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6話 オースティン王国


部屋に戻ってから俺は顔を洗う為に洗面所にこもった…まぁ、泣いてたんだけどね。

でもくよくよしている時間なんてない。

5分程泣いた後俺は洗面所を出た。


部屋に戻るとティナが心配そうな顔をして立っていた。


「…あの、トオル様…」

「ん、何?」

「あまり気にしないで下さいね?トオル様はまだこの国に来たばかりなんですから。」

「あぁ、朝の会議の事ね。うん、もう大丈夫だよ。でもねティナ、俺はもう王様なんだ。知らないじゃ済まされないんだ。」

「トオル様…」

「けど一人で全部の事を知る事はできない。…ティナ、悪いけど俺の勉強を手伝ってくれないかな?」

「はい!喜んでお手伝いさせていただきます。」

「ありがとうティナ。じゃあまずはこの国の歴史から教えて貰おうかな?」

「かしこまりました。では地図を用意しますので少々お待ち下さい。」

「わかった、待ってるよ。」


ティナはお辞儀をして足早に部屋から立ち去った。


ティナはそれから十五分ぐらいで戻って来た。


「お待たせしました。」


ティナが手に持っていたのは、この城で一番最初に案内された部屋の壁にかかっていた地図を小さくした物だった。


「お疲れ様。とりあえず座ってよ。」

「はい、失礼します。」


俺とティナは小テーブルを挟んで座った。


「トオル様、まずこの国を語るにはこの大陸の歴史から語る必要があります。よろしいですか?」

「はい!ティナ先生、よろしくお願いします!」

「フフ、それでは神話のお話から始めましょう。」





〜〜〜 今から三千年程前、この大陸は『女神トーレ』によって創造された。

女神トーレは大陸の大地で草花を育て、大陸の空に小鳥たちを飛ばした。風の音、小川のせせらぎに小鳥たち歌声しか聞こえない、この名もなき大陸は地上の楽園であった。

三百年程すると、この大陸に小鳥以外の生き物が暮らすようになった。彼らは『エルフ』と呼ばれる種族であった。エルフ達が何処から来たのかは誰も知らない。突然沸いた様に現れたのだ。

エルフ達は永遠の命と海の様に深い知恵を持っていた。そして心優しい種族であった。

エルフは妖精と友になることができる数少ない種族だった。だからエルフがこの大陸にやってきたのとほぼ同時期に妖精もこの大陸にきた。

妖精たちは花畑を飛び交い、小鳥たちと美しい歌を紡いだ。


大陸にとって、この時期は一番幸せな時期であっただろう。


しかしそんな時期が長く続く事はなかった。


エルフ達が大陸に来てから二百年程たったある日、一体の邪神が地上の楽園を妬んだ。

その邪神は天変地異を起こし、大陸の東西をほとんど真っ二つに割ってしまう『ウルグ・オルサバ山』とそれに連なる『ウルグ山脈』を出現させた。


さらに邪神は魔物を生み出して去って行った。

魔物は大陸中で爆発的に増えていった。逆に大陸全土に広がっていたエルフ達は住処すみかを追われ、徐々にその数を減らしていった。


また時を同じくして女神トーレが大陸の歴史から一度消える。


それから約三百年後、人類が初めてこの地に降り立った。彼らは西の大陸の民と言われており、数千人規模でやってきたと言われている。


彼らの降り立った大陸は昔の面影などない、魔物だらけの土地だった。しかし彼らは勇敢に戦った。土地を耕しながら自分達の住む場所を少しずつではあったが確実に増やしていった。

彼らが少ない人数で魔物に対して勝利してきたのには、理由があった。


それは『魔法』と『女神トーレ』の存在である。


女神トーレが大陸に戻ってくると、人間は女神をすぐに信仰の対象とした。

心の支えを得た人間達が魔法を使って大陸の西半分を手に入れるのに百年もかからなかった。


西半分を手に入れると人間は国を造った。それがこの大陸を約九百年間統治する事となる『アザンガルド帝国』である。


アザンガルドの王達は、さらに百年をかけて大陸全土を手に入れた。この時に大陸の名も『アザンガルド大陸』とした。


しかし九百年も続く独裁政治は次第に国民の反感をかっていった。


そして遂に千二百年前、内乱が起こった。それは国を四つに分けての戦いとなった。


一つ目の国はアザンガルド帝国の流れをくんだ『ガラシア帝国』

二つ目の国は大商人達が大陸の東側の沿岸に造った『サルネリア商業公国』

三つ目の国は女神トーレの信者達が造り上げた『神聖トーレ教国』

そして最後が大陸の東側の大部分を占める多数の町や村の連合軍であった。


そもそも何故大陸の東側ばかりが反乱を起こしたのか?

