橋本心羽はオタ活中に
橋本 心羽は、一般的な家庭で生まれ育った。とびきり裕福ということもなく、生活面で心配事があるような貧困がある訳でもない。都心ではないが大型のショッピングモール (イ○ンモール)が生活圏内に存在するくらいの発展途上田舎の普通の家庭に一人娘として誕生した。
生まれて十九年と数ヶ月の出来事をかいつまんで話すと、小学校で好きな男子に振られた事をきっかけに、二次元の世界に現実逃避を決行。見事オタクの世界へ足を踏み入れる。
その後、数々の漫画やアニメを見ていくうちに男同士の絡みに興奮する自分がいることに気がつく。
着々と沼にハマっていき中高では、学校の男子でBLの妄想を膨らませて自作漫画を作成。学校の婦女子仲間に配布。
あろうことか高校では、女性教師二人に同人誌活動がバレる事件が発生する。一方では三年間を冷ややかな目が。もう一方で教師からは、崇拝される。崇拝の目を向けていた教師が鼻血を出したことから、血の同人誌事件と影で命名された。
結局のところ『目立った取り柄も特徴がある訳でもないBL熱狂腐女子』ということになる。この話は、そんな腐女子が異世界でBLカップルを成立させる話である----------------
心羽は、渡された紙に一通り目を通し終えると、心を落ち着かせるために可愛いメイドさん(男の娘)が運んできたカフェラテを一口飲んだ。
読み終えた事を確認すると、向かいに座っている少女が尋ねる。
「キャラ設定は、こんな感じでどうかしら?」
少女は、アイスコーヒーに入れた三個のガムシロとミルクをかき混ぜて溶かしながら上目遣いで心羽の返答を待っている。この少女、この前会った時は、何も入れずに無糖で飲んでにがそうな顔をしていたが、今回は糖分増しましにしている。もはや、何故にコーヒーを飲んでいるのか心羽にはわからなかったが、疑問の言葉を飲んだ。そんなことよりも、もっと言うべきことがあったからだ。
「いやいやいや、おかしいよ。おかしいってアマメ先生。こんな感じでいいかしら?じゃないわよ。なんであんたの描いてる漫画に私の名前が出てくるのよ。てか、それ以外の設定とか話もほぼ実話だし。」
少女はきょとんとした顔をしながら、コーヒーを一口飲んでから言った。
「・・・ダメだったかしら?やはり、ただの熱狂腐女子というには、個性や特徴がありすぎたかな。」
可愛らしく、そして真剣な面持ちで問いかける少女。そこじゃない、そこじゃないと心羽は思った。
動揺する目線がプロットと少女の顔を行き来しながら、迷惑にならない程度の声で叫んだ。
「いやいやいや、アマメ先生。確かに普通の腐女子というには常軌を逸した部分はあるけど。そこじゃなくてね!?完全に私の名前だし、私の黒歴史がキャラ化してるってこと言ってんのよ。てか、なんで知ってんの?こわいよ。もしも、こんな物が世に出回って読む人が読んだら・・・グァぁぁぁ!脳が焼かれりゅ・・・」
周りのお客さんと男の娘キャストの痛い視線を感じた。
黒歴史と奇異の目のダブルパンチは、日常生活で味わうことがない種類の困惑となって心羽を襲う。
若干のM気質がある心羽だが、これは許容範囲外で辛いところがある。
(可愛い男の娘に視線を向けられる点は悪くない。むしろご褒美である。)
「てか、なんでアマメ先生が私の黒歴史知ってんのさ!!」
三ヶ月前のオフイベントで出会ったアマメ先生こと七海雨芽が、心羽の高校時代を知るはずがない。
当然の疑問だ。雨芽は、そう言わんばかりの顔をしていた。
「きっと、そのうちわかるよ。ま、みうぬんの慌てふためく顔見れたし、この案は、一旦保留にしとくね。」
悪戯な笑みを浮かべながら雨芽は、そう言うとコーヒーを飲み干す。
「一つ聞きたいのだけど、コーヒーってこんなに甘かったかしら?前に飲んだ時は、苦かったのに・・・コーヒーって奥が深いのね。」
雨芽は不思議そうに、または神妙な顔で言った。
もはや、コーヒーについては何も言うまい。(てか、ツッコミを入れてやるもんか。)
「それより、みうぬん。そろそろ、お宝めぐり行きませんか?新刊も早く手に入れたいですし・・・」
「そうですね。そろそろ、行きましょうか。」
心羽もちょうどカフェラテを飲み終えるタイミングだったので、雨芽の提案に賛成だった。
「ここはのお会計は、私が持ちますから、、、さっきのプロット案世の中に出さないでくださいね?!」
雨芽は、にやりと無言で笑っていた。
(よもや、これが狙いだったか雨芽、、、いや、アマメ先生)
今日の帳簿に『口止め料 五百円』が刻まれることが確定した。
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秋葉原の人々の視線が私たち(雨芽)集まっていた。
そんな視線を機に留めることなく、アニメ○トを後にし次なる目的地とら○あなに向かっていた。
「そういえば、アマメ先生の新刊の発売も今日でしたね。」
「みうぬん、今日はそんなことよりも、三日月くんと星空くんがにゃんにゃんするお宝を探しにきたのよ。私の新刊なんてどうでもいいの。」
そんな事を言いながらも、自慢げに鼻息をふんすと鳴らしている。
こんな美少女は、なかなか拝めるものではないだろう。心羽がBL教だからと言って、可愛い女の子が嫌いな訳ではない。むしろ大好きだ。
「雨芽さんって、めっちゃ美人ですよね。しかも、可愛い。ほんっと、羨ましいですよ。私って、せいぜいクラスの三番目に可愛いくらいじゃないですかー。」
あまり自分で言うことではないが、事実だ。可愛くない訳ではないが、学年で言えば十五番目くらいの容姿である。アニメや漫画なら、間違いなくモブのポジションを確立しているだろう。
それに比べて、七海雨芽という混沌とした世界に降り立った天使といえば、整った顔立ちはもちろん。平均身長よりは高く、程よく小柄な身長。綺麗に艶のある肩まで伸びた黒髪。さらに、上品に育った乳がまたポイントが高い。決して主張が激しい訳ではないが、存在感はある。すべてが黄金比だ。
「そんなことないよ、みうたんだって可愛いよ。黒歴史私より濃いから大丈夫。ちなみに私は、本当に天使だからね。」
そう言い親指をグッと立ててながら、同人誌を買い求めに行くギャップもたまらない。
「おん、アマメ先生が天使ってのは納得です。あ〜、でも悪戯激しいから、天界から追放された堕天使の方が近いかも・・・」
瞬間、心羽の意識はプツリと途絶えた。
『次に、目を覚ます時は、違う世界で会いましょ。』
途絶えたはずの意識の中で、アマメとそれ他にも複数人の声が聞こえた気がした。