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パラレルシネマパラダイス  作者: 厚切りトマト
一章
14/18

14.エピックオブローマイヤー




「ヴァイオレットさん。今日は話を聞いて頂き、どうもありがとう御座いました」

「いえ、こちらとしても興味深い話でした。発見の暁には必ずお知らせ致します」

「「お願いします」」


 あの後、ヴァイオレットさんは時計の構造とその発展性について、姉さんの説明を真摯に聞いてくれた。他にも案件が多くあるだろうに、協力を約束してくれたのだ。必要なのは一定律の変換式、これはまだ発見されていない。


「良かったね姉さん」

「これも優秀な弟のおかげ。ありがとう」

「ふふ、そんなに褒めても何も出ないよ」

「それにしても、美人だったなぁ。アルフめろめろだったね」

「え、そ、そうかな」


 帰り道、お土産を抱えながら、雑談する3人。


「ゲンナー」

「な、なんだいサシャ」


 姉さんから剣呑な雰囲気がする。これは選択を間違えたなゲンナー。


「私とヴァイオレットさん、どっちが好き?」

「それはサシャに決まってるじゃないか!」

「そう……ならいい」


 何だかなー。この2人もモヤモヤするというか、早くくっついてくれと思ってしまう。ゲンナーは最早身内というか、兄だと思っている。今度無理矢理2人きりにしてみようかな。いや、余計なお世話かな。


 工房に帰宅し、相変わらず編集の鬼になっているエリクにタブレットを渡す。


「おーナイスだアルフ!」

「なんでもワードには10種類の文字列や絵が記録できるワードインと出力番号を指定するワードライトがあるらしいから、両方覚えないとダメみたい」

「メモリーと一緒なんだな」

「覚えられる?」

「カリが手伝ってくれるって言ってるから大丈夫。それより例のあれ頼むな」

「任せといて。今から確認してくる」


 シーンごとにラベル書きしたフィルムによって、簾のようになっている作業部屋、これはゲンナーが作ってくれたものだが、を出て、工房裏の空き地に向かう。ここは資材置き場になっており、大きな仕事の無い現在はスペースが空いていた。そんな資材置き場に大きな穴がある。落ちないようにと、柵を設けたそれを僕は覗きこんだ。


「お、増えてる増えてる」


 中には粘性の物体が所狭しと詰まっている。そう、スライムだ。撮影所の建設に使ったスライムの体液、あれこそが魔液だった。ではその魔液に水を吸収させたらどうなるのか。実は昔からやってはいけない事として、スライムの体液に水を混ぜてはいけないと教えられるのだ。建材として使用する際は必ず石灰を先に混ぜること。接着剤に使う時は、水で薄めてはいけない等、水とスライムの体液を混ぜるとスライムに戻ってしまう事例がよく確認される為だ。これも詰まるところ、スライムが生物では無く、あくまで物質同士の反応だったからなのだろう。それを逆手に取って、僕はスライムプールを作ったのだ。ラウンドピットの魔法で穴を掘り、スライムの体液と水を投入して放っておけば完成だ。魔液は水を吸収しスライムへと変化、やがて水が尽きると、土中の水分を吸収し、それも終われば増殖が止まる。雨が流れ込まない限り自然に溢れる事は無い。


「これだけの手間でこの量は凄いな」


 魔法使いであれば造るのは容易だろう。今後このような設備が各所で造られると僕は見ている。もしかしたら連邦主導で巨大な物も建造されるかも。1つ疑問なのは、例えばこのスライムが河川や海に流された時、一体どうなるのかという事。今迄スライムで河が氾濫した等の話は聞いた事が無い。どんな作用でそれが止められているのか、やはり魔力の関係なのか、はたまた微生物等の働きなのか。まぁ、今後それは明らかになるだろう。


