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真白き風にそよぐ黄金の槍 (旧)  作者: 白い黒猫
二章~石国の王~
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2-4 <石国の王>

 作戦司令室となった上級士官用食堂に、王国軍の大隊長以上の士官と、腕に自信のありそうな若い囚人達が集まる。汗と体臭の混ざった、何とも言えない臭いと緊張に満ちた部屋は、それだけの人数の人間がいるわりに静かだった。


「マギラは、決着をつけたい為に明日は一気に攻め込んでくる筈だ」


 ミラーは静かに語り出す。


「しかしヤツラは王国軍の到着に気付いていない。やるべき事はもう分かっているな? この牢獄前にある空間にヤツラの一部を誘い込み、分断する」


 そしてレゴリスの方を見てニヤリと笑う。


「そしたら王国軍の皆様が、マギラのヤツを叩いて下さるそうだ」


 レゴリスは片頬をあげ苦笑しながら軽く頷く。

 作戦としては悪くはない。ただ、問題は先陣をきってでる部隊の能力。ここまでマギラと戦い生き抜いてきたということは大きい。確かに彼らの戦いを見てみたい気持ちはあったが、彼ら一歩間違えた動きをすると、戦場は乱れ混戦となり無駄に犠牲を増やすことになる。レゴリスは悩む。


「で、その誘い込む部隊を誰が動かす? 部下にお前達の格好をさせてもよいが」


 ミラーは、しばし悩み視線をチラと動かすが、すぐにレゴリスに視線を戻し、首を横にふる。


「必要ない、我々がする」


 キッパリと言い切るミラーの言葉に、王国軍の士官達は不安げな表情をし、レゴリスの言葉を待つ。囚人たちにも緊張が走る。彼らは戦いを覚悟しているとはいえ、明日の戦いで全てを決すると思うと切迫した気持ちにもなるだろう。


 レゴリスは周囲のその様子を伺いながら、最初から気になっていた違和感の答えを見つける。ミラーは冷静沈着で、かなり頭の良い男だ。しかしトップに立ち、人を引っ張っていく人物にはどうも見えないのだ。

 軍隊にいて、多くの人物を見てきたからこそ分かる事だが、こいつは参謀として力を発揮するタイプ。バートやドンもそれなりの戦闘能力はありそうだが、ミラー以上に、五百人超す集団を、ここまで見事に統括出来るリーダーには思えない。

 囚人達はミラーの言葉を聞きながらも、違う人物の気配を追い、その人物からの指示を待ち、ジッとこの場にいるように見えた。

 ミラーも今、答える前に意志を確認するように、チラリとある人物を見た。

 彼が緊張状態で、唯一行ったミスともいえる行動。それまでミラーは、レゴリスや王国軍が納得する指導者を、完璧を演じていた。


『人の心は目に現れる。目をみれば嘘も本心も見えてくる』

 友であり上司であるレジナルドによく聞かされていたからこそ、気がつくことができた事実。


 その人物は、防塵フードを目深に被ってその顔はよく見えない。熱気と緊張に満ちたこの部屋の中で、ただ一人悠然と部屋の様子を眺めている。レゴリスの視線に気付き、その人物の口は笑みの形をとる。レゴリスの視線に、隣にいた少年がフード越しに激しくレゴリスをにらみつけてくる気配がする。またバートがさりげなく動き、レゴリスからその人物を隠す。

 レゴリスは、露骨すぎる彼らの不用意な行動に、余計にその人物の事が気になる。王国軍は、彼らの王に謁見を許可されるほどまでは、まだ信頼されていないようだ。コチラからまだ、触れるべきではないだろう。レゴリスは、あえて触れずにミラーに視線を戻す。


「この作戦は、その部隊が成否を握っているといっても過言じゃない。繊細で、大胆な指揮をとれるものが必要だ。それを出来るヤツが、ここにいるというのか?」


「ご心配は当然だが、あんたらに迷惑をかけない動きをすることは約束する」


 ミラーは静かに王国軍の指揮官を見渡しながら、力強く言い切った。


「その証明は?」


「……俺達は、こうして生きている。それで分かってもらえないかな?」


 ミラー静かに絞り出すような声を出す。


「で……誰がその隊の指揮をとる? 貴方か?」


 レゴリスは、ミラーを真っ直ぐ見つめ、そのあと視線を彼らの指導者と思われる人物のいる方向に移動させる。


「……ああ」「私がとる」


 ミラーの返事を遮るように、落ち着いた高い声が響く。

 顔をしかめ、ミラーは小さく溜息をつく。


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