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「相談のないスタンドプレーは、見事にハマればヒーローだ。カッコいいよ。だけどシクジリゃ戦犯以外のなにものでもねぇ」

 『親』たちは、スサを囲むように円陣し、ジト目を貼りつける。

 スサには、そうした危なげな隙がある。クロの解放。神爪の櫛。ハードルを下げるための無茶振りな選曲――と枚挙に暇がない。よく言えば機転が利く。悪く言えば、無意識にヒーロー願望を満たすための自己満足な行為。それである。

「ちが、違うのっ! つ、つい動いちゃうのっ! カッコつけたいとかじゃ…」

 つい身体が動いてしまう。スサは戦の神である。勝機に動くは抗えないサガなのだ。

 羞恥に赤面するスサは、アワワと弁明。

「わかってるよ。んなこたぁ~。ただ、兄ちゃんたちは、それでもなるべく相談して欲しいんだよ」

 ツクヨは微笑い、スサを見据えヤオヨロズに積まれた1タットの山を指指す。

「あいつら、スサと会えなくなるのヤなんだって。友達かあいつら?」

 ツクヨが尋ねると、スサは首をプルプルと左右に振って激しく否定。

「「「「スサさまぁ、そんなご無体なぁ~」」」」

 ヤオヨロズはオヨヨ。

「名前も知らない友達なんて要りません。だいたい、どうして、ぼくと会えなくなると嫌なんですか?」

 ヤオヨロズの答えは、おおよそ予想がつく――敢えてスサは問いかける。

「「「「また、お祭りやりましょうスサさま」」」」「「「「楽しいです。お祭り。綺麗だし賑やかだし。美味しいし」」」」

 予想通りの『幼児』な答えにスサは嘆息。

「えぇ、ナカツクニでやりますよ」

 すげなくスサが答えると、

「「「た、タカマノハラでは?」」」

 恐る恐るに尋ねるヤオヨロズに、

「やればいいじゃないですか?」

 スサは果てしなくすげない。スサは、『学ばない』『働かない』『遊ばない』『食べない』者らが嫌いである。『休まない』者は好きである。その対極にいるから。

「はいは~い。オーディエンスはシャットアウト~。話、進まない。ジイ結界を」

 ツクヨは、シキンに結界を張ってもらい、

「あんまり冷たくしてやるな。あいつらには、これからお世話になるんだからさ」

 チクリとスサをたしなめる。

「どういうことです? ナカツクニに行くのは研究者だけですよ?」

 いまいち話を噛み砕けないスサに、

「ヤオヨロズの総力を用いてタカマノハラとナカツクニを結ぶ。いわゆる公共事業のインフラ整備だな。ヤオヨロズへの対価は、集められたタットの山から捻出する」

 テラスが今後の計画を告げてやる。

「「詰めが甘ぇ~んだよ。おめぇはよぉ」」

 オーゲツ、ツクヨはビシリと言い放ち、

「あれだけでナカツクニのマガツコトがタテになるもんか。だから繋げる。WinWinにするのだろう?」

 テラスが言葉を引き取り、壮大な計画が開始される。

「ヤオヨロズを『祭り』で釣れ。『人』どもには『神を敬わせろ』『神を畏れさせろ』そのふたつに応えればタカマノハラは、ときおり神爪の力を使い、ナカツクニを全面的に支援しよう。いかがかな『アシワラノナカツクニ長官』殿?」

 提案するテラスに、アシワラノナカツクニ長官殿は、『フム』と腕組み。しばしも思案するや、

「ぼくは怠け者が嫌いだ。『はげむ者』にしか神術で応えないでいただきたい。『励む者』を『くさす者』も嫌いだ。神を祀らぬ者どもと『腐す者』には、情け容赦のない『バチ』を与えることも望みます。タカマノハラ長官殿」

 ふたりは『長官殿』ごっこに思わずに吹き、擦り合わせが完了する。

 そこへ、目玉焼きをのせた山盛りのヤキソバをカグチとナギサが差し出し、

「やること決まったんなら、ナギサの勝負メシをタンとお食べ。お義父さまの弱点なんかカンタンよぉ~。ちょっと転んで見せればすぐ駆け寄ってくるからさ。いざって時にはベソ掻きなよ。そうすりゃあんたの勝ちさスサ」

