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4話 国王就任の儀


コツ…コツ…コツ…


俺は今、謁見の間に続く廊下をカーターとティナの後ろについて歩いている。


「ねぇティナ、国王就任式ってバルコニーから国民に手を振ったりするやつかと思ってたけど違うんだね。」

「式典も行いますが今日じゃないんです。」

「今日は何をするの?」

「新国王に主な武官と文官が忠誠を誓うんです。。軽い儀式みたいな物ですね。」

「ふーん?じゃあ座っているだけでいいんだ。」

「ふふ、そうゆう訳でもないんですけど、ほとんど座ってますね。」


ティナと談笑した後、カーターと式の簡単な段取りを教えて貰った。

式の進行役はカーターがやるそうだ。


大きな扉の前で俺らは止まった。


「この扉の向こう側が謁見の間だよ。トオル君準備はいいかな?」

「う、うん。」

「トオル様…本当にすみません、いきなり異世界から飛ばされて来たあなたを私達の都合だけで王様なんかにしてしまうなんて…」

「ティナ。気にしないで、一応自分で決めた事だもん。ティナが謝る必要なんかないよ。」

「…トオル様ありがとうございます。頑張って下さいね!」

「うん、頑張るよ。」


まず、カーターが扉を開けて入って行った。


扉が閉まってからしばらくすると、低く厳格な声が中から聞こえて来た。


「国王陛下のご入来である。」


扉が開き、俺は謁見の間に入って行った。





謁見の間は水を打ったように静まり返っていた。王座に着くと、左斜め前にカーターが頭を下げて立っていた。俺は正面に向き直り、王としての最初の言葉を口にした。


「おもてを上げよ。」


スッと上げられた家臣達の視線は痛い程鋭かった。思わず目をつむりそうになったが必死に堪えた。

ここで弱みを見せたらこれからずっと舐められる、と分かっていたから。

そんな内面の葛藤を表情に微塵も出さず、徹は涼しい顔をしていた。


(ほぅ…)

カーターはトオルがこの視線攻撃に堪えている事に感心していた。

(前の王なんて悲鳴まであげてたのに…トオル君はすごい器かもね。)


「これより国王就任の儀を執り行う。」


(!!?ま、まさかあの低い声がカーターだったなんて、俺やティナと話してる時と違いすぎるだろ!)

カーターの言葉で少しだけ和らいだ視線攻撃の中、俺は心の中でツッコんでいた。


そんな俺の心の声が聞こえたかのように、カーターはニヤッと笑った。


「それでは国王様お立ち下さい。」


俺がその場に立ち上がると、カーターが指輪を武官の列の一番前にいた男が剣を頭上に掲げながら俺の前に並んだ。

剣を持った男が一歩近づいて剣を差し出してきた。


「剣を取り、鞘からお抜き下さい。」


俺は剣を受け取った。鞘は焦げ茶一色に塗られていて王剣にしては地味に見えた。

それから俺は左手で柄を握ると、剣を鞘から一気に引き抜いた。


シャーーン


鋼の擦れる音をさせながら、銀色に輝く両刃剣は何の抵抗もなく抜けた。


剣をしばらく見て鞘に戻すと、横から声がした。


「お預かりいたします。」


ティナが微笑みながら剣を受け取って下がって行った。


ティナが下がると今度はカーターが近づいてきた。


「指輪を利き腕ではない方の人差し指にお着け下さい。」


俺は受け取った指輪を右手の人差し指に着けた。


「身体に何か変化はありませんか?」

「別に何ともないけど。」


するとカーターは少しホッとした様子で俺に微笑みかけた、それから家臣達の方に向き直った。


「王剣と指輪による試練は無事終わった。よってここにオースティン王国第32代国王、トオル・カミヤ王の就任を宣言する。」


「国王陛下バンザイ!」

「トオル王バンザイ!」


この歓声がやけに機械っぽく聞こえて、俺は違和感を感じていた。



その後は主な武官と文官の紹介があった。



「第一軍団将軍、ハンス・アクトル・リンズバーグ卿」


カーターに名前を呼ばれた男が立ち上がった。

最初に紹介されたのは儀式の時剣を持っ来てくれた人だった。なかなかのイケメンで歳も若かった。リンズバーグって確かティナの名前にも入っていた気がした。兄妹きょうだいだろうか?