その原因はウルグ山脈にあった。大陸を二分するこの山脈は南側の一部しか交通できる所がなく、反乱の噂が王都に知れ渡った時には反乱軍は戦いの準備がすっかり出来ていたという訳だ。


だからと言って、戦いが反乱軍の優位であったかと言うと必ずしもそうとは言えなかった。どちらかと言うと劣勢であった。

この原因は二つある。

まず一つ目はサルネリア商業公国と神聖トーレ教国が実質的に戦いに参加しなかった事である。何故かと言うと、サルネリアは単純に国土がガラシアと接していなかったから。トーレ教国は大陸全土に信者がいる宗教なので帝国も手が出せなかったからだ。

二つ目は連合軍の足並みが揃わなかった事だ。首長達の利権争いによって、帝国と互角に戦える程の人数もただの烏合の衆であった。


連合軍が分裂しかけた時に現れたのが、後のオースティン王国初代国王『ベラギウス・オースティン』その人であった。


ベラギウスは異世界から来たと伝えられている。しかしそのカリスマ性はこれまで連合軍をまとめていた首長達とは桁違いであり、人々は皆、彼の下に集まった。


連合軍はガラシア帝国に対して反撃にでた。

もっとも、いくらベラギウスが優れた戦術家であり、偉大なる戦士であったとしても、この圧倒的に不利な状況を覆すには至らなかった。


その状況を大きく揺るがす事態が起こった。

女神トーレがベラギウスに付いたのだ。

この事によりガラシア帝国が連合軍に攻撃を仕掛けると言うことは女神トーレに対する反逆となってしまう。その事実は帝国兵の士気を下げるには十分だった。


帝国上層部は神聖トーレ教国を通じて連合軍に和平を持ち掛けた。

戦いで疲弊しきっていた連合軍もこれに応じた。


こうして大陸の西にガラシア帝国、東にサルネリア商業公国・神聖トーレ教国に連合軍という形が出来上がった。


戦いが終わるとベラギウスは直ちに連合軍の整理に取り掛かった。ベラギウスは大陸の東側三分の二を領土に持つ『オースティン王国』を建国した。さらにベラギウスはこの大陸を『マトレイヤ大陸』と呼んだ。


何故ベラギウスがこの大陸をマトレイヤと呼んだのかはわかっていない。 この事については数多くの諸説が生まれており、その中でもっとも支持されているのは、アザンガルド帝国からの真の独立をしたかった為と言われている。

しかし、アザンガルド帝国の流れをくむガラシア帝国までもがこの時期からマトレイヤ大陸と呼ぶようになっているのでこの諸説も疑問視されている。


オースティン王国を建国し、マトレイヤ大陸に自由をもたらした異世界の英雄ベラギウス・オースティンは王国建国の二年後、病気により呆気なくこの世を去った。


ベラギウスが亡くなった後、この大陸にまたも異世界の人間がやってきた。


オースティン王国の民はすぐさま彼を国王した。しかし彼は良き王はとてもではないが言えなかった。民から多くの税金を搾り出しては自分の食事や装飾品に注ぎ込んだ。


愚王の行動に苦言を呈した優秀な家臣たちの多くは左遷され、時にはみせしめの為に殺された。


当然の様に国民の心は王家から離れていった。

そのような王国の状況に一番嘆いたのは、ポートワール公爵だった。

公爵は同志を集い、王家に対して反乱を起こした。この戦いは始める前から勝敗が決まっていた。ほとんどの家臣は公爵側を応援したし国民もポートワール公爵に味方した。

愚王はすぐに処刑され、オースティン王国があった所には、ポートワール王国が建国された。


それからしばらくすると、またしても異世界から人間がやってきた。ポートワール国王は周囲の反対を押し切り、かつてこの大陸を救ってくれたベラギウスに敬意を表して、領土の一部を異世界からきた人間に分け与えた。そして、その者を王とするオースティン王国を建国させた。