 沢の神なのにカラリとしたナギサに、

「擬態も立派な戦術だよスサ? あれでも神代七代(ジンセブン)の一角だ。いまは錯乱しているしプランはいくつあってもいいさ」

 ヤキソバを食べながら『えぇ~』とするスサに、カグチはナギサの戦術を肯定。

 JIN7(ジンセブン)――コロクたちなどの古く強い神々だ。えっ、神代七代じゃないのか? アルファベット使ってるほうが、なんかカッコいいじゃん。どっかの先進国グループみたいでしょ? あっちはカッコ悪いけど…

「ごちそうさまでした。ナギサさん。でも、やれるとこまでやってみます『ハッ?』、い、『いただきます』するの忘れちゃったっ!」

 スサは、ときおり果てしなくシマラナイ。オロオロとするスサに、ナギサはクスリ。

「じゃあ、勝負メシのやりなおしぃ~。さぁ、タンとお食べなスサ」

 勝負メシに、手をあわせ、

「いただきます。いただきます」

 スサは勝負メシをやりなおして、

「ごちそうさまでした。ナギサさん。ジイ結界の解除を」

 目をシロクロさせながら平らげる。


「「「「スサさまッ! なにとぞ御再考くださいませッ!」」」」

 ステージから出るや囲まれる。投げかけられた言葉は厳粛だ。だから、非常に滑稽だ。あるいはイザナミの影響だろうか? スサには、

「御再考だなんて、ずいぶん難しい言葉を知っていますね?」

 取り囲むヤオヨロズの神々が幼子にしか見えない。

「「「「なにとぞなにとぞにございますッ!」」」」

 ここまでくると憐れにすら思えてくるのが不思議である。だから、

「なにをさ? なにを再考するのさ?」

 崩す。言葉で。思考の停滞を。

「す、スサさまがナカツクニに行くこと?」

「なんでさ?」

 内から答えを引き出すようにスサは問う。

「お、お祭りが、タカマノハラから」

「消えてしまう? やればいいじゃないか? 歌って踊って飲んで騒ぐ。とてもカンタンだろう? それとも、誰かにお膳立てして貰わないとダメなのか? ぼくは三貴子だよ。わりと偉いんだ。ちょっと不敬じゃない?」

 畳み掛けるように引き出す。ヤオヨロズの本音を。暴挙に出ようとする誰かを(マナジリ)に封じ、

「怯えないでよ。わりと偉いらしいから弱い者イジメはしないからさ」

 少しだけ獰猛(ドーモー)(わら)う。誰かは何処(どこ)かにナリを潜め、

「ナカツクニとタカマノハラを結ぶことにした。おまえたちが力を貸せば、人どもにおまえたちオリジナルの祭りをさせよう」

 スサは尊大に告げ、

「委細は、我が姉アマテラスより通告されるだろう。先に言っておくが、此度の祭りで出された物の全ては、我らが研鑽に研鑽を重ねて産み出された物だ。未熟な人どもにおなじが出せると思うなよ?」

 不敵に嗤って告げ、

「そ、そんなぁ~」

 誰かの絶望を拾い上げ、

「ならば人どもに研鑽させれば良い。おまえたちは自ら研鑽するのが嫌なだけだ。研鑽に楽しみを見いだせぬのならば、人どもにくれてやれば良い。我らの研鑽成果をくれてやる。それを人どもに天下せ」

 ふう~っと吐息。

「わからなければ、わかる者に聞くんだよ。尊大ごっこは、あんまり好きじゃないんだ。だから、あんまりさせないでね?」

 と、いつものやわらかなスサ。

 カタカタと震えていたヤオヨロズだが、

「「「「だって、スサさまがネノクニに行っちゃったらヤなんですッ!」」」」

 幼子を丸出しにして、ホントの本音をぶちまけた。

 少しばかり、気恥ずかしいが、

「ありがとよ」

 スサは心から嬉しそうに礼を言う。

「じゃあ、すぐにネノクニに行かなくても済むように、みんなの力を、ぼくとナカツクニに貸してくれ。そして、みんなも神さまになってよ。やり方とかルールは姉さまやジイが、たぶん教えてくれるから、それに従って~」

