14 嬉しい再会
ジュジュは大樹となった父と母に、森の家での暮らしを語り続けていた。
「……パン生地を捏ねるのは得意だよ。焼くのはお母さん。お父さんは、いつも美味しいって食べてくれるの……」
そこで、声がしぼんだ。
壁を伝う蔦が、そっと身を寄せるように揺れた。
「……樽に残った朝露は全部飲んでくれた?」
葉がさらさらと揺れる。
まるで笑っているみたいだった。
ジュジュは花を両手で包み、そっと口を寄せた。
甘い蜜が、からだの奥までしみていく。
――お母さんの味だ。
「ブラックも飲むの上手になったね」
最初は戸惑っていたが、今は夢中で蜜をちゅうと吸っている。
火竜王のはずなのに。それでも、可愛いと思ってしまう。
本は、黒から濃い灰色へと変わっていた。
風の精霊女王が言っていた。ミウが魔女の魔力を、浄化しているのだと。
アオイが魔女の腹で食べた魔力を、ミウが取り出し、本に封じた。
浄化が終われば、アオイはその魔力を受け取れる。
その時が、魔女との対決の時。
その前に、自分も強くなりたい。
けれど、何ができるのだろう。
扉が見えてきた。
「きゅいん!」
本を抱き、名を呼ぶ。
けれど、ふたりの姿がない。
「おかしいな。もう一度――きゃっ」
扉の中から腕を引かれた。
「ジュジュ、早く! 会ったらびっくりするよ!」
アオイの弾んだ声。
もしかしたら――。
扉の中には、花畑が広がっていた。
「ジュジュー! 何か持ってない? お腹ぺこぺこ!」
ノリカは草の上に寝転がり、満足そうに息を吐いている。
「それより、早く!」
アオイの隣にいたのは、モグラにされたドワーフの父と母だった。
ふたりはアオイの魔力を辿り、地中をさまよっているうちに巨人の国へ出た。
トムがうっかり踏みそうになった瞬間、足裏をぐいと押し上げられ、後ろへ転がった。
見れば、丸々としたモグラが二匹。
もしや、と尋ねてみれば、間違いなく両親だった。
「扉の中に戻っていてよかった。階段にいたらトムの呼び声に気づかなかったよ」
「坊や、そこに誰がいるの?」
目隠ししたモグラ母さんが鼻をひくひくさせた。
「初めまして。ジュジュです。おかしな話だけど……長い間、お家にお邪魔していました」
「ジュジュちゃんが坊やの名を呼んでくれたんだって? 本当にありがとう。どうしてだか、うちでは名がつけられなくてねぇ」
父と母、代わる代わるジュジュの手をとる。
「これから、坊やたちはどこに行くんだい」
アオイは、失くした琥珀を探していることを話した。
魔女を倒したいとは、言えなかった。
「ジュジュちゃんの琥珀は、森の家の庭にあるかもしれないんだね?」
「蜜色の花の咲く木の下を掘れば、あるかも」
「なら、わしらが掘ってこようか」
「未来のお嫁さんのお宝なら、あたしが行かなきゃね」
ジュジュとアオイの顔が一瞬で真っ赤になった。それを見た、ノリカがにやりと笑った。
「でも、どうやって?」
「ドワーフはね、どこの国でも原石を掘りに行ける。琥珀も似たようなもんさ」
頼もしい助っ人だった。
道順を聞くと、二匹はすぐに地中へ潜っていった。
森の家はすぐに見つかった。
夜を待ち、地上へ出た二匹は、まず家の様子を窓から窺った。
「あなた最近変よ。昼間、仕事もしないでどこへ行っているの? ジュジュが知ったら心配するわ」
だが、夫は虚ろな目で何も見ていない。
返事もない。
夫の肩にショールをかけ、飲み物を取りに行く妻の背中。
「魔女にやられたんだろうね。ここには戻らない方がいい」
「うちに連れて行けばいいわ。にぎやかになるわね」
二匹は庭へ急ぐ。
ふと、父の胸元がわずかに蠢いた。
小さな蛇が顔を出し、細い舌をちろりと伸ばした。
蛇は音もなく、モグラ夫婦の後を追う。
気づかぬまま、二匹はあっという間に琥珀を掘り当てた。
「見事な琥珀だ」
「急ぐわよ。ジュジュちゃんの喜ぶ顔が見たいわ」
夫の尻尾を掴み、妻は地中へ潜った。
その背後を、黒い気配が追っていた。




