勘違いの始まり
小さな村ウルウィックの市場で、荷物持ちの青年トマスはいつものように働いていた。背は低く、顔は平凡で、唯一の自慢は「重い荷物を運べること」だけ。そんな彼が、ある日、運命のいたずらに巻き込まれる。
その日は村の近くで「黒竜ヴェルガノス」が目撃されたと噂になり、村人たちは怯えていた。トマスは市場で荷物を運びながら、偶然耳にした話を聞く。
「騎士団が竜を倒しに来たけど、全滅したらしい…もう終わりだ!」
「誰か英雄が現れないと、村は滅びるぞ!」
その時、トマスが運んでいた荷物——旅商人の依頼で預かった「古びた剣と鎧のセット」がカートから落ち、ガシャンと音を立てた。剣は錆びついて使い物にならないただの飾りだったが、ちょうどその場にいた村人たちは目を丸くした。
「まさか…あいつ、竜を倒しに行くつもりか!?」
「剣と鎧を持ってるなんて、英雄だ!」
トマスは慌てて弁解しようとした。「いや、これ、ただの荷物で…」
だが、村人たちは興奮し、彼の言葉を聞かず、勝手に話を膨らませていく。
「トマスが竜を倒す気だ!俺たちの英雄だ!」
「今夜は祝いの宴だ!」
こうして、トマスは意図せず「竜退治の英雄」として祭り上げられてしまった
初の短編集です。