 スサは細かいことを大人たちに丸投げし、超々高速にナキを追う。


 お姫さま仕様なお茶会も宴もたけなわ。

「そのユリ×ショタ(女装)のやつ楽しみにしてる」

『逆らめぇ版は?』

『却下よ。次は内臓でも描くつもり?』

 どうやら、オクサレ道とチラリズ道には、通ずるところがあるらしい。

 久方ぶりに存分に楽しんだ。

 これは、

『『「斯く在れ」』』

 その礼である。

 腐女子たちは短く祝詞(のりと)を口ずさむ。


「いや神さまなんだけどなぁ~」

「あぁ~、アレじゃん。悪いことしたら叱る係的な」

 ヤオヨロズの感情と心がリンクし、停滞をやめて思考を開始する。

「研鑽成果って、これ順番守らないとダメなヤツじゃ~ん。うーん、一個一個トレースしていく?」

「テラスさまに研究施設の使用申請を出すか。パズルみたいでおもしろそうだし」

 動き出す。タカマノハラの神々が。

()()()()まずは結ばないとさ。こことナカツクニを。と、()()()()――」

 『すぅ~ッ』とヤオヨロズは息を吸い、

「「「「御武運をスサさまッ!」」」」

 大音声(ダイオンジョウ)にスサへとエールを送る。()()()

