じゅりあなタカマノハラ
スサは、勝算無き戦いには、決して臨まない。
ゆえに淡々と戦の準備をしている。そう総力戦などと言う、カケラの値打ちも無い戦いではなく、
「万人受けしないかなぁ~。尖りすぎじゃない?」
「叔父貴ぃ~。この尖った辛味こそが、この酒の良さですぜ?」
商戦。それである。間もなく大商戦が行われる見通しだ。
「そこぉ! 見せたら負けだって何度言わせるッ!」
中でも熱を持っているのが、
「次は内臓でも見せるつもりぃッ! 動きはハデに可憐にチラリズムッ!」
「はいッ! ウズメさまッ!」
ウズメ率いるバックダンサーズである。さて、このウズメ、
「ウズメさま、本当にこのステージ衣装で舞うのですか?」
スサの神爪神術の教授方であり、
「神爪がトツカじゃなくてフタトツカってなによ? あたくし聞いてませんけど?」
クロの神爪が、スサにあることを見抜けずにいたトガメで絶賛、
「それなのに、それなのにぃ~、テラスさまぁ! これ紐ですからッ!」
ここで無償奉仕の振付師、兼任のトップダンサーを仰せつかっていた。
渡された衣装(ほぼほぼ紐)にヒステリックな悲鳴をあげているウズメに、
「おまえ、なんでもするって言ったじゃん」
と、テラスはごもっとも。神爪でこさえた櫛や簪の暴走は、監修した教授方の責任だ。
「言ったけど。言いましたけれど。多大なるご迷惑をおかけして」
「この程度ですんで良かったでしょう? つかケッコー楽しそうじゃんあんた?」
オーゲツの言う通り、はじめは渋っていたウズメも、この状況を楽しんでいる。
「あたくしが、露出を悦んでいるみたいに言わないで!」
気づけば、一人称も『ヤツガレ』から『あたくし』に代わっている。
「そこは、チラリズムの第1人者さまのウデのミセドコロじゃない?」
「紐ッ! これ紐ですからッ! こんなもの――」
と、ここでウズメは、閃光のごとき閃きを得る。神爪神術でチグサマキの矛、ササハの扇を顕現させ、
「スサさまぁ~。この桶をお借りしても?」
「マツミに聞いて~? マツミ~あげてもいい?」
「叔父貴の頼みを、あっしが断ったことねぇでしょう?」
「いいって~。もしかして、特殊ステージ? 得意な――」
スサは、精神を研ぎ澄まし、瞑想するようにイメージを深めるウズメに言葉を飲む。
やがてウズメの姿が非常にきわどいステージ衣装へと変わり、ギラギラとした不協和音が辺りに響き、目も眩むような照明がチカチカと瞬き始める。
返した桶に矛を突き立て、矛の周りをクルクルと独楽のように回りながらウズメは舞う。紐で隠し切れぬ身体を、矛や扇で巧みに隠し、ウズメはチラリズムの寵児となる。
やがて舞い終えたウズメへと、拍手と喝采とヤローどもからのピンクな口笛と、女たちからの羨望の熱視線が浴びせられ、ギラギラな不協和音とチカチカな照明が鎮まった。
Tシャツにジーンズと、ポニーテールな振付師に戻ったウズメは、
「スサさま。矛と扇とオタチダイを所望します」
簡潔に依頼する。スサは『スサの戦』をする者に、吝嗇をしたりは断じてしない。
「うん。最高の物を用意してもらうよ。姉さまは照明担当ね~」
時には過剰なまでに贅沢だ。なにせテラスは、
「こら。お姉ちゃんをアゴで使うな――まぁ、いいけどさ」
タカマノハラの最高神である。快諾なテラスに、
「そ、そ、そんな畏れ多いッ!」
ウズメはアワワ。
「よい。見事な舞いの褒美だ――次は紐でのうてどれで舞ってもらおうか?」
そんなウズメに、テラスは賞賛と揶揄いを同時に置く。
少しずつだが、タカマノハラも神々も良い方向に変わっている。テラスは泣き笑うようなウズメの悲鳴と、それを笑う仲間たちの笑い声にそれを感じていた。
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