「アルフ。昨日から何をやっているんだ?」

「父さん」


 穴を覗き込む僕を訝しげな表情で父さんが見ていた。一応穴を掘る許可は貰ったけど、何をするのかは言ってなかった。


「見てよ。スライムプールを作ったんだ」

「スライムプール?またなんでそんな物を」


 父さんは穴を覗き込んでスライムを確認する。


「まぁ、見てて」


 僕は桶を持ってくると、フロートハンドの魔法で中身を掬う。これは今後滑車を設置するべきだな。


「この掬ったスライムを煮るなりして水と体液に分離するんだけど、今は用意が無いから乾燥魔法で乾かすよ」


 すると、水分が飛んで桶の中に魔液のみが残される。


「そしてこれに……」


 桶を傾けながら、ロックタートルの変換式を唱える。魔液はみるみる硬化し、掌サイズの魔石が転がり出て来た。


「これが今話題の魔石だよ」


 父さんは魔石を受け取ると、掌に転がしてみる。


「ほう。確かに魔石のようだ。新たに魔石を作り出すとはな、俺は魔法に疎いからこれがどれほど難しいものなのか分からんが……魔力密度はどれくらいなんだ?」

「計ってみよう。実は僕もまだ確認した事ないんだ」


 スケールの所に持っていき、魔石量を計る。表示は6023mf。


「何だと?6000?壊れたか?」

「正常だよ父さん。これが純粋な魔力分子外殻(ヴェセルデバイス)と変換式の相互作用による効果なんだよ」

「ヴェセウ?なんだそれは?」

「ヴェセルデバイス。魔石の殻の事さ。スライムの作り出す殻をロックタートルという魔物の心臓にある変換式を用いて変容させるとこの魔石が生まれるんだ」

「それはまた……こんなもの人の暮らしにどれほどの影響が出るのか図りしれんぞ」


 父さんは頭を押さえて、魔石を観察している。


「そうだね。だから適切に使用しなくちゃならない」

「……これは、一般に公開されるのか?」

「もうされてるよ」

「何とまぁ、親父が生きてたらひっくり返ってたな」


 父さんの言う親父とは、勿論、僕の祖父ジーターその人の事だ。幼い頃の記憶しか無いけれど、厳格な人だったのは覚えている。この国で初めて時計を作った自慢の祖父だ。


「そういえば父さん。よく飲み歩きするよね?」

「なんだなんだ突然。深酒はせずに帰ってるだろ」

「いや、責めてる訳じゃ無いよ。付き合いもあるだろうし、姉さんは怒ってるだろうけど」

「ああそうだな。サシャは最近、益々母さんに似てきたと思うよ」


 その言葉に僕は母さんの面影を思い出そうとする。もうかなりあやふやになってしまった。そう言われてみれば、姉さんの怒った顔とか似ているかも。


「と、そうじゃなくてね。……お店を探してるんだ」

「なんだ、お前も酒に興味が出たのか?今度一緒に行くか?」


 父さんが妙に嬉しそうに言う。


「違う違う。そうじゃなくて、映画の上映に最適な店が無いかなと思ってね」

「なんだ、酒を飲みたいから俺を誘ってくれたのかと思ったぞ」


 拗ねてしまった。父さんは母さんがいなくなってから、時々こうなるんだよな。僕は苦笑してしまう。


「わかったよ、今度、今度一緒に行こう。だからさ、教えて欲しいんだけど」

「本当か!?よし!何でも聞け!」

「あー音楽をやってるお店とかないかな」

「それは、店の中で余興としてって事か?」

「そう。別に店の人がやって無くてもいいんだけど、人を雇ったりして演奏しながら楽しめるようなお店」

「あるぞ」


 父さんは即答だった。


「え、あるの?」

「それはあるだろう。歌を聴かせる所もあれば、吟遊詩人なんてのを呼ぶ所もあるが、一番はあそこだ。エピックオブローマイヤー」

「エピックオブローマイヤー?」

「店の名前さ。俺達にも縁が無いわけじゃないんだぞ?何せ、店名のローマイヤーてのは親父の戦友だ」

「大戦の時の?」

「そうさ、かつて共にベルトラン砦を守り切った戦友だと親父は語ってたよ。ローマイヤーさんは現地で亡くなったらしいがな」

