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スサ決める

「い、いぃ、言いかたぁ~!」

 唐突に叫んだスサにクシナはビクりと肩を震わせて、

「スサにも聞こえたか」

 オーゲツはポツリと言い、

「テラス~。スサくんにも聞こえてる~。言葉ちゃんと選ぼう? スサくんなんか可哀想じゃん。まぁテラスの言う通りなんだけどさ~」

 諫めるように語りかけた。


 忽然と届いたオーゲツの声に、

「お、オーゲツか? あ、あたしの一大事に、お、おまえはなにをしているッ!」

 テラスは泣き声の八つ当たり。

『えぇ? 封印とか封印とか封印とか?』

 小指で耳垢をホジリながらオーゲツは流し、

「おい、そこの残念フルアーマー。カグさん連れて飛べるか?」

 と、ツクヨ。言葉の通りに場を請け負う。テラスは泣き顔にうなずき、

「ゴリ~。ウチの姉ちゃんメンタル豆腐トーフだからケアたのまぁ~」

 またツクヨ。めんどうな姉の相手をオーゲツにゆだねる。

『えぇ~、無理ぃ~。テラスって豆腐どころか豆乳トーニューじゃん。オーゲツ豊穣ホージョーの神だからニガリとかマジ苦手。塩害ダメ絶対!』

 オーゲツは塩対応。ここでテラスは、

「な、なによぉ」

 ベソ。メンドーなマジトーンの、

「豆腐でも…豆乳でも…残念フルアーマーでもないもん…」

 半分じゃないベソ。ここで、

「そうだね。テラスはがんばりやさんなお姉ちゃんだよ」

 カグチがフォローに入り、

「どうだろう。テラスやスサたちが、がんばって育てたものをカグさんにも見せてくれないか?」

 ゴシゴシと袖に涙を捨て、すれ違いざまに負け惜しみと、

「一応、言っておくね――あとで覚えてろよツクヨ――それから助かったよ。ありがとう」

 ポツリと感謝を置き、テラスとカグチの姿はヨルノオスクニから消え去った。

「どういたしまして、お姉ちゃん」

 ツクヨもまたポツリと置き、

「ごめんなさいねー。ジイが甘やかすからねー。ちょっと仕切りなおしますねー。ナミさんとカグママ――どちらがよろしいですかー」

 イザナミとの対話を再開する。

「失礼な。ジイは良い子になるよう厳しくお育てしましたぞ。あれは――」

 かぶりをふりふり、心外そうにシキンが置くと、

『ババぁはひどいと思うの。じゃあ、お母さんでお願いします』

 ナミは苦情と要望を図太く置いた。

()()が遺伝しないための断固たる措置です」

「イヤな遺伝だな()()――却下だ。お姉ちゃんが決めたこと反故にはできねぇよ。ほらボク良い子だからさぁ」

 自分に()()が強く遺伝していることを苦笑に措き、ツクヨはシタタカに突っぱねた。

『あらぁ~出来た子だねぇ~。おまえも、()()()に、してやろうか?』

 少し砕けた場の空気を、

()()()にされるよりイヤだわそれ――ナキがスサに望んでいるのは、アシワラノナカツクニの神に据えること――違うか?」

 砕けた軽口と、核心を突くことでツクヨは凍らせた。


 カオスな雰囲気が漂っていた。

「ぼく、別に正義マンとかしてないし。あ、あにさまと違うもん」

 スサは三角座りをして、部屋の隅っこをジッと見つめて独り言。

「ネェさん。なんスかこれ?」

「い、いまは()()! ()()なのォ! 空気よ()マツミ(バツミ)! な?」

 テラスはオーゲツにしがみついてギャン泣き。

――知らねぇ~よ。察しろよ。そして、なんとかしろよ、これ!

 と、オーゲツは目と顔でマツミを責め、この状況の解消を求める。

――ええぇ? ムリぃ~!

