第6話 無茶な戦い
青い瞳を爛々と輝かせながら突撃していくアンソニー。
灰色の蜘蛛のようなその姿を見た敵は怯える兵士も居たが、多くは仲間を信じて勇気を振り絞り、勇敢に向かっていく。
「オアアアアアアッ!」
ついに拳の届く位置まで来たアンソニーは向かってきたスライ兵の1人を掴むと武器を払い落としながら片手で持ち上げた。
「おい待てやめろ!」
「ガァッ!」
掴まれた兵士が止めるのも聞かず。アンソニーは兵士を棍棒代わりに振り回し始めた。
「ギャアアッ!」
向かい来るスライ兵に棍棒代わりの兵士を叩きつける。叩かれた兵士は勿論、棍棒として使った兵士も首や頭がつぶれた。
──駄目だ棍棒よりも約にたたない。
痛んだ兵士を捨て、新たに倒れた兵士、槍を突き出してきた兵士を両手で持ち振り回す。人が人を使って人を殺すという異様な光景が見られた。
敵から見ればおかしな格好の化け物が圧倒的な力で暴れまわり、無双していると思っただろうが、アンソニーの心中は穏やかではなかった。
──まずいな、数が多すぎる。
アンソニーが見える範囲にいる敵だけでも600程はいる。更に騒ぎを聞きつけた兵士が森の中から出てきているのだ。灰色に染められた鎧にもアンソニー自身の血で滲んでいる。突き出される槍や剣が、徐々にアンソニーを傷つけていた。
「血が出てるぞ! 化け物め! 押せ押せ!」
「人外の力を持ってようが所詮は1人だ! やっちまえ!」
徐々に徐々に押し込まれていくアンソニー。せめて可能な限り敵を倒して損害を与えてやろうと考え奮戦した。
「おお! 見ろよ援軍が来てくれたぞ!」
「流石にこいつ1人に大所帯すぎるが。化け物を倒すためなら仕方ないか」
スライ兵達が援軍の到来に色めき立つ。これはアンソニーにとっては更なる苦難を予見させた。
──ん? あの旗……
スライ兵を振り回しながら敵の言う援軍を見た。そこには鋼の甲冑を身にまとい、旗を掲げ馬を駆る集団が見える。数にして100人程度であろうそれを確認した瞬間、アンソニーから思わず笑みがこぼれた。
「ハッハッハ!」
突然人のように笑い始めたアンソニーに困惑するスライ兵。
「とうとう狂ったか!」
「元から狂ってるだろ」
周囲を取り囲むスライ兵達はきっと勝利を確信していたことだろう。かの騎馬隊はきっと眼前にいるアンソニーを打ち倒してくれるはずだと。
「そうれやっちまえ……え?」
後ろで控えていたスライ兵が援軍の騎馬隊に対し応援をしようと腕を振り上げた。
だがその兵士が見たのはスライ軍の本隊に突撃していく騎馬隊の姿だった。
「んなぁッ!? ふざけるな! そいつらは味方だぞ!」
きっと油断していたのだろう。スライ兵と同じような旗を掲げていたから。
だがスライ軍が掲げている十字架だけが描かれたそれとは異なり、騎馬隊が掲げている旗は十字架に白百合が描かれたもの。微妙に違う。
「儂に続け! ルミナの民よ!」
「うぉおおおおおおお!!」
騎馬隊が突撃していくのとほぼ同時、アンソニーが来たのとは違うところからジョン王率いるルミナ軍が姿を現した。
「て、敵の援軍か! おのれだまし討ちとは卑怯な!」
突然の敵の援軍にスライ兵達は浮足立った。どうしたらいいのか分からず棒立ちになる者もいた。
「アンソニーの馬鹿ッたれを助けてやれ! 全軍突撃!」
そう叫びアンソニーの後方から現れたのはベネディクト率いるルミナ軍の本隊だ。
──皆が来てくれたか。じゃあ僕も頑張らないとね。
萎えそうになっていた自分に喝を入れ、アンソニーは再び暴れ始めた。
「あああどうなってんだ!? 右も左も敵まみれじゃないか! 誰か助けてくれ!」
「やめろ逃げようとするな! 後ろがつかえてるんだ! ぐぅ……」
そこからのスライ軍は悲惨だった。逃げようとした味方に踏みつぶされ、立ち向かおうとした兵士は気合十分なルミナ兵に集団で突かれ斬られ果てた。
結果、スライ軍は這う這うの体で逃げ出し、敗北した。




