第1話
「まるで悪役令嬢モノみたい...」
思わず零れた言葉は侯爵令嬢に向けるには不敬に極まりない言葉だった。
自身の失態にハッとして口元に手を当てる。
小さく視線を動かして辺りを見渡したが、
無礼な言葉を拾ったものは幸いにも居なかった。
悪役令嬢モノ、この世界では存在しない言葉。
ずっと感じていた違和感の正体に気が付いた瞬間だった。
私、ここではない世界の記憶がある。
これはきっと前世と呼ばれるもの。
その世界ではたくさんの創作物が流行っていた。
『悪役令嬢モノ』と呼ばれるジャンルは非常に良く親しまれてした。
だからこそ、この世界が『どんな物語』か分からない。
ここが本当に物語の世界なのか、それとも全く関係のない世界なのか、私には調べる術はない
ただ、お茶会のメインテーブルを彩る華やかで美しい華は『悪役令嬢モノの主人公』に見えて仕方がない。
彼女はチューベローズ・ジギタリス侯爵令嬢。
この国で皇族の次に高貴な令嬢。
真紅の髪と濡れた鴉の様な美しい黒色の瞳を持つ15歳の女の子。
彼女は美しい悪魔と呼ばれていた。
3年前、高熱を出した彼女はその日を境に悪魔ではなくなった。
まるで、今まで悪いものが憑いていたかのようで、今では清廉潔白でどこか幼さの残る完璧な令嬢。
そして、私は『聖女』と呼ばれている。
光を写した金の髪と同じく白金の瞳。
悪印象を持たれることの少ない柔らかな雰囲気。
まるで『ヒロイン』だ。




