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11話 文官


部屋に俺達が戻ってからしばらくすると文官たち三人が来た。


コン…コン…


「はい。」

「財務大臣ユールリッヒ、参上いたしました。」

「外務大臣エーレンフェスト、参上いたしました。」

「内務大臣マーチ、参上いたしました。」

「入ってくれ。」

「はっ!失礼いたします。」


ティナが扉を開けると、三人は深くお辞儀をしてから入ってきた。


「まぁ座ってくれ。」


俺は仕事机の前に並べられた小テーブル用のイスを指差して言った。


「はっ!失礼いたします。」


三人が座るのを確認すると、俺は話し始めた。


「ここに来て貰ったのはさっき会議でも言ったけど、別に君達が悪い事をしていると思って呼んだわけじゃないんだ。ただこれから国王をやっていく上でも君達と話しがしたいと思っただけなんだ。」

「はい、承知しております国王陛下。」


ウィッテンが笑顔で答えてくれた。その笑顔は下心のある笑顔ではなく純粋な物だった。


「ありがとう。…そうだな、まず何て呼べばいいか教えて貰おうかな?」

「国王陛下のお好きな様にお呼び下さい。」

「まぁまぁエーレンフェスト大臣、そんな事言わないでさ、名字と名前のどっちがいいかぐらい答えてよ。」

「国王陛下、ウィッテンとお呼び下さい。」

「アーノルドとお呼び下さい。」

「…ロイスとお呼び下さい、国王陛下。」

「わかった、みんな名前で呼びばいいんだな。じゃあ、俺のことも名前で呼んでくれ。」

「かしこまりました、トオル様。」


ウィッテンがそう言って頭を下げると、他の二人も無言で頭を下げた。


「よし、じゃあ早速だけど君達に聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「何なりとお聞き下さい、トオル様。」

「ありがとう。じゃあ聞かせて貰うとしようかな。聞きたい事っていうのはこれの事なんだ…」


俺が仕事机の引出しから事前にカーターから借りた、今年の予算書を取り出して机の上に置くと、三人の目に動揺が広がった。


(どうやら俺の考えは正しかったみたいだな。)


「それは今年の予算書、どうしてトオル様が…」

「カーターから借りた物なんだけど、いくつか疑問点があってね。」

「ぎ、疑問点?」

「そうなんだよ、ロイス。財務大臣として質問に答えてくれるかな?」

「…はい。」

「ありがとう。じゃあ最初の質問は、この国の財政の状況を聞きたいんだけど。」

「と、申されますと?」

「本当に財政難なの?」

「も、もちろんでごさいます!余り自慢にはなりませんが我が国の財政はまさに火の車です。」

「ほんとかなー?」

「本当でこざいます。何故その様な事をおっしゃるのか私には理解出来ません。我が国の予算は約10000ピート、隣国ポートワール王国の20分の1にも満たないのですよ。」「だって収入の85%を税金として取っているのに、この予算のどこにも国民の収入自体を上げようとする政策は入ってないんだよ?国が火の車なら国民はもう燃え尽きて灰も残っないんじゃない?」

「うっ…それは…」

「言っておくけど、来年の税率は収入の50%まで引き下げるつもりだから。」

「なっ!そ、そんなの無茶です、国が破産してしまいます!」

「大丈夫だって、ちゃんと考えがあるから。」

「ではその考えというのをお聞きかせ願えませんか?」

「…ダメ。」

「えっ?」

「だから、まだダメ。もうちょっと練ってから教えてあげる。だから今は聞かないでくれる?」

「はぁ、かしこまりました。」


ロイスは少し不満そう顔をして言った。


「次はアーノルドに聞きたいんだけど。」


俺がそう言うと、アーノルドは立ち上がって、一歩前に出た。


「何でございましょう?」

「予算書の貿易の所についてなんだけど、これはアーノルドの担当であってる?」

「はい、私の担当でございます。」

「そう。なら聞くけど、ポートワール王国への通行税ってのは何?」

「はっ。それは、我が国の輸出品をサルネリア商業公国に輸出する為にポートワール王国の領土を通らなければいけませんので、その時に払う税であります。」

「うん、よくわかったよ。じゃあ、もう一ついいかな?」

「何なりと。」


アーノルドは、ロイスが俺に言い負かされた後だっただけに、俺の質問に問題なく答えられたのが少し嬉しそうだった。

しかし俺の次の質問を聞くと一瞬でいつもの硬い表情に戻った。


「じゃあさ、通行税の下に書いてあるサルネリア商業公国への特別関税ってのは何?」

「…そ、それは…」

「アーノルド、嘘は言うなよ。」

「…はっ。…特別関税というのはサルネリアの商人に払うお金の事です。まぁ、簡単に言うと賄賂です。」

「賄賂がないと商人に品を買って貰えないの?」

「たぶん買って貰えないでしょう。お世辞にも我が国の輸出品は良質な物とは言えませんから。」

「そっか…じゃあ輸出するのやめよっか。」

「なっ!トオル様、何をおっしゃるのです。ご存知だと思いますが、国の収入の3割は貿易によって生まれているのですよ。貿易をやめてしまったら、国にどれほどの影響を与えるのかお分かりのはずです。」

