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第10話 敵の悩み

 さて、敵側のスライ軍の総大将にしてスライ大公国を治める君主、カタール大公はルミナ王国の西にいた。


 占領したそこは敵のいない安全な場所だ。カタール大公は豪華な幕舎の中で自国から持ち込んだ料理人に料理を作らせ、雇った音楽家にハープを弾かせていた。


 しかし、カタール大公の表情は険しく、さらに激しく怒り狂っていた。

 

「どうなっているんだ! この国は!」


 酒杯を放り投げ、黒檀で作った机を蹴りあげる。


「は、はぁ……なにぶんこのような辺境の国ですので……」


 なんとか落ち着かせようとした側近はカタール大公の剣幕に怯え、思わず後ずさる。


「いかに辺境だろうが我らと同じケルン教徒のはずだろうが! なのになんだここは!? 信じられるか!? 危害を加えない、君主が変わるだけだと説明したら農民どもが1人残らず槍を持って突っ込んでくるんだぞ! お陰で村の人間を皆殺しにする羽目になった! これからどうやってここをおさめていくんだ!!」


「50年以上ですか。あまりにも長い間交流がありませんでしたからね……貿易すらもありませんでしたし。ここの情報を知ろうにもベネディクト卿以外に聞く相手も居ない」


「そして情報もなく領地ほしさにここを攻めてみればなんだこの有り様は! なんで村やら都市やらにわざわざ壁やら堀やら作る!? 兵士が使うような武器をなぜ民草が使うんだ!? バリスタから投石機まで撃ちこんできたんだぞ!」


 はぁはぁと息を切らし怒り狂うカタール大公。彼は焦りを覚えていた。


 まず敵の総力が分からないのだ。


 ──たかだか農民程度どうとでもなると思っていたら躊躇なく殺しにかかってくる。恐れを知らぬにもほどがあるぞ。


 カタール大公が引き連れてきた戦力は4万にものぼる。しかしその多くは各地を占領するために割かれ、広範囲に散っている。


 しかしそこに住む者達の抵抗がすさまじいのだ。大人は勿論、子供でも吹き矢など使って攻撃してくる。正規の軍も存在するがそれらに加えてルミナの国民がほぼ全員槍や剣で武装して向かってくる。


「ルミナの四騎士も厄介だ。聞けばクリスティーナとかいうのは旗と鎧を偽装して騎馬で突っ込んでくるそうではないか。なんと卑劣な」


「それらに加え、向こうには悪魔がついているそうです。真っ黒な身体をしていて、角笛を吹きならし仲間を呼ぶと」


 カタール大公は額を押さえ俯いた。


「あのジョン王とかいうやつ、ついに悪魔召喚にまで手を染めたというのか。ケルン教徒であるにも関わらず」


 顔を上げるカタール大公。呆れと侮蔑が入り交じった顔をしていた。


「領土ほしさの戦争だったが、これからは異教徒を狩るための戦争をしなくてはならんのか? 土地だけ手に入ってもどうにもならんというのに」


「それを判断するのはカタール大公殿下です」


 側近の言葉に少しの間悩んだ末、カタール大公は口を開く。


「戦争の目的は変えぬ。ジョン王を生かしたまま捕え、連れてこい。戦後悪魔を召喚したものとして、宗教裁判にかけ殺す」



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