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第16話 幽霊彼女と何気ない一日



 伊勢崎との一件が終わったあと、やはりというかなんというか、僕は伊勢崎に懐かれることになった。

 移動教室も休み時間も、伊勢崎は僕の席にやってきて、麗衣那との思い出話をひたすらに語る。

「麗衣那の小さい頃は、それはもう可愛くてなぁ…!」

 伊勢崎は見た目はクールなのに、やっぱり中身は少し変だった。麗衣那に心酔しすぎてこじらせているというか…。

 伊勢崎に懐かれた、という話を麗衣那にすると。

「わあ!よかったですね、佐久間くん!友人第二号じゃないですかっ!」

 と、手を合わせて喜んでくれた。

 嬉しいような…、相手が伊勢崎だと思うとそうでもないような…、複雑な気分である。



 そうして慌ただしい一週間も終わり、僕の、いや全世界みんなの大好きな土日がやってきた。

 今日は真冬にしては珍しく天気が良く、ぽかぽかとした暖かい朝だった。まさに小春日和というやつだ。布団を干すなんて、何週間ぶりだろうか。

 こしあんも気持ち良さそうに窓際でお昼寝をしている。


「さて、少し買い物にでも行くか」


 土日は引き籠るのが僕のお決まりの過ごし方なのだが、今日はいい天気だし、これまた珍しく散歩にでも行きたい気分だった。

 きっとそれには、彼女が影響しているのだろう。

「あら、佐久間くん、お出かけですか?」

 僕が洗濯物やら布団やらを干している間に、掃除機をかけてくれていた麗衣那は、それを片付けながら僕を振り返った。

 麗衣那と暮らし始めてから、部屋は常にピカピカだった。

 真面目な麗衣那は、僕の家にいさせてもらう代わりと言って、部屋の掃除をしたり、ご飯を作ってくれたりしている。

 何もかもやってもらって申し訳なく思いつつも、当然僕が作るより麗衣那のご飯の方が美味しいし、四角い部屋を丸く掃くような僕よりも、麗衣那が掃除した方が綺麗になるから快適で気持ちがいい。

 僕にできることは本当に家を貸し出すくらいのことだった。


「天気がいいから、お散歩がてら買い物に行こうかと思って。麗衣那も行くか?」

「はい!ぜひ!」


 暖かいと言っても冬は冬。

 僕達はダッフルコートを着込み、マフラーをぐるぐる巻きにして外へと繰り出した。



「はぁ……なんかしみるな…」

 ぽかぽかとした日差しを全身で受け止める。植物だけでなく、やはり人間にも日光浴は必要だと実感する。

 麗衣那も同じことを思ったのか、気持ち良さそうに表情が緩んでいた。

「はい……暖かいですね、生き返ります……」

 生き返る、なんて幽霊の麗衣那が言うものだから、咄嗟に彼女の方を見てしまった。

「あ、幽霊ジョークです!さすがに実際は生き返れません」

 くすくすと笑う麗衣那だが、僕はどう反応していいか分からず苦笑いを零すしかない。


 なんとも言い難い気持ちで歩いていると、あっという間に最寄りのスーパーに到着した。

「今日の晩ご飯は、キムチ鍋とかどうだ?」

 僕の提案に麗衣那はうんうん頷く。

「いいですね!キムチ鍋!冬って感じですね、お鍋!」

「麗衣那は辛いの平気だっけ?」

「はい、大丈夫です」

 というわけで本日の晩ご飯はキムチ鍋に決定した。お鍋は野菜を入れて煮込むだけだし、これくらいなら僕一人でも準備出来る。

 いつもご飯は麗衣那に任せきりだから、今日くらいは僕が準備したいところだ。

 僕がお肉を手に取って脂身の少なさを吟味していると、ぱたぱたと麗衣那がやってきて、僕の持つカゴになにかを入れた。

「ん?」

 覗くとそこには、うまうま棒やらチョロルチョコやら、レタス太郎といった駄菓子類が増えていた。

 麗衣那をじろっと見ると、照れたように小さく呟く。

「こういった駄菓子を食べたことがなくて…。さっきすれ違った子供たちが持っていて、美味しそうだったのでつい…」

 その気恥ずかしそうな、それでいて子供っぽい一面がちょっと可愛かったので、まぁよしとする。

 いや、ちょっと待てよ…。


「麗衣那、今のお菓子、どこから持ってきた?」


「え?レジ前の小さな駄菓子コーナーですけど…」

 僕が今いるのは生鮮食品のコーナーで店内の奥、レジは入口の近くだ。

「あの、やはり戻してきたほうがよいでしょうか……」

 考え込む僕に何を勘違いしたのか、少し落ち込み気味の麗衣那。


「あ、いや、違うんだ。お菓子は別にいいんだが…。麗衣那って、自分の物以外は透けて触れないんじゃなかったか?」


 僕が傍にいる場合は、僕の霊力のおかげで触ることができると言っていた。

 しかし僕から距離をおけばおくほど、麗衣那に及ぼす僕の霊力は低くなり、麗衣那はなにも触れなくなるはずだった。

 それが最近は僕から離れたものも平気で触れるし、持ってくることができる。

 この前の雪だるまのときもそうだった。

 僕はそれを疑問に思っていたのだ。

 麗衣那は「たしかに、そうですね…」と首を傾げる。


「死んだばかりの頃は、佐久間くんの傍にいないと何も触ることができなかったのに、今では比較的どこにいてもどんなものでも触れるようになった気がします。もしかして、私の幽霊としてのレベルが上がったのでしょうか!?」

「そんなことあるのか?」

「うーん、私も幽霊初心者なものですから、よく分かりませんが…?」


 僕達は二人揃って首を捻る。

 麗衣那の霊力が強まって、それで麗衣那が生きている人間に害を及ぼすとはまったく思わないが…。

 死んだ人間が、生きている人間の世界のものに、容易に触れることができ、それを動かすことができる、ってなかなか強い霊なのではないだろうか…。

 ポルターガイスト現象とか、ある程度力のある霊じゃないとできないよな…?

 麗衣那の霊力のことも気になるが、最近の僕の周りもおかしい。

 あんなにも街に溢れていた霊が、めっきり減っている。

 麗衣那と何か関係があるのだろうか……。


「佐久間くん?」

「え?」

「私、よくないことをしているのでしょうか………?」

 麗衣那は不安げに目を伏せる。

「私、よくない霊なのでしょうか?」

 僕はきっぱりとこう告げる。

「麗衣那が悪い霊なわけないだろ。そうだとしたら、僕みたいな非力な人間はとっくに身体を乗っ取られてるよ。まぁ、実際取り憑かれているわけだけど」

 少しお茶らけ気味にそう言うと、麗衣那はほっとしたように微笑んだ。

「私が取り憑いてあげているおかげもあって、佐久間くんは毎日栄養満点の食事を取れているのです!」

 どやっと胸を張る麗衣那に「ははー、いつも感謝しておりまするー」と僕は頭を下げる。


 疑問は残るが、考えたところで答えが出るわけでもなさそうだった。





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