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パラレルシネマパラダイス  作者: 厚切りトマト
一章
8/18

8.カメラワーク



 春が来た。何とエリクは無事に進級することが出来たらしい。そう本人をからかったら、軽くどつかれたので、この話はここまでにしておく。

 学院は春休暇に入り、2週間ほど休みになる。僕らはこの間に、シマトラさんを勧誘するつもりだ。早速とばかりに休みの初日、丘を登ってシマトラさんに会いに来た。振り返ると、ガーリアを挟んで遠くにタイ・オー山が見える。今日も快晴だ。


「たのもー」

「いや、それは何か違うと思うけど」


 例の家のノッカーを叩きながら、エリクがよく分からない声掛けをしている。しばらくして、女性が出て来た。


「はい、どちらさまですか」


 先日、シマトラさんと抱擁していた人だ。長い黒髪を結って頭に纏めている。年の頃は30代後半ぐらいだろうか、素朴で落ち着いた人という印象を持った女性だ。エリクの雰囲気が紳士然としたものに変わる。


「突然の訪問、すみません。僕はエリフォート、彼はアルフレッドです。実はシマトラさんにお話があってお伺いしたのですが、ご在宅でしょうか?」

「あら、あの人に会いにいらしたのね。わざわざこんなところまでありがとうございます。でも……どうしましょう、彼出掛けているのよ」

「いらっしゃらないんですね。あの……失礼ですが……」

「あらやだ、ごめんなさい。妻のミーナです。よろしくね」


 そう言うと、僕らに微笑んでくれる。何と言うか、人を和ませる、そんな笑顔だ。


「お二人はあの人のお弟子さんとかかしら?いえね、あの人ってば、親しい人の話なんて全然しないから」

「いえ、どちらかと言うと……ビジネスのお話です」

「あらあら、それは大変。それじゃあ失礼があってはいけないわね。お上がりなさいな。もうすぐ帰って来ると思うから」

「え、いや、それは……」

「ありがとうございます。でも、僕ら外で待たせて貰います。ほら、天気も良いですし」

「いいからいいから、若い子が遠慮しないの」


 遠慮する僕らを尻目に、さり気なく背後に回ると家へ入るよう背中を押される。白塗りの家は平屋で、部屋も2つだけの簡素な作りだった。まさに、愛の巣と言った造りで、ちょっと気が引けてしまう。壁にはいくつもの絵が飾ってある。額に入れてあるわけではなく、無造作に壁面に張り付けてあるような感じだ。


「この絵はミーナさんが?」


 僕が聞くと、彼女は嬉しそうに1枚を手に取る。


「女が絵描きなんてって思うかもしれないけれど、幼い頃から唯一の趣味なのよ。お金のかかる趣味なんてやめなさいと散々言われたけどね」


 油絵だろうか、赤い円が片隅に描かれ、その赤円を中心に風景が描かれている。抽象画にも見えるし、風景画にも見える。不思議なタッチの絵画だ。


「素敵な絵ですね」

「ありがとう。あまり人に見せることも無いから、嬉しいわ」


 ミーナさんは僕らに椅子に座って待つように言うと、魔法コンロの火を点けて、お湯を沸かす。レトロなタイプの魔法コンロで、最近では見なくなったタイプだ。


「えーと、エリフォート君とアルフレッド君は学生さんかしら?」

「そうです。よくお分かりになりましたね」


 エリクが答える。僕らは動きやすいように、普段着を着ているので、見た目はそこらの子供と見分けがつかないはずだ。


「そのローブ、前に絵を教えていた子が着ているところを見たことがあるわ。肩の留め具、確か魔術学院の校章でしょう?」

「魔術学院の生徒が絵を勉強してたんですか?」

「貴族教育の一貫なんですってね」

「なるほど」


 春先とは言え、風があると肌寒い時期だから、僕ら2人、ローブを着ていた。学院の支給品で非常に質が良く、生徒は誰もが愛用している。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「いただきます」