 と察したマツミは、

「イエッサーアンドマァム!」

 脱兎の如くカオスを離脱した。

「ヤロー逃げやがった」

 オーゲツはチッと舌打ち、

「クロって言ったっけ? カグチの兄ちゃん――スサの中に憑いているって言うけど、出てこないじゃん」

 苦虫を噛み潰したような面持ちで解決へと話を進めて行く。

「神爪でこさえた櫛や簪に術式を仕込んで、ウチの子たち襲わせたのもクロじゃねぇ~しさぁ~。じゃあなんでクロをスサに憑かせたのさ?」

「刹那の自由――スサの中に溶けることで兄はそれを得る――わたしはナキから、そうだと聞いているよオーゲツくん」

 未だ泣き止まぬテラスに温かな眼差しを向けカグチは答え、

「刹那の自由ねぇ~」

 深く不快な吐息をひとつ、しがみつくテラスを振り払い、ノーモーションからの豪拳をカグチの頬桁へと叩き込む。拳に神爪を纏わせた本気の打撃だ。

「カグチ。クロはおまえの兄だ。確かにそうだろう。じゃあ、そこのアーマードポンコツやスサはなんだよ?」

 本気の豪拳に、三間ほども吹き飛ばされたカグチへとオーゲツは怒気を籠めて、

「てめぇは兄貴じゃねぇのかよ? こいつらの親じゃねぇのかよ? あぁッ?」

 吼えるように問う。


「言いかたを変えようか――クニウミノギのにえがスサだ。クロはその付随的なもの――ナカツクニにスサを捧げることでクニウミは完成する。違うかシキン?」

 突きつけられた問いに嘆息し、

「その通りでございますツクヨさま。ですが、そんなことはこのシキンがさせません。スサさまには大海原を治めていただきますからな!」

 鼻息をふんふんさせてシキンは答え、

『大海原じゃあ、クロに呑まれるわねぇスサ――だって、スサとクロが分かれることの必須条件てナカツクニに向かうことだもん』

 ナミは悪びれることなく勝利宣言。

「てめぇは仕込みを口にするな。てめぇだけは言うな」

 低く底冷えしそうに冷たな声音で静かにツクヨは置き、

『おぉ~こわぁ~』

けよナミさん」

『あら、お姉ちゃんが歩み寄ってくれるところより遠いわねぇ? ()()()のツッくんはどこに行っちゃったの?』

 ナミは揶揄うように意趣返し。

け」

 ツクヨは冷たなマナジリに、ナミの揶揄からかいを裾へと措いた。


 激昂するオーゲツを、

「と、突然どうしたんだオーゲツッ!」

 ギャン泣きをやめたテラスが慌てて止める。が、

「てめぇが今はサーで居ろっつったんだろうがッ! どいてろポンコツ豆乳メンタルッ!」

 オーゲツは止まらない。立ちはだかるテラスを払いのけ、

「タカマノハラでクニツが死ねば死んだクニツはナカツクニに帰るッ! ナカツクニの次はネノクニだッ! 刹那の自由ってのは、そう言う意味さッ! あたしが怒ってんのは――」

 カグチの胸ぐらを掴んで、もう一度殴りつけようとする腕を、

「ナキとナミを盲信して、思考を放棄し、守るべき者のことを差し出したもおなじ――だからでしょ?」

 ツヨポンマジックハンドフォームを用いてスサが止めた。

「オーゲツのネぇさま。暴力はダメ。資源の無駄だから――薬も包帯も使えばなくなるから。ケガしてる間は働き手も減るから。それって無駄飯食いだし収量も減るから」

 スサは、

「ホントあんたってケチよねぇ」

 無駄な消費が大嫌い。

吝嗇りんしょくなだけですよ」

「おなじよそれ」

 すっとぼけたヤリトリに、オーゲツの怒気と毒気はすっかり抜けた。

「カグチ。あたしゼッテー謝んねぇから。おまえヒャクパー間違ってるから」

 毒気は抜けたが、譲れぬ線は譲らない。

「「ス、スサ――」」

 いまさらに事態を理解し、オロオロとする保護者ふたりにスサは嘆息、

「えっと、ナカツクニには行きません。と言うか大海原にも行きません――理不尽に凹まされることもあるけれど、わたしは元気です。以上」

 ことの解決を口にする。

「様々な誤解を受けているようなので、ひとつずつ説明します。まずクロの封印――ぼくは剣でそんなもの斬らない。封印なら解く。刃が減るし、ヘタすりゃ折れるし」

 実際に折れてるが、それをやったのはスサではない。

「次に生命維持装置である封印が解かれたクロを取り込んだのは、海産物、つまり漁業に関して造詣が深いから――対価も無しにぼくは動かない。兄さまじゃあるまいし、雨の日に捨て猫拾って、じつは好いやつアピールとかしないから」

