第8話 取引
裸のままのダンカンが連れてこられたのはジョンのいる家だった。村にあるこの家の中は強盗が押し入ったのかと思うほどの荒れようだった。
至る所に乾いた血が付着し、いつ作られたのか分からない鍋の中身は異臭を放っていた。
「じ、ジョン王様……お、お会いできて光栄……」
「……」
ジョンはただ黙っていた。黙って、腐乱し、蛆が湧いている赤ん坊をその両手で抱いていた。首に大きな切り傷があるその赤ん坊の遺体は、スライ兵によって傷つけられたものに間違いない。
「……この子は、産まれてどのくらいだろうか? 半年か? 3ヵ月か? これほど腐乱しては食う事も出来ぬ。命を繋ぐことが出来ん」
「あ、あの……」
ジョンは静かな怒りを捕虜であるダンカンにぶつけていた。国民を傷つけられた怒りを、このような赤子まで手に掛ける外道に怒りを向けていた。
「……ベネディクト。この男は見るに負けを認めたのだろう? ならさっさと食ってしまえ。食らうのも嫌になるほどの外道だが、それが我らのやり方だ」
「ジョン王。申し訳ありませんが今はまだそうするべきではないかと」
「そうするべきではない? お前はスライに長くいたとはいえ同じ想いと思っていたが……違うのか?」
ジョンは赤ん坊の遺体を見せながら問うた。
「土地が変われば物の考え方が変わるとはいえ、目の前でこれをみせられて、お前は心が動かぬのか?」
「ジョン王……」
「この赤ん坊が一体何をしたというのだ!!? 我らが何をしたというのだ!? ただ静かにこの地で生きていただけではないか!!」
ジョンの怒号を聞きつけ化粧をすっかり落としたアンソニーとクリスティーナが家の中へと入ってきた。
2人ともジョンの腕に抱かれた赤ん坊を見て絶句している。
「……ジョン王。この男はもしかすればこの戦争を終わらせることが出来るかもしれません。ですがそのためには生かしておかねば」
「生かすだと!? ふざけるな! 罪人の命をどうするかは被害者である我々が決めるのだ!」
怒号を飛ばすジョン王に近づいたアンソニーは腕に抱かれた赤ん坊を両手でしっかりと受け取った。
「戦争を止めねばこれからもっと多くの命が失われます! どうか抑えてください!」
いままで出したことも無いほどのベネディクトの大声。ジョン王もこれには少しだけたじろいだ。
「……この男に戦争を終わらせる力があるのか?」
「このダンカンはスライではそれなりの立場にあります。向こうも無下にはしないでしょう」
ジョンは怒りながらも一旦はそれを飲み込んだ。
「……いいだろう。ひとまずはベネディクト卿の言う通りにしてみよう。しかしそれが出来ないなどと言った時は……この男を粉になるまで斬りつけてばらまいてやる」
「ええ、それで問題ありません」
その場にへたり込んでいたダンカンは小便を漏らし腰が抜けていた。




