第11話 道中にて
ルミナ軍は次の目標である都市に向かっていた。その都市はルミナでは珍しい平原が広がる場所にある。ライ麦の生産が盛んな場所だ。
「次の戦場までは……3日くらいか」
アンソニーの隣を歩き、地図とにらめっこするベネディクトだったが表情がただただ険しい。
「ベネディクト。もしかして緊張してるのか?」
「当たり前だろ。ここは敵の数も最大規模になるはずだ。敵だって散々煮え湯を飲まされて怒り狂ってることだろう。ここらで大規模な反撃があってもおかしくない。なんなら今ここで攻撃を仕掛けてくるかもしれん」
「クリスティーナも先に行っちゃったしね」
アンソニー達がいる場所は森の中にある狭い道。道幅が大人二人が肩をぶつけながら歩いてようやく通れる幅しかない。すぐ隣は背の高い草や木が生い茂り、奇襲攻撃や罠を仕掛けるならこれ以上ないほど最適な場所と言える。
「ん?」
不意にアンソニーが鼻を鳴らし周囲を見回し始めた。
「どうしたアンソニー」
「獣の匂いだ」
「は?」
アンソニーがそう言った瞬間。アンソニー達の前で歓声が上がった。歓声である。悲鳴ではない。
「ヒャッハアアアアアア!! 熊だ! 肉だ! 襲ってきやがった襲ってきやがったぞハハハハハハハハ!」
「あっこら逃げるな! その熊待てェッ! 肉おいてけ! 毛皮おいてけ!」
「俺の肉だ! 塩焼きにするか? いやいっそ生も……」
血を流しながら逃げる熊に向かって走っていく兵士達と興奮した声が聞こえてくる。これにはアンソニーも表情を和ませた。
「良かった。皆元気みたいだ。大事な人が死んで落ち込んでるのかと思ってたけど」
「……その方がいいような気がするがな」
とはいえこの国ではめったに人がいるところに出てこない熊が人を襲うようになっていることにはベネディクトも頭にとどめておいた。きっと戦争で出た死体を食って人の味を覚えてしまったのだろう。戦後大変になる。
そしてアンソニーはというと……
──熊肉……おいしそう。
アンソニーはよだれを拭った。
ジョンはダンカンに鞭を打ちながら先頭で荷車を引かせていた。鞭と言ってもそこらへんにあった細い木の枝を振り回しているだけだが。
「さっさと歩け。そら、牛でも馬でももっと働くぞ。さっさと動け」
鞭を振るうジョンの表情は無である。
「捕虜の扱いは……条約に……」
「その条約とやらにはよその国で人殺しをすることをよしとする文言でも書いてあったのか?」
喋ったのでジョンは更に鞭をうった。
「送った使者が1週間以内に帰ってこなければその場合お前を粉になるまで斬ってやる。我々の要求が吞まれなかった場合も同じくだ。……不思議なものだ。要求が呑まれればいいと思う私と、そうでなければいいのにと願う私もいる」
「……」
「頼むから簡単には死んでくれるなよ」
ここでジョンの中である考えが思い浮かぶ。
──しかしこの捕虜とかいう文化、もしや利用できるのでは?
無心で鞭を振るう。
──『生かして金と交換』こんな文化がある国なら、生かしたまま敵の目の前に突き出して盾代わりにしてやれば相手も攻撃しにくくなるのではないか?
顎に片手を当てながら無心で鞭を振るうジョンに、横に居た兵士が声をかけてきた。
「あのー。王様?」
「なんだ?」
「そいつぶっ倒れてますぜ」
「やりすぎたか」