 ケッとスサは吐き捨てる。研究所にはツクヨの無責任を受け入れている区画もあり、世話をするのはスサやクニツたちだ。

「三つめ――クロが教えてくれました。あの海は死んでいます。海産物は得られないそうです。土地も痩せていて、トマトどころかアイスプラントも育たない土地でした。久々のムリゲーにさすがのぼくもドン引きです――そんなところの神に据えられるのなら、オーゲツのネェさまの下で働きます」

 と、一息に説明し、

「あぁ~そうそう、プロトタイプツヨポンが、折れる前に奇っ妙ぅ~な不審者を見かけましたね。そいつタンポポの帽子をかぶってるんです。()()()()ライオンと()()()をかけたんですかね? ショーもなっ!」

 辛辣を吐き捨て、『ハッ?』とスサは気づき、オーゲツはそんなスサに呆れて嘆息、

「テラス~。これ詰んだ~」

 スサがクロに呑まれかけていることを認めた。

「このマジックハンドってクロの神爪ツメよね?」

 スサの神爪はテラスによって封じられている。ポツリと置かれた一言に、スサは靴と靴下を脱ぎ、

「姉さまぁ~、クロの神爪も封じて~」

 神爪に変わった足の指を指し、オロオロとするテラスに乞うた。


「ジイ。タカマノハラに戻れ」

 ツクヨは対話の終了を宣言する。

「ツクヨさまは?」

「仕事をするさ。大人だもの」

 そう言って、防諜ぼうちょうの結界を解き、

「あとはスサが決めることだ。落としどころを決めるのは外野ではない。違うか?」

 投げるように問う。

左様さようですな」

 シキンは吐息とともに答え、執務室をあとにする。


「お姉ちゃんは反対です!」

 テラスは躾でない理不尽を突きつける。

「だって、しょうがなくない? ムリゲーに行ってもダメだしさぁ」

 突きつけられた理不尽にスサは抗う。

「いいじゃんスサクロで、ここに居れば」

「なにさ、そのポンコツネーム」

「ポンコツじゃないしカワイーじゃんスサクロ。いいじゃん。ナキへのヘイトが増すだけで基本はスサなんでしょ?」

 この理不尽の名が、ワガママだと言うことをスサは知っている。吐息をひとつ、

「オーゲツのネェさま~、こいつ、めんどくさいぃ~」

 オーゲツに介入を要請する。

「ホント。それな。テラス~。すぐそうやって暴力に訴えない~」

 『こいつ』呼ばわりに、テラスがコメカミグリグリを仕掛けようとするのを止め、

「放せゴリ。子供の躾に口を挟むな」

「躾じゃねぇから。ケンカだから、これ。それにヘイトする時だけクロは出てくるの?」

「かわいそう。だなんて言ってくれるなよゴリ?」

「いや言うよ? めっちゃ言うからね? それじゃ、スサくんがクロ取り込んだ意味ないじゃん」

 オーゲツとテラスは、スサがクロを取り込んだ理由が打算だけでないことに、薄々と気づいていた。

「ちが、違うからッ!」

 それを否定しようとするスサに、

「隠そうとすればするほどガキっぽいよ」

 オーゲツはピシャリ。

「あぁ~、そうですよ! かわいそうだから、なんとかしてやろうと思いました!」

「お黙りやがれよコゾー。それが出来ねぇヤツぁ、ハナから男じゃねぇんだ。それがキッカリ出来たてめぇのことをシッカリ誇りやがれ!」

 照れ隠しに開きなおるスサへと、またピシャリ。ピシャリとされたスサは、

「じゃあ、えっへん!」

「ま、()()があめぇけどな~」

 鼻をふんふん胸を張るスサを、オーゲツは厳しく突き放す。

「ともかくッ! あたしはイヤなのよッ!」

 テラスはバンとテーブルを叩き、勢いよく席を立つ。

「どこ行くのよ?」

「ニーナメよ。仕事があるの。大人ですから」

