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第24話 幽霊彼女と看病



 はっと目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。

 枕元の時計を見ると、六時前を指していた。

 夜の六時、だよな……?

 お昼頃に家に帰って来て……そうだ、僕は倒れたのだ。

 しかし僕はベッドに寝ていて、パジャマに着替えている。

 頭の後ろには氷枕も置かれ、おでこには冷却シートも張られていて……。


「……麗衣那……っ!!?」


 きっとこれらを全てやってくれたのは麗衣那だ。

 麗衣那、どこだ?どこにいる?

 すると自室の扉がなにやらカリカリと音を立てて、こしあんが入ってきた。

 とてとてとやってきてベッドの近くまで来ると、僕の顔を見て、「にゃあ!」と鳴いた。

 こしあんにしてはやけに大きな声で、僕はびっくりする。

 すると、台所の方からぱたぱたと足音がしてくる。


「あ、佐久間くん!起きられたのですねっ、体調はいかがでしょうか?」


 制服にエプロンを付けた、見慣れた姿の麗衣那が僕の部屋へとやって来る。

 その姿に、ほっと息をつく。

 よかった、いつもの麗衣那だ。


「ああ、大丈夫だよ」

「佐久間くん、急に倒れたんです。びっくりしちゃいました」

「うん…、心配かけてごめん」

「こしあんちゃんも心配していましたよ」

 そう言いながら、麗衣那はこしあんをよしよしと撫でる。

 こしあんは気持ち良さそうに喉をゴロゴロと鳴らす。

 僕はそのようすに目を丸くする。

「いつの間にこしあんと仲良くなったんだ」

 ついこの前までこしあんは麗衣那につれない態度をとっていて、麗衣那はしょんぼりとしていたはずだ。

 それが今日のこしあんは、気にせず麗衣那に自身を触らせている。


「えへへ、なんでですかね?最近のこしあんちゃんは私に寄ってきてくれるんです。こしあんちゃんも、ようやく私を家族と認めてくれたのでしょうか?」

「か、家族……?」


 僕の思わず零してしまった言葉に、にこにことこしあんを撫でていた麗衣那は慌てて顔の前で大きく手を振る。

「あ、あ、あのっ!今のは言葉のあやというか!?一緒に住んでいるわけですし、家族も同然というか!?こしあんちゃんはそう思ってくれているのかなとか!?」

「ああ、うん……」

 麗衣那は必死に弁解を試みるも、多分段々と自分でなにを言っているのか分からなくなっているようだった。


 家族……か…。


 麗衣那と家族、というのはなんだかものすごく恥ずかしさがある。

 幽霊の麗衣那と僕が、家族になり得えるはずなんてないのに……。


「あ、そ、そうでした!佐久間くん、起きたならなにか食べますか?おかゆとかうどんとか!」


 そういえば昼ご飯を食べ損ねていたんだった。

 そうと自覚すると、急にお腹が減ってきたような気がする。

 僕は麗衣那の言葉に甘えることにした。


「じゃあお願いしようかな。おかゆで頼む」

「はい!すぐできると思うので、少々お待ちください」


 麗衣那はそういうと、またぱたぱたと台所に戻っていく。

 きっと麗衣那はおかゆすら初めて作るんだろうなぁ、けど、それでいてきっと美味しいものを作ってくるに違いない、と思いながら僕はまた布団に身体を預けた。

 そこにこしあんがやってきて、僕の隣で丸くなる。

 こしあんを撫でながら、僕は考える。


 僕に麗衣那が視えているうちに、できることはなんだろうか。

 麗衣那を早く満足させて、成仏させてあげないとな…。

 どうせ別れのときが来るのなら、僕はしっかりと麗衣那を見送りたい。

 先に僕の方が視えなくなるなんてごめんだ。

 そういう約束で、僕と麗衣那は一緒にいるのだから……。




「お待たせしました」

 麗衣那がお盆におかゆの入った茶碗を乗せて、部屋に戻って来た。

「どれくらい食べられるか分からなくて、ひとまずお茶碗分だけにしたのですが、おかわりもありますので」

「ありがとう」

 僕はお盆を受け取って、布団の上に乗せる。

 茶碗を手にしようとしたとき、何故か麗衣那が先にそれを手にした。

 そうして木のスプーンに少量よそうと、ふーふーと冷まし始める。

 まさか、と思いながら見ていると、麗衣那は予想通りの行動をとった。

「はい、あーんっ」

 僕は目の前に差し出されたスプーンと、にこにことそれを差し出す麗衣那を交互に見やる。

 麗衣那は恥ずかしくないのだろうか。

 僕だったら普通に恥ずかしい。あーんされるのも、あーんするのも。

 これは友人というよりも、恋人同士がやることではないだろうか……。

 そうは思いつつも、きっと体調の優れない僕を気遣ってのことなのだろうし、僕は死ぬほど照れながらも、差し出されたスプーンをぱくりと口に入れる。

「どうでしょうか?」

「うん、…美味しいよ」

「よかったです!」

 「それではもう一口」と言って更に「あーん」をしてくる麗衣那に、さすがに恥ずかしくて僕は言ってしまった。

「麗衣那、自分で食べられるから大丈夫だよ…」

「え?あ、そうですか?」

「僕はもう小さな子供でもないし、恋人でもないのだから、普通友人間であーんはしないよ……」

 そうつい口走ってしまう。

 すると麗衣那は顔を真っ赤にして目を伏せる。

「あ、そ、そうですよねっ!ちょっとお節介が過ぎました…すみません…っ」

「あ、いや、嬉しかったよ…ありがとう…」

 麗衣那の真っ赤な顔を見て、なんだか僕まで羞恥がぶり返してきて、ふたりして真っ赤な顔で俯いた。

 照れのせいもあるが、きっと熱のせいもあるはずだ…。そう思いたい。





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