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5話 朝食と御前会議


……チュン…チュン……


小鳥の鳴き声が聞こえた。


「…ん…朝?」


目を開けると部屋はまだ暗かったが窓からは光が漏れていた。


俺は昨日ティナから貰った革靴をはいてベッドから出た。


この世界は地球よりも圧倒的に技術が劣っているようで、靴も革か木、麻などでしか作られていないらしい。一般の人には革靴なんてのは高くてとてもじゃないが買えないらしい。


革靴を履いて窓まで行って、木の窓を開いた。

すると一気に部屋に光が満ちて、少しヒンヤリとした空気が入ってきた。

その後もう一つある窓を開けてから、トイレに行った。


トイレは洗面台も一緒になっている部屋だ。


俺はその中にもある木の窓を開けてから用を足した。トイレはなんと水洗式だった。まぁ水洗式と言ってもただ水がずっと流れているだけなのだが。


俺は洗面台で顔を洗った。この低い文化レベルの中で蛇口という物があるのには驚いた。


トイレから出た俺は、日本から着てきた服に着替えた。

服といっても下着に靴下、Tシャツ、上下長ジャージに上下のウインドブレーカーといういかにも今から運動しますって格好だ。何故なら俺は、朝の日課だったランニングに行く前に父さんの書斎に寄ったら浮遊空間に吸い込まれてしまったからだ。


抜いだ寝間着をたたんでベッドの上に置いておいた。

小テーブルの上に置いてあった水差しからコップに水を入れた。


コップを持ってベッド側の窓から外を見ながら水を口に含んだ。


「…ぬっる。んー、今何時なんだろう?この部屋時計がないからなー。」


窓の外にはグランドのような場所が広がっていた。グランドにしてはめちゃめちゃ広かったが…


「…東京ドーム何個分あるんだよ。あー、体動かしたいな。」


コン、コン


しばらく外を眺めていると扉の向こうからノックされた。


「はい、どなた…」


ガチャ…


「失礼いたします。」

「…ティナ、ノックはするのに返事は聞かないんだね。」

「えっ!も、申し訳ありません。トオル様が起きてるなんて思わなくて、あの、それで…」

「いいよ、別に怒ってる訳じゃないから。まぁ明日から気をつけてね。」

「はい、気をつけます。それからトオル様、おはようございます。」

「うん、おはよう。」

「トオル様、朝食は食堂で食べていただきます。」

「わかった、じゃあ行こうか。」


空になったコップを小テーブルに置いて、俺は部屋を出た。


扉を開けると、そこには女が立っていた。


「おはようございます、国王陛下。」

「お、おはよう…リーンさん?」

「『さん』は、いりません。」

「は、はい。」やっぱりこの人、怒ってるよな。なんかしたかな、俺?


「トオル様、歩きながら今日の予定を説明させていただきます。」

「うん、よろしくティナ。」

「はい。朝食を食べ終わりましたら朝の御前会議に出席していただきます。」

「……で、その後は?」

「…今日はこれで全部です。」

「えっ!いやいや他にも仕事があるでしょう?」

「国王陛下、国王陛下は国の宝なのです。仕事をする必要なんてございません。」

「そうかなー?」

「そうでございます。」


俺にはリーンの言葉が『お前なんかに国の事なんて任せられるか』と聞こえた気がした。


「トオル様、食堂に着きましたよ。」


食堂も王の私室と同じで広いが質素という感じがした。

食堂の中には数人の給仕らしき女の人たちが挨拶をしてきた。


「おはようございます、国王陛下。」

「おはよう、みんな。」


席に着いたのは俺一人だった。

(予想はしてたけど、大勢の人に見られながら食事するのって、けっこうきついな)


食事が運ばれてきた。

料理長らしき人物が食事の説明を始めた。


「今日のメニューは白米とラキンの刺身、野菜のスープでございます。」


「へぇー、王様っていってもけっこう質素な食事なんだね。」


悪気はなかった、本当に悪気はなかったんだ。

だが…部屋の空気が凍った。

(あ、あれ?なんか俺言っちゃいけない事でも言った?…うわっ!リーンさんの居る方からすっげー鋭い視線を感じる!)


