6 白い夢
ジュジュは、白い光の中に包まれていた。
これは、夢かしら……
アオイもブラックも、巨人の姿もない。
光が、天気雨のように降ってくる。
肌に触れて、やさしい。
ふと、気配を感じた。
「今のアオイを見つけてくれて、ありがとう」
いつの間にか、目の前に、魔女によく似た女性が立っていた。
けれど、まとう気配がまるで違った。優しく包み込むような眼差しをしていた。
「あまり時間がないの。気取られてしまう」
声が、わずかに揺れた。
「よく聞いて。魔女に名を知られてはいけない」
「大切なものを、奪われるわ」
「……わたしからアオイを奪ったように」
「あなたは……誰?」
白い光はすっと消えた。
応えはなかった。
アオイをたたき起こし、夢の出来事を話す。
「……お母さんだ」
アオイは静かに言った。
「……どうして、僕を奪ったんだろう」
魔女は、何かを恐れているのかもしれない。
「本に手がかりは?」
「覚えがない」
アオイは、ゆっくり首を振った。
階段を上るしかない。けれど、出口は見えない。
翌朝、ジュジュとアオイは森に入った。
アオイは魔力を込め、岩や倒木を退けて道をつくった。
口元が、わずかに緩む。
ジュジュは朝露を葉にすくい、アオイに渡した。
「大樹様がお好きなの。アオイも飲んでみて」
「……おいしい。力が湧いてくる」
そのとき、地響きとともに巨人が現われた。
「嫌な気配がする。洞に隠れよう」
空は灰色の雲に覆われていた。
森を出ると、魔女が姿を現す。
ジュジュは息を呑んだ。
だが、その姿は魔女の瞳に映っていない。
「魔力を使ったね。居場所を教えてくれて助かるよ」
魔女が指を鳴らす。
火球が巨人を襲う。
苔の焦げる匂い。
すぐに再生する。
巨人の口から、真名がこぼれた。
魔女の瞳が赤く光る。
巨人の足が、ぴたりと止まった。
巨人の体の奥で、魔力がわずかに揺らぐ。
アオイが巨人の肩を叩くと、奪われかけた魔力が戻る。
「誰がお前の名を呼んだ?」
魔女の瞳孔が、縦に裂け、赤い光が灯る。
その視線が、ゆっくりとアオイを捉えた。
黒い魔力が、細く長く伸びる。
「友よ。ここでさよならだ」
瞬間、巨人はアオイを遠くへ投げた。
そして魔女へ次々に岩を降らせた。
地に大穴が空いた。
だが、巨人はそれを戻さなかった。
魔女の悲鳴が響き、やがて、その気配は消えた。
ジュジュの体が薄れていく。
「これでジュジュは階段へ戻れるね。ブラック、ふたりを頼むよ」
「また会いに来るね」
「僕の名はトム。巨人の叶夢だ」
精霊にとって名は魔力の核。本当の名を滅多に口にすることはない。
それをトムは、迷いもなくジュジュに明かした。
指先を重ねた瞬間、視界が途切れた。
ジュジュは五階の踊り場に立っていた。
「トム、指切りわかったかな」
ひとつ約束ができた。
さあ、階段を上ろう。




