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7話 最悪の国


…目が覚めた。別に何かあった訳ではないが自然と起きてしまった。いつも朝早く起きてランニングに行っていたからだろう。

そういえばこの世界に来てから一度も体を動かしていない。

(けどティナに「私が来るまで部屋から出ないで下さい!」って釘刺されたからなー。走りたい、体を動かしたい。)


そんな悶々とした時間を過ごしていると、部屋にノックがあった。


コン…コン…


「はい。」

「トオル様、ティナでございます。開けてよろしいでしょうか?」

「どうぞー。」

「失礼します。おはようございます、トオル様」

「おはようティナ、じゃあ朝ご飯を食べにいこうか。」

「はい。」


部屋から出ると、昨日と同じ様にリーンが立っていた。


「おはようリーン。」

「おはようございます、国王陛下。」


「ティナ、今日の予定は?」

「はい、…御前会議だけです。」

「…わかった、ありがと。」


(また朝の会議だけか、でも今の俺じゃ何の役にも立たないからな。)


自分で自分を説得しているうちに、食堂に着いた。

食堂は昨日と同じ様に給仕の女の子が3人と料理長が待っていた。


「おはようございます、国王陛下。」

「おはよう。」


俺が部屋に入ると一斉に挨拶をしてきた。そして、席に座ると料理長が料理の説明を始めた。


「国王陛下、メニューの説明をさせていただきます。」

「ちょっとその前にいいかな?」

「な、何かお気に召さない事でもありましたでしょうか?料理の事ならばすぐに変えてまいりますので…」

「違う違う、料理の事には何一つ文句はないから。」

「では他に何か?」

「うん、みんなの名前を聞いてなかったなぁー、と思ってさ。」

「名前ですか?」

「うん、名前。ダメかな?」

「いえ、駄目と言う事はありませんが…」

「じゃあ教えて?」

「…はい。えー、王城の料理長を勤めさせていただいている『カザルト・ムノア』でございます。」


ムノアさんは四十代の気弱なおじさんって感じの人だ。


「これからよろしくね、ムノアさん。」

「よ、よろしくお願いいたします。」


俺はムノアさんの返事を聞き終えると、今度は給仕達の方を見た。


「君達の名前は?」

「わ、私の名前はマイと申します。」

「私はミーリです。」

「メシカでございます。」


三人共なかなかの美少女で、マイは青、ミーリとメシカは明るい茶色の瞳を持っていた。


「これからよろしくね、マイ、ミーリにメシカ」

「こちらこそよろしくお願いいたします。」


その後の朝食は昨日よりも少しだけ和やかな空気の中で食べる事ができた。


「ごちそうさまでした。とってもおいしかったよ。」

「ありがとうございます。」

「トオル様、そろそろ御前会議のお時間です。」

「おっと、もうそんな時間か。じゃあ行かないと。」

「国王陛下、いってらっしゃいませ。」


俺はマイ、ミーリ、メシカ、それとムノア料理長に見送られながら食堂を後にした。




御前会議は昨日と同じ様に進んで行った。

大臣や将軍達は一応俺に向けて話し掛けてはいるが、ほとんどカーターにお伺いを立てていた。


カーターが俺の代わりに指示を出して、会議は終ろうとしていた。


「他に何かあるか?」

「…………」

「それでは…」

「ちょっといいかな?」

「!…何でしょうか?国王陛下。」


カーターは少しだけ驚いた様に俺をみた。


「質問したいんだけど、いいかな?」

「もちろん構いませんよ。」

「じゃあ、この国の人口を教えて欲しいんだけど。」


……シーン……


文字通り、謁見の間にいる全員が何の言葉も発しなかった。

そんな状況に助け舟を出してくれたのは、またしてもカーターだった。


「国王陛下。『誰』と指名された方が、皆も答え易いでしょう。」

「あっ、そうだね。ゴメン。うーん、じゃあマーチ内務大臣。」

「わ、わたくしですか?」

「うん、よろしく。」

「えー、い、一万人はいないと思います。」

「…もっと詳しく言ってもいいよ?」

「…申し訳ありません。資料が手元にありませんので詳しく事まではお答えかねます。」

「あーそうなんだ。…じゃあ、後で資料を持って俺の部屋に来てくれる?」

「か、かしこまりました。」

「では、これで御前会議を終わる。国王陛下がお退席になられる。」


(何故国の人口を言うだけに資料がいるんだ?一の位までは知らないにしても、ある程度の人数ぐらい分かる物じゃないのか?)

俺はこの国に少し不安を感じながら謁見の間を出た。


部屋に戻る途中、リーンが話し掛けてきた。


「国王陛下、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ。」

「何故あのような事をお尋ねになったのですか?」

「人口を聞いた事?」

「はい。昨日も申し上げました様に、国王陛下は一切仕事をする必要はないのです。それに…」

「いやいや、ちょっと待ってよリーン。国の人口を聞いただけで仕事とは言えないよ。それに聞いてみたかっただけだから、深い意味はないよ。」

「はぁ。それならば良いのですが。」


(おかしい、どうしてこんなにもリーンは俺に仕事をさせようとしない。普通君主には仕事をして欲しいものじゃないのか?)