「あれ、じゃあエピックオブローマイヤーをやってるのは?」

「ローマイヤーさんの子供さ。正確には兄妹だな。2人で切り盛りしてて、夜になると演奏会をやったりする。俺もよく行くよ」

「なるほど、いいかも。ねぇ父さん。今度って言ったけど、どうだろう、今夜行ってみない?」


 行こう行こう。そういう事になった。




 Eqic of Lowmayer


 その店は歓楽街の中ほどにあった。二階建ての建物で、見上げる場所に店名の看板が堂々と掲げられている。この街では珍しい事に木製の建物だった。


「さぁ、着いたぞ」


 ここに来るまで、夜道でも分かるくらい楽しげな様子の父さんを見て、偶にはこういうのもいいかと思った。


「結構大きいお店なんだね」

「そうだな。かなり人気の店だぞ」


 店内に入ると、中は吹き抜けになっていて、2階のお客さんの様子まで分かるような造りになっていた。

父さんは勝手知ったる様子で、2階へ上り、奥の席に座る。


「ほら、座れ。とりあえずエールか、ドラッシュだな。どっちがいい?」

「ドラッシュで」

「おーい!ドラ2頼む!」


 僕が頼んだドラッシュはガーリアの名産品で、この街では愛されているお酒だ。確かドライムと言われる果実を土中に埋めて熟成させて、実の中で発酵まで促すという手法で造られるお酒、だったかな。あまりそこらへんに詳しくない。父さんが2階から声を張り上げると、下にいた店員さんが手を上げて答えた。


「どの人が店主さん?」


 下を眺めながら、父さんに聞く。


「あー今はいないな。厨房だろうな」

「そっか。でも良い雰囲気のお店だね」

「そうだろ。若い頃母さんとも来たことあるぞ」

「へぇ、そんな前からあるんだ」


 母さんの思い出話を父さんがしていると、店員さんがジョッキを持って上がって来た。ジョッキも木製のやつだ。こだわりがあるんだろうか。男性の店員さんだ。


「マークさんお待たせ。今日は随分若い職人さん連れてるね」

「こいつは俺の息子だ。聞いて驚け、魔術学院の首席だぞ?」

「へぇ、そいつは凄い!」

「おうよ、自慢の倅だからな!」

「学科首席ね」


 僕は真っ赤になりながら答える。本当に人前でやめて欲しい。


「それでサブ、オヅは今忙しいか」

「あー次の演奏時間までは暇かもね。呼ぶ?」

「頼むわ。出来ればアンジーもいると助かる」

「なになに、商売の話?」

「まぁ、そんなとこだ」


 りょーかいと手を上げながら階段を下りていく。


「よし、来るまで飲むか」

「うん」

「未来ある我が息子に、乾杯!」

「乾杯!てそれ大声で言うの、本当やめて」


 父さんはお酒好きだが、そんなに量を飲むタイプの人じゃない。乾杯の杯も半分ぐらいしか飲まない。かく言う僕も強いほうでは無い。よって、2人でちびちび飲みながら話をする事になる。話題はもっぱら母さんの事だ。僕の母親は、6年前この世を去った。流行病だった。症状が末期になると、夜な夜な苦しみ、苦悶の声を上げていた。そんな時に施術院の魔法使いの人が派遣されて、治癒を施してくれた。病が治る事は無かったけれど、あれだけ苦しんでいた母さんがだいぶ楽になったと話していた。その人は母さんが亡くなるまで毎週我が家に訪れ、治癒をしてくれた。僕が魔法使いを志したのは、その人みたいになりたいと思ったからだ。まぁ我が身は第一ではあるけれど……


「待たせたなマーク」

「あれ、もしかしてこの子、アルフレッド君?」


 階段を上がってきた人物が声を上げる。男性の方は目筋の細い、隙の無い着こなしの如何にもやり手って感じの人だ。もう1人はブロンドの腰まである髪と緑のドレスが美しい女性だった。


「そうだ。こいつがアルフレッドだ。アルフ、この気障な男がオヅ。そしてその妹のアンジーだ。アンジーには気を付けろよ。若そうに見えるが30後半の未婚だからな、アンジー間違っても倅に手を出すなよ」