「申し訳ありませんでした。次回からの食事はさらに皿の数を増やしますので、どうかお許し下さい。」

「違う違う、別に文句を言った訳じゃないから。品数もこのままでいいからね。本当だよ。」

「…はぁ、かしこまりました。」


しかし一度悪くなった空気がすぐに治る訳もなく、俺の異世界最初の食事は気まずい雰囲気とリーンからの視線攻撃の中、料理の味を感じることも出来ずに終わった。


俺の食事が終わるとすぐに、御前会議の開かれる謁見の間に向かった。

俺は向かう途中で先程の事をリーンには聞こえないようにティナに尋ねてみた。


「ねぇティナ、俺さっきなんかまずい事言った?」

「さっき、ですか?」

「ほら、食事の時の。」

「あぁ、あれの事ですか…」


ティナは気まずそうな顔をした。


「ティナ言ってくれ。悪い所があったなら直していかないといけないから。」

「わかりました。…実はあの食事、すごく豪華な食事なんです。少なくともこの国では。」

「そうだったんだ。それを俺はあんな言い方で…」

「で、でもトオル様はそんな事は知らなかった訳ですし、あまり気にしないで下さいね。」

「いいや、知らなかったでは済まされないよ。料理長が頑張って作ってくれたのに、俺はその気持ちを踏みにじったんだ。でも信じて欲しい、俺が決して馬鹿にするつもりじゃなかったって事は。」

「トオル様、トオル様がそんな人じゃない事は、出会ってからまだたったの一日ですけど、よくわかってるつもりです。」

「ありがとうティナ。少し気が楽になったよ。」

「それはよかったです。少しずつ学んでいきましょうね、トオル様。」

「あぁ、よろしくねティナ。」


話が終わると、ちょうど謁見の間に着いた。

前を歩いていたリーンが俺の後ろに下がると、どうやって合図されたのかはわからないが謁見の間からカーターの声がした。


「国王陛下のご入来である。」


扉が開くと俺は王座まで行き、座った。


「おもてを上げよ。」

「これより御前会議を始める。何か発言がある者は?」


「よろしいでしょうか?」

「リンズバーグ将軍に発言を許可する。」

「はっ。国王陛下、闇の森周辺に住む住人からモンスターによる被害報告がありました。我が第一軍団による討伐のお許しをいただきたく存じます。」

「モンスターか、それは住民が迷惑しているだろうね。将軍、大変だと思うけどよろしく頼むよ。」

「待って下さい!そのような討伐軍を組織する際は内務大臣である私と財務大臣であるロイス様にまず相談するのが最初では?」

「あ、そうなの?」


俺は困ってカーターを見た。


「まぁ、通常ではそうでしょうな。」

「しかし今回は通常ではないのです。国民が苦しんでいるのです!書類は討伐が終わった後に提出しますので。」

「そうゆう問題ではないでしょう、リンズバーグ将軍!相談してくださらなかった事を問題だと言っておるのです!」

「まぁまぁ、ウィッテン大臣。今回は急だったから相談出来なかったんだよ。許してあげてよ。」

「……国王陛下がそうおっしゃるなら…」

「ありがとう。じゃあ将軍頑張ってきて。」

「はっ。ありがとうございます。」


「他にはいないか?」

「よろしいでしょうか?」

「マーチ大臣に発言を許可する。」

「はっ。陛下、サルネリア商業公国が我々の輸出品の貿易関税を引き上げようとしているのですが、いかがいたしましょう?」

「サルネリア…?ど、どうするか……」


俺は焦っていた。サルネリアがどんな国かも知らないし、ましてや対処の仕方などわかる訳もない。

王座で冷や汗を流しながら焦る俺に、カーターが助け舟を出してくれた。


「大臣、その話は後で私の執務室で話そう。関係書類も持って来てくれ。国王陛下もよろしいでしょうか?」

「え、あ、うん。よろしく頼むよ。」

「はい、ではそのようにいたします。」

「他に……」




その後も何個か発言が出たが、全部カーターが対応していた。俺は何もする事が出来なかった。ただ座っているだけのお飾りだった。

会議が進むにつれて家臣たちの目に深い失望と嘲りが混ざっていく事が手に取るようにわかった。


「ではこれで今日の御前会議を終わる。国王陛下がご退席になられる。」


謁見の間から出て廊下を歩いている時、ティナが何か言って励ましてくれていたが耳に入って来なかった。


俺は甘かった。覚悟して王様になったはずだったのに。『知らなかった』では許されないのだ、俺の一言にこの国に住む国民の命がかかっているのだから。しかし何処かで甘えていた、カーターやティナが助けてくれると。そんな自分が許せないし悔しかった。こんなに自分に腹が立つのは初めてだった。


俺は両目に悔し涙を溜めて部屋に戻って行った…

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