21 アオイの琥珀
翌朝。
ジュジュが目を覚ますと、穴蔵には誰もいなかった。
「ブラックはどうしてるかな……」
振り払うように頭を振った。
冷たい水で顔を叩く。
「大丈夫」
昨夜の言葉もまだ胸に残っている。
髪をとかし、そっと髪飾りに触れた。
支度を終え、ジュジュは地上へ顔を出した。
「ジュジュ、おはよう」
アオイを肩に乗せた巨人が、ゆっくりと腰を下ろした。
「トム! ここは巨人の島だったのね」
「会えて嬉しいよ」
「わたしもよ。……トム、その服はどうしたの?」
「もぐら母さんが縫ってくれたんだ」
濃緑の上衣にこげ茶の革ベルト。金具はもぐら父さんの仕事だ。
「似合ってるわ、トム」
そこへ。
「ヤッホー、ジュジュー!」
ノリカがもぐら母さんと大きな包みを運んできた。
ふたりはふわりと降り立った。
「ジュジュちゃんも来ていたんだね。ちょうどふたりの服もできたよ。早く見せておくれ」
押し合いながら現れたふたりは、そろいの膝丈の上衣をまとっていた。
ジュジュは淡い若草色、ノリカは薄荷色。足には動きやすい細身の脚衣。
「女の子の服は初めてだよ。また作ってあげようかね」
「嬉しい! 軽くて着やすいわ!」
「妖精村に自慢しに行こうかな」
くるりと回るふたりを見て、トムは目を細める。
「花妖精みたいだ。アオイもそう思うだろ」
「その……それなら、走っても、空を飛んでも平気だね」
ノリカがアオイの肩を叩く。
「感想がそれ?」
アオイは頭をかいた。
四人はトムの木の洞に集まった。
アオイたちはトムに素性を明かした。
「今日は驚きっぱなしだ」
本の表紙は灰色。浄化が終わるまで、もう少しかかりそうだ。
「僕に貸して」
トムの指先が触れると、淡い光が本を包み込んだ。
「すごい! 白くなっていく」
光はだんだん強くなり……
「まっ……眩しい!」
光が洪水となって押し寄せてきた。
まぶしさに目を開けていられない。
徐々に光が収まると、本は本来の姿に戻っていた。
白く輝き、丸みを帯びていた。ところどころに青みが差す。
火竜王の鱗だ。
トムは後ろへ、どさっと倒れ込んだ。
「魔力、使い過ぎたね」
ノリカがそよ風を送る。
その時。
微かな声がジュジュの耳に届いた。
ジュジュの持つカップの水面が静かに揺れた。
ミウの顔が映った。
『鱗をドワーフへ』
アオイの琥珀は鱗の中に隠してあった。
『お願い。わたしの琥珀を手に入れて』
三人は互いの顔を見てうなずいた。
鱗を手にしたもぐら父さんは唸っていた。
「お願いします」
何度も頭をさげるアオイの眼差しは、真剣そのものだった。
「本当に、覚悟はあるのか」
「はい」
ソウセキの問いに、アオイは応えた。
その声にも迷いはない。
父は小さくため息をついた。
琥珀が強大な魔力を宿していることは、すぐにわかった。
それとは、異なる魔力も。
「待っていろ」
手に持つハンマーに魔力が流された。
打ち付ける。
火が弾け飛んだ。
パリン。
鱗はふたつに割れた。
さらにハンマーが打ち付けられた。
火が弾けるたびに、形を変えていく。
もぐらのままでは力が出しきれない。
全身から汗が噴き出し、毛が逆立つ。
それでも手はとまらない。
とうとう、父は琥珀を取り出して見せた。
「こんなもの見たことがない」
まだ荒い息の父がアオイの掌に琥珀を握らせた。
琥珀の中に、黒い魔力がとぐろを巻くように残っていた。
「十日だ。これを飲み込み、耐えろ。耐えきれねば――琥珀は砕ける」
ソウセキの声は低い。
「やり抜きます」
アオイの目の奥に宿る炎は消えていない。
「待って。そんなの……もし……」
「ジュジュ。僕は火竜王とドワーフの子だ」
アオイが微笑んだ。
「行ってきます」
鍵が壁に突き立てられる。
琥珀を手にアオイはソウセキと共に消えた。
ジュジュは黙ったまま、しばらく壁を見つめていた。




