンは目を一瞬見開き、怪訝そうにレジナルドを見やる。


 てっきり、後は任せろという感じで撤退させられると思っていた地方領軍に、任務を依頼してきたレジナルドの意図を察し、それにどう動くのが得策なのかを計算しているようだ。

 逆にレジナルドは、キリアンの率いる軍の動き方で彼の真意と、彼の兵の統率能力が、それによって計れると踏んで、あえて協力を依頼してみたのである。

 キリアンは細い切れ上がった目を細め、薄い唇をクッとあげ笑みの形を作り、頭を下げる。


「喜んで協力させて頂きます」

 

 穏やかに誠実な言葉を返してくる、キリアンの目は嘘は言ってない。しかし明かに好意ではない感情をそこにレジナルドは感じた。元老員の人間から自分が信頼され好感をもたれているとは思わない。また金眼をもつ事で人に接する事を不愉快に思う人がいる事も理解している。キリアンの自分に対する感情というのは、嫌悪、嗟歎そして……その奥にあるものがよく見極めることができない。何故か憎まれているのだけは分かる。


「王国軍はマギラ軍の撃退の任を担当し、領軍には国民の援助を目的とした任務を担当してもらいます。

 逃亡した領軍を間近で見ていた都市ザルムの民の援助することで、民衆のいらぬ動揺の拡大を抑えることができます。また遊軍を配置することで、前線の兵が思う存分戦え、敵に対しても良い圧迫を与えることができるでしょう」


 こちらの意図をまったく、理解してないキリアン以外の議員へ、ご丁寧な説明を付け加える。民衆に対して元老院の顔を立てた形になったことに、ヴォーデモン公爵はいたく満足した様子でカエルのような顔でニヤリと笑う。そして、大げさに手をあげる芝居じみたポーズをとり、注目を集める。


「これで、問題はなくなった。元帥! あなたのご子息のレゴリス殿が向かったとなれば、もう安心です! 王それでよろしいですね!」


 もう全て解決したかのような口調で、強引に会議を終わらす。面倒臭い事は人に任せ、色々今回の事で、彼なりに仕事があるのだろう。目を細め、冷たい視線をカッセル伯爵に向ける。


「カッセル候そなたへの処分は、この事態が収拾したときにまた、改めてということで……」


 ヴォーデモン公爵の冷酷な笑いに、青ざめたカッセル伯爵の顔から、色すらなくなっていった。なんとも、嫌な空気を残し散会となる。


 レジナルドも、さっさと会議室を飛び出す。予定外の行動をとることになったレゴリスの行動をカバー、国境を守る兵の再編等、やらねばならぬ事はいっぱいある。

 会議室に残ったバラムラスが、地方領軍との調整はしてくれるだろう。レジナルドは軍司令部へと急いで引き返すことにした。


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