20 忍び寄る影
ジュジュがふたりの名を呼ぶと、すぐに返事が返ってきた。
互いに話したいことが山ほどあった。
大樹の階段に腰を下ろした。
「わたしも間欠泉、見たい!」
ジュジュは次は一緒に行きたいと笑った。
「見ててね」
アオイの口から、ぽっと青い火が灯った。
ふたりは拍手した。
「すごい! 本物の火竜みたい!」
「まだ“みたい”か。自由に火が出せたら、ジュジュにパンでも何でも焼いてあげるよ」
「期待して待ってる」
「わたしにも分けてね」
風精霊は人の食べ物の匂いは好きだよと教えてくれた。
今度はジュジュの番だった。
ユニコーンの話をすると、ノリカが慌てて割って入る。
「それ、どういう意味か知ってる?」
「意味?」
「ユニコーンが背に乗せるのは、一生その人を守るってことなの」
「ずっと友達ってこと? 嬉しいな」
「ジュジュはまだお子様だった」
ノリカがアオイの背を叩く。アオイはなぜか焦っていた。
「また呼んでね」
ふたりは扉の向こうへ消えた。
ジュジュは階段を上り始める。
その時だった。
足元をすくわれるように、ジュジュの体が傾く。
枝が激しく揺れ、小鳥たちが一斉に飛び立つ。
花がすべて閉じ、蔦に、鋭い刺が走った。
ブラックが低く唸る。
ずるずると、階下から何かが這い上がってくる音。
息が止まる。
ふたつの赤い光が、闇の中から現れる。
裂けた口から、赤い舌がゆらりと伸びる。
見たこともないほどの大蛇。
生臭い息が、階段を這う。
蔦の中に身を沈める。
鼻の奥が、つんと痛む。
「……くしゅん」
蛇がゆっくりと、鎌首をもたげる。
ひっと、喉が鳴る。
その瞬間、ブラックが迷いなく飛び出した。
唸り声をあげ、階段を駆け上がる。
蛇が追う。
二匹はあっという間に視界から、消えた。
ジュジュは、そのままずるずると、崩れるように座り込む。
「今の……なに……」
しばらく動くことができなかった。
ブラックはなかなか戻らない。
耳を澄ませても、何も聞こえない。
花は閉じたままだ。
震える声で名を呼んだ。
「……アオイ……アオイ……」
何もなかった階段に、小さな扉が現れた。
「ジュジュ!?」
突然アオイの目の前に、真っ青な顔のジュジュが現れた。
「大きな蛇が……ブラックが囮に……」
アオイが震える肩を抱き、椅子に座らせた。
「ブラックは強い。きっと大丈夫だ」
「うん……」
水を渡され、ようやく息が戻った。
小さな扉の先は、もぐら夫婦の掘った穴蔵だった。
「ノリカは?」
「母さんと出かけたよ」
今日は戻らないってさ、とアオイが付け足す。
ふたりだけの食卓は、やけに静かだった。
藁の敷かれた寝床を譲り合い、最後は並んで横になる。
暗がりの中、アオイの声がした。
「ジュジュは泣かなかったね」
ジュジュは、少しだけ天井を見つめてから言った。
「終わるまで、……泣かないって決めたの」
「……そんなジュジュを、僕は尊敬してるし。大好きだよ。……お休み」
「えっ」
アオイは背を向けた。
暗闇のなか、ジュジュの頬が熱くなった。




