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第19話 幽霊彼女とイルミネーション



「なあ、麗衣那はこういうのって見たことあるか?」


 冬休みに入ってすぐのこと。

 僕はネットで見かけたとある記事を麗衣那に見せる。

 「なんですかなんですか?」と興味深々なようすで僕のスマホを覗き込む麗衣那。

 麗衣那が傍に来ると、相変わらずなんだかいい匂いがする。

 幽霊になった今も普通に風呂に入っているので、もしかしたらシャンプーの香りなのかもしれないが、僕の髪からはまったく匂ったことがない。

 女の子はいい匂いがする、ってあれ本当なんだな…。

 っといけない。麗衣那の風呂上がりを思い出しそうになって、僕は慌ててスマホ画面に意識を戻す。

 そこには、眩いほどのイルミネーションで彩られたクリスマスツリーと、そこに至るまでのこれまたイルミネーションだらけの木々が連なる通りが写し出されていた。


「わあ…綺麗ですね……!」


 麗衣那は感嘆の声を上げる。

 この前、駅前に飾り付けられた小さな木々のイルミネーションを見て、麗衣那は「綺麗ですねっ」、とはしゃいでいた。

 大抵の女の子が興味を持っているものに、きっと麗衣那も憧れや興味があるだろうと思って見せたら、どうやらどんぴしゃのようである。


「よかったらこれ、見に行ってみないか?」

「え?」

 いつもの僕だったら、混雑しそうな、それもカップルで溢れそうな場所には死んでも行かないのだが、麗衣那のためだ。麗衣那が行きたいというなら、どこへでも連れて行ってあげたいと思ってしまう。

 麗衣那は目を輝かせる。

「ぜひ行きたいですっ!」

「よし、夕方少し前に出発しよう」

「はいっ」



 しかし、このあと昼前の僕の提案をすぐに後悔することになる。


 イルミネーション会場の最寄り駅に到着した僕は、絶望した。


「なんでこんなに人が多いんだ!?」


 ただイルミネーションを見るだけだというのに、あまりに人が多い。

「たしかにすごい人ですね、今日がクリスマスだからでしょうか?」

「え……?」

 麗衣那の言葉に、僕はきょとんとしてしまう。

「今日、クリスマスなの…?」

「はい。正確には、十二月二十四日なので、クリスマスイブですね」

 僕は愕然とする。

 冬休みに入って、日にちも曜日感覚もなくなっていた。

 彼女のいない僕にとって、クリスマスはまったく特別でもなんでもなかったから、意識すらしていなかった。

 まさか出掛けた日に限ってクリスマスイブだったなんて……。


「ごめん、今日がクリスマスイブだって忘れてた…」


 もし忘れていなかったら、そもそもこんな混雑した日に来たりしない。

 人は多いし、霊もうようよしているだろうし。

 人の多く集まる場所には、霊も集まりやすい。だから僕はそういう場所は避けていたんだけど…。

「そう、だったんですか…」

 しょんぼりとしたように俯く麗衣那。

「私はてっきり、佐久間くんがクリスマスイブだからイルミネーションを見に行こうと誘ってくれたのかと思っていました……」

「え……?」

「クリスマスにイルミネーションを見に行く、なんて、ロマンチックではないですか!?まさに恋人同士のクリスマスって、感じで……」

 尻つぼみになりながらも、麗衣那は自身でなにを言ってしまったのか気が付いたようだ。

 顔を真っ赤にして、上目遣いで僕を見上げる。

「ごめんなさい…私達は、友人でした…。大きなイルミネーション、ずっと見たいと思っていたので、少しはしゃいでしまいました…」

 うぐっ……!!

 その照れくさそうな恥じらった表情があまりに可愛らしくて、僕の心臓が不整脈を起こす。

「ああ、えっと、ごめん。なんていうか、恋人でもなんでもない僕が、クリスマスイブにイルミネーションに誘ってしまって、申し訳ないというか、なんというか……」

 ごにょごにょと情けなく言い訳する僕に、麗衣那はふるふると首を横に振る。

「そんなことないです!友人同士だとしても、きっとイルミネーションは見に来ると思います!」

「そ、そうだよな!これも青春の一ページだよな!よし、行こうか!」

「ですです!友人同士でもイルミネーションは見ます!……クリスマスイブに一緒に来るかは分からないですけど……」


 麗衣那の小さな呟きは聞かなかったことにして、僕達は歩き出す。

 が、早くに到着しすぎたせいで、まだ辺りはほんのり明るく、イルミネーションの点灯も始まっていなかった。

 たしかイルミネーションの点灯は十七時からだったよな、どこかカフェでも入るか……。

 そう思いながら辺りを見回していると、とある場所を見付けた。


「麗衣那」

 僕は麗衣那へと手を伸ばす。

「え……?」

 僕の差し出した手を、目を丸くして見つめる麗衣那。

「人多いし、はぐれたら困ると思ったんだけど……。そうだった…麗衣那は人にぶつからないのか…」

 よくよく考えたら、麗衣那は人を通過してしまうため、ぶつかろうにもぶつかれないのだった。

彼女に触れるのは、今のところ僕だけだ。

 なんか、ずっとかっこ悪いところばっかりだな…と反省していると、僕の手に麗衣那の手が重なった。小さくて温かくて柔らかな手だ。

「ありがとう、佐久間くん。嬉しいので、お言葉に甘えちゃいます」

「う、うん…どうぞ…」

 にこりと微笑む麗衣那が、なんだか今日は飛び切り綺麗に見えた。





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