表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊の娘ジュジュと火竜の王子 ー森からはじまるふたりの旅ー  作者: ななこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/32

28 帰る場所

 精霊王たちが、互いを引き寄せる。


 強大な魔力が異界にまで届き、空間が歪む。


 アオイの体がぐらりと揺れた。


 重力が、消えた。


 ジュジュの体が、ふわりと浮く。


 次の瞬間、背から滑り落ちていた。


「ジュジュー!」


 鋭い爪を持つ竜では、掴めない。


 風も受け止めきれない。


「火竜! 東へ抜けろ!」


 琥珀から声が響くと同時に、しなやかな蔓がジュジュを捕まえ、アオイの背に戻した。



 異界の地が、轟音とともに太古の森へ崩れ落ちる。


 大樹は樹頭から裂け、枝が次々に折れた。


 寄り添うように張っていた蔦も剥がれ落ち、消えていった。


 大樹の根元に大きな扉が開かれ、森人たちは全て受け入れられた。


 ――最後に根元だけを残し、大樹はその姿を消した。



「くっついてるのか、壊れてるのか、わかんないよ!」


 ノリカの羽が大きく震えた。


「……もう、羽がもたない」


 アオイも、返事すらできなかった。


 その時、強い風が吹いてきた。


「ノリカ、お疲れ! ここからは父さんだ!」


 風精霊のハヤテが、アオイごと風に乗せた。


 疾風は鋭く、だが揺れはない。


 空を裂きながら、雲の中を突き進む。


「父さん! 遅いよ!」


「許せ。異界が落ちてくるんだ。人が先だ」


 ノリカは頬をふくらませたが、羽はわずかに弾んでいた。



 大きな湖のほとりに下ろされた。


 ミウが駆け寄り、水の膜で四人を包み込んだ。


 水の国へ。


 空気も水も、びりびりと震えていた。


 耳鳴りがやまない。


 尖塔の最上で、ミナトが世界を引き寄せていた。



 ミウは、静かにアオイたちの話を聞いていた。


「……終わったのね」


 長く続いていたものが、ようやく途切れた。


 人に戻り、終わりを得た。


 それでいい。


 ミウは、そっと目を閉じた。



「世界はつながった」


 ミナトが、深く息を吐く。


 空気も、水も、震えが止まった。


 ふいにミナトが窓を塞ぐ。


「お父様ったら」


 ミウが手をかざす。


「お迎えがきたわ。戻りますよ」


 開け放たれた空の向こうに、白い火竜がいた。



 白と青の大きな翼が並んで、大空を舞った。


 つながり直した世界を、静かに見下ろしながら。


 とてつもなく広がる大地。


 もう、どこにも大樹は見えない。



 森に降り立つと、母ミノリと父イブキが寄り添って立っていた。


 ジュジュを見つけ微笑む。


「夢のようだわ」


 母は娘を抱きしめた。


「お父さん、お母さん。生んでくれてありがとう」


 ジュジュは母の胸に顔を埋めた。妻と娘を父が大きな腕で抱きしめた。


「ジュジュ、森人の家へ。あの者たちも待っているわ」


 母の言葉に、ジュジュに笑顔がこぼれた。


「約束、覚えてる?」


 アオイが少しだけ得意げに笑う。


「僕が連れて行くって」


「覚えてるよ」


 二人は手をつなぎ、ふわりと飛んで行った。



 蜜色の花咲く木が見えた。


 若木が、今では見上げるくらいだ。


 小さな家の煙突に煙が立ち上り、パンの焼けるいい匂いがする。


 庭にいた父がすぐに気づく。


「母さん! ジュジュだ! 早く!」


 扉から母が飛び出してきた。


 二人の髪に白いものが混じっていた。


「お父さん……お母さん……」


「おかえり」


「ただいま!」


「……ちょうどパンが焼けたところだよ。食べよう」


「うん!」


 親子は家の中に入っていった。



 アオイはドワーフの家を訪ねた。


 家に入るなり、アオイは母にいきなり叩かれた。


「もし坊やに何かあったら、何も知らない母さんはどうしたらいいの!」


 アオイはごめんとありがとうを繰り返した。


 この夫婦の子になれて幸せだと、アオイは心から思った。


 そして、ドワーフの家には、汲んでも減らない水瓶が贈られた。



 異界は太古の森を囲うように戻った。


 ひび割れた大地。何もない。


 アオイは地面に手をつき、友の名を呼ぶ。


「大昔、ここは緑の地だったんだ」


「ここまで地力の枯渇した大地は、初めて見るよ」


 トムは巨人達を呼び寄せた。


 全ての魔力を地に戻すことに決めた。


 巨人ではなくなる。


 だが、トムの声は弾んでいた。


「これからは仲間と暮らせるんだ」


 花を咲かせよう。


 蝶や蜜蜂が飛びまわり、鳥たちが羽を休める場所に。


 最初に、巨人たちの笑い声が響いた。



 ジュジュは色々な種をまいた。


 魔女に倒された魔樹も挿し木した。


 優しい雨が降る。


 ここから、また始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