2-7 <亡霊の系図>
レジナルドは、自分をジッと見つめるバラムラスに、気になったもう一点の理由を聞くことにする。
「ところで 罪滅ぼしとは?」
「……ゼルフィアの牢獄にいる囚人、レジナルド殿は、誰を思い浮かべます?」
ゼルフィアの牢獄は、宝石鉱山で、そこにいる囚人は過酷な採掘労働を課せられる。その為に数々の悪行を行った窃盗団など、重罪を犯した者が収監される牢獄でそこから出されることはまずない。過酷すぎるその環境に、殆どのものは五年と持たずに、身体を壊し死亡すると言われている。
「窃盗団赤狼の頭領ザキ・バズグとか、街道荒らしのドン・ラルドとか、最近で思いつくのはそんな所ですが」
「ま、そういうヤツラもいるようだが、あそこには、ヴォーデモン公爵に逆らう……いや違うな、彼の邪魔になった者も入れられています」
「馬鹿な、サリジア牢獄の方ではなくて?」
そちらは綿花の農地が広がっている地方で、綿の生産で肺を痛める者はいるものの、命の危険まではないことから、数ある牢獄の中でも、まだマシともいえる環境の牢獄である。
「ゼルフィアを管理しているのはカッセル伯爵、入れておくだけで自然に邪魔な者が死んでいく、何かと都合いいからでしょう」
淡々とした表情の奥に怒りを秘めながらバラムラスはつぶやく。
レジナルドもその内容に眉をしかめる。
「わしも罪は変わりませんね! その事を止めることもできず、ただ傍観しただけですから」
バラムラスは眉間のしわを深めて、思い詰めたようにジッと宙を睨む。怒りを同じにするレジナルドも拳を強く握る。
「そこで、今回の事件です! あそこの囚人が立ち上がり、マギラと戦ったと、情報を聞きました」
「だから、恩赦を嘆願したのですね」
「だいたい、単なるならずものが、アデレードの為に戦うものですか! 立ち上がったのは、間違いなく国に何かの想いを残している彼らです」
バラムラスは大きくため息をつく。
「私は恩赦だけ与えて自由にするだけで良かったのですが……レゴリスのヤツは、彼らを王国軍に取り込む気です。
それが彼らの為……それ以上に貴方の為になるのかが、私には分かりません。
だからこそ、相談しかねていました。貴方を危険にさらすような存在ならば……再び葬りさる覚悟もしていました」
バラムラスそう言って顔を上げ、レジナルドの顔を強く見つめる。レジナルドは、バラムラスの想いに言葉をなくす。
バラムラスは、レジナルドの事を、国を想い戦った者を犠牲にしても、守るほどの存在と想っているというのか。
「貴方にお話してしまった以上、彼らを受け入れるかどうかは、貴方の判断にお任せします」
バラムラスは重く静かにそう言い、レジナルドに頭を下げた。
「…………というわりに、もう受け入れる方向で、話は進んでいるように感じるのは気のせいですか?」
レジナルドの言葉に、バラムラスは苦しそうな顔をする。
「最初に恩赦を求めたのは私ですが、その後の流れは私ではありませんよ」
レジナルドは驚いたように、バラムラスの顔をみるが、その目は嘘やごまかしなどしてないと示している。
「亡霊が……また蠢いているようです」
バラムラスは苦々しく顔を歪める。
「――亡霊――か」
レジナルドは不快を示すように顔を歪めた。
「民衆の間では、何故か息子の活躍よりもゼルフィアの義勇軍のほうが英雄視され、元老院や王家に対する不満がわき起こっています」
「そのようだな」
レジナルドも気付いていたが、バラムラスがあえて、そういう流言を流したのかと思っていた。
「そのこともあり、ゼルフィアの牢獄に今誰がいるのか……調べようとしたのですが……」
「ああ……」
「記録が焼失して分かりませんでした」
レジナルドは目を見開き、バラムラスをみた。
「先日の、書類庫の火事ってソレだったのか?」
バラムラスは重く頷く。
「その棚だけが、それは……見事にね! 私としては、もう一つ気になる点があり、ある他の棚の資料も調べたのですが……」
「気になる?」
「息子が気に入っている人物と思われる容貌がね……昔の知り合いを思い出させて……その人物の記録を見に行ったのですが」
「そこも焼失していたのか?」
バラムラスはフッと苦い笑いを浮かべ、首を横にふる。
「その資料の見た目は綺麗なままでしたよ……でもある一ページだけがないのですよ。私が見たかったページだけが」
バラムラスはおどけたように「それも綺麗にね、切り取られていました」と付け加えた。
「誰のどういう記録なのだ?」
レジナルドは耐えきれず質問する。
「現在、元老院を騒がせている、亡霊の家系図です」
レジナルドは絶句する。
あの一族で死刑を免れたのは十二歳以下の子供だったはず。大の大人ですら五年も持たないと言われているあの場所に、そんな子供を送ったというのか!
その人物に関係する者が三年もの月日、その子らを守り、ゼルフィアの囚人を率いて戦っていると?
レジナルドは、考え込む。その様子をバラムラスは静かに見守っていた。
そして、覚悟を決め、バラムラスに頷く。
この続きはムーンライトの方で公開されています。
コチラにR18としている小説のリンクアドレスは紹介できませんので、
ご興味のある方は、ご面倒ですがムーンライトの方で『白い黒猫』か
『間白き風にそよぐ黄金の槍』で検索されてください。
R18といっても、今の所、若干のラブシーンがあるくらいで、あそこに掲載されている作品にしては緩すぎる描写となっています。