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第3話 化粧と準備

「さて、食べようか。皆もどうぞ」


 鉄鍋の前に座ったアンソニーが兵士たちに声をかけた。


「おお、ありがたい」


 椀を持った兵士たちがアンソニーの前に並ぶ、火を落とした鉄鍋の中には先ほど解体した新鮮な肉と、近くに生えていた野草、それに塩と香草を入れた汁物が出来上がっていて、それをアンソニーはみんなに振る舞っている。


「うまいうまい」


 アンソニーは大雑把に切った足の部分にかじりついた。固めだが、食べごたえのある部分だ。


「おいアンソニー。飯を食いながら聞け」


「んん?」


 口に肉を頬張りながら顔をあげると、そこにはベネディクトが不快そうな顔をしながら立っていた。


「ふぁに? べへひくほもはへる?」


「なに言ってるのかわからん。とりあえず次に攻撃する場所が決まった。アダム村だ」


「へぇ……」


 アンソニーは料理を一息にかきこむと一言。


「じゃあ行こうか」






 食事を済ませたアンソニー達が次に向かったのはアダム村と呼ばれる場所だ。


 湖と森、そして畑に囲まれたその村は今やスライ軍の根城である。


「敵は森の中に散っています。村には近づけませんでした。正確な数も分かりません」


 偵察に放っていた兵士が帰り、報告を済ませる。


 アダム村の周囲に存在する森は村人が植樹し村人が管理している。丁寧に手入れされたそこはある程度の見通しが利く。


「予定と違うな。どうやって近づくか……」


 ベネディクトは悩んでいた。敵の正確な数が分からないなら無闇に突撃するのは危険だ。


「僕が暴れてこよう。そうやって敵を引き付けてる間にベネディクトが村に突入すればいい」


「おまえの剛腕、また使わせてもらおうか」


 作戦は決まった。


「じゃ、行ってくる」


「いやちょっとまて」


「うん?」


 棍棒を持って森に突撃しようとしたアンソニーを呼び止め、ベネディクトは一枚の服を出した。


「なにそれ?」


「ただの服だ。鎧の上からこれを着て、全身に膠を塗りたくれ。そのあと落ち葉やら苔やらを付けろ」


 そう言われたアンソニーは困惑した。


「なんで?」


「敵は前の戦いでこっちに化物がいると思ってる。今回でそれをさらに印象付けるんだ。よしやってくれ」


 後の事はアンソニーに任せ、自分は皆に用意させようとした時だった。1人の兵士が突然現れてこう言ったのだ。


「お待ちくださいませお話は聞かせていただきました! 私めがアンソニー卿の化粧をしてみせましょうぞ! もし私の腕に難ありとおっしゃるならばこの両腕を献上いたしまする!」


「……ああうん。ではお前に任せる」


 なんとなく察したベネディクトはその兵士の肩をポンポンと触れるとやや早足で去っていく。


「ベネディクト……ウンコ我慢してたのかな?」


「そんなことはどうでもよいのです! さぁ私に身を委ねてくださいさぁ早く! よいですかな? 今回の目的は聞くに貴方様を見たものに恐怖を与えるためとのことですが、恐怖というものをアンソニー卿はどのようにお考えか?」


 早口で捲し立ててくる兵士に、アンソニーはやや引きぎみで答える。


「そうだなぁ、夜に外を見たら獣の目が光っててそれが怖いとか……」


「そうです! それが恐怖です! つまり恐怖とは『分からない』から来るものなのです! 貴方の言うそれも日中で見えていれば何も怖くなどない! それを踏まえた上で化粧しましょうぞ。分からないを突き詰めて敵に恐怖とは何かを教え込むのです! 久しぶりに思う存分化粧ができる! うふふふふふふ」


「楽しいことに集中できるのっていいよね」


 兵士の高笑いを聞きながらアンソニーは身を任せた。


 

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