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精霊の娘ジュジュと火竜の王子 ー森からはじまるふたりの旅ー  作者: ななこ


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32 終話 幸せの匂い

「わたし、パン屋さんになりたいの」


 それは、はじめて口にする夢だった。


 人が幸せになる瞬間を、ジュジュは知っている。


 迷子になった幼い日、シチューの匂いに導かれて家へ帰れたこと。


 泣き顔が、湯気のむこうで笑顔に変わったこと。


 焼きたてのパンを囲んで、みんなが笑ったこと。


「匂いはね。風に乗るの。遠くまで届くの」


「泣いている人にも、迷っている人にも」


「素敵だな。僕も一緒に笑顔を届けたい」


 二人は太古の森へ戻り、共に生きることを報告した。


 ノリカはずっと応援していたのに、ジュジュが全然気づかなくて、やきもきしていたという。


「早く教えてよ!」


「だめ。それは自分で気づくもの」


 親友の幸せを、誰よりも喜んでくれた。



 やがて、太古の森の外れ――かつての異界だった場所にパン屋が建った。


 今では、人も大勢住むようになっていた。


 色々な野菜の他に、小麦畑が広がっていた。


 その中にトムの畑もある。


 人影は見えないのに、秋には実る不思議な畑。


 汗をかけば、気持ちの良い風が吹き抜ける。


 喉が渇けば、井戸から水を汲む。


「トム。今年も豊作だったね。ノリカもお疲れ様」


 トムとノリカ。二人も共に過ごしている。


 家の壁にはツバメが巣を作り毎年賑やかだ。


「ここにはね。ミミズがものすごく沢山いるんだよ。おかげで土はいつもフカフカさ」



 ハクトは、残る火竜を連れ、国を離れた。


 もう魔物はいない。


 アオイもいつかは火竜王に。


 それまで、パン屋のカマド番。


「ジュジュ。火加減はこれくらいでいいかな」


「さすが! 焼き上がりが楽しみ!」


 ジュジュはほんのちょっぴり浄化の魔力を込めたパンを作る。


 火加減がとても難しいらしい。


「いい匂い~」


 煙が上がると、精霊や妖精達が、匂いに誘われのぞきにくる。


 焼き上がる頃には、人々も大勢やって来た。


 どんなに辛い日でも、

 ここのパンを食べれば、明日を信じられた。


 お祝いの日だって、欠かせない。


「いらっしゃいませ!」



 ジュジュは森の子。


 魔樹になりたかった女の子。


 今はパン屋の女将さん。


 優しい旦那様と毎日パンを焼く。



 長い年月がたち、森人はいなくなった。


 太古の森は、静かに、そっと閉じられた。


 そこにあるのに、見えない。



 それでも、近くを通ると、どこからかパンの焼ける匂いがした。


 お腹が空いた人は、なぜか家に帰りたくなる。


 幸せな顔で。



 空には時折、長い尾をひく竜のような雲が浮かぶ。


 子ども達はその雲を見上げ、物語を語り合う。



 ――昔々、大昔。


 火竜の治める国があり、天に届く高い樹が立っていた――


『さぁ、勇気のある子は森にお入り。

 いいものがあるかもしれないよ』

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。


ジュジュやアオイたちと過ごした時間が、ほんの少しでもあたたかいものとして残ってくれたら嬉しいです。


もしよろしければ、感想などお聞かせいただけると、とても励みになります。

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