プロローグ
吐く息が、凍てつくように寒い冬の日だった。
それはとある水曜日の朝のこと。
緊急の朝礼だと言われ、僕達は体育館に集められた。
全校生徒が一堂に会して行われる朝礼は、基本的には月曜日の朝に行われることが多く、水曜日の朝に集められたのは、僕がこの高校に通い始めてから今日が初めてのことだった。
つい一昨日も休み明けでしんどい身体を引きずりながら、ここでこうして朝礼に参加したばかりだ。
それなのに、何故水曜日である今日、僕達はまた集められたのか。
生徒の大多数がそう不思議に思っていた。
痩せっぽっちの五十代半ばの白髪混じりの校長が、演台へとやってくる。ただでさえ細い校長の顔が、何故だかげっそりとして見えた。
校長は乾燥した喉をごくりと鳴らして、その重たい口を開いた。
「二年B組の逢川 麗衣那さんが亡くなりました」
その言葉に、二学年の生徒達が並んでいる体育館の真ん中辺りがざわっとどよめいた。
逢川 麗衣那。
二年生と言うことは、先輩だ。
僕とは当然接点はないが、何故か名前だけはよく耳にしていたように思う。
才色兼備で人当たりも良く、誰もが憧れる理想の先輩。
そう耳にしたことがあった気がする。
体育館中に、悲しみが波のように広がっていく。そこかしこからすすり泣くような声が聞こえてくる。
そうか、そんなに人気者の先輩だったのか。
同級生はもちろんのこと、きっと先輩や後輩、先生方にも好かれていたのだろう。
僕達はいつだって理不尽な死と隣り合わせだ。
知らないところで、当たり前のように、毎日誰かしらが死んでいく。
自分が死んだとき、たくさんの人に悲しんでもらえたのならそれはとても嬉しいことなのではないか、とよく誰かは言う。
僕はそうは思わない。
大事な人を悲しませるようなやつを、僕は絶対に悲しんでなんかやらない。
僕は黙祷を捧げる体育館中の生徒達を見回しながら、隣に立つ女子生徒に目を向けた。
その女子生徒とばっちり目が合って、彼女は少し困ったように笑う。
逢川 麗衣那。
彼女のことは全く知らないが、
彼女は今、僕の隣にいる。
幽霊となって。