 耳へと届いた全力エールに、サムズアップなインパルス飛行にスサは応え、更に加速してナキへと迫った。


 気づけば腐の殿堂は、跡形もなく消えていた。

 しかし、気配が消えてもナキは、けして気を緩めない。

「スサぁ~、そろそろ降りてきなぁ~。神爪(ツメ)を封じるから~」

 テラスはイワトヤに籠って、

「タヂカ閉ざせ」

 天岩戸を封じるようにタヂカへ下知する。

「御意に」

 タヂカが天岩戸を封じると、神爪の力が消失し、スサとナキは緩かに地に降り立つ。

「どうやらチェックメイトですね」

 スサは獰猛に嗤う。シンプルな体力勝負は好物のひとつである。神爪を使わずにアマツを瞬時に討ち取る少年だ。嗤ったスサはナキへと吶喊する。

「これあげるから許してくださいぃ~」

 トラウマに怯えるナキ。そう言って地面にタケノコを生やす。咄嗟にかわさなければ、危うく足を串刺しにされるところだ。スサはツヨポンを引き抜くや、

「ツヨポ~ンハーヴェストッ!」

 地に生えたタケノコを収穫する。よく見れば、皮を剥かれたタケノコの穂先がチョコレートにコーティングされている。もちろんタケノコはタケノコでビスケットなどではない。

「一次産業研究者ナメんなぁ~ッ! 食えるかこんなもんッ! それにぼくはタケノコじゃなくてキノコ派ですからぁッ!」

 スサは吼える。ナキが食べ物で遊んだからだ。トライしなくても、この組み合わせはエラーであることが明白だ。

「いや神爪(つめ)の制御がですね」

「言い訳すんなッ! うん?」

 ツヨポンハーヴェストでタケノコは収穫できている――天岩戸に目を向けると大人たちは打ち上げ的な宴会中。


「どうしたタヂカ? おまえの力はそんなものか?」

 テラスはタヂカの封を腕力に抉じ開け、

「ゴリぃ~、あたしビールとタコカラぁ~」

 開いた隙間から、酒と酒肴(ツマミ)を受け取っていた。

「くぉぉ~、タヂカフルパワーぁ~!」

「おまえ。ちゃんと封印しとけよ()()?」

 テラスを封じ切れないタヂカをオーゲツは責め、

「無理ぃ~ッ! かなり無理ポぉ~ッ!」

 タヂカはオヨヨと泣いている。


 スサは目に映る光景に嘆息。転瞬に舞うや、ナキの頬桁に回し蹴りを叩き込み、

「ジイ。判定は?」

 腹踊りをしたくてウズウズしているシキンに尋ねた。

「勝者スサさまッ! あとチームタット。敗者イザナキとヤオヨロズ」

 ウズウズなシキンは雑に置く。

「オーゲツのネェさま。これも入れてあげて」

 スサは、小声でオーゲツに囁き、スライスしたチョコレートコーティングなタケノコを皿に盛る。少なくとも、ビールに合わないことは知れている。

「うん? 美味(うま)ッ! …からの…えっぐッ! イガッ! お口、イッガッ!」

 イワトヤの封をタヂカごと吹き飛ばし、口に手をあて涙目で飛び出てくるテラスに、柳眉を逆立てニコリとスサ。

「勝ちましたよ姉さま。ところで、これはなんですか? 姉さま『作戦計画』について、少々、認識の擦合わせが必要なように存じます」

 腕組みをし仁王立ちするスサの前に、テラスはちょこんと正座し、

「さーせんしたーッ!」

 と反省の表明。

「だから、どこの野球部さ?」

 スサは呆れ気味な嘆息。タコカラとチョコノコが盛られた皿を手にし、

「チームタット~、集まって~」

 みんなが集まるや、スサは素早い動きに次々チョコノコをみんなの口に放り込む。もちろん自分にも――

「「「イッガッ」」」「「「えっぐッ!」」」

 スサは何度か咀嚼し、

「アクを抜けばナシよりのアリかな」

 ポツリと置き、ステージでポカンとしているナキの口へも放り込む。

「えっぐッ! お口イッガッ!」

 あまりの不味さに、ナキの頭脳は再起動。

()()()()()()()()()のシクジリと、シデカシと、ヤリノコシは、ぼくらみんなでワリカンにします。だから、お父さんが全部背負います的な()()ことを、あなたには言わせませんしさせません。ぼくは()の言いつけを聞かない()()()ですので、どうぞ悪しからず」

 スサは不敵に微笑(わら)うと勝利宣言をビシリと置き。借り物でない言葉でキッチリシッカリ噛みついた。的確で辛辣な指摘をして。

 ナキは、しばしもキョトンとし状況を咀嚼。口の中は無駄にイガイ。しばらくが過ぎ、息子の天晴れな『反抗』に盛大に、そして痛快に大笑い。強制でない執事姿に身を包み、

「こちらにどうぞ。みなさま方」

 瀟洒な仕様なテーブルと椅子を顕現させて、チームタットをいざなった。

「お口なおしに、こちらをどうぞ。みなさま方」

 瑞々しい桃を振る舞い、

「カグチ、ナギサ。スサのオーダーを叶えるためには君たちの力が必要だ。協力してくれないだろうか?」

 美味しいお水に温泉――スサの注文はどこまでも貪欲だ。

「父さん私たちは、もとよりそのつもりだよ」

「もちろんですよお義父さま」

 ふたりは快諾。しかし、水産資源となると、

「スサ。山の神にアテはないだろうか?」

 投げられた注文に思案しつつ、桃を食べていると目が合う。

「『ヤ』の字を返す時が来たようですねマツミ」

 と、スサ無茶振り。

「ちょ、なんスか? そんな設定ないですからね? アッシは松見ながら生まれたからマツミでさぁ~。松な酒を醸す酒の神ですから。そうでしょうオヤジ、母ちゃん?」

「「そう。やっと返して貰えたの。良かったねヤマツミ」」

 カグチとナギサはのり、

「「空気読めヤマツミ。な」」

 テラス、オーゲツものる。なによりスサの先遣隊としては適任だ。

「ナキに鍛えて貰いなさいヤマツミ。ワリカンですよ。これも」

 とシキンは微笑い、

「山の傾斜利用してジェットコースター作ってやれよヤマツミ。スサやクシナよりお兄ちゃんだろおまえ?」

 ツクヨはうまいこと、マツミもといヤマツミのことを丸め込む。

 髪をガシガシと乱雑に掻き、

「叔父貴の頼み、アッシが断らないの知ってんでしょ?」

「ありがとうマツミ、あ、ヤマツミか」

 言い出しっぺの言いまちがえに、チームタットは笑い、頃合いに、

「姉さま。フルアーマーをお返しします」

 スサはテラスのフルアーマーを返上する。

「もう、可愛かったのにぃ」

 とテラス。フルアーマー装備のマガタマチョーカーは、スサの首に結んでやる。

「持っときな。向こうは、なにがあるかわかんないんだから」

 スサは撫でるようにチョーカーにふれ、

「姉さま。これではスサの貰い過ぎです。どうぞ、このツヨポンマークⅡをお納めください」

 テラスは、一度それを受け、

「ならば貸与します。ツヨポンマークⅡもスサがきなさい。こちらも貸与とします」

 ここで、

「アメノムラクモな」

 と、ツクヨ。

 スサとテラスは、ツクヨをスルー。

「ありがとうございます姉さま。でもツヨポンって、ぼくにはまだ大きいんです。だから、こうすると…」

()()()()()()()

