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第4話 狂った予定

 アンソニーは兵士によって化粧をすることになった。顔は赤と黒の塗料で蜘蛛のような8つの目を描き、肌色の部分は灰色に塗り上げる。上半身、腕と足には革の鎧をつけさせ、それには灰色の塗料で染めた落ち葉をまんべんなく貼り付ける。


「……俺は何を見ているんだろうか」


「アンソニー卿の戦装束ではないですか。何も呆れるようなことはありませんぞ」


「ああうん。そうだな」


 ベネディクトは近くで見ている兵士との温度差を感じながらもアンソニーの化粧を見守っていた。


「完成しました!! うふふふふお似合いですぞ! これぞ恐怖!」


「俺にはその感性が理解できんが……まぁ確かに何も知らずにこれをみれば確かに恐怖だろうな」


 ベネディクトが見たのは、まるで人型の蜘蛛のような風体のアンソニーだった。


「どうですかぁアンソニー卿! 私の化粧は!」


「化粧というより仮装だけど……うん。これなら敵も驚くだろうね。ありがとう」


「お礼には及びません! それではアンソニー卿、ご武運を! 先祖の加護があらんことを!」


 行ってくる。アンソニーは棍棒を両手に握り、森の中へと駆けて行った。


「偵察に行ってこい。見張りが引きつけられたら突撃する」


「了解しました。……そういえばジョン王は?」


「別動隊を率いて側面から回り込む手筈だ」


 




「おい、俺は逃げるぞ」


「ふざけんな。お前も戦え」

 

 昼間であるにも関わらず薄暗い森の中、そこにいるスライ軍の兵士は異様なものをみていた。


 蜘蛛のような何か、アンソニーである。


「ヴァアアアウッ!」


 低い唸り声を響かせながら棍棒を両手に持って迫って来るアンソニーに、スライ兵達は恐怖する。


「おおかたルミナ兵なんだろうが、1人で突撃してくるのは無謀としか言いようがないな。というかなんだあの格好は。あの蛮族は何を考えているんだ」


 スライ兵達は槍を構える。10人程度の少ない手勢ではあるがその槍襖は突撃してくるアンソニーを必ずや串刺しにすると、そう思っていた。


「ラァッ!」


 猛進してくるアンソニーは短く叫ぶと地面を棍棒でおもいっきり振り抜いた。


「はっ、狂ってるのか。距離が掴めてがふっ!?」


「なんだ!?」


 スライ兵は指揮官を除いて兜を持たない兵士である。だがこの時ばかりは彼等も兜があればと嘆いたことだろう。アンソニーの振るった棍棒は地面を抉り、土や石を前方にいたスライ兵に飛ばしたのだ。


 結果、1人は顔に石が当たり槍を下ろし、他のスライ兵も視線が逸れた。


「ヴラァッ!!」


 スライ兵の1人が再び視線を戻すと、見えたのは振り下ろされる棍棒だった。


「あっ...…」


 せめて怖くないよう、目を閉じていよう。スライ兵はそう考え目を閉じる。アンソニーの振るった棍棒は彼の頭を横からおもいっきり叩き、頭蓋と脳味噌を地面にぶちまける。


「ヴェアアアッ!!」


 棍棒の届く位置まで近付かれた時点で、スライ兵達の敗北は決定した。嵐の如く無茶苦茶に振るわれる棍棒に彼等は対応できず、ただ一方的に撲殺されていく。


「ひぃぃぃぃっ!? 何なんだこいつは!」


 生き残った1人が槍も何も投げ捨てて逃げ出した。仲間がまだ抵抗しているがそんなことは気にしない。あんな化物に殺されるよりも逃亡の罪で鞭打ちでも食らったほうがまだましだ。


「ピギェエエエエエエ!!」


 アンソニーは甲高い声をあげると、逃げるスライ兵を追いかける。


 しかし棍棒を2本も持ったアンソニーは敵の目の届く距離まで近づくのが精一杯だった。


「ひぃっ! なんなんだよお前は! こっちに来るな!!」


「ヴェアアアッ!!」


 下草もほとんどない森の中、スライ兵との鬼ごっこが始まる。


 しかし、アンソニーは知らなかった。スライ兵は本隊のいるアダム村へと一直線に向かっていたのだ。


 この光景を後ろから見ていた偵察のルミナ兵達は焦った。


「そっちではありませんアンソニー卿! 側面に回り込んでください!」


 姿を隠していたルミナ兵は構わず叫ぶが、既にアンソニーは遠く、声は届かなかった。


「大変だ! 予定が狂ったぞ!」


「多分俺達が攻めてきたのがバレた!」


「ベネディクト卿に知らせないと!」


 偵察のルミナ兵達はあわてて後方にいる本隊と合流をはかった。

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