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パラレルシネマパラダイス  作者: 厚切りトマト
一章
1/18

1.エリクは友人で変人



「これだ!これだよ!見つけた!」


 

 エリクは変な奴だ。


 クラス内では、頭はいいがどこか変な奴といった共通認識がある。日頃、退屈だ。が口癖であり、無気力が人の姿をしているようなやつだった。まぁ悪いやつじゃない。

 僕にとっても、席が隣ということもあって、仲の良い友人の一人だ。

 

「どうしたんだいエリク、そんなにはしゃいで」


 だから、僕は聞いてしまったんだ。それが始まりだった。僕と彼の物語の。





 今日、首都魔法学院1年生である僕らは、学外講習としてハンターギルドを訪れていた。

 ハンターとは、魔物を狩る職業だ。首都ガーリアで生まれ育った人間にとって、魔物とは未知の存在だった。平和に生きている限り対面することも無く、話に聞く程度で、実際に遭遇することは今後も無いだろう。

 しかし、魔物は実在し、人間の脅威となる存在である。そして、その脅威から人々を守るのが彼らハンターなのだ。とは先生の談。


 今日はそんなハンターの仕事を学んで、将来に役立てよう。という趣旨で開かれた講習会の日だった。

 場所はハンターギルドの講習室。ギルド職員と思われる女性に続いて入ってきたのは、いかにも魔法使い然とした三角帽子の男性。ギルド職員のお姉さんが言うには、彼が今日の講師なのだそうだ。


「あー、講師のマトリッツォだ。よろしく。まぁ、おたくらは、出来のいい坊っちゃんたちと聞いてるから、心配してないけど、騒いだら叩き出すから」


 そう言うと、教卓に置いてある小さな魔石をクラス全員に見えるように掲げた。


「これは魔物の体内に精製される魔石だ。まぁ、魔法使いの卵だから、皆知ってるとは思うが」


 彼は小さく詠唱を始める。

一拍後、手元に魔法陣が小さく展開するのが見えた。中々複雑な魔法陣だ。あの程度の少ない詠唱で発現する魔法陣としては複雑すぎるくらいだ。きっとマトリッツォさんが優秀なのだろう。


「今から見せるのは、メモリーという魔法を使ってこの魔石に保存された瞬間の絵だ。こいつが開発されたのは最近だから、見たことあるやつは数えるほどしかいない」


 魔石が小さく光ると、講習室の壁に絵が描写される。

 いや、絵というにはあまりに精巧で、まるでその場を切り取ってきたような光景が目の前にあった。

 巨大な怪鳥。手前にいる人との比較でその巨大さが分かる。怪鳥を囲む5人。彼らはその手に持った剣や弓で怪鳥を狩らんとしていた。

 これがハンター。これが魔物。思わず前のめりになり、その絵を見ていると、


「あー!あー!!」


 突然、前に座っていたエリクが騒ぎ出した。

 皆、何事かと振り返る。


「これだ!これだよ!見つけた!」

「どうしたんだいエリク、そんなにはしゃいで」


 僕がそう聞くと、エリクはバッと振り向いて、満面の笑みを見せる。


「アルフ!あったよ!映像だ!」


 見ろよ!あれ!と言って、絵を指差す。


「たった一コマだけど!この精度!この画角!瞬間の記録が可能な魔法を使った、まごうことなき映像だ!」


 彼がここまで興奮している様子を見るのは初めてだった。超美人の教師が話かけてきても上の空だった男が、である。


「これで映画が作れる!」

「映画?」

「そうさ!最高のエンターテイメント!誰も感じたことのないスペクタクル!」 


 エリクの顔は輝いていた。僕はその顔を見たことがあった。父さんが工芸や細工について語る時のそれだ。

 夢中になれるものを見つけた人間の顔。


「あー、お前ら。楽しそうなところ申し訳ないが、最初に言った通り、叩き出すんで、そこんとこよろしく」


 勿論、二人仲良く講習室を出る羽目になった。






「それで?単位一つ落として、お釣りが来る話なんだろうね?」


 ハンターギルド談話室。追い出された僕らは額を突き合わせて話し込んでいた。

 真っ昼間、この時間はハンターの稼ぎ時なのか、人は疎ら、秘密の会話にはうってつけだ。


「おうよ。だが、その話をする前にアルフ。いや、アルフレッド。覚悟はあるか?」

「覚悟?」

「一度この話をしたら、一蓮托生だ。嫌でも仲間になってもらう」


 仲間とは微妙なニュアンスの言葉を使う。

 少し怖くなるが、興味が勝っていた。


「……わかった。今から君と僕は仲間だ。これでいいかい?」

「よし!そうと決まれば……そうだな、ちょっと待て」


 そう言うと、鞄からノートを取り出し、何やら書き込み始めた。

 これは……絵かな?あんまり上手くないな。


「説明するにはこいつが一番だ。さぁ、出来たぞ。パラパラ漫画だ」


 彼はノートの端を持つとゆっくりと開いていく。

 最初のページに書かれていた犬?が次のページでは歩きだす。さらに次ではさらに前へ、それが何ページか続き、最後に座り込んだ。この間僅か10秒。


「……どう思う?」


 彼は期待に満ちた表情でこちらを見た。


「ふむ、なるほど。つまり連続した絵は動いてるように見える。いや、多分錯覚するのかな?見る人が」

「正解!」


 エリクは僕を指差すと丸を作る。

 ここまで来れば、僕にも分かってきた。何故あれほどに興奮していたのか、そしてその可能性も。


「そして、さっきの魔法に繋がるわけか。メモリーを上手く使えば、その瞬間の疑似体験ができる。動く絵として」


 彼は頷くと、先ほどのパラパラ漫画をめくり始める。


「残像効果と言う現象なんだ。連続した絵を見ると、脳が勝手に繋げてくれる」

「これは……面白い。まずは、メモリーを教えて貰って、解析する必要があるね」

「目標は秒間24回の連続記録だな」

「ん?24回?」

「そう、24コマ必要になる」


 彼が説明した内容によると、1秒間に最適なコマ数が24コマだとのこと。

 どうしてそんなこと知ってるんだろう?


「見たままの現象を記録、投影する魔法に改良するのが最適だと思うけれど」


 これに対して、エリクは指を振って否定する。


「チッチッチッ。一枚一枚の画像であることに意味があるんだ。それこそが無限の可能性に繋がる」

「よく分からないが、君がそう言うなら信じよう」

「まぁ、そこらへんは任せてくれ、俺には絶対のアドバンテージがある。後悔はさせないさ」


 彼の考えについていくつか質問していると、講習室から生徒たちが出てきた。どうやら、講習が終わったらしい。


「さて、まず第一歩だ」


 そう言うと彼は立ち上がった。


「そうだね。マトリッツォさん怒ってなければいいけど」

「なーに、断られても何度でもお願いするさ、何せやっと見つけたんだから」


 講習室からマトリッツォさんが出てくるのが見えた。エリクは彼を獲物を見つけたようか目で眺める。


「逃がさないぜぇ」












 この話の言語体系は基本的に、Englishであり、アルファベットを使用しています。形式上、カタカナを使用する場合とアルファベット表記になる場合があります。

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