 テラスは常套句を口にして問題を先に送った。

 しょんぼりと、うちひしがれていたスサも、

「どこ行くのよ?」

「実験です。学ぶことがあるんです。子供ですから」

 先送りを拒むように、解決へと向けて歩き出す。

 吐息をひとつ、

「おまえは、どうするカグチ?」

 今後を問う。

「ついて行くさ。あたりまえだろう?」

 カグチは即答する。ナカツクニはネノクニへの通り道――スサがネノクニに向かう際には自ら道案内をしてやるつもりである。

「それじゃあ、倅たちに顔でも見せておくかね」

 そう言って、カグチも立ち上がり研究所をあとにした。


 スサが、肥料について試験管を片手に格闘していると、

「精が出ますな。スサさま」

 ヨルノオスクニより戻ったシキンが声をかけた。

「ジイ。おひさしぶりです」

 スサは手を止め、試験管に栓をし、試験管スタンドに立て掛ける。

 手を洗い、窓を開け、

「ぼくの行き先は、アシワラノナカツクニのようです」

 と、スサ。ぼんやりと外を眺め、

「ここと少しも変わらない」

 呆れたように呟いた。

「ナカツクニの方が」

「変わりませんよ。少しも。自分が何者であるかも自覚しない者たちが、力のあるなしを物指しにして、自己の望みばかりを要求する。幼児の心のままの、力で他者を踏みにじり、自己を他者に押し付けるイノセントモンスターの溢れる場所――それが、タカマノハラとアシワラノナカツクニです」

 シキンの言葉に被せ、スサは嘆息――懐からノートを取り出しシキンに差し出した。

「神々の言葉を纏めたものです。一人称の1位は『我』、次点が『儂』『余』『我輩』――性別や世代を問わずにそれ――共通項は、自分が男であるのか、あるいは女であるのか――そんな単純なことでさえ、ほとんどの神々は()()で認識していない」

 現状の混沌にスサは嘆息。

休憩タバコにしましょうか」

 女子力高めのスサは、白衣を脱ぐとパッと応接テーブルにコーヒーと茶請けの練り菓子を調え、

「ぼくの役割りは、ナカツクニの『言葉』となること――無邪気な怪物たる()()を、自己を自己で()にすること――クニウミノギを完成させるための()()()()()ですね?」

 茶筅で点てた抹茶風コーヒーをシキンへと給仕しながら、自己の役割りを言い当てた。

『けっこうなお手前で――』

「ナミ、そのコーヒーは私のですよ?」

 唐突にナミの介入があっても、スサもシキンも動じない。スサは、コーヒーではなく抹茶を点てるとシキンに給仕、

「ナミと言うことは、カグさんのお母さんですね。よかったらアジサイもどうぞ」

 はじめに点てたコーヒーのそばに、菓子細工アジサイを給仕する。

『まぁ~出来た子~。おまえは、薄い本に、したくない』

 ナミの言葉に『?』マークを顔に貼りつけ小首を傾げるスサへと、

「きっと、可愛らしいとか、そんなニュアンスですぞ」

 シキンがボカした言葉で意図を伝える。

「え、じゃあ、ありがとう?」

「ナミィッ! これ以上スサさまをケガすことは、この『ヤゴコロ』が赦さんぞッ!」

 シキンは素でナミへと釘を刺す。

『わかってるわよぉ。それで~、スサくんはクニウミノギを完成させるつもり?』

「はい。力ずくでも」

『え、ち、力ずく?』

「はい――ナミとナキ、あなたたちが、ぼくにナカツクニに行けと命じるつもりならば、ぼくは全力であなたたちを正します」

 虚空を敢然と見据えスサは宣した。

「親が子に『()()()()()』と望む国の神なんかに、ぼくはなりたくありません――ぼくは、無駄なことが嫌いです。破綻が確定しているところに、貴重なリソースを投資するつもりはありません」

