3話 混乱と現状確認
いきなりの王様宣言に固まって数十秒、やっとの思いで口にした言葉は。
「…はい?」
困り顔の美少女が申し訳なさそうに、
「あの〜、異世界からいらっしゃったんですよね?」
異世界?…空から落ちた時に見た大陸はこれまで見た事なかったけど、……。
俺が頭の中で考えていたら、男の声がした。
「は、はぁ?…よいしょっと。」
城と言われて気付いたが、俺の今いる所は城の庭にみたいな所にある祭壇?的なところだった。
俺は立ち上がり、男と少女について階段をおりた。
「王様バンザーイ!」
「国王陛下バンザーイ!」
俺が階段から下りると、さっきの歓声が復活した。しかも今度は、俺に向かって言っているというのがわかるから、えらく緊張した。
城までの100mがやけに長く感じた。
〜城のある一室〜
「で、君は今の状況をどれくらい理解しているの?」
部屋に着いてイスに座ったとたん男が話し掛けてきた。
てか、いきなりくだけすぎじゃないっすか?
「カーター様、馴れ馴れしすぎですよ!この方は国王陛下なんですからね!」
「まぁまぁティナちゃん。まだ彼は国王じゃないんだし。君もいいでしょ?」
「あ、はい。てか、敬語とか堅苦しいの苦手なんで。」
「でしょ!ほらほらティナちゃんもすわってすわって。」
「はぁ〜。…あ、すみません見苦しい所をお見せして。」
「あははは…。」
「あっ、まだ自己紹介をしてませんでしたね。私の名前はティナ・アクトル・リンズバーグです。よろしくお願いします。」
「僕はカーター・イェーツ・オウィディウス・ウォロシーロフって言うんだ〜。カーターって呼んでね〜。」
「神谷徹です。よろしくお願いします。」
「で、神谷君はここの事どれくらい理解してるの?」
「徹でいいですよ。…実のところ、ここがどこなのかもわからないです。」
「じゃあ、この大陸の事から説明しますね。」
そう言うとティナは地図の貼ってあった壁まで歩いて行った。
「この大陸はマトレイヤ大陸と言います。この大陸には五つの国があります。」
ティナは大陸の北にある大きな山の右側を指差した。
「そしてここがオースティン王国。私たちの暮らす国です。」
「…小さい国ですね。あっ、ごめんなさい。」
「いえ、いいんです。五つの国の中で一番小さいのは本当の事ですから…。そんな事より、トオル様の現状把握が先ですね!何か質問があったらどうぞ。」
「じ、じゃあ。なんで君達は俺の事を王様だと思ったの?」
「その質問には僕が答えようかな。」
カーターがにっこりと笑って答えた。
「トオル君は異世界から来たんだよね?まぁ少なくともこの世界の住人ではない。ここまでは正しいかな?」
「うん。いきなり何かに引っ張られたと思ったら真っ暗な浮遊空間にいて、そこを出たらこの大陸を見下ろせるくらい高い所から落ちてて、それで気を失って…。」
「気がついたら、ここにいたってわけか。」
「そう。」
「驚いた。そんな話はじめて聞いたよ。」
「ええ、びっくりしました。」
カーターとティナは心底びっくりしたようで、珍しい動物でも見るかのように俺を見ていた。
「やっばり異世界から来る人間って珍しいの?」
「いやいや、珍しいには珍しいが何度か前例はあるからね。」
「じゃあなんでそんなに不思議そうなの?」
「それは、トオル様が覚えていたからです。」
「???」
「…これまで異世界からこの国にやってきた人は7人と言われている、記録もそうなっている。けど、その中でここに来るまでの過程を覚えていた人はただの一人もいないんだ。」
だからその過程を覚えている俺は驚かれてるわけか。
「で、その人達はこの国に来て何をしたの?」
「彼らはいずれもこの国の王となった。」
「だから、俺の事も王だと思ったの?」
「…実を言うと僕たちはトオル君がこの世界に来る事を知っていた。」
「えっ!」
「正解に言えば『誰か』が来ると思っていたんだ。」
「…てことは、異世界からこっちに来るには何らかの条件があるって事?」
「すばらしい推理力だね。その通り、条件があるんだ。その条件というのが、王家の血が途絶える事なんだ。」
「王家の血…」
「この国は最初に来た異世界人によって造られたんだ。それ以来、国王になった異世界人の血が混ざっている子孫が代々国王となって来た。」
「じゃあ、今回俺が呼ばれたって事は前の王様の子孫が死んだってことか。」
「正解!なかなか優秀だね。1ヶ月前に7人目の異世界人の6代目が亡くなったんだ。彼には子供が出来なかったから、8人目の異世界人がこの世界に来るだろうってわけなんだ。」
「だからいきなり現れた僕が次の王様だってわけだね。」
「その通りです、トオル様。…だから私達の王になっていただけませんか。」
俺は内心ではけっこう戸惑っていた。いきなり異世界に連れてこられて王様になって下さいなんて言われてもなー。
ティナは黙ってトオルを見ていた。目の前にいる青年は異世界に来たばかり、それを王になれと無理強いはできない。ただじっと待つだけだ。
それから数分が経過した
「あのさ、ホントに俺でいいの?」
「はい!王になってくださるんですか?」
「…う、うん。頑張ってみるよ。」
「ありがとうございます!」
「よろしくね、カーターさんにティナさん。」
「こちらこそよろしくね〜」
「よろしくお願いします、トオル様。それに私に『さん』なんて付けなくていいですよ。」
「う、うん。わかったよ。」
ふ〜疲れたな。今日は色々ありすぎた、もうこのまま寝たいな。
「じゃあ、そろそろ行きますか。」
「そうですね。」
二人共帰るんだ、俺ここで寝ちゃっていいのかな?
「トオル様、それでは…」
「うん、明日からよろしくね。」
「新国王就任式に出ていただきます。」
……えぇ〜〜〜!!