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パラレルシネマパラダイス  作者: 厚切りトマト
一章
3/18

3.カリーナ助手は歳下の男の子がお好き



 僕らの会話を聞いていた二人は、まだ納得していないようだったが、考えは理解して貰えた、と思う。


「まぁ、二人がやりたいことならば、手伝いくらいはしてもいい。そうだな……ゲンナー!」


 すると、背後の柱の影から、悪びれもせずゲンナーが出てきた。ずっと聞いていたのかな?


「流石親方。バレてましたか」

「盗み聞きはいい趣味とは言えないな」

「たまたま聞こえてきた話が面白そうだったもので」

「そうか、興味あるか」

「ええ、無いと言えば嘘になります」

「ふむ……よし。手を貸してやれ」


 思ったよりも簡単に許可が出た。姉さんは訝しげにしているが、父さんの許可が出れば、こちらのものだ。


「いいんですか?」

「アルフがここまで熱くなるのは始めて見たからな、正直、編集とやらはよく分からないが、店に影響が出ないくらいに手伝ってやれ」

「分かりました」

「やった!」

「よし!」


 思わずエリクと拳を合わせる。


「それと……」


 父さんは前置きすると、姉さんの肩を叩く。


「サシャは口出すなよ、また厄介なことになるのが目に見えてるからな」

「またって何!私がいつ厄介事を起こしたって?」

「まぁまぁ」


 父さんと姉さんが口喧嘩して、ゲンナーがとりなす。我が家のいつもの光景だ。


 父さんと姉さんが休憩所から出ていき、ゲンナーだけが残った。


「えっと、ゲンナーさんでしたよね?これからよろしくお願いします」


 エリクが律儀に頭を下げる。本当学院とは別人だ。


「こちらこそ、それで……最小魔石量が知りたいんだっけ?」

「そうなんだ。できる限りコストを抑えたくて」

「なぁ、アルフ。最小魔石量とはなんだ?」

「それはね……」


 魔石とは、魔物の体内に精製される石のことであり、発動の触媒や、魔法薬の原料、魔力タンク等、様々な用途に使うことのできる万能資源である。


「ここまでは分かるね?」

「ああ」


 魔石量とは、魔道具師が触媒やエネルギー源として必要な魔石の量を計る為に、単位付けした値の事である。


「それを計る道具がこれ」


 俗にスケールと言われる、3つの目盛りのついた秤を持ち出す。


「単位はmf。これに魔石を置くと、内包された魔力密度が左上に、残存魔力が右上に、それを踏まえた魔力総量が下に表示される」


 表示は100mf。


「これがこの石の現在の価値になる」


 エリクは真剣な表情で聞いている。


「ここからが本題」


 僕はメモリーを使用し、もう一度秤にのせる。


 100mf。


「やっぱり、減ってない」

「んーと、つまり?」


 エリクはピンときてないようだけど、これは僕の予想通りだった。


「この魔法は、魔石からの魔力供給を必要としていない、単純な保管装置として魔石を使用している」

「それはいい事だよな?」

「そうだね。さて、ゲンナーお願いできる?」

「はいはい、先ずは半分かな?」


 僕が頷くとゲンナーは升目のついた機械の前に立つ。


「あれは?」

「魔石裁断機だよ。時計の部品に仕込む魔石を切り分ける機械。升目の網はチタンスパイダーの糸で出来てて、簡単に切り分けることができるんだ。とっても高価なんだよ?」


 ガコンという音がして、魔石が半分に切り分けられた。

 もう一度メモリーを使用する。


「まだいけるね」

「なるほど、こうやって小さくしていって、魔法の保管に必要な量を探るわけか」


 エリクもこの作業の意図に気付いたみたいだ。


 何度か測定して、結果は10mfだった。


「1つ30u。秒間720uか」

「思ったよりも安上がりじゃないかな?」

「確かにな」

「ちなみにだけど……懐具合は……?」


 エリクは無言で財布を取り出し、逆さまにする。


「僕も、小遣い程度しかないよ?」


 二人してゲンナーをチラ見する。


「いやいや、俺は一切出さないよ?あくまで手を貸すってだけだ」


 それを聞いて、肩を落とすエリク。


「それはそれとして、差し当たっての課題が2つ。魔法の連続使用、魔石をどの形に加工するのか」


 確かにゲンナーの言う通り、技術的な問題が先だ。


「魔法に関しては、学院の教師に当たろうよ、何かしら解決策がありそうな気がする」


 エリクと僕は頷き合う。それ意外に手はないし、学院の生徒であることを最大限活用するべきだ。


「後は映写機とフィルムに変わるモノか」

「映写機とフィルム?」


 エリクは図で説明してくれた。要するに、メモリーアウトとライトの魔法を同時に使用することのできる機械と、魔石を収納し、連続使用することのできるシステムだ。


「実験するか」


 その後、日が暮れるまで僕らは話し合い、いくつか試した結果、映写機に関しては、ライトが使用できる機械があればなんとかなる事、メモリーアウトは作業者が唱えてカバーする事になる。フィルム?のほうはどうやら魔物の素材に良いものがあるらしいとの事。