これにより現在の大陸の形となり、以後九百年間続いている。 〜〜〜




と言う訳なんです。」

「へぇー、異世界から最初にきた人はこの世界の英雄だったんだ。」

「はい、ベラギウス様は今でも人々の憧れなんです。」


外はすっかり暗くなっていた。


「いつの間にか真っ暗だね。」

「本当ですね。トオル様、そろそろ夕食のだと思いますがいかがいたしましょう?」

「うーん?お腹は空いてはいるけど、あんまり食堂には行きたくないな。」

「じゃあ、私が貰ってきますね。」

「いや、それは悪いよ。」

「大丈夫です、こう見えても私けっこう力あるんですよ!」

「そういう問題じゃなくて…」

「では行ってまいります。」

「ち、ちょっと…」


コン…コン…


ティナが扉のノブに手延ばしたら、外からノックの音がした。


「は、はい。どちら様でしょうか?」

「ティナちゃん?カーターだよ〜。」

「カーター様!?どうしたんですか?」


ティナが慌てて扉を開けると、皿の乗ったお盆を持ったカーターが姿を現した。


「二人がまだ夕食を食べてないって聞いたからさ。一緒に食べようかな〜と思って。」

「わざわざありがとうございます、カーター様。」

「ありがとうカーター。ちょうど夕食にしようとしていたんだよ。」

「どういたしまして。さぁスープが冷めないうちに食べようよ。」


夕食は朝のスープだった。これまた王様らしくないと思ったが、口に出すような馬鹿な真似はしない。


「カーター様、仕事はもう終わったのですか?」

「うん、さっき終わったんだ。」

「…ゴメン、カーター。仕事を増やしちゃって…」

「トオル君、朝の事は気にしちゃだめだよ。王様になったばかりの君に答えられるはずがないんだから。明日も辛いかもしれないけど、少しずつ覚えていこう。」

「うん、ありがとうカーター。…ねぇティナ、リンズバーグ将軍ってティナのお兄さんなの?」

「はい、年が三つ離れた兄です。」

「何歳なの?」

「20才です。」

「けっこう若いんだね。てかティナが俺と一歳違いってほうがびびったけど。」

「まぁ、じゃあトオル様は18才なんですね。」

「二人共、お似合いカップルだね〜」

「ち、ちょっカーター!」

「カ、カーター様!」


俺は慌ててしまった。ティナなんて顔が真っ赤だ。


「そ、そんな事より。カーター、この世界の事を教えてよ。」

「あれ?ティナちゃんに教わったんじゃないの?」

「ティナには歴史を教えてもらったんだ、けど都市の名前まではまだなんだ。」

「そっかそっか、じゃあ僕が教えてあげましょう。でも今夜はもう遅いから、この国の事だけね。」

「よろしくお願いします。」

「お任せ下さい。まずこの国の位置だけど、東大陸で最北端の国なんだ。北には海、東には『死の森』、南にポートワール王国があって、西は『闇の森』でさらにその先にウルグ・オルサバと呼ばれる山がある、ここまではいいかな?」

「うーん、死の森と闇の森はどう違うの?」

「死の森にはモンスターが出なくて、闇の森には出るってだけの違い。」

「モンスターが出ないのに『死』の森なの?」

「死の森に出かけて行った者で生きて帰ってきた人はいないんです。」

「こわっ。なんて恐ろしい森なんだ。」

「だから正確には、モンスターがいないんじゃなくて、モンスターですら寄り付かない森なんだ。」

「よーくわかったよ。」

「じゃあ次に行くね。この国には二本の川が流れているんだ。一つはウルグ・オルサバから死の森に向かって流れる『オルサバ川』、二つ目はウルグ山脈が源流でポートワール王国から来て、そのまま海に流れる『シルベジ川』だよ。」

「オルサバとシルベジね。」

「その通り。で、この国の中央にある都市が王都『アドラン』。その王都を囲む様に四つの都市があって、北の『ブッヘル』。西と東にはそれぞれ『キスギル』と『ラザーク』、そしてポートワール王国との国境に位置する南の『カッサノ』の四つだよ。」

「都市がたったの五つしかないの?」

「うん。みんながばらばらに暮らしてしまうとモンスターに襲われしまうからね。」

「そっかだから都市が少ないんだ。」

「トオル様、もう遅いですし今日はここまでにしましょう。」

「そうだね、そろそろ寝ないとね。」

「わかった、今日はティナもカーターもありがとう。」

「どういたしまして。」

「トオル様、おやすみなさいませ。」


ティナとカーターが空になった皿をお盆に乗せて部屋を出て行った。

それから寝間着に着替えるとすぐにベッドに横になった。

(今日こそは良い夢が見れますように。)



こうして、異世界での二日目が終わったのだった。

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