12 三人で上ろう
ジュジュは本に、階段へと願った。
――何も起きない。
「あれ……おかしいな。前は戻れたのに」
「少し休ませてあげなさい」
チカゼの言葉に従った。
「部屋に案内するね」
ノリカがふわりとふたりを持ち上げる。
「ありがとう。ノリカもここで休むの?」
「うん。たまにはお母さんと話したいし」
「お母さん?」
「ここ、わたしの家」
「ええっ——」
ノリカもまた好奇心旺盛な娘で、普段はミドリと名乗り、風妖精の村で暮らしていた。
三人は本を囲み、これからのことを相談。
まずはアオイとジュジュの琥珀探しだ。
「三人で階段を上れるといいな」
ふとアオイが口にする。
「ふたりが一緒だと嬉しい」
「火のアオイと、木のジュジュ、それに風のわたし。魔女が来ても、なんとかなる気がしてきた」
「全然足りないよ。わたしの魔力なんて、まだほんの少ししかないんだから」
ノリカは、まだ魔女の恐ろしさを知らない。
アオイが念を押す。
「絶対に名を口にしてはだめだよ」
「飛べなくなったら困る!」
ノリカは明るく、空気をやわらげる。魔女のことを考えると心が沈むのに、彼女がいると不思議と足も軽くなる。
ジュジュがブラックを覗き込んだ。
「えっと……ブラック様、って呼んだほうがいいですか?」
ブラックは首を横に振った。
「また大きくなった気がするけど……もしかして羽が生えて、火竜に変わるの?」
きゅいんと鳴くだけ。
「魔力不足で痩せただけで、元に戻ったんじゃないかな」
火竜王の尾にしては細いとノリカが言う。
ブラックが大きく縦に頷いた。
「じゃあ、たくさん食べなきゃね」
ジュジュが置いた実を、ブラックは食べずに本に乗せた。
実は、すうっと吸い込まれるように消えた。
本は淡く光り、人影が浮かび上がる。
「……アオイ……上って……おいで……」
火竜王だ。姿はすぐに消えた。
見えない父に向かって小さく呟く。
「必ず行くから、待ってて」
ブラックが、こくりと頷いた。
それから数日、三人は本に魔力を注ぎ続けた。
そろそろかな、とジュジュが願う。
――視界が揺れた。
気づけば、ジュジュだけが大樹の階段に立っていた。
階段は静かだった。けれど、不思議と寂しくはなかった。
深く息を吸い込み、階段中に響くほどの声で、叫ぶ。
「お父さん! お母さん! 樹樹だよ! ここにいるよ! 生んでくれてありがとう! 大好きだよ!」
声が震える。
応えるように、大樹が枝を大きく揺らした。葉擦れの音が満ち、一斉に花開く。
――届いた。
胸の奥に、あたたかいものが広がった。
ジュジュは蔦にそっと指を絡めた。
「森の家に戻っても、毎日会いに来るね。約束」
それから扉の前に立ち、本を抱きしめる。
「青生! 緑夏!」
扉が開き、暖かな風とともにふたりが現れた。
「この先に……」
アオイは階段を見上げる。
その瞳の奥には、強い光があった。
ノリカは外の様子が気になるらしい。
「見てくる!」と言って、隙間から飛び去った。
アオイは蔦に実った赤い実をもぎ、本の上に置いた。
次々に実は吸い込まれていく。
繰り返すうちに――取り込まなくなった。
「……どうしたんだろう」
「いっぺんにあげすぎだよ」
アオイは小さく笑った。
「父さんも、せっかちだったのかな」
「きっとね」
「そっか。じゃあ、また後で」
残った実を、アオイが口に運ぶ。
「……ジュジュのくれる実のほうが甘い気がする」
「え、そうなの?」
「同じ実なのに、ジュジュのは体の中が温まるんだ」
試しに、ジュジュは小さく口を開けた。
アオイが実をそっと押し入れる。
「何してるのよ」
戻ってきたノリカに見られ、ジュジュは顔を赤くした。
「食べ比べ!」
味の違いはわからなかった。
ノリカは森の様子を楽しそうに語る。
「森の家も見てきたよ」
「お父さんとお母さんは?」
「元気だった。お母さん、庭の木に話しかけてたよ。 『ジュジュは魔女見習いになれたのね』って」
少しだけ、ノリカの声がやわらいだ。
「そっか……」
「上ろう」
「うん!」
三人は互いの目を見た。
呼吸がそろう。
そして、同時に足を踏み出す。
三人の足音が、重なった。




