山奥の秘湯 二人の関係
温泉回です。異世界人はたくさんの文化を残したようです。
オリバーが薬師になると宣言してから効率的にクエストを行うようになった、薬師ギルドの入門期間までにお金をできるだけ貯める為だ、そしてオリバーの慎重さは病的と言っていいほどになった。
「何度も言っているが俺たちはちょっと強いだけの凡人だ、大げさかもしれないけど石に躓いて転んだ拍子に岩に頭をぶつけても死ぬ、それに怪我をすれば治療にお金がかかる、その間クエストもできない」
この世界には医療保険制度なんて便利なものはない、オリバーの好きな小説に出て来る制度だ、アヤノ家では将来的にルイの手で年金制度と共に実現することになる。
仮に大けがをした時に偶然高位回復魔法の使い手がいて治療したとしても失った血までは戻ってこない、治療は成功しても最悪出血死もありうる、そうでなくても血が元に戻るまでの回復期間がある。
そんな緊張感あふれる日々を過ごしていたある日にオリバーが提案をしてきた。
「最近は根を詰め過ぎたから温泉でも行かないか?」
温泉と言うのは間違いなく過去の異世界転生者が広めた文化だ、地熱を利用した湯あみの事だ。
研究した小説にかなりの割合で出て来る、異世界転生者は色々な人がいたとされるが、圧倒的に一部の地域からの転生者が多い傾向がある、転生者の見解では”異世界転生を強く望むものが多く、異世界転生と言う概念が強い土地ほど異世界転移と言う現象が発生しやすいのではないか”と書き記されてあった。
異世界の言葉での走り書きだ、何故その土地で異世界転生と言う概念が強く、そしてそれを望むものが多いのかまではわからない。わかっているのは魔力は無いがカガクと言う魔法や女神が与えた権能ですら凌ぐほどの圧倒的な力を有した世界であるという事だけだ。
その様な圧倒的な力が有りながら何故こちらにきたがる者が多いのか謎が多い。
ともかく久しぶりの旅行だ、あのバーベキュー以来ではないだろうか?
以前、オリバー、リリィ、ロックが三人で歩いた山道を歩く。泊まりだがまだ暖かいのでテントを張るまでではない。シートで十分だ。
「ねぇ、どのくらい歩くの?」
「ギルドの地図とロックの話だと夕方くらいにつく感じだな」
魔物はダンジョンが発生した森に集中して山岳地帯にはほぼいない、怖いのは熊だけだが熊だって人間が怖い、鈴をならし定期的に風魔法で空気砲をならせば安心だ、それに探知魔法もある。そもそもロックが一人でいけるくらいだ、安全である。
途中で休憩や昼食をとりつつ思った以上に時間がかかったが目的地に到着した。石碑に「♨異世界温泉♨」と掘られている。
「えっと、マークの意味は不明ね、私の研究だと....この世界の温い泉?かな温い泉だしここで間違いないわね」
「なあ、リリィもう暗いしこの時間だ、誰も来ないしリリィの探知魔法もあるしさ、その一緒に入らないか?いや、一緒に入りたい.....です」
あら、何?凄く照れてる、もしかして最初からこれが狙いだった?可愛いクマさんだ事。
「そうね、多めにバスタオル用意してきたし、オリバー君は残念だろうけどバスタオルを巻いてならいいわ」
余談だが、温泉にタオルをつけるのはマナー違反と言い伝えなかった異世界人を呪うしかない。
「あ、ああそうだね。俺も腰にタオルを巻くよ」
「ほらリリィ、ちょっとここ危ないから捕まって」
岩を乗り越えて温泉に入るようだ、こんな時でもオリバーはエスコート上手だ。本気でリリィが転んで岩にぶつからないか心配している顔だ。
「ありがと、このお湯の色は乳白色なのね、確か湧き出る水に地熱で岩の成分が溶けだしているんだってね、現地の人も時々利用しているから安全よ、言い伝えじゃ美人の湯と言われているそうね、異世界人の書き残した手記によると肌の古い層が落ちてお肌つるつるになるとの事ね」
緊張しているのかいつもより饒舌になってしまう。
「そうなのか、よく小説に出て来るけど、大自然の中であったかいお湯につかるのは気持ちいいだろうな程度にしか考えていなかったよ」
「そうね、それだけでもここに来た価値はあるわ」
しばしお互い無言になる、少し狭い岩風呂、互いの肩は触れあっている。
静寂の中に虫の声、遠くの沢の音、風で木の葉がかすれる音だけが響く、心地よい時間が過ぎる。
リリィが妖艶な笑みを浮かべオリバーに話しかける
「オリバーったら顔が真っ赤よ?緊張している?」
リリィの色っぽさ、妖艶さが月明かりに照らされてより鮮明に強調されている。
「きゅ、急におねえさんぶるなよ、リリィだって真っ赤じゃないか」
「あら?湯あたりかしら?ちょっと長い事浸かっていたものね、先に上がらせてもらうわ」
リリィが立ち上がった所、足を滑らせオリバーが咄嗟に引っ張り引き寄せる。
お互い密着する。オリバーはギリギリの所で理性を押さえ切った。
「だ、大丈夫?怪我ない?」
「え、ええ、ありがと、大丈夫よ、上がるね」
(これ、生殺しもいい所じゃないか!誰だよ露天の温泉とかいいだしたの、ロックだよな、今度酒に付き合ってもらうぞ)
つい最近に飲み会の席で天才と持てはやしていたのは忘れたようだ。
(しかし、月明かりに照らされる湯上りのリリィは,,,,,,,,)
(まるで小説で描写される月の女神そのもののように綺麗だ、この景色だけは俺だけの一人占めだ、誰にも渡さない)
オリバーが温泉で決意を新たにしている頃リリィは
(オリバーったら凄い、心臓がドキドキしてた、やっぱり興奮してくれるんだよね?すぐ私を美人だ綺麗だ、かわいいって言ってくれるから嬉しいけど、こうやって肌を重ねると本当に私の事想ってくれている事が分かる....答えてあげたいけど外はちょっと、ごめんね)
お風呂上りに焚火を前に登山前に凍らせておいたお茶を飲む、ちょうど溶けていて飲み頃だ。
リリィは満点の星空の下オリバーの裾を掴んで囁く。
「今度はテントを持って秋くらいに来ようね」
オリバーはあまりの唐突な提案に虚を突かれ、耳まで真っ赤にしながらどうにか返事をした
「ああ、そうだね」
(耳まで真っ赤、無理しちゃって、可愛いクマさん)
リリィは優しく微笑んでいる、オリバーはその顔に見とれてじっと見つめていた。
「……見るな」
月は二人を照らし夜は更けていった。
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