 スサは立ち上がり、ツヨポンを背中に背負って『どやぁ』とする。

「お~。勇者(ゆ~しゃ)だ~。ツヨポンが勇者の大剣(デッカイ剣)に見える~」

「だから、アメノムラクモだってばッ!」

 ふたりはツクヨにジト目。

「姉さま。こいつ、めんどくさい」

「ほんと、それな…」

 ふたりは、やれやれと、かぶりをふりふり、『はぁ~』と嘆息。

「じゃあ、真ん中とってクサナギでいいよ。もう。どうせ草刈りにしか使わないし」

 スサは妥協。

「どこの真ん中だよ?」

 と、ツクヨ。ややご機嫌ナナメ。

「「冷静と情熱?」」

 小首を傾げてふたり。

「そのこころは?」

 質すツクヨに、

「グリーン」

 ふたりは、

「わかる。リーダーな赤にはもちろんなれず」

「カレーな黄色みたいに上手にハシャげない」

「さりとてクールな青にもなれない」

「ピンクな花などもってのほか」

 その場をクルクル、

「「つまり地味ッ!」」

 へェーイっとハイタッチして、息ピッタリにビシリと答える。

「仲良しかッ? つか地味ってなんだ失礼なッ!」

「「なんだ。混ぜてやろうかグリーン?」」

「ねぇ、謝って。俺とグリーンな剣に謝ってッ!」

 ツクヨは仲良しふたりに、激しく地団駄を踏みしめた。


 紙巻きタバコに火をつけて、こみ上げてくる寂寥を煙に捨てる。先ほどのようなバカげたコントは、しばらくほどもお預けだ。

「兄さま。これを差し上げますから、ぼくと交換してください」

 差し上げるのに、交換とは――なんとも不思議な申し出だ。スサがツクヨに差し出したのは煙管である。もちろん神爪が暴走しないようにチューニング済みだ。

「なにとさ?」

「兄さまの強い言葉と、ぼくの――」

 弱い言葉と、スサが言いかけるのを、

「おまえの優しい言葉とをか?」

 ツクヨは被せて遮った。

「なんでさ?」

「そんなお年頃なんです。兄さまは、少し落ち着いたほうがいいんです。ホントは強くてカッコいいんだから。それがみんなに伝わらないのがスサは悔しゅうございます」

 どうやらスサは、『スッポン』のことを言っているらしい。

「おいおい、俺は大人だぜ? 職場じゃ柔らかい言葉を使っているから心配いたすな」

「うん。あ、(あに)さまは、兄さまのほうがいいや。でも、少し落ち着いてくれなければ、スサたちは困ってしまいます。夜が騒がしくちゃ、スサたちはゆっくり休めません」

 スサたちが赴くのは、昼と夜のあるナカツクニだ。

「煙管をありがとよ。俺が俺であるように、おまえはおまえの言葉を使いなさい。うん。それじゃ煙管を差し上げ損じゃねぇ~かって? こまけぇ~ことなんざ気にすんな~」

 ツクヨが軽快(ケーカイ)に場を去ろうとすると、

「あ、兄さま? この子たちッ?」

 スサは『ギョ』とした悲鳴。テラスのほうでも、

「ジイ、こ、これは?」

 異常を検知。

「ウケイですな。神呼びでございます――交換したでしょ? 剣とチョーカー」

 どうやら、知らずの内に神生みをしていたようだ。

「ぼくと姉さまの子供ってこと? えぇ~なんかヤだぁ~」

 スサは直球。

「あたしだって嫌よ。でも、デリカシーって大事だと思うの! あれれ、お話してる時は相手のオメメを見なさいって言ってるよね? スサくんのオメメが見えないなぁ? どこかなぁ? どこかなぁッ!」

