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第2話 いただきます

 落とした城を離れ、湖へと向かう道中、休息をとるために近くの街の郊外に滞在したルミナ軍。数にしておよそ1500。


 丁寧に整備された林の中で麦粥やら果物やらを食べ次の目的地である湖へ行くために英気を養うのだ。


 さてそんな時間に、アンソニーは何をしていたのかというと。


「おいアンソニー。何やってるんだ?」


「ん? 絵描きって聞いたから。僕の肖像画を描いてもらってるんだけど」


 干し肉を齧りながら現れたベネディクト、倒木に座っているアンソニーの前には、確かに筆を持つ男がいる。街にいる絵描きの類なのだろう。だがそんなことはベネディクトにはどうでもよかった。


「まぁ絵を描いてもらうのはいいがな。後世に自分の雄姿を残せる」


「だろう?」


 ベネディクトは踵を返し、その場から去りつつ一言。


「だがアンソニ―。何も全裸じゃなくてもいいんじゃないか?」


 そう、アンソニーはなぜか裸なのだ。昨日のように身体に泥も塗っていない。なにも隠れていない。汚いものを見たくなかったベネディクトは即座に顔を反らした。


「僕もそう思ったんだけど、この絵描きが──」


 アンソニーよりも先に、絵描きの男がキレた。


「なぁにをおっしゃいますかッ!! このような美しき筋肉を服の下などに隠してしまうおつもりか!! ご覧くださいこの弩助平身体(ドスケベボディ)を! これほどまでに美しく均整のとれた筋肉などそうそうお目にかかれるものではない! 身体に付いた傷も数多の戦いにて付けられた勲章にほかならない! あああああもう美しいなぁ!! アンソニー卿! 貴方の葬儀には私をお呼びください! 私がしかと五体全て食し貴方の魂受け継ぎましょうぞ!」


「それはいいな。うん、そうしよう」


「アンソニー……俺は邪魔みたいだから──帰るね」


 すたすたとベネディクトは去って行った。






「さてと、そろそろお腹が空いたな」


 アンソニーはジョン王から貰った捕虜の方をちらりと見ると近くにいた兵士に声をかけた。兵士だった彼等だが武器は勿論鎧も服も全てを剥ぎ取られている。アンソニー達を忌々しそうに睨んできているが、抵抗は出来ないだろうから特に気にはしないが。


「誰かご飯を作ってくれないか? いくらか分けてあげるからさ」


「おお! アンソニー卿から食事の誘いとは! 勿論いいですとも」


 1人の兵士が名乗り出て火をもらいにいった。


「君たちは身体を洗っとこうか」


 近くの井戸から水を汲んできたアンソニーは捕虜の体中を洗い始めた。服は一切着ていない為洗いやすい。


「俺達を洗った後はどうするんだ? 俺達のケツでも犯そうってのか?」


「そんな汚い事しないよ。君達はじっとしておいてくれればいい。まぁこんなもんかな」


 一通り洗い終わった後、アンソニーは火をもらいに行った兵士が帰ってきたのを見て一言。


「さてと。血抜きするか」


「え?」


 アンソニーは近くにいた兵士から借りた短剣を、あろうことか捕虜の首に突き立てた。


「がっ……あ……」


「ひぃっ!? 貴様何を! 捕虜への暴行は条約違反だぞ!」


 さっきまで隣で一緒に睨んでいた仲間が突然殺され、もう1人の捕虜はその場に尻餅をついた。


「転んだら土がつくからやめて欲しいな。ところで……じょうやく……ってなにそれ?」


 アンソニーはキョトンとしながら、既に動かなくなった捕虜を逆さにして血が抜けきるまで腕1本で持っていた。


「ほ、捕虜に手出しは……俺たちを捕虜にするって……いって」


「その『捕虜』っていうのも君達の国から流れてきた言葉だし、僕たちには分からないんだよね。僕たちの国ではこうするんだ。敵が負けを認めたら許す。けど敵の人間だったのは間違いないから、一度僕たちの身体を通す」


 血のしたたりがほとんどなくなった死体を、アンソニーは短剣で解体し始めた。腹を割いて内臓を取り出し、肋骨を背骨から離しまるで魚のように三枚にしていく。


「敵を食べて罪を洗い流すんだ」


「い、いいいイカレてる! こんなこと神も許さんぞ!」


「神様ね。それも君達の国から流れてきて言葉というか概念だね。まぁ君達の国からは沢山学べたから、建築とか武器の作り方とか。そこは感謝してるけど」


「アンソニー卿、地面につきそうですよ」


 焚き火に鍋をかけ始めた兵士が指摘してきた。


「ああごめん。ちょっと細かいところは頼めるかい?」


「ええもちろん」


 兵士に死体を手渡し、アンソニーは小便を漏らし始めた捕虜の前にしゃがみこむ。


「君達は僕たちの血肉になって生き続ける。そして僕が死んだら僕の近しい人が僕を食べる。死んだら近しい人が食べるの繰り返しだ。そうして僕たちは命をつなぐ」


「あ、ああああ……」


「どう? 僕はこの国のこの文化が好きなんだ。素敵だと思わない?」


 そう言うアンソニーの表情はどこまでも屈託のない笑顔であった。

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