「ひどいわ!まだ私は30になったばかりよ!」

「そうだったか?」

「まぁ、友達の息子に手を出すような事はしないから安心して。何ならマーク、貴方でも私は一向に構わないわよ?」

「やめろ、俺はレイナ一筋だ」

「あら、それは失礼」

「まぁ、座ってくれ、今日は話があるんだ」


 4人掛けの席に向かい合うように座ってもらう。俺の奢りだと言って、2人の分のドラッシュも、父さんが注文してくれた。4人で杯を掲げる。


「乾杯……それで?話とは何だ。時計の話か?」

「何か、お店に入る大きさの時計を作ったんでしょ?ちょっと興味あるわ」

「いや、それとは別だ。振り子時計はサシャに聞いてくれ」

「サリッシャちゃんも長い事会ってないわね。あの娘結婚とか子供とかどうなの?マークはお祖父ちゃんになった?」

「まだだ。まぁ近くない内にするだろうよ。思い付いたら即行動に移すからな、あいつは」

「そこはレイナ譲りだな。それで?話ってのは昔話じゃないんだろ?」


 オヅさんとアンジーさんは父さんとは旧知の仲みたいだ。母さんを含めて、良い仲だったのだろう。


「話はアルフからする。俺は仲介だ」

「オヅさん、アンジーさん初めまして、アルフレッドです」


 僕は2人に握手を求めると、快く応じてくれる。だが、2人とも苦笑気味だ。


「よろしく頼むよ。まぁ初めましてじゃないがな」

「小さい頃に何回か会ってるわね。まだ歩くのもままならない頃だけど」

「あれ、そうなんですか。ごめんなさい、記憶に無くて……」

「いいのよ。あれから私達もマーク達もお互い忙しくなってしまったしね」

「アルフレッド君は今は時計屋を手伝ってるのか?」

「いえ、魔術学院に通っています」

「ほう、それは凄い。魔法の素養があるのか、マーク、蜥蜴が竜を産んだな」

「うるせぇ、誰が蜥蜴だ。しかもこいつは天才さ、何と首席だ」

「それは凄い!」

「マーク、もしかしてレイナに愛想つかれてた?」

「托卵を疑うんじゃねぇよ!お前巫山戯るな!」

「父さん、もしかして知り合い全員にそれ言ってる?」

「あ、いや、まぁ……な」


 僕が強い口調で問い掛けると、父さんが途端に小さくなる。さては言いふらしてるな?最近、近所の人達がやけに優しいなと思ったんだ。


「ちょっと後で話そうね。まぁそんな訳で魔法使いなんですが、最近友人ととある事業を起こしまして」

「ふむ、聞こうか」

「ありがとう御座います。それでは映画についてお話します」


 僕は時間の許す限り、映画というものについて詳しく話した。この2人には今後大事な役目を負ってもらう可能性があるからだ。先を見越して、今後映画がどういった発展を遂げるか、エリクと散々話し合った内容を事細かに伝える。


「……動く絵か、正直な所、上手く想像が出来ないな」

「御伽噺の挿絵みたいなものかしら?」

「では、見本をお見せしますよ。これはハンターギルドで撮影した映像ですが、使わない分を貰ってきたやつです」


 以前、マトリッツォさんのパーティーに撮影係として参加した際、いくつかの魔石に映像を残したのだけど、活躍が明確な部分だけ渡して、他の大部分を預かったのだ。それもこういった時にサンプルになるだろうと見越しての事である。


「どうせなら、下でやりますか、結構派手な映像だから、皆さん喜ぶかも」

「面白そうね。だったら、私笛を持ってくるわね」

「是非お願いします」


 場所を移動して、1階にスペースを設けて貰う。周りの客はなんだなんだと興味津々だ。アンジーさんが横笛を持って現れた。それを見た客は歓声を上げる。人気なんだな。大テーブル用の灰色のクロスを用意してもらって、壁に吊るす。準備は万端だ。魔石を再生するだけなので、装置は必要無い。