 彼女の淹れてくれたお茶を飲む。苦味が少なく、すっきりとした味のお茶だ。


「飲んだことない味です」

「ふふ、そうでしょう。シルマリアと言うハーブを煎じて作ってるのよ」

「あんまり苦くないんですね」

「それがシルマ茶の特徴なの」


 お茶を楽しむ間、ミーナさんと歓談した。シマトラさんとは今まで手紙のやり取りをして愛を育み、仕事を辞めるタイミングで結婚するつもりだったらしい。確かに興行で各地を回っている間は、会うこともままならない状態だったはずだから、かなり長い間、文通してたのかな?惚気話のお返しにと、僕らが作る映画に関して話をしたり、彼女は非常に聞き上手で、話が弾む。


「あら、面白いことを考えてるのね。動く絵なんて」


 どうやら、ミーナさんは興味を持ってくれたみたいで、僕らの話をニコニコした顔で聞いてくれた。


「それで、街でシマトラさんの演目を見て、是非主役をお願い出来ないかなと思いまして」

「なるほどね。いいんじゃないかしら。あの人も仕事を辞めて暇なのよ、蓄えはあるし、私からも勧めてみましょう」

「本当ですか!」


 エリクが、驚いたように立ち上がった。ミーナさんは深く頷く。


「ええ、私自身もとっても興味あるわ、それに……」

「それに?」

「いえ、これは本人に聞いてみましょう。ちょっとごめんなさいね」


 ミーナさんは立ち上がって、玄関の方へ歩いていく。よく聞けば、外から靴の土を払う音がしていた。

彼女がドアをそっと開けて、その人物を招き入れる。

 シマトラさんだった。


「おかえりなさい」

「おう。ん?なんだ客か?」

「そうなの。紹介するわね、こちら魔術学院の生徒さんで、エリフォート君とアルフレッド君。お願いがあるそうよ」

「エリクです」

「アルフレッドです」


 僕らも立ち上がり、頭を下げる。


「おう、おれぁシマトラだ。まぁ座りな」


 シマトラさんは、外套を脱ぐと、ミーナさんに手渡す。ミーナさんはそれを受け取り、丁寧にラックに掛けている。シマトラさんがテーブルに近付き、反対側の席に腰掛けた。


「んで、なんだって学院の生徒さんとやらがうちに来なさった」

「はい、実は……」


 エリクが経緯とお願いについて、一通り説明する。


「ほぉう。映画ねぇ」

「それで、街でシマトラさんが見世物小屋を辞めるって聞いて、是非、主役をやって欲しいなと思いまして」

「火の悪魔か」

「そうです。どうでしょうか、俺たちに協力してもらえませんか」

「ねぇ、あなた。手伝って上げなさいな。暇でしょうがないってぼやいてたじゃない」


 ミーナさんの勧めを渋い顔で聞いているシマトラさん。


「それに、とっても面白そうよ?」

「まぁ……話は分かったがよ」


 シマトラさんは困ったように頭を掻くと、溜息混じりにこちらを見る。


「その前に聞かなきゃいけねぇことがある」

「はい、なんでしょうか」

「どうやって、この家が分かった?おれっちはよ、誰にもここに住んでることを言ってねぇ」

「それは……」

「すみません。街からシマトラさんの後を尾行しました」


 言い淀む僕を制して、エリクが頭を下げる。


「ほぅ。おれっちの後を」

「はい。それについては、本当にごめんなさい」

「ごめんなさい」


 2人揃って謝った。少しして頭を上げると、シマトラさんは怖い顔で、睨みつけているのが分かった。


「まぁ、素直なおめぇらに免じて、それは許してやらぁ。だがな、おれっちがよ、今一番こえぇと思ってるのは、ラットマンの野郎よ。知ってるか?ラットマンだ。あの一座の持ち主だよ」