「よし、取り敢えず試作してみるから、2人は魔法のほう考えといて、後、金稼ぐ方法もね」

「そうだ、それがあった」

「エリク、もう1つ忘れてることがある」

「ん?何かあったか?」

「落とした単位どうするの?」


「……あー……」


 忘れてたなこいつ。








「エリクは本当に優秀なのか、そうじゃないのか分からない子ね」


 カリーナ助手は呆れた声で教本を閉じた。


「はい、補習終わり。それで?なんでアルフはここにいるの」


 僕らの単位は補習で何とかなるみたいで、カリーナ助手が補習を請け負ってくれた。

 彼女は教師では無く、教師見習いと言える立場にある。授業の手伝いをする事も有り、生徒からも人気が高い。何より若い。去年学院を卒業したばかりだ。


「エリクの巻き添えです」

「ふーん。仲良かったかしら、あなたたち」

「えぇ、それはもう」


 昨日からとは言えないのではぐらかしておく。


 彼女は僕とエリクを交互に見て、首を傾げていた。

 エリクは鞄を担ぎ上げて、僕の方に歩いてくる。


「ありがとうね、カリーナちゃん。補習付き合ってくれて」

「カリーナ先生て言え。まぁ私も暇だったのよ」

「暇ついでにちょっと相談があるんだけど」

「んー?恋愛相談なら無し」


 エリクが苦笑して、スッと近づき、彼女の手を取ると、軽くキスをする。ん?えっと?


「お、おま……」


 さしものカリーナ助手も、動揺が隠せないようで、赤面している。


「頼むよ。カリーナちゃん」


 エリクは真剣な眼差しで彼女を見つめる。


「もぅ……しょうがないな。ふぅ」


 そう言う彼女は、手で顔を仰いでいる。


「え、なにこれ」

「カリーナちゃんはショタ好きだから」


 エリクが僕の耳元で囁く。


「えぇ……」

「……それで、相談というのは?」


 平静を装っているが、相変わらず顔は真っ赤だ。


「アルフ頼む」


 メモリーの魔法について一通り説明、実践をする。


「これの連続使用を研究したくて」


 壁に映し出された映像を背景に彼女が振り返る。


「連続魔か。また難しい課題に取り組んでるわね」

「秒間24回の一定律使用が目標なんですけど」

「秒間24?!そんな体感できないほどの瞬間どうやって規定する気?」


 驚く彼女に僕は冷静に返す。


「ですよね。それは無理なことは予想してました。なので連続は機械的に解決するとして、使用し続けることが出来るかどうか知りたいんです」

「ほーう」


 持続使用ができるのかどうか、そこが重要だった。

これが可能か否かで実現性に違いが出てくる。


「んー、多分できるわ。使用魔力が低いし、詠唱が短いから、弄りやすいタイプの魔法ね」

「本当か!」


 エリクは思わず彼女の手を取って、詰め寄る。


「ちょっと、エリク!あなたさっきから近すぎよ」


 カリーナさんはエリクをやんわりと引き離した。


「ご、ごめん……」

「私もね、年下の可愛い男の子に迫られて悪い気はしないけど、学生なんだから節度を保ちなさい」


 真面目に説教してる風だけど、下心が透けて見える。カリーナさんて、こういうタイプの人だったのか。

 押し返されたエリクは、それでも大きく頭を下げた。


「頼む、なんでも言うこと聞くから、メモリーの持続使用を研究して欲しい」

「な、なんでも……?」


 彼女は動揺したように、目を泳がせる。


「僕からも、どうかお願いします!」

「研究、研究か……確かに今は時間あるけど。んー……うー……なんでも……くぅ……」


 しばらく葛藤していた彼女は、突然、悟りを開いたような表情になると、笑顔でエリクを見た。


「分かりました。請け負いましょう」

「え!?」

「やりぃ!」

 

 こんなに簡単にお願いを聞いてくれるとは思っていなかった僕は驚いてしまう。


「いいんですか?カリーナ先生もお忙しいでしょうに」

「いいわよ。その代わりに、1つお願いしたいことがあるのだけど」

「任せてくれよカリーナちゃん。なんだってやったるぜ」


 エリクは自信満々に拳を握りしめる。大丈夫だろうか、こんな安請け合いして。


「それじゃあ、魔法薬学部のメリダ先生を訪ねてあげて」


 そう言うと、一枚の紙切れを差し出してきた。


「本当は、私が頼まれたことだけど、あなたたちなら大丈夫でしょう」


 薬草採取依頼 メリダ 報酬額要相談


「小遣い稼ぎにもいいんじゃないかしら?」







 魔法薬学科。学院の中でも外縁に相当する場所にある、巨大なガラス張りの温室と、広大な園を保有することで有名で、3年生になると、授業選択できるようになる。したがって、僕らはまだ踏み入ったことの無い場所だ。