「皆さん!今からお見せ致しますのはハンターギルド所属パーティー、白鷺の翼の勇姿で御座います。どうかお楽しみ下さい」


 プロジェクション


 これはラットマンの真似だ。嫌な奴だったけど、台詞回しは一流だった。映像が始まる。まずは白鷺の翼のメンバーが映し出された、画面の中の彼らは緊張した様子で一点を見つめている。画面が振られそれが映し出された。身の丈を優に超える巨体。両手を高々と上げて、威嚇の構えをしているのは、バウンスグリズリーだ。丸々と太った熊の魔物で、転がる事で高速で移動する事が出来るらしい。ここで笛の音色が響く、速いテンポの曲で緊張感が膨らむ。


 マトリッツォさんの魔法が炸裂する。光で敵を撹乱するタイプの魔法だ。続いて光に紛れて矢がグリズリーの目に突き立った。味方の弓士の仕事だ。痛みに仰け反るグリズリーに4人が殺到する。戦士2人が前面から襲いかかり両足に剣でそれぞれ一撃を加える。すると足が体を支えられなくなったのか巨体が前のめりに倒れ始めた、その隙を逃がさず、巨大な槌を持った戦士が倒れてくる顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。笛の音色はさらに大きくなり、臨場感が増した。倒れる事も出来ず気絶しているグリズリー、そこへクレイモアのような巨剣を持っだ剣士が近づく、よく見れば、その剣にはエンチャントの揺らぎが見えた、マトリッツォさんの支援魔法だ。飛び上がり一閃。グリズリーの首が飛び、決着がついた。その瞬間、店内から歓声が沸く。やがて、笛の音色は英雄達を称える行進曲になる。うん。完璧だ。満足そうなパーティーの面々をバックに観客は騒ぎ立てる。


「すげぇぞ!」

「白鷺の翼万歳!」

「わああああ」


 ここで思わぬ事が起きた。一部のお客さんが吊るしてある布に突っ込んでいったのだ、当然壁にぶち当たり、重なって倒れた。


「あれ?」

「ん?」

「皆さん何を……」

「いてて、いや、ハンターを称えてやろうと思ったんだが……」

「誰もいないな」

「だな」


 重なった人達は呆けたように座り込んでしまった。


「なるほど、絵の中に人がいると思ったのか、お前ら」


 父さんが答えを教えてくれた。その問い掛けに彼らは頷いている。そうか、そういった人達も出てくるか、対策が必要かもしれない。


「まぁ、思わぬハプニングがあったが、これは大成功だろ、なぁオヅ」

「そうだな。面白い余興になった」

「吹いてて、楽しかったわ」

「アンジーさんありがとう御座いました。完璧でしたよ」

「いえ、予め映像を見て、内容を決めておけば、もっと上手に出来るわ。ねぇ、兄さん。いいんじゃないかしら」

「賛成だ。持って来る物にもよるが、うちで披露してもいいと思う」

「本当ですか!ありがとう御座います!」

「ただし条件がある」

「はい」


 オヅさんは指を2本立てた。


「まず1つ。3日に1回、今の映像か、もしくは新しいのを持って夜に来てくれ。客が飽きちまわないか確かめる。それともう1つ。その客の入りを見て、興行料を支払うか決める。だから当分は支払えないと思ってくれ」

「分かりました。試用期間ですね。それだったら1つ提案がありまして」


 僕の提案はこうだ。このハンターの映像は今のところ勝手に流しているものなので、まずハンターギルドに許可を取る。それと、ハンター達の稼ぎになるよう。上映はハンターにお願いする形にしたらどうかというものだ。


「いいのか?それだとそっちの取り分は消えちまうぞ?」

「いいんです。僕らが見せたいのはあくまで()()、ですから」

「分かった。それなら明日の夜、また開けとくから、ハンター共を説得して来い」


 明日は学院も休みだ。ギルドに行くには丁度いい。


「分かりました。オヅさん、アンジーさん。これからよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

「よろしくね」

「それにしてもマーク。こんな事を言いたくないが、やはりこの子はお前の種じゃ……」

「ねぇ、兄さんもそう思うよね?」

「殴るぞお前ら」


 良かった。掴みは上手くいった。

 後はエリクを待つのみ。


 もうすぐ夏が来る。勝負の夏だ。

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