「はい、知ってます」

「おれっちが今大事なのはこいつとの生活よ」


 そう言うと、ミーナさんの肩に手を置く。


「やっと一緒になれたんだ。思えば、長い事待たせちまった。ラットマンの野郎は自分の持ち物を手放さねぇ。おれっちの知る限り、一番強欲な奴だ。辞めると言って、ただで許した事は聞いたことがねぇ。だからよ、ここを知られる訳には行かないのよ」


 シマトラさんはそこで言葉を切ると、ミーナさんの用意したお茶を一気飲みする。


「そこへ、おめぇたちが現れた。おれっちだけなら、撒いて逃げる事ができてもよ。おめぇたちと一緒に街に出入りしてたら、バレねぇもんもバレちまうかもしれねぇ。おれっちはよ、今の生活が好きなんだ。だから、わりぃけど、帰ってくれ」


 それは、不器用ながら、僕たちに伝わるように、出来る限り優しい断りの申し出だった。


「あなた……」

「皆まで言うな」


 僕らは何も言えなかった。


「失礼します」


 お茶の御礼を述べて、すごすごと退散する。


「ダメだったか」

「残念だけど、仕方無いね」


 しばらく、帰りの道を黙って歩く。


「諦めるの?エリク」

「うん?」

「いつものエリクなら、もう一度お願いに行くような気がするけど」

「それなー」


 それっきり、また沈黙が来る。


「なぁ、アルフ」


 空を眺めながら、エリクが呟いた。


「何?」

「俺はさ、シマトラさんしかないってなってるんだけど、お前はどうだ?」

「奇遇だね。僕も同じ事思ってた」

「だよな。なんでか分かんないけど、あの人じゃなくきゃ上手く行かない気がする」

「そうなんだよね。何でだろう」

「何でだろうな」


 丘を降りきって、ちらほらと家屋が見え始める。


「でも迷惑は掛けられないよね」

「そうなんだよな。ミーナさんとシマトラのおっさん幸せそうだしな」

「おっさんて……」

「あ、そういえば、ビーコンてまだ稼働してるのか?」

「んー、大丈夫だね。かなりの魔力を練り込んだから、あと数日はいけるはず」

「へー、すげぇな。気づかなきゃずっと追尾される厄介な魔法だな」

「そうなんだよね。一応任意で切れるけど、切っておくかな」

「待て、アルフ。ちょっと考えがある」

「……エリクのそういう発言の後は、大抵厄介事が来ることが、最近分かってきたよ」


 僕は溜息混じりに、今や、親友となった彼が悪巧みをするかのようにニヤつくのを眺めていた。







「おー坊主すげぇじゃねぇか、助かるぜ」

「そんなそんな、おっさん、もっと褒めてもいいんだぜ?」


 親方とエリクのそんな掛け合いを眺める。

 翌週、僕らは煉瓦を作っていた。うん、何を言っているか分からないと思うが、僕もよく分かっていない。エリクは粘土と粉砕した石を投入した巨大な器に魔法で水を出していた。


「水を汲み上げんのが、すげぇ大変でよ。おめぇらが魔術学院の生徒だっつうから、もしかして、と思ったんだよ。頼んでみるもんだな」

「いくらでも言ってくれよ、親方。それで次はどうすんだ?」

「おぅ、次はな」


 今度は、煉瓦窯の火付けだ。煉瓦作りの工程は、混ぜる、乾燥、焼成、冷ましに分類される。この作業場では、各工程を流れ作業で分担していた。それで、何故、煉瓦作りの仕事をしているのかと言うと……