「第二軍団将軍、ゲイル・カッフェルノ・モート卿」


次に呼ばれた男は、いかにも歴戦の戦士ってオーラが滲み出ていた。わんぱくお父さんって感じもしたが…


「魔法隊隊長、シーレ・イーグルトン卿」


次はなんと少女だった。歳はティナと同じぐらいだと思うが印象はまったく逆だった。ティナが『おしとやかでかわいい』だとすると、彼女は『冷たくて美しい』って感じだ。


「近衛隊隊長、リーン・マーラー・ローゼンベルク卿」


次も女性だった。…それだけだ、何故なら理由はわからないが、ものすごく彼女に睨まれてまともに見れなかったからだ。


「宰相、わたくしカーター・イェーツ・オウィディウス・ウォロシーロフでございます。」


マジで?カーターってやっぱすごい奴なんだ!この若さで国のNo.2とはスゲーな。


「財務大臣、ロイス・ウィグナー・ユールリッヒ卿」


これまた若い男だった。優しそうだったが、ひ弱そうだった。


「外務大臣、アーノルド・クーデンホフ・エーレンフェスト卿」


次の男は、紹介された中では一番年長者のようだ。鷹の様に鋭い目と高い鼻が印象的だった。


「内務大臣、ウィッテン・グロティウス・マーチ卿」


最後の男はちょっと太めのおじさんだった。優しい先生って感じだった。


「以上が主だった武官と文官でございます。」

「うむ、皆これからよろしく頼む。」

「ハッ!」

「国王陛下がご退席になられる。」


カーターがそう言うと、謁見の間にいた全員が頭を下げた。

そして俺はカーターとティナを連れて謁見の間を後にした。





王が出て行き、扉が完全に閉まったのを確認して、四人の武官たちは小声で話し始めた。


「ハンス、新しい王の事どう思う?」

「若いな。ただその一言に尽きる。」

「俺に言わせりゃ、おまえらだって十分若いがな。」

「……あんな奴と一緒にしないで……」

「相変わらず辛口だねー、シーレちゃんは。」

「我々の気に堪えたのは称賛に価するがな…」

「本人からは気を全く感じないのよねー。」

「もうこの国は限界なんだ。これ以上、愚王に任せている余裕はない。」「……あいつがダメだったらどうする……」

「その時は…斬る…」

「彼には悪いがこれからの1ヶ月が勝負だねー。」





俺は先程の部屋ではなく、王の私室に案内された。

そこは映画で描かえて程豪華ではなかったが、一人部屋にしては十二分に広かった。

俺とカーターは小テーブルを挟んで座った。


「トオル君お疲れ様。」

「カーター様、トオル様はもう王様なんですから『君』はやめて下さい。」


ティナが水の入った金属製のコップを俺とカーターに渡しながら言った。


「いいんだよ、ティナ。ずっと『様』で呼ばれていたら肩が凝っちゃうよ。」

「けどさっき王様はなかなかよかったよ。」

「はい!すごくかっこよかったです。」

「ありがと、けどめちゃめちゃ疲れたよ。…そんな事より、カーターってすごい奴だったんだね。」

「何が?」

「何って、その若さで宰相やってるところだよ。」

「?若いって言ったって僕、467歳だよ?そんなに若いとは思わないけどなー。」

「467?何が?」

「カーター様、まだカーター様の事トオル様に言ってなかったのでは?」

「あーそっかそっか。まだ言ってなかったっけ。」

「何を言ってないの?」

「トオル君、僕ね。実は…エルフなんだ。」

「…エルフ?」

「うん、ほら耳が尖んがっているだろ?」


耳にかかった髪を上げると本当に尖った耳が現れた。


「ホントだ、カッコイイー!」

「そ、そうかい?ありがとう。」

「エルフがいるって事は、モンスターとかもいるの?」

「いるよ、けどそうゆう話はまた明日ね。今日はもう寝ないとね。」

「そうだね。もう寝る事にするよ。」

「トオル様、何かありましたらここに置いてあるベルをお鳴らし下さい。」

「うん、ありがとう。じゃあ、おやすみ。」

「おやすみ〜」

「お休みなさいませ。」




二人が出て行くと、俺はベットの上に置いてあった寝間着に着替えてすぐに布団に潜り込んだ。

(今日は色々あったな、せめて夢の中ぐらいは平和でありますように。)



徹は宇宙を永遠に浮遊する夢を見る事をまだ知らない。



こうして神谷徹の異世界での一日目が終わっていった。


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