『投資? ナカツクニからリターンは…』

 ナミの否定を、

「そのアジサイも、コーヒーも、このタカマノハラで神爪ツメの力で顕現けんげんさせたものではありません。ナカツクニのクニツたちと、ここで育てて作ったものです」

 スサは被せるように否定する。

「それに顕現させたものより味も香りも良いですな」

 お濃い茶を喫して、シキンも繋げる。

「ナカツクニで産まれた知恵がタカマノハラに昇ることもありました。ここで研鑽した知恵がナカツクニに降るように」

 繋げられた言葉をスサは引き取り、

「だから、これは投資です。タカマノハラもナカツクニも、豊かで楽しくなる双方WinWinになるための投資です」

 ナミのことを()()()でいざなう。吐息をひとつ、

『まるで寸借詐欺の手口じゃない…そんなもののために、スサがこっちにくることお母さんは反対よ!』

 ナミは茶番に乗っかった。

()()とは失礼な――それに、ぼくは他人事に動くわけじゃありません。他人事ヒトゴトを背負いこむことは無駄の次に嫌いです」

 これには、

『あっあはははッ!』「ふっふはははッ!」

 大人のふたりは、声をあげて大爆笑。現にスサはクロを背負っている。

「失礼。それでスサさまの自分事じぶんごととは?」

 ぷぅと頬をふくらませるスサをなだめるようにシキンが問うと、

「ジイ。大事の前に、それを訊くのはタブーですよ? まあ、良いでしょう。死亡フラグは叩き折る――女の子とエッチィことす――」

 スサの視界が唐突に暗くなる。

「あれれ? おかしいなぁ、おかしいなぁ。スサくんの姿したツクヨがいるぞ? お姉ちゃん、チャラい弟はひとりでおなかいっぱいなのにぃ」

「ね、ね、姉さま? し、仕事はッ? いだだだッ!」

 テラスの全力アイアンクローが徐々にスサの体を吊り上げる。

「ねぇ、スサヨぉ~。そんなしょうもない理由でナカツクニに行くだなんて」

 ギリリと手に力を籠めて、

「言わないよな? なッ?」

 テラスは問う。が、

「ベ、ベッドの下の、え、エッチな本は、む、息子からの大切なメッセージなのぉッ!」

 スサは、抗うようにテラスの手を払いのけ、

「彼女とジェットコースター乗っていっしょにキャーキャーいうのッ! 彼女からもらったバレンタインチョコのお返し、身悶みもだえするほど悩んで選びたいのッ! だからッ! 変な心配しないでッ!」

