2 扉の向こう
階段を上りながら、ジュジュの胸は高鳴っていた。
何が待っているのだろう。
広い踊り場に、大きな木の扉があった。
そっと手を伸ばす。
そのとき、本から声が響いた。
『この扉を開けたら、もう戻れないよ。いいのかい』
「戻らないわ」
『お入り』
扉は、ひとりでに開いた。
息をのむほど豪奢な部屋だった。
天蓋付きの寝台。厚い絨毯。磨き抜かれた調度品。
その寝台の上で、女性が眠っている。
思わず見惚れてしまうほど、美しい人だった。
ふいに、女性が目を開けた。
隠れなきゃ、と思ったが――視線はジュジュを通り抜けた。
見えていない。
女性は鈴を鳴らす。
「私の子はどこ? 連れてきてちょうだい」
召使いが現れ、赤子を抱いて戻ってきた。
(生まれたばかりだわ……)
ブラックが小さく鳴き、スカートの中に潜り込む。
女性は赤子を受け取り、召使いを下がらせた。
次の瞬間。
「返せ! 私の魔力を返せ!」
耳を裂くような叫びに、ジュジュの肩が跳ねた。
赤子が激しく泣く。
「腹の中で、魔力を食らい尽くすなんて」
吐き捨てる声。
「顔も見たくない」
女性の手が赤子の顔を覆う。
その腕の中に――もうひとり、同じ赤子が現れた。
ジュジュの喉が鳴る。
「当分は、これでいいでしょう」
もうひとりを、冷たい目でじっと見下ろす。
泣き声がふいに消えた。
「お前は、地の果てにでも送ってやろう」
黒いもやが赤子を包む。
(やめて!)
声は届かない。
もやは縮み、赤子ごと消えた。
女性は何事もなかったかのように鈴を鳴らす。
戻ってきた召使いに、残った赤子を渡す。
「私は疲れたわ。この子をお願い」
扉が閉まる。
女性は、穏やかな顔で再び眠った。
気づくと、ジュジュは踊り場に立っていた。
背中が冷たい。
「あれは……魔女だわ」
噂で聞いたことがあった。
ブラックが、ようやく顔を出す。
ふいに、視界がにじんだ。
別の光景が重なる。
森の中。見慣れた木々。
若い母親が、生まれたばかりの赤子を抱いていた。
皆に祝福された赤子は笑っていた。
「でも、あの子は……」
本が淡く光った。
「生きてる……」
足は震えていた。
ジュジュはもう一段上った。