部屋に着いて仕事机に座ると、俺はティナからこの世界のお金について聞いた。


「マトレイヤ大陸には三種類の硬貨があります。まず一番価値が低いのが『セルト銅貨』です。セルト銅貨が百枚で『カルト銀貨』一枚となります。そしてカルト銀貨百枚で『ピート金貨』一枚となります。」

「セルト・カルト・ピートね。わかった、ありがとうティナ。」

「どういたしまして、トオル様。」

「もう一つ聞いてもいいかな?」

「どうぞ、いくつでもお聞き下さい。」

「じゃあさ、一般的な人の収入ってどれくらいなの?」

「…申し訳ありません。私にはちょっとわかりません。」

「そう…じゃあティナはいくら貰って働いてるの?」

「私ですか、私は一切頂いておりません。」

「えっ?何でティナはお給料を貰ってないの?」

「なんでと言われましても、私がトオル様のお世話係だからとしか答えようがありません。」

「いやいや答えになってないでしょ。…じゃあ、この城に勤めてる人はみんな無料奉仕なわけ?」

「いえ、そんな事ないと思います。他の皆さんは国に仕えているので。」

「ティナだけは違うの?」

「私はトオル様だけの物ですから。」

「そうゆうセリフを面と向かって言われると、けっこう恥ずかしいね。」

「あ…い、いや、そうゆう意味で言ったのではな、なくてですね…」

「アハハ、分かってるよ。冗談だよ、冗談。」

「い、意地悪ですよ、トオル様!」

「ゴメンゴメン。それで、さっきの言葉から察するにティナはこの国自体には仕えていないって事なの?」

「…まぁ、そうゆう事になりますね。私はお兄様に王様のお世話係をやってみないか、と言われたので。」

「リンズバーグ将軍が、…その話詳しく聞かせてくれない?」

「えっ?はい、私は構いませんが、別におもしろい話ではありませんよ?」

「いいんだ聞かせて。」

「では、…兄がその話を持って来たのは、前王の葬儀が終わってから一週間程たった頃だったと思います。軍に入ってからほとんど帰って来なかった兄がいきなり家に現れたので驚いたのを覚えています。それで兄にやってみないかと言われたので、母と相談して…」

「それでお世話係になったと。」

「はい。」

「でも何で無給なの?」

「最初は私もお城に仕える物だと思っていたのですが、兄が『お前は国にではなく王様に仕えればよい、衣食住は俺が保証するから』と言われましたので。」

「ふーん…」

「何かおかしな点でも?」

「ん?いやいや何もないよ、話してくれてありがとう。」

「はぁ。」

「それにしてもマーチ大臣遅いねー。」

「そうですね。」


それからしばらくして、扉がノックされた。


コン…コン…


「はい。どちら様でしょうか?」

「マーチでございます、国王陛下。」

「あぁ、大臣。どうぞ入って。」

「はっ!失礼いたします。」


マーチ大臣が大きくかさばった書類を持って入ってきた。


「やぁ、大臣。悪かったね。」

「いえ、とんでもございません。わたくしの方こそ、遅くなった事深くお詫び申し上げます。」

「いいよそんな事。それより、さっそくだけど教えてもらえるかな?」

「はっ!では申し上げます。オースティン王国の人口は約七千人でこざいます。」

「…大臣、もっと詳しい数字な無いの?」

「はぁ、詳しくと言われましても、家を持たず路上で暮らしている者が多くこれ以上は…」

「そうなんだ…わざわざ悪かったね。どうもありがとう。」

「いえ、お役に立てて光栄です。それでは失礼いたします。」

「あ、大臣。よかったら、その資料貸してもらえるかな?」

「は?はい構いませんが。」

「ありがとう、これはいつも何処に置いてある物なの?」

「このような書類のたぐいは書物庫にすべて置いてあります。」

「そこの鍵は誰が?」

「宰相様でございます。」

「カーターか、わかった。ありがとうマーチ大臣、仕事に戻っていいよ。」

「では、失礼いたします。」


マーチが去ると俺はすぐに資料を読み始めた。

どうやら文字は読めるようだ。


(見た事ない字だけど、意味は解るな。後、数字は地球と同じか)


資料には、『マトレイヤ歴1140年作成』と書いてあった。


「ティナ、今は何年なの?」

「えっ?今ですか、今はマトレイヤ歴1192年ですが。」


(な、何!マーチの奴、五十年以上昔の数値を俺に教えるなんて、馬鹿にしているのか?いや、もしかしたら…)


「ティナ、ティナが生まれてからこれまでに、人口調査ってあった?」

「…いえ、多分なかったと思いますが。」


(やはり、この資料が最新って事みたいだな。)


俺は机の引き出しから紙とペン、それにインクを取り出してメモを書き始めた。


「ト、トオル様?」

「…ティナ、今日はもう部屋に戻っていいよ。料理長には夕食はいらないって言っておいて、それとカーターから書物庫の鍵を明日の朝までに借りて置いて貰える?」

「あっ、はい。それはわかりましたが、急にどうされたのですか?」

「…うん、ちょっとやらないといけない事が出来てね。」

「はぁ?」

「今は言えないけど、確信が持てたら一番最初にティナに言うから。」

「ありがとうございます、トオル様が教えてくださるまで待っていますね。」

「うん。じゃあさっき言った事は頼んだよ。」

「はい、お任せ下さい。それでは失礼いたします。」


ティナが部屋を出ていくと、俺は資料に目を戻した。




資料の半分程を読み終えて顔を上げると、窓の外は真っ暗だった。

あれから部屋にやってきたのは、ティナが部屋に明かりをつけに来ただけだ。その時も会話をしなかったので、ずっと一人でいたといっていいだろう。


水を一口飲むと、また資料に向かっていった。

ここまで資料を読んで一言いえる事があった。




(……この国は終わってる……)


夜が更けていった。

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