「ほぇー。凄いなここ。正にファンタジーて感じ」

「何かエリクと今まで話すこと、あまり無かったけど、不思議な単語よく使うんだね」

「あー、まぁ気にするなよ。独り言だと思ってくれ」


 僕らはメリダ先生を捜しに温室まで来ていた。

 ここは年中室温が保たれており、様々な植物が植えられている。中には危険なものも多いらしく、あちらこちらに危険の立て札が立っている。


「君たち!」


 唐突に後ろから声をかけられた。


「その記章、1年生だろう」


 助手の証である濃紺のローブを身にまとった男性が歩み寄って来る。


「はい。1年のアルフレッドです。彼はエリフォート」


 咄嗟に挨拶したが、助手の男性はどうでもよいというように、背中を押してきた。


「自己紹介などいらないから、さっさと出ていきなさい。3年生以下は立ち入り禁止だと知らないのか?」

「そうなんですね。それは知りませんでした。すみません。ですが、魔法薬学部のメリダ教授を訪ねるように言付かったものですから」


 やんわりと押し返して、懐から先ほどの紙切れを出し、彼に渡す。

 理由があれば、流石に叩き出されることも無いだろう。


「採取依頼?教授が君たちに?」

「正確には違うのですが、代理で引き受けることになりました」

「代理だと?」


 怪訝な顔をする彼の手を払って、エリクが前に出た。


「そうゆう訳だから、メリダ先生に会わせ下さい」

「ふむ……だめだな」

「なっ」


 叫び出しそうなエリクを手で制して、問いかける。


「それは……どうしてでしょうか」

「教授が君たちのような新入生に依頼をする事など、有り得ないからだ」

 

 そう言うと、手に持った紙を破いてしまう。


「大方、遊びで温室に入ってみたかっただけだろうが、ここは子供の遊び場ではない」

「なんだこいつ、一方的に決めつけやがって」


 今回はエリクが正しい、彼のやり方は横暴にすぎる。


「僕たちが子供なのは否定できませんが、その態度はあまりに失礼ではないでしょうか、ましてやその依頼書は正式なものであり、依頼が反故になれば、困るのはメリダ教授です」

「ふん、それは有り得ない。何せこの私が助手を務めているのだからな」

「?それは依頼と何か関係があるのでしょうか」

「ん?……あぁ、そういう事か」


 得意気な彼に僕が首を傾げると、彼は合点がいったと言うように、僕らを見た。


「君たち、私を知らないのだね?この若干20歳にして魔法薬学部のエースとして助手に抜擢されたこの私を」


 エリクと僕は顔を見合わせると、お互いに首を振った。


「そうかそうか、まぁ私は器の大きな人間だからな、君たちの無知を許そう。私の名はフィズ=マーベル。マーベル子爵家の第二子であり、魔法薬学部筆頭教授メリダ女史の助手を務めている」


 大袈裟に手を広げる彼、フィズ先生。


「はぁ……それは大層な事で」


 彼の勢いに、エリクが若干引いている。

 しかし、参った。何とかしてメリダ教授に引き合わせて貰わねばならないのに。


「エリク、どうする?」

「この堅物無視して、メリダ先生探そうぜ」

「おい、聞こえているぞ。ただでさえ忙しいのに、教授の手を煩わせるわけにはいかん」


 僕らの行く手をフィズ先生が塞ぐ。


「だぁ、面倒くさいやつだな。ちょっとぐらい融通してくれてもいいじゃんか」

「断じて、否だ!」


「ちょっと、何ですかフィズ、大きな声を出して」


 すると温室の奥から、1人の老婆が顔を出した。

 彼女の事は、流石の僕らも知っている。魔法薬学の権威にしてこの植物園の主、メリダ教授だ。


「教授。お騒がせして申し訳ありません。ネズミが迷い込んだようで、すぐ追い出しますので」

「ネズミ?あら随分可愛らしいネズミさんね」


 教授は僕ら2人に気付いたのか、微笑むと頭を撫でられる。


「初めまして。アルフレッドと言います。彼はエリフォート。カリーナ助手よりご依頼を受けて参りました」

「あら?カリちゃんの依頼となると、薬草採取の件かしら」

「そうです」


 ふと、横を見ると、エリクが勝ち誇った顔で、フィズ先生を見ていた。対してフィズ先生は渋い顔をしている。

 また火種になるから、やめてほしい。


「そうなのね。それはお疲れ様。でも……どうしましょうね」

「何か問題が?」


 メリダ教授は困った、という顔で苦笑している。


「その依頼なんだけどね。とっても危険なのよ」

「危険?」

「そうなの、だからカリちゃんに頼もうと思ったのだけど」


 どうやら、僕らには難しい依頼のようだった。

 ふと見ると、メリダ教授の横で、今度はフィズ先生がほくそ笑んでいた。


 うん。この人はあまり敬わなくても良さそうだ。


「しょうがないわね。フィズ。頼まれてくれるかしら」

「ええ、勿論です」


 満足気に頷くフィズ先生。

 不満気なエリク。

 ちょっと気疲れしたかも。

 


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