 テラスはスサに全力アイアンクロー。

「いだだだッ! だって姉弟ですよ? いだだだッ!」

「それを言ったら、俺のがもっとヤだよ。兄弟だぜ? オクサレ湧くわ。盛況に沸くわッ!」

「おまえら、こんな時まで果てしなくポンコツなぁ~」

 三貴子たちは、どこまでも果てしなく騒がしい。湿っぽい別れの席すらカラリと周りを笑わせる。オーゲツとシキンが笑い、生まれたばかりの赤子たちもキャッキャと笑う。ちなみにスサとテラスが呼んだのは五人の男の子。ツクヨとスサが呼んだのは三人の女の子だ。

「そうですな。スサさまとテラスさまのウケイで産まれたことにいたしましょう。なんかキモいですから」

 とシキン。

「なんでぼくたち女の子を呼んじゃったんでしょう?」

「あれじゃん? 女子力の違い?」

「あっ、やっぱり?」

 ふたりが、こそこそと話していると、

「お姉ちゃん、拒否権発動させようか?」

 テラスは、お姉ちゃんで恫喝。

「「生意気言って申し訳ございませんでした~ッ!」」

 ツクヨとスサは、テラスのもとにスライディング土下座。


 祭りの宴はしばらくほども続いていたが、もうそこにスサの姿はない。これはひとりの少年が、大人になるまでの物語。これにて『了』にするなって? えっ? ヤマタノオロチはどうしたって? それでは、ナカツクニに降りたスサのことを覗いてみよう。


 スサがタカマノハラから出て、ナカツクニに入るとクロの気配が消えていた。どうやら分離したようだ。

 ナカツクニには、昼があり、夜がある。タカマノハラにはない月日がある。

「やりましたぜ叔父貴。御所望通りのジェットコースター。その名も『ヤマタノオロチ』でさぁ」

 急流を小舟で下ればジェットコースターよりもリアルなスリルが味わえるだろう。なにせ命がけだ。

「えぇ~、なにそのビッチみたいな名前ぇ~」

 不満があるのは、それくらい。

「お、叔父貴ぃ~、どこでそんな言葉覚えたんですか?」

「いろんな男の子を相手に、いい顔する女の子のことでしょ? クシナが教えてくれたんだ~」

「クシナ。あとでアッシんとこにきな」

「あ、あたしはツクヨさまから教えて貰いましたもん。そ、そんなイケナイ言葉だとか思いませんもん」

 苦しい。限りなくギルティよりである。

「クシナぁ~。母は悲しいよ~。ヤマツミさま、たっぷりお灸を据えてやってください」

 クシナの母は売る。ナカツクニでも。

「お、おのれニウツぅ~」

「いまはテナヅチ。おまえの母じゃ」

「いだだだッ! ちょっとマムぅ~」

 背丈はテナヅチ(ニウツ)のほうが高い。テナヅチはクシナのコメカミを両のゲンコでグリグリと制裁発動中。これは躾、理不尽なのは仕方がない。

「まぁまぁ、テナヅチ。じゃあ、キャーキャー言ってこようかクシナ。ヤマツミありがとうね。これが済んだら、ここを拓いて八重垣工事の着工だ。ウケイをしましょう。ハツミ(アシナヅチ)、テナヅチ。ぼくとクシナがちゃんとに戻ってこられたら、お嬢さんをお嫁にください。お願いします」

 安全性の確認ならばクシナの姉たちが、身体を張って確認済み。8人の姉たちは急流下りに麓でグロッキー。

 スサとクシナは小舟に乗って激流を走り出す。キャーキャー言って走り出す。ワクワクとドキドキの待っている明日へと。


―了―

むすびにいくつか言っておく

 むすびにいくつか言っておく。これ、お話ですからね。神話や歴史書じゃないですから。あとこれも言っておく。これは芝居だから、そこかしこに『引用』が潜んでいる。

 あと、やたら『眦』が出てくるのは、覚えたての言葉を使いたいアレである。

 言いたいことは、このあたり。楽しんでいただけたのなら幸いだ。


いやさかキッキ


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