「あぁ?なんだぁ?なんでここにいるんだ?」


 困惑した声を上げるのはシマトラさんだった。そう、僕らはシマトラさんの新しい職場を手伝いに来たのだ。


「あ、シマトラさんじゃないですか!奇遇ですね!」

「シマトラのおっさん!いゃぁ、偶然てのはあるもんだな」


 白々しい僕らの態度に、シマトラさんが胡散臭いものを見るような顔をする。


「なんだぁ、おめぇら、知り合いか?」

「そうなんだよ、親方。な、シマトラのおっさん」


 エリクは気軽にシマトラさんの肩を叩く。


「お前、この前と態度がまるで違うじゃねぇか」

「これが俺の平常運転だから、よろしくな」

「はぁ……たく、親方すまねぇ、多分こいつら、おれっちのせいで、ここに来たんだわ」

「ほぅ、そうなのか。お陰で助かってるぜ。なんせ水汲みから火付けに至るまで、魔法でちょちょいのちょいとやってくれるし、聞き分けもいいんで、大助かりだぜ」


 親方はガハハと笑うと、僕たちをバンバン叩く。


「……そりゃあ、何より。お前らは後で話があるからな」


 それから、作業に戻った。シマトラさんの分担は練りと成形だ。持ち前の3本腕を使って、流れるように型を取って、成形していく。僕らが見惚れていると、さっさと働けと怒られた。時々水を出し、石を砕き、成形したものを乾燥するのに、温風を掛ける。あっという間に中天も過ぎ、今日の作業は終了となった。


「お疲れ様でした」

「おつかれ!また来いよ。今度は使うとこ見せてやるよ」

「本当ですか!よろしくお願いします!」

「親方!またな!」


 作業場を後にした僕とエリク。そしてシマトラさん。うん、労働は尊い。体は疲れたけど、達成感がある。


「それで?なんでまた、おれっちの職場が分かった」

「ふふふ、それは秘密です」

「俺たち魔法使いに不可能は無いのよ。いてっ」


 エリクのニヤつく顔を、張り手で叩くシマトラさん。


「お前のその顔、苛つくから、やめろ」

「と、まぁ冗談はこのくらいにして」


 エリクは、態度を改め、居住まいを正す。


「もう一度、お願いに来ました。どうか俺たちの映画に出てください」

「お願いします」


 頭を下げる僕たちに、シマトラさんは例の渋い顔になる。


「なんねぇ。何度来ても結果は一緒だ。やらんといったら、やらん」

「そこを何とか!」

「お願いします!」

「だぁ、鬱陶しい。おれっちはこの職場は今日限りだ。もうついてくんなよ」


 そう言い捨てると、足早に立ち去った。2度目の勧誘も失敗のようだ。残された僕とエリク。


「むぅ。強情なおっさんだな」

「ちょっと強引すぎたね」

「まだまだ行くぞ、今度は搦め手だ」







 2日後、僕らは台車一杯の煉瓦を積んで、郊外に来ていた。平たい土地を選び、台車を停める。昨日、親方の手伝いで、煉瓦積みを教わって、余りの煉瓦を駄賃代わりに格安で貰い受けた。給金を貰わない代わりに、現物で支給して貰った訳だ。


「さて、アルフ君」

「はい、エリク職長」

「これより、撮影所の建設に掛かりたいと思う」

「質問があります。撮影所とは何でありますか!」

「良い質問だ。撮影所とは言ったが、屋根まで造る余裕は無い。強いて言うなら、舞台を造りたい」


 エリクの説明によれば、今から造るのは舞台らしい。図面を見せて貰うと、土台と床、壁を煉瓦で造り、その表面を木板で覆うだけの簡単な造りだった。そして、何故か、舞台が2つ、くの形に配置されている。


「これはなんで、この形なの?」

「あーそれはだな」

「その説明待った」


 エリクが得意気に話し始めた矢先、ストップがかかった。


「2人で勝手に始めるのはやめなさい」


 カリーナさんだ。そしてその後ろにはゲンナーが呆れたように腕を組んでいる。何故か姉さんもいた。

 つまりは、全員集合である。


「呼ばれたと思ったら、突然撮影所を建てるとか言い出して、果ては説明も無く話を進めるのは失礼でしょう」


 後ろで、ゲンナーと姉さんがそうだそうだと声を上げる。それは最もなので、黙って、エリクの説明を聞くこととする。


「確かにカリーナちゃんの言う通りだな。よし、では解説しよう!」

「ちゃんはやめなさい」


 エリクは高そうな羊皮紙に描かれた図面の解説を始める。


「まず大前提として、映画の撮影には大きく分けて、2つのパターンがある。野外撮影とスタジオ撮影だ」


 彼は指を2本立てると、皆を見渡した。


「野外撮影は言わずもがな、屋外でその場のロケーションを利用し、撮影する事を指す。メリットは画角を広く取れる事、役者が感情移入しやすい事、小道具等のセッティングが安く済む事等が挙げられる」