 宣する。自分は健全な男子だと。

 さて、

――ベッド下のエロ本は息子からの大切なメッセージ

 斯様かようを教えたは、間違いなくにツクヨである。

「テラスさま」

「あ~。うん。そうか…」

 スサの純真無垢な健全さにあてられ、テラスはようやく再起動。

『うん。そっちは心配してないよ――ありがとう、ね』

 ナミは鼻声に礼を言う。

「お~いてぇ…姉さま仕事は?」

 スサは咎めるようなジト目をテラスに貼りつけ、

ミソギに行くとこで、スサが、へ、変なこと言ってるから…」

 テラスはシドロモドロ。スサはコメカミをさすりながら吐息をひとつ。

「あとは研鑽ケンサンと挑戦と冒険――つまりロマンがぼくの自分事です」

 男は大概タイガイポンコツで、男は大概バカである。スサもまた、御多分に漏れず男の子なのである。テラスは諦めを苦笑に流し、

「ごめんて。でも、お姉ちゃんも反対だからね」

 スサの決断に投資する。

「いったい、どこから聞いてたのさ。お行儀の悪い」

「まったくですな――スサさま。ジイも反対ですからな――ですが、スサさまの一大事業の邪魔は誰にもさせないと、ヤゴコロの名にかけてお約束します」

 シキンもまなじりを鋭くし、スサの決断にベットを置いた。この時、その眦に危うさを見つけたテラスは、

「ちょぉ、なにするの?」

 スサのことをヘッドロック。

「おまえ少し匂うぞ? あと肥料を畔に流しても根腐れするだけだからやめておけ」

「この後も研究が、もうッ! おっぱい当たってるから! 弟はお姉ちゃんのおっぱいとかチッとも嬉しくないですからッ!」

 スサは、本気で嫌がりテラスの腕をタップする。

「お~お~、正常な反応ですこと。お姉ちゃんは嬉しいよッ!」

 テラスは腕に力を籠め、

「ちょぉ、苦しッ! もうジイのバカー。ジイが死亡フラグ立たせるからー!」

 そのままスサを風呂まで連行した。


「一緒に入る?」

 と、テラスが揶揄うように言うと、

「入りません。照れてもないし。嬉しくもないから」

 スサは心底メンドーなジト目を向けて、男性所員用の浴室へと消えた。

 脱衣所で衣服を脱ぎ、湯帷子ゆかたびらを着て、掛け湯し身体を濯ぐ。

 どうやら薄暗い大浴場を貸し切りだ。

 貸し切りな湯船に身を浸し、

「なんか、いろいろあったね」

 隣の誰かにポツリと言う。

「そうですね~」

 隣の誰かは、相槌をうち。

「あのさ。クシナ――」

「言わないで! あらためて言われると困るから! いろいろ!」

 クシナは懇願し、

「ここ男湯だよクシナ」

 スサは敢えて指摘する。

「もう! スサさまとイチャイチャしてたから、みんなの目が冷たいの!」

 ここでクシナは、開き直りスサの前で仁王立ち。湯帷子を纏っているとはいえ、湯を吸った帷子は、ピッタリとクシナの身体に貼りついて、ボディラインがほぼ裸。スサは目の置き場に困りつつも、指の隙間から、ソッと見る。

 イチャイチャとは、おそらく強キャラポージングのことだろう。

「いやだからってさぁ~」

「ちゃんとにニウツを見張りに立てて――」

 それが居たらスサは、ここに入っていない。

「うん。嫉妬って怖いんだね。あと座ってくれる。目のやり場に困る」

 つまりニウツにも、クシナは売られたようだ。

「おのれぇ~ニウツめ~」

 クシナは、ブクブクと泡をたてるように湯船に隠れた。

「まぁ、いっかぁ~。ぼくらのジャンル子供だしさ」

 機密事項――それ故に、

「ねえクシナ。ぼくがここから居なく」

「イヤです」

 少しボカして尋ねるが、問いかけの答えは言葉を被せるように返された。

「でも決めたこと」

「あたしも行きます! ほら、あたし、こう見えて防御力高いから!」

 食い気味に被せるクシナに苦笑し、

「いや、別に戦わないから」

「装甲オリハルコン級です」

 必死に被せるクシナに吐息をひとつ。

「そのオリハルコンで、まず自分をシッカリ護ること――その約束を守れる?」

 クシナは湯船に隠した身体を立ち上がらせ、再びスサの前で仁王立ち。してすぐ湯船に身体を隠し、

「守ります! スサさまも、みんなも、あたしも、オリハルコンで護ります!」

 誓うように約束する。思わずに、

「クシナ~、それ死亡フラグ~」

 揶揄うような苦笑がスサから漏れた。

「じゃあ、死亡フラグからだって護ります!」

 クシナは、鼻息をふんふんオリハルコンな意思を示した。

「わかった。一緒に行こう――そしたら、一緒にジェットコースターに乗ってキャーキャーいおう。だからさクシナ」

 小首を傾げるクシナへと、

「バレンタインデーになったら、ぼくにチョコレートをください。お願いします」

 スサは、ジャンル子供の精一杯を、クシナの目を見てハッキリと告げてみせた。

 グルグルと情報を整理し終えたクシナは、

「ス、スサさまこそ、それ死亡フラグですよぉ~」

 瞳をウルウルに潤ませて、ぐじゅぐじゅな鼻声に咎め、

「死亡フラグは?」

「叩き折ります! だからスサさま、チョコレートをもらってください。お願いします」

 ジャンル子供の精一杯に応え、ぐじゅぐじゅな泣き顔で、にへらと笑った。

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