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精霊の娘ジュジュと火竜の王子 ー森からはじまるふたりの旅ー  作者: ななこ


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24 火竜王の眠る部屋

 ジュジュは大きく揺れる階段を駆け上がった。


 ひときわ大きな白い扉の前で、ノリカを呼んだ。


 扉が静かに開かれた。


「これじゃあ、中が見えないね」


「本当に火竜王様はいるのかな……」


 枝がびっしりと張り巡らされ、花が咲き乱れていた。


 濃密な香りに、一瞬くらっとする。

 ノリカが風で薄めてくれなかったら、倒れるところだった。


「きゅいん」


 ブラックがひと鳴きした瞬間、枝も花も道を開くように消えた。


 部屋ではなかった。


 巨大な巣に、白い火竜が丸くなって眠っていた。


 小さなミウが姿を見せた。


「ハクト様、お目覚めください」


 クオー……


 火竜がうっすら目を開けた。


 巨躯がゆらっと歪み、人に変わった。面立ちは、青年となったアオイに似ていた。


「ミウ、久しいな。長いこと、苦労をかけた」


 夫婦は互いの手を取りあう。


「じきに、あの忌々しい魔女がやってきます」


「そのようだな。……今は大樹が相手をしているのか」


 ハクトはジュジュとノリカに顔を向けた。


「ここまで、よくぞ上ってきた」


 二人は小さく笑った。


 その時。


 床が突き上げるように震えた。まるで、何かを告げるようだ。


 生暖かい気配が、階段を這い上がってくる。


「ふたりは隠れて」


「ミウ。お前を危険にさらしてまで、名を取り戻したくはない」


「いえ。それだけではないのです」


 魔女の体内に、魔力を残してきた。


 逃さぬために。


 王の名と、子まで奪われ、己の姿すら使われ続けてきた。


「名が戻ったら、腹を切り裂き、私を――琥珀を取り出してくださいませ」


 ミウの決意は揺るがない。


「約束しよう」


 ミウは光の粒となり、琥珀の中に吸い込まれた。


 それを見届け、火竜へと姿を変えた。


 ブラックが尾の先を咥えると、その姿は尾の先へと溶けるように戻っていった。



 揺れが止まった。


 扉の向こうから、血の匂いがする。


 隙間から、冷たい魔力が流れてくる。


 息を呑み、その時を待つ。


 ギー、と軋む音が響いた。


 冷たい赤い目の魔女が現れた。


 豪奢なドレスは、棘に裂かれたようにところどころ引き裂かれていた。


「おや、まだ寝ているの? 今度こそ息の根を止めてやる」


 靴音はしない。裾の下を、ずるりと這う音だけが響いた。


「いろいろな匂いが混じっているね。出てこい」


 瞬間、鋭い枝が魔女を貫き、壁に縫い留めた。


 暴れる体を、まきつく蔓が逃さない。棘が深く突き刺さる。


 黒い血が吹きだし、触れた床がじゅっと溶けた。


『今よ!』ミウの声が聞こえた。


 ジュジュが姿を現し、魔女めがけて琥珀を思い切り、投げつけた。


 琥珀は喉奥へ吸い込まれた。


 黒がまとわりつく。


 溶けながらも、琥珀は血管の迷路を彷徨った。


 鼓動の奥へ、奥へと。


 ――そこにいる。


 琥珀から強い光が放たれた。



 体の奥を、異物が這い回る。


 ――奥深くに隠したものが壊されていくのが分かった。


 魔女の口から、名が放たれた。


 ――瞬間。


「火の精霊王――火竜、白翔!」


 火竜が、かっと目を見開いた。


 その目は獰猛で、白い炎がちらちらと吐かれた。


 大樹が、大枝を打ち鳴らした。


 創石!


 水音!


 千風!


 大樹の内に、四精霊王が揃った。


 その瞬間、逃げ場は消えた。


 大蛇が姿を現わした。


「ミウを返せ!」


 鋭い爪が腹を引き裂いた。


 ――コツン。


 小さな音がした。


 ミウの琥珀だ。


 ジュジュの投げたナイフを、ノリカの風が押し込んだ。


 刃が深く突き立つ。


 血は黒から赤へと変わった。


 血だまりの中から、蔦が琥珀をすくい上げた。


 それは、まっすぐジュジュの手に戻ってきた。それを強く握りしめた。


「外へ!」


 ジュジュとノリカは階段へ吹き飛ばされ、扉は固く閉じられた。



「そろったな」


 白い業炎が吐き出された。


 風が炎を煽る。


 石牢がのたうつ大蛇を閉じ込めた。


 水が溢れ出た黒い魔力を押し流した。



 扉が幾重にも重なり、すべてを内に封じた。



「……何が起こっているんだろう」


 暗闇。轟音。空気が震え、床が波打つ。


 ノリカの羽が、小刻みに揺れた。


 これほどの力を感じたことがない。


 ジュジュも鳥肌が立ちっぱなしだ。


 だが――今は。


 ジュジュは浄化の魔力を琥珀に注ぎ込んでいた。


 ミノリの蜜も絶え間なく琥珀に滴り落ちる。


 かつて青く澄んでいた琥珀は、赤黒く濁り、赤子の爪の先よりも小さくなっていた。

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