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第9話 幽霊彼女と恋バナ



「それで佐久間くん!」

「ん?」

「友人でこういうところに来た時にすることって、やっぱり恋バナとかでしょうか!?」

「えっ、恋バナ…?」

 麗衣那の突然の話題転換に、僕は意表を突かれる。

「よく友人が言っていたのです!コヒバで喋って帰らない?って」

「そうなのか」

「友人と喋る、と言ったら恋バナかな?と思ったのです!私はなかなかそういう話に混ぜてもらえなくて…一度してみたかったんです!恋バナ!」

 喋る=恋バナ、だなんてことはないだろうと思うが、女子高生ならなくはないのだろうか……?

 勉強の話や家族の話、部活の話なんか色々ありそうなものなのだが。

 近くの席で「えーっ!!どっちが告白したの!?」「それが向こうからで…」「先輩から!?!?」なんて聞こえてきたので、やっぱり女子の話題の中心は恋バナのようだった。まじか……。

「えっと、そうは言っても、僕が話せそうなことは何もないんだけど」

「私もです!」

 何がそんなに楽しいのか自信満々に胸を張る麗衣那。

「いやそれじゃだめじゃん。会話終わりじゃないか」

「そう、ですよね…どうしよう…」

 うーんと困り果ててしまった麗衣那に、僕は仕方なく話題を振ってあげることにした。

「えっと、麗衣那は今まで誰とも付き合ったことがない、って言ってたよね?」

「はい、ないです」

 これだけの美少女だというのに、一度も恋人がいなかったというのは意外だ。

 この前も思ったが、告白はきっとたくさんされていたはずだ。

 まぁ、家族が厳しそうだから、もしかしたらそういうことも禁止されていたのかもしれないけれど。

 僕はとりあえず麗衣那が楽しめるような無難な質疑応答で会話を広げてみることにする。

「麗衣那はどんな人が好きなんだ?」

「どんな?」

「好みのタイプだよ。優しい人が好きとか、面白い人が好きとか、そういうのあるだろ?」

 なんだか口にしていて段々と恥ずかしくなってきた。

 これじゃあまるで僕が麗衣那を口説いているみたいじゃないか…。

 まぁ、別に他人からは視えていないんだが…。

 僕がなんとも居たたまれない気持ちになっている間にも、麗衣那は僕の質問を真剣に考えていてくれたようだ。

「好みの男性、ですよね…考えたことなかったです。でもそうだなぁ…一緒にいて楽しくて、幸せな気持ちになれる人がいいです!」

「幸せな気持ちって…随分と漠然としているね…」

「一緒にいるだけで幸せを感じる関係って、素敵じゃないですか?例えば、趣味が違くても、ただ傍でそれぞれに何か自分の好きなことをしていても、それが居心地良く感じて、穏やかに感じられたら…。私はそういう関係がいいな、って思います!」

 麗衣那はいつものように楽しそうに笑う。

 僕はその麗衣那の笑顔を見て心が痛くなった。

 麗衣那にはもう一生、そんな幸せな瞬間は訪れない。

 好きな人ができたとしても、その人と一緒にいることは叶わないし、相手が幽霊である麗衣那のことを視ることはできない。

 麗衣那の恋が成就することは、この先一切ないのだ。

 ああ、こんな会話、広げるんじゃなかった。

 いたずらに麗衣那の心を傷付けてしまっただけだ。

 しかし麗衣那は特に気にしたようすも見せず、フラッペを美味しそうに飲んでいる。

「で?」

「で??」

「佐久間くんはどうなのですか!好きな女の子は?」

「いないよ、いるわけないだろ。友人もいないのに」

「えー、そういうものですか?男の子は可愛くて胸が大きければいいんじゃないのですか?」

「いや、どんな偏見だよ」

 麗衣那は上品に口元に手を当てると、楽しそうに笑う。

 僕はそのようすを見てほっとした。

 麗衣那にとって未来の話は良くなかったと思いつつも、楽しんでくれたのならそれでいい。

「佐久間くん、初恋は?」

「初恋…?そんなのあったかなぁ…」

初恋は幼稚園の先生だとか、近所のお姉さんだとかよく聞くが、あいにく僕にはそんな記憶はない。

ということは……。

「どうやら初恋はまだみたいだ…」

「なんですか、その他人事みたいな言い方」

 麗衣那はまたくすくすと笑う。

「では、私達はまだ恋を知らない者同士なのですね」

「そうみたいだ」

 それからも飲み物がなくなるまで僕達は他愛もない話をした。

 こういうのって青春ぽいな…と僕が思っていると、「あー、楽しかった!放課後カフェでお喋り…とっても青春っぽいです!」と麗衣那もまた同じようなことを言った。



 僕にとっては青春の一ページ。


 麗衣那にとっては、成仏へのカウントダウンが始まった日だった。




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