「違うよアーノルド。俺は別に貿易自体をやめようなんて思っていないよ。ただサルネリアとの取引をやめると言っているんだよ。」

「同じ事です。サルネリアと取引をやめてしまうだけでも十分な打撃を受けてしまうでしょう。」

「じゃあ、サルネリアと取引していた分もポートワール王国に買って貰えばいい。」

「…それも駄目でしょう。先程も言った様に、我が国の商品は余り良い物ではないのです。ポートワールにしてみれば、いらない物を買っている様なもの、それをさらに買ってくれるはずがありません。」

「アーノルド、わかってないな。それなら相手が喉から手が出る程欲しがる物を作ればいいじゃないか。」

「…この国にそんな物があるとは思えません。」

「…わかった、それも俺が考えてみるよ。」

「…はっ。よろしくお願いします。」

「じゃあ、次はウィッテン。」

「は、はい!」


最初は笑顔だったウィッテンも、俺のロイスやアーノルドへの態度を見てすっかり顔が青ざめていた。


「ウィッテンに聞きたい事は一つだけだ。」

「…はい、何なりとお聞き下さい。」

「うん。このずっと変わらない公共事業の事なんだ。」

『ギクッ』と聞こえた気がするくらいウィッテンが動揺していた。

いや、ウィッテンだけでなくロイスとアーノルドも動揺していた。


「…そ、それは、何と言っていいか…」

「普通に言って貰って構わないよ。」

「…公共事業を行う為のお金です…」

「嘘は一回まで許してあげる。」

「っ!……言えません。」

「言え。」

「………言えません。」

「私利私欲の為に使っていないなら許してあげるから。」

「……じ…の為…す…」

「ん?ごめん、もう一度言って貰える?」

「孤児達を養う為に使っています。」

「孤児?ウィッテンの家は孤児院をやってるの?」

「いえ、そうではありません。我が王国は飢餓などで多くの子供達が親を失っているのです。ですから、一定の収入が保証されている役人、特に内務省の役人は義務ではないんですが孤児を引き取るんです。」

「そう…でもなんで税金に手を付けたの?」

「それは…我々の給料だけでは生活費がどうしても足りないので…」

「だから昔から慣例として使ってたわけか。」

「はい…慣例だったとはいえ国のお金に手を付けたのは事実でございます。大変申し訳ありませんでした、どうか部下達だけでもお許し下さい。」


ウィッテンはそう言うと、深々と頭を下げた。


「トオル様、どうかウィッテン達をお許し下さい。我々からもお願いいたします。」


アーノルドとロイスも頭を下げてきた。


「…………」

「……トオル様?」


ティナの声は耳には入ったが、頭の中までは入って来なかった。


(…孤児……こじ……コジ…)


「……何故隠れてたんだ?これまでの王に補助金を頼まなかったのか?」

「頼んでも断られますので、それにそんなお金があったら国王が食費か生活費に使ってしまわれますから。」

「わかった、それも何とかしよう。」

「えっ?そ、それとは?」

「孤児への補助金の事だろ?他に何かあるか?そうだな、孤児院の設立も考えてみよう。」

「ト、トオル様?補助金を認めてくださるんですか?」

「認めない理由がないだろう?ウィッテンは立派な事をやっているんだから何の問題もないじゃないか。」

「トオル様…わ、私は役人になってから…こ、これ程嬉しいかった日は…ご、ございません。」


ウィッテンが顔をクシャクシャにして泣きながら言った。


「ハハハ、そんなたいしたことじゃないさ。ただ当たり前の判断をしただけだよ。」

「そうだとしても、私は嬉しいのです。」

「じゃあ、これからはより一層仕事を頑張ってくれよ。」

「はい!もちろんでございます。」

「ロイスとアーノルドもありがとう。これからよろしくね。」

「はっ!非力ながらも全力を尽くさせていただきます。」

「三人共、仕事に戻ってくれ。」

「はっ!失礼いたしました。」


三人が出ていくと、俺はティナに話しかけた。


「ティナ、武官の四人を連れて来て貰える?」

「かしこまりました、トオル様」


ティナは足早に部屋を出て行った。


「トオル君、どうだった?」

「文官の三人はまぁまぁ信用出来そうだね。まだ完全には信じれないけど。」

「僕も同じ意見だね。それよりも問題は武官の方でしょ?」

「あぁ、彼らは間違いなく俺の事を敵視しているからな。」





「…手を焼きそうだ。」


しばらくすればティナによって開かれるだろう扉を見つめて、俺はつぶやいた。

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