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天穿つヘリクゼンR  作者: 紫 和春


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第40話 エラー

 イツキは、近くにいたレジスタンスの戦闘員によって、インスタンスの保健室に運ばれていた。

 保健室の前にまで同行したジョーが、保健室の扉を心配そうに見つめる。

「イツキのことが心配?」

 ジョーのところにミネ博士がやってくる。

「そりゃ心配ですよ。まるで乗っ取られたような状態で、無事であるほうが奇跡です」

「そうね。ちょっと話を聞いて、シータ・デバイスの解析を行ったわ。作戦室で話すからついてきてちょうだい。そこにいるカイドウもね」

 そういってミネ博士が視線を向けると、そこには体の至る所にガーゼを張ったカイドウの姿があった。

「カイドウ、もう大丈夫なのか?」

「万全ではないが、支障はない。話を聞くくらいの余裕はある」

 そういって3人は、作戦室へと移動して話をする。

「まずはイツキの状態から。医療班によると、イツキの命に別状はないとのことです」

「そうか、それは良かった」

 ジョーは安堵する。

「ですが、全身打撲のような症状が見られるため、安静にする必要があります」

「ま、妥当だな」

 カイドウが同意する。

「そして肝心のシータ・デバイスですが、未知のプロテクトがかかっていて、内部を俯瞰することは出来ませんでした。さらに内部のデータの容量がほんのわずかずつ増加しています。シータ・デバイスの中で何が起きているのか、我々には見当もつきません」

 そういってミネ博士はお手上げのポーズをする。

 するとジョーが手を上げる。

「質問いいですか?」

「どうぞ」

「データの容量が多くなる原理は置いといて、それがどうしてヘリクゼンの暴走に繋がったんです?」

「デバイスとバックルは一蓮托生。お互いに通信し合って、データの補完を行います。しかし、シータ・デバイスのほうからの情報流入が多くてバックル側がエラーを起こしたと考えられます」

「デバイスからバックルへとDos攻撃を仕掛けているというわけか」

「簡単に言えばそうなります。なので、これを食い止めるダムのような役割を持ったデバイスが必要と考えます」

「なるほどな。技術的な面はミネ博士一同に丸投げしたほうが良さそうだ」

「これでイツキのデバイス問題の説明は終了します。次にカイドウのバックル破壊についてです」

 ミネ博士の言葉に、カイドウは少し眉を潜める。

「イツキ……、いえ、ヘリクゼンによって破壊されたバックルを回収しましたが、残念ながら元の状態に戻すことは不可能です」

「つまり、俺は二度と格闘者になれないと?」

 カイドウが聞く。

「現状ではそうなります。しかし、完全に変身出来なくなったわけではありません」

「と言うと?」

「元より、スクリプトのこれ以上のパワーアップが見込めないことが明らかになっていました。すでに強化形態であるスクリプトⅡが存在している上に、アイテム内部でこれ以上の拡張スペースが確保出来ないからです。ですが、アイテムをそのままにして新しいバックルを開発することで、疑似的にこの問題を解決することが出来ます」

「つまり、今までのバックルとは違うバックルで変身すると言うことか」

「そうです。現在鋭意製作中で、完成にはもうしばらく時間がかかります」

「変身出来るのなら、それでいい。後は傭兵としての腕でカバーする」

 カイドウは少し安心した表情をする。

「それに伴い、開発したものがあります」

 そういってミネ博士は、ジョーに何かを渡す。

「これは?」

「シャープの新しい強化形態、シャープ・エックスです。バックルの能力を最大限に引き上げてくれるはずです」

 これまでのボトルの形状をしているが、横に向かって長方形の板のような物がくっついている。

「今までシャープを装填していた場所に合わせるタイプね」

「そうなると、シャープ・プラスが使えなくなるんじゃ……」

「大丈夫、シャープ・プラスより強い力を使えるはずよ」

「まぁ、博士が言うなら……」

 ジョーはアイテムを懐にしまう。

「そしたら、今日の会議はここまでにします。他に質問などがなければ、終わります」

 その時、作戦室の扉が開く。

 そこにいたのは、満身創痍のイツキであった。

「イツキ、怪我は大丈夫なのか?」

 ジョーが慌てて駆け寄る。

「大丈夫なわけないでしょう……。体中痛いです」

「なら安静にしてろ」

「それでも、自分には戦うことしか出来ないから……!」

 そういってイツキは、ミネ博士のそばまで歩く。

「ミネ博士、自分のバックルを返してください。シータに変身出来なくとも、せめてベータ・プラスには変身出来るでしょう?」

 その言葉に、ミネ博士は少し俯く。

「……おそらくだけど、ヘリクゼンバックルはシータ・デバイス以外のデバイスを受け付けなくなっているわ」

「そんなの……。そんなの、やってみなくちゃ分からないでしょう?」

「……えぇ、そうね。やってみましょう」

 インスタンスの入口付近で、イツキはヘリクゼンバックルを装着する。そしてベータ・プラス・デバイスを装填する。

 すると。

『エラー ノット・ファウンド』

「これって……?」

 イツキはミネ博士の方を見る。

「おそらく、シータ・デバイスから流入したデータによって、バックル側の情報が少し書き変わってしまったと思われるわ。このままじゃ、イツキは格闘者に変身出来ないわ」

「変身、出来ない……?」

 イツキは膝から崩れ落ちる。

「俺は、戦えなければ、どうすればいいんだ……?」

 イツキの声は、風に吸い込まれるように消えていった。

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