 1つ目の指を折る。残ったのは人差し指。


「次にスタジオ撮影。これは屋内にスタジオ。つまり舞台や小部屋等、自分たちの撮りたい空間を創り出し、そこで撮影する。こいつのメリットは、天候に左右されない事、ライティングを好きにいじれる事、置きたい場所にカメラを置ける事、スケジュールの調整が容易な事。そして何より、撮りたい場所を創り出す事が出来る」


 エリクの言う、野外撮影とスタジオ撮影の概念はぼんやりと理解出来た。ライティングと言う言葉だけはよく分からなかったけど、それぞれのメリットは確かに言う通りだ。だけど……


「うーん。大体分かったけど……」

「屋根が無くてもいいのかってことだよな」

「うん」

「確かにメリットを捨ててるように感じるわね」

「まぁ、確かにそうなんだけど、首都近郊は比較的雨も少ないし、今回は予算が無い。だから、妥協して舞台だけ造る」

「なるほど」

「さて、ここからが本題だ。まず舞台を2つ用意する理由だが……」


 図面の舞台を1つずつ指差し、右と左に指を振ると、ゲンナーを手招きする。


「ゲンナーさん。頼んでた機構は出来てる?」

「あぁ、難しかったけど、回転機構は専門なんでね。ばっちりだよ」


 そう言うと、先ほどから組み立てていたカメラを持って前に出てくる。前回の物と違って、下部に大きな円形の板が付いており、棒状の取っ手が伸びていた。


「ご要望通り、横を向けるようにした。あと、回りすぎないように180度でロックするように固定してある」


 ゲンナーの説明通り、カメラの取っ手を動かすと本体が右へと回転した。僕も少し触らせて貰う。


「流石カメラ職人。頼りになる。で、だ。こいつを使って撮影すると何が出来るかだが……カメラを横に振る撮影技法がある。パンや、パンすると言われる技だ。先に言っておくが、これは本来の意味から少し遠い表現なんだ。だけど、誤解を防ぐ為、俺たちの間では、横移動をパン、縦移動はティルト。そう名称を固定したいと思う。さて、アルフ。パンを駆使する事で、何が出来るか分かるか?」


 突然振られたが、何となく理解出来るから、そのまま答えた。


「そうだなぁ、人の動きを広く撮影出来るとかかな、例えば、歩いたり、走ったり?」

「そうだな正解だ。そこで、この舞台だ。簡潔に言えば、場面転換に利用する。真ん中に板を立てられるスリットを引いて、壁や扉を設置する。そうすると、2つの空間が出来る。例えば、左を家だとしよう、そして右は街だ。左の家にいた人物が扉を開けて、右の街へ出ていく、その様子をカメラを振る事で追跡出来る。勿論これは、舞台的な演出であって、現実では有り得ない現象だから、あくまで、場面転換のカラクリなんだと分かって貰う必要がある。しかし、それを理解して貰えれば、時間を操作する事が出来るようになる。どういう事かと言うと、街へ出て行くのは朝。家へ戻るのは夕方といったように、物語の流れを区切る事が出来るようになるんだ」

「ふむふむなるほど」

「他にも、カメラが動く、これ1つで多種多様な印象操作が出来るようになる。いいか、アルフ」


 そう前置きすると、カメラを優しく撫でるように触って、真剣な目で僕を見た。


「カメラマンはこの動き1つ1つを極めていかなきゃならない」

「……僕の仕事はこれを極める事」

「そうだ。これを カメラワーク と言う」



 



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