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精霊の娘ジュジュと火竜の王子 ー森からはじまるふたりの旅ー  作者: ななこ


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7 火竜の国の王子

 ジュジュの足取りは軽い。


 次の階で、またアオイに会えると信じていた。


 大樹様の枝に手を伸ばし、木の実を分けてもらう。それをハンカチに包んだ。


「きゅいん」


「アオイにも食べてもらいたいの」


 ブラックの前に、赤い実をそっと置いた。


 きゅいんとひと鳴きして、迷いなくかぶりつく。



 扉の隙間から、初夏の風が吹く。


『ひとつ探しあてたね』


 扉が開き、頁がめくれる。


『鳥よりも高く、果てしない空を君と――』



 強い風が吹き抜ける。

 山の頂だった。


 ブラックを追って下ると、アオイが木を見上げていた。


「アオイ!」


 指で静かにと合図される。


 木の上には、羽を休める少女がいた。


 光を透かす羽は、ステンドグラスのようだ。


 少女はふたりの前に降り立つ。


「どこから来たの? ここは風妖精の村よ。案内してあげる」


 枝で組まれた丸い鳥かごのような家々。


 村には大勢の妖精がいた。


 少女――ミドリは、花蜜でもてなしてくれた。


 ジュジュが大樹を上って来た森人だと話すと、ミドリは羽を震わせた。リン、と羽が澄んだ音を立てる。


「長のところに行こう」


 ミドリがふたりを風で包みこんだ。



 風妖精の長はジュジュの手をとり、静かに告げた。


「あなたは、木の精霊では?」


「父も母も、人です」


「弱いけれど、魔力を感じる」


「わたしに魔力なんて……」


「大樹を上って来たのなら、人であるはずがない。人は迷い、やがて森の外へ出されるのだから」


 胸が締め付けられ、涙がこぼれた。


「悲しまなくていい。あなたは確かに愛されて育った子だ」


 風妖精の長が微笑む。


 その言葉にジュジュは小さく頷いた。



 その夜、ジュジュは何も食べられなかった。


 ミドリが話かけても、返事は小さい。


 アオイがふいに立ち上がった。


「みんなで散歩に行こうよ」


 満天の星空。


 突然、アオイがしゃがみ込み、ジュジュを肩車した。


「空を見て、腕を広げてごらん。飛んでる気分になれる」


「怖いよ。下ろして」


 ミドリがふわりと風を送る。


 ジュジュはそっと腕を広げた。


 前にもたしかこんな風に……。


 幼い頃の光景がよみがえる。


 父の背で見た星空。隣で笑う母の顔。


 暖炉に火の灯る、温かな森の家。


 ――それは愛された記憶。


 ジュジュは大きく息を吸った。


 胸のつかえが消えた。


「……ありがとう。もう大丈夫」


 アオイはゆっくり下ろした。


「必ず僕が、森の家に連れて帰る」


 星明りがアオイの横顔を照らしていた。


 ジュジュは小さく笑った。


 指先がそっと触れ合った。



 魔女に追われていると知ったミドリは、アオイに絶えず風を送っていた。


 アオイの魔力がわずかに漏れ出ていた。


 アオイも用心して魔力を使わない。


 しばらくはこの村にいられそうだった。



 風妖精達は忙しい。


 世界中へ風を届けている。


 花を揺らす風、夏を運ぶ風、稲穂を撫でる風、冬山を越える風。


 ミドリも若葉を抜け、季節を運んで帰ってくる。


「ただいま。家にふたりがいるの、嬉しいわ」


 ジュジュは、溜めておいた朝露を渡す。


 ミドリは一口飲んで、目を丸くした。


「魔力が戻るみたい」


「ジュジュの朝露はすごく美味しいよ」


 アオイのコップは空になっていた。



 ある日、ミドリが首を傾げた。


「どうして家が花だらけなのかしら?」


「ごめん。わざとじゃないんだ」


 アオイが床を踏み抜いてしまった。


 枝を集めて直しているうちに、巨人から受けた再生の魔力が働き、家は花で満ちてしまったのだ。


「こんな家、初めて見たわ。とても気に入った」


 ただし、とミドリは念を押す。


「他の子に頼まれても、もう再生はしないで。魔女に知られたら大変」


 風妖精は噂好きだ。



 ミドリも噂話をふたりに話して聞かせた。


 ジュジュにとって初めて聞くことばかり。


「ある国の王子様が重い病にかかったそうよ。急に声を失い、立てないほど弱っているんだって」


 王妃は嘆き、部屋に閉じこもっているらしい。


「それは、どんな国なの?」


「火竜王の治める国よ」


 その国の近くには太古の森があり、雲を突く大樹が立っているという。


 ジュジュの胸がざわめいた。


 さらに今は、強い魔力の壁が森を囲い、風妖精すら近づけないらしい。


「何かを隠してるわね」


「火竜王って、どんな姿なの?」


「普段は人と同じ。でも魔力を開放すると、翼を持つ竜の姿になる。炎を使って魔物と戦う王様よ」


 立てない王子。

 ドワーフの宝石を食べて、強くなったアオイ。


 声を失った王子。

 セイレーンから歌を食べて、声を得たアオイ。


 魔女の腕に現れた、アオイにそっくりな赤子。


 王子は偽物。


 そして――アオイは、本物だ。


 ジュジュは、はっきりと確信した。


「アオイ、あなたには尻尾があるよね」


「知ってたんだね。普段は消えているけど、魔力を使うと現れる」


「その国へ行こう」


「だめだ。魔女がいたら、ジュジュを危険に巻き込む」


「それでも行かなきゃ。逃げ続けても、いつか殺されるかもしれない。でもわたしは、アオイと一緒にいたい」


 アオイは黙り込んだ。


「……少し考えさせて」


 そう言って出て行ったきり、翌朝になっても戻らなかった。



 ミドリにもアオイを見つけられなかった。


「もう会えないのかな」


 ジュジュは毎日、祈るような気持ちでアオイの帰りを待っていた。


 ブラックが本を咥えて、ジュジュの足元に置いた。


 本は、何も語らなかった。


「ジュジュの魔力を流してみたら?」


「魔力なんてないよ……」


「心で話かけてみて」


 ジュジュは本を抱きしめ、目を閉じた。


(アオイのところへ、わたしを連れて行ってください)


 体が薄れていく。階段に戻るのだ。


「ありがとう、ミドリ」


「次の扉を開けたら、私の本当の名を呼んで。ノリカ。風精霊の、緑夏だよ」


「ノリカ、また会おう!」


 ジュジュは、